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40.それぞれの未来*
だったら婚前旅行がてら、有給取って二人でゆいちゃんのご両親に会いに行けばいいじゃない!
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***
朝まで何度も何度も想に愛されたあの日――。
疲れて寝落ちしてしまった結葉が回復するのを待ってくれていた想に促されて、アメリカにいる両親に想と結婚したい旨を電話で報告した結葉だったけれど。
「うちの親にだけ対面でっちゅーのは何か違う気がするんだよな」
結葉の両親への国際電話のあと、想の実家に出向いて、山波夫妻にも同じ様に告げた後で想がポツンとつぶやいて。
「――だったら婚前旅行がてら、有給取って二人でゆいちゃんのご両親に会いに行けばいいじゃない!」
――ちょっと隣町までお使いに行ってらっしゃいな?
そんな軽い調子で純子が言って。
公宣からも「おう! そうして来い」と背中を押されてしまった。
「行っても……いいのか?」
想がすぐさま乗り気になって。
純子と公宣が「当然」と頷くから。
あれよあれよと言う内に渡米ありきな雰囲気になった。
両親の海外赴任が決まった際に、もしもに備えてパスポートを取っていた結葉だ。
でも、一度も使ったことのなかったパスポートを開いてみると、名前が「MISHOU YUIHA」になっていることに気が付いた。
離婚で旧姓(小林)に戻っているので、そのままというわけにはいかない。
御庄のままになっていたパスポートを見るなり眉を顰めた想から、いっそのこと切替申請をして新しく取得し直せよ、と勧められてしまった。
実際には有効期限などを引き継ぐ変更申請の方が、真っ新なものに作り替えてしまう切替申請よりも手数料がお安いのだが、それだと自分のパスポートの有効期限とズレが生じるのが気に入らないと想が言って。
変更申請は自分と籍を入れて山波になった後だろ?とまで言われてしまった。
結葉はそう何度も海外に行く事なんてないと思ったけれど、想は変なところでこだわるのだ。
(もしかしたら偉央さんとの婚姻中に作ったものだというのが想ちゃんの中で引っかかっているのかな?)と思った結葉は、想の気持ちを最大限汲むことにした。
元々パスポート自体を持っていなかった想と一緒に手続きをして、受け取り予定日として指定された日付までおよそ十日余り。
その間にお互いの勤め先に有給休暇などの手配を済ませたわけだけど。
何だか慌ただしく準備に追われて、あれよあれよという間に想と二人。
ニューヨーク郊外にある両親の家に押しかける形で、茂雄と美鳥に想と再婚したい旨を報告する羽目になっていた。
結局両親には偉央からのDVのことは伝えられていないままだった結葉は、足首の痣が見えないよう服装には細心の注意を払ったのだけれど。
親である茂雄も美鳥も、何となく思うところがあったのかも知れない。
ただ単に想を気遣ってのことかもしれないけれど、結葉と二人きりになっても尚、偉央との離婚について、多くは聞いてこなかった。
それを有り難く思うと同時に、心苦しくも感じてしまった結葉だ。
両親には、子供を授かることに対する考え方の不一致が原因での離婚だと話してあったけれど、偉央の方に再婚相手との間に子供が出来ていることは、きっと遅かれ早かれ二人にも伝わるだろうな、と思って。
想と茂雄がリビングで何やら話し込んでいるのを横目に、美鳥とキッチンに立ってお茶の支度をしていた結葉は、思わず手を止めてそんなあれやこれやな考え事に耽ってしまう。
と、不意に横合いから美鳥にギュッと手を握られて。
「ゆいちゃん、過ぎたことは余り振り返らないのよ? 一度はこの人となら、って思って一緒になった人と離婚したんだもん。こうなるまでにはきっと、お母さん達には想像も付かないくらい大変なことが沢山あったんだと思う。その時にお父さんもお母さんもゆいちゃんのそばにいてあげられなくて本当に申し訳なかったと思ってるし、実はそれがずっと引っ掛かってたの……」
「お母さん、そんな……」
両親は結葉が偉央から逃げ出した時、アメリカにいたのだ。
そばにいてもらうことなんて物理的に不可能だったのだから、結葉はそれを恨んだことなんて一度もない。
寧ろ両親が日本にいる間に、偉央との結婚生活で抱えていた様々な問題を、その片鱗ですら二人に話すことが出来なかった自分にこそ非があったと思っているのに。
「ゆいちゃんは優しい子だもんね。私たちのこと、一欠片も恨んでないんだろうなって言うのもちゃんと分かってるつもり。……けどね、罪悪感くらいは私たちにも背負わせて? ゆいちゃんを偉央くんと無理矢理引き合わせたのはお父さんとお母さんだもの。ゆいちゃんに辛い結婚生活を強いたこと、本当に申し訳なく思ってる」
その言葉を聞いて、美鳥が偉央との離婚の本当の理由についてある程度察している気がした結葉だ。
そのせいだろうか。
そんな事ないよ!と即座に否定しなきゃいけないと思うのに、衝撃の余りすぐに言葉が紡げなかった。
ややしてなんとか言えたのは、「大丈夫だよ。想ちゃんが付いててくれたから」と言うもので。
「うん、そうだね。……だからかな。お母さん、ゆいちゃんが想くんと結婚するって聞いて、実は凄くホッとしてるの」
まるで肩の荷が降りた様に穏やかな笑顔を向けられて、結葉は胸の奥がキュッと締め付けられたみたいに痛んだ。
「お母さん……」
しっかりしなきゃって気持ちとは裏腹。
うるうると視界が涙でぼやけてしまった。
「私ね、……たくさんたくさん回り道をしちゃったけど……全部。そう。それこそ辛かったことも含めて全部全部! 何もかも……無駄じゃなかったって、思ってる」
自分の手に載せられたままの美鳥の手にもう一方の手を重ねると、結葉は母の顔を真っ直ぐに見つめてニコッと微笑んだ。
恥ずかしいくらいにポロポロと、頬を涙が伝い落ちているけれど、悲しみの涙じゃないから見せても構わない。
偉央と結婚していた時には、何もかも全て。特に両親に対しては感情の起伏を表には出さないように隠してきた結葉だったから。
こんな風に母親の前で泣けると言うのは、それだけで大きな進歩だった。
朝まで何度も何度も想に愛されたあの日――。
疲れて寝落ちしてしまった結葉が回復するのを待ってくれていた想に促されて、アメリカにいる両親に想と結婚したい旨を電話で報告した結葉だったけれど。
「うちの親にだけ対面でっちゅーのは何か違う気がするんだよな」
結葉の両親への国際電話のあと、想の実家に出向いて、山波夫妻にも同じ様に告げた後で想がポツンとつぶやいて。
「――だったら婚前旅行がてら、有給取って二人でゆいちゃんのご両親に会いに行けばいいじゃない!」
――ちょっと隣町までお使いに行ってらっしゃいな?
そんな軽い調子で純子が言って。
公宣からも「おう! そうして来い」と背中を押されてしまった。
「行っても……いいのか?」
想がすぐさま乗り気になって。
純子と公宣が「当然」と頷くから。
あれよあれよと言う内に渡米ありきな雰囲気になった。
両親の海外赴任が決まった際に、もしもに備えてパスポートを取っていた結葉だ。
でも、一度も使ったことのなかったパスポートを開いてみると、名前が「MISHOU YUIHA」になっていることに気が付いた。
離婚で旧姓(小林)に戻っているので、そのままというわけにはいかない。
御庄のままになっていたパスポートを見るなり眉を顰めた想から、いっそのこと切替申請をして新しく取得し直せよ、と勧められてしまった。
実際には有効期限などを引き継ぐ変更申請の方が、真っ新なものに作り替えてしまう切替申請よりも手数料がお安いのだが、それだと自分のパスポートの有効期限とズレが生じるのが気に入らないと想が言って。
変更申請は自分と籍を入れて山波になった後だろ?とまで言われてしまった。
結葉はそう何度も海外に行く事なんてないと思ったけれど、想は変なところでこだわるのだ。
(もしかしたら偉央さんとの婚姻中に作ったものだというのが想ちゃんの中で引っかかっているのかな?)と思った結葉は、想の気持ちを最大限汲むことにした。
元々パスポート自体を持っていなかった想と一緒に手続きをして、受け取り予定日として指定された日付までおよそ十日余り。
その間にお互いの勤め先に有給休暇などの手配を済ませたわけだけど。
何だか慌ただしく準備に追われて、あれよあれよという間に想と二人。
ニューヨーク郊外にある両親の家に押しかける形で、茂雄と美鳥に想と再婚したい旨を報告する羽目になっていた。
結局両親には偉央からのDVのことは伝えられていないままだった結葉は、足首の痣が見えないよう服装には細心の注意を払ったのだけれど。
親である茂雄も美鳥も、何となく思うところがあったのかも知れない。
ただ単に想を気遣ってのことかもしれないけれど、結葉と二人きりになっても尚、偉央との離婚について、多くは聞いてこなかった。
それを有り難く思うと同時に、心苦しくも感じてしまった結葉だ。
両親には、子供を授かることに対する考え方の不一致が原因での離婚だと話してあったけれど、偉央の方に再婚相手との間に子供が出来ていることは、きっと遅かれ早かれ二人にも伝わるだろうな、と思って。
想と茂雄がリビングで何やら話し込んでいるのを横目に、美鳥とキッチンに立ってお茶の支度をしていた結葉は、思わず手を止めてそんなあれやこれやな考え事に耽ってしまう。
と、不意に横合いから美鳥にギュッと手を握られて。
「ゆいちゃん、過ぎたことは余り振り返らないのよ? 一度はこの人となら、って思って一緒になった人と離婚したんだもん。こうなるまでにはきっと、お母さん達には想像も付かないくらい大変なことが沢山あったんだと思う。その時にお父さんもお母さんもゆいちゃんのそばにいてあげられなくて本当に申し訳なかったと思ってるし、実はそれがずっと引っ掛かってたの……」
「お母さん、そんな……」
両親は結葉が偉央から逃げ出した時、アメリカにいたのだ。
そばにいてもらうことなんて物理的に不可能だったのだから、結葉はそれを恨んだことなんて一度もない。
寧ろ両親が日本にいる間に、偉央との結婚生活で抱えていた様々な問題を、その片鱗ですら二人に話すことが出来なかった自分にこそ非があったと思っているのに。
「ゆいちゃんは優しい子だもんね。私たちのこと、一欠片も恨んでないんだろうなって言うのもちゃんと分かってるつもり。……けどね、罪悪感くらいは私たちにも背負わせて? ゆいちゃんを偉央くんと無理矢理引き合わせたのはお父さんとお母さんだもの。ゆいちゃんに辛い結婚生活を強いたこと、本当に申し訳なく思ってる」
その言葉を聞いて、美鳥が偉央との離婚の本当の理由についてある程度察している気がした結葉だ。
そのせいだろうか。
そんな事ないよ!と即座に否定しなきゃいけないと思うのに、衝撃の余りすぐに言葉が紡げなかった。
ややしてなんとか言えたのは、「大丈夫だよ。想ちゃんが付いててくれたから」と言うもので。
「うん、そうだね。……だからかな。お母さん、ゆいちゃんが想くんと結婚するって聞いて、実は凄くホッとしてるの」
まるで肩の荷が降りた様に穏やかな笑顔を向けられて、結葉は胸の奥がキュッと締め付けられたみたいに痛んだ。
「お母さん……」
しっかりしなきゃって気持ちとは裏腹。
うるうると視界が涙でぼやけてしまった。
「私ね、……たくさんたくさん回り道をしちゃったけど……全部。そう。それこそ辛かったことも含めて全部全部! 何もかも……無駄じゃなかったって、思ってる」
自分の手に載せられたままの美鳥の手にもう一方の手を重ねると、結葉は母の顔を真っ直ぐに見つめてニコッと微笑んだ。
恥ずかしいくらいにポロポロと、頬を涙が伝い落ちているけれど、悲しみの涙じゃないから見せても構わない。
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