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藪の道
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「だからガキだっちゅーんだよ」
フンッと鼻で嘲笑う。
小馬鹿にしたようなその態度に、パティスは先ほどまでの不安も忘れて激昂した。
「何でそうなるのよ!」
パティスのその様子に、ブレイズは面倒臭そうに「やれやれ」とつぶやいてから、ひたと彼女を見据えた。
「お前が聞いて欲しいってんなら話しゃぁいい。聞いてやるよ。俺は大人だからな。けど本人が話したくねぇもんはイチイチ聞いたりしねぇよ。無理矢理聞き出したって人間は嘘をつくしな。んなもん聞いたって時間の無駄だ。俺は無駄は好きじゃねぇ。それだけのことだ」
だから好きにしろ。
つまりはそういうこと。
年の割にしっかりしていると自負していただけに、初対面の――しかもかなり不躾な――男に子ども扱いされたことが悔しくて、唇を噛み締めてうつむくパティス。
「――で?」
そんな自分のあごへブレイズの片手が無造作に伸び、伏せていた顔を上向かされる。余りに無遠慮なその態度に文句の一つでも言ってやろうと彼を睨み付けたら深紅の瞳と視線がぶつかってしまった。
その瞳に見つめられると、何故か蛇に睨まれたカエルよろしく動けなくなる。
薄暗くて今までは気付かなかったけれど、近くで見ると黒ずくめのこの男はとても整った顔をしていた。
ピジョンブラッドの宝玉がおさまった切れ長の目。それを縁取るまつげは思いのほか長く、鼻梁もスッと通っていた。象牙色の、どこか人間離れした美しさを放つ肌はまるでビスクドールのようだ。
年のころは二十代後半ぐらいだろうか。
見下ろされることは不快だったはずなのに、無意識のうちにそんな彼に見とれてしまっていた。
「話したいからきっかけを作ったんだろ? お前は何故公園で泣いてたんだ? 聞いてやるから話せ」
ブレイズの顔にうっとりと心奪われたパティスの頭を現実に引き戻したのは、皮肉にも当の本人から発せられた言葉だった。
限りなく外見に不釣合いな口汚さに、パティスは我知らず溜め息を漏らす。
一瞬でもこんな奴を素敵だと感じてしまったなんて物凄く不覚だ。
(口さえ開かなければかなりの色男なのに)
脳裏に浮かんだその言葉は、悔しいので口には出さずにおいた。
「……今は言いたくないっ!」
かろうじてそれだけ吐き捨てると、パティスはあごにかけられたブレイズの手を、顔を軽くひねることで振り解いた。
聞いてもらいたくてきっかけを作ったというブレイズの言葉は、多分間違っていない。
だから自分でも今の態度は物凄くワガママだったと認める。
でも、こんな風に聞かれて「はい、実は」と話せるほど無神経にはなれなかった。
「……そうか」
ブレイズから小言の一つぐらい降ってくるかと思っていたのに、あっさりきびすを返されてしまって驚く。
「行くぞ」
自分の思いとは裏腹に、何も言われず背中を向けられたことに、パティスは何故か寂しさを覚える。
(もう少し追求してくれてもいいのに……)
ふとそう思ってから、自分がひどく子供じみた考えを抱いたことに苦笑した。
フンッと鼻で嘲笑う。
小馬鹿にしたようなその態度に、パティスは先ほどまでの不安も忘れて激昂した。
「何でそうなるのよ!」
パティスのその様子に、ブレイズは面倒臭そうに「やれやれ」とつぶやいてから、ひたと彼女を見据えた。
「お前が聞いて欲しいってんなら話しゃぁいい。聞いてやるよ。俺は大人だからな。けど本人が話したくねぇもんはイチイチ聞いたりしねぇよ。無理矢理聞き出したって人間は嘘をつくしな。んなもん聞いたって時間の無駄だ。俺は無駄は好きじゃねぇ。それだけのことだ」
だから好きにしろ。
つまりはそういうこと。
年の割にしっかりしていると自負していただけに、初対面の――しかもかなり不躾な――男に子ども扱いされたことが悔しくて、唇を噛み締めてうつむくパティス。
「――で?」
そんな自分のあごへブレイズの片手が無造作に伸び、伏せていた顔を上向かされる。余りに無遠慮なその態度に文句の一つでも言ってやろうと彼を睨み付けたら深紅の瞳と視線がぶつかってしまった。
その瞳に見つめられると、何故か蛇に睨まれたカエルよろしく動けなくなる。
薄暗くて今までは気付かなかったけれど、近くで見ると黒ずくめのこの男はとても整った顔をしていた。
ピジョンブラッドの宝玉がおさまった切れ長の目。それを縁取るまつげは思いのほか長く、鼻梁もスッと通っていた。象牙色の、どこか人間離れした美しさを放つ肌はまるでビスクドールのようだ。
年のころは二十代後半ぐらいだろうか。
見下ろされることは不快だったはずなのに、無意識のうちにそんな彼に見とれてしまっていた。
「話したいからきっかけを作ったんだろ? お前は何故公園で泣いてたんだ? 聞いてやるから話せ」
ブレイズの顔にうっとりと心奪われたパティスの頭を現実に引き戻したのは、皮肉にも当の本人から発せられた言葉だった。
限りなく外見に不釣合いな口汚さに、パティスは我知らず溜め息を漏らす。
一瞬でもこんな奴を素敵だと感じてしまったなんて物凄く不覚だ。
(口さえ開かなければかなりの色男なのに)
脳裏に浮かんだその言葉は、悔しいので口には出さずにおいた。
「……今は言いたくないっ!」
かろうじてそれだけ吐き捨てると、パティスはあごにかけられたブレイズの手を、顔を軽くひねることで振り解いた。
聞いてもらいたくてきっかけを作ったというブレイズの言葉は、多分間違っていない。
だから自分でも今の態度は物凄くワガママだったと認める。
でも、こんな風に聞かれて「はい、実は」と話せるほど無神経にはなれなかった。
「……そうか」
ブレイズから小言の一つぐらい降ってくるかと思っていたのに、あっさりきびすを返されてしまって驚く。
「行くぞ」
自分の思いとは裏腹に、何も言われず背中を向けられたことに、パティスは何故か寂しさを覚える。
(もう少し追求してくれてもいいのに……)
ふとそう思ってから、自分がひどく子供じみた考えを抱いたことに苦笑した。
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