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約束
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あれから十年。
裏庭の一角に三十数個目になる塚を作り終えたブレイズは、我知らず溜め息を落とす。
全てのナスターが紙屑と化してしまった今、ブレイズにはパティスとの約束が果たせなくなってしまったかも知れないという懸念があった。
この町の住人に忌み嫌われている自分では、毎晩のように公園でパティスが訪れるのを待ち続けることは不可能に近い。そんなことをしたならば、狩ってくださいと言っているようなものだからだ。
殺されてしまったのでは本末転倒になってしまう。
あの日、マリーンを迎えにやらせた折り鶴のような飛翔物体でも作れればよいのだが。
ふとそう思いついてはみたものの、肝心なパティスのにおいを追わせることができないのに思い至って振り出しに戻る。
十年という歳月は、ブレイズにとってはほんの束の間だけれど、屋敷内からパティスがいた痕跡を消すには十分な時間だった。
ソファに横たわるパティスの手と、自分の手との間に折り鶴を挟み込み、それに彼女の家を追跡するためのにおいを染み込ませたのはつい昨日のことのように覚えている。
折り鶴を挟んで添えられた小さな手の温もりだって、今でもはっきりと思い出せるのに。
どうして屋敷内のどこを探してみても、パティスの残したものがないのだろう。
唯一の頼みの綱だったナスターも、最後のひとつを今、葬ったばかりだ。
見上げれば、パティスと初めて出会ったあの晩のように、煌々と輝く満月が出ていた――。
こんなに一人が骨身に沁みて感じられたのは久しぶりだ。
「……パティス、お前、俺のこと覚えてるか?」
つぶやきは月光に吸い込まれるように消えていく。
いつか、願いが叶ってパティスと再会できたとき、心を込めて「お帰り」と告げたなら、今みたいに月光に吸い込まれずにちゃんと彼女の耳に届くだろうか?
ブレイズの周りを心配そうに飛び回るディックの存在も、今は慰めになりそうになかった。
開くたびに時々刻々とその内容を変えるディックにも、きっとパティスの見つけ方は載っていないだろう。
「ついてねぇなぁ」
言葉にしてみると、余計に辛くなった。
「はぁ……」
今夜、何度目になるか分からない溜め息をつくと、ブレイズは何かを断ち切るように手に付いた泥を勢いよく払い落とした。
そうしてもう一度月を仰ぎ見ると、きびすを返して歩き出す。
毎日、とはいかないまでもなるべく目立たない範囲で公園に出向いてみようと思い至った。
ここでこうして嘆息していたって、事態は好転しないのだから。
そう、気付いて――。
裏庭の一角に三十数個目になる塚を作り終えたブレイズは、我知らず溜め息を落とす。
全てのナスターが紙屑と化してしまった今、ブレイズにはパティスとの約束が果たせなくなってしまったかも知れないという懸念があった。
この町の住人に忌み嫌われている自分では、毎晩のように公園でパティスが訪れるのを待ち続けることは不可能に近い。そんなことをしたならば、狩ってくださいと言っているようなものだからだ。
殺されてしまったのでは本末転倒になってしまう。
あの日、マリーンを迎えにやらせた折り鶴のような飛翔物体でも作れればよいのだが。
ふとそう思いついてはみたものの、肝心なパティスのにおいを追わせることができないのに思い至って振り出しに戻る。
十年という歳月は、ブレイズにとってはほんの束の間だけれど、屋敷内からパティスがいた痕跡を消すには十分な時間だった。
ソファに横たわるパティスの手と、自分の手との間に折り鶴を挟み込み、それに彼女の家を追跡するためのにおいを染み込ませたのはつい昨日のことのように覚えている。
折り鶴を挟んで添えられた小さな手の温もりだって、今でもはっきりと思い出せるのに。
どうして屋敷内のどこを探してみても、パティスの残したものがないのだろう。
唯一の頼みの綱だったナスターも、最後のひとつを今、葬ったばかりだ。
見上げれば、パティスと初めて出会ったあの晩のように、煌々と輝く満月が出ていた――。
こんなに一人が骨身に沁みて感じられたのは久しぶりだ。
「……パティス、お前、俺のこと覚えてるか?」
つぶやきは月光に吸い込まれるように消えていく。
いつか、願いが叶ってパティスと再会できたとき、心を込めて「お帰り」と告げたなら、今みたいに月光に吸い込まれずにちゃんと彼女の耳に届くだろうか?
ブレイズの周りを心配そうに飛び回るディックの存在も、今は慰めになりそうになかった。
開くたびに時々刻々とその内容を変えるディックにも、きっとパティスの見つけ方は載っていないだろう。
「ついてねぇなぁ」
言葉にしてみると、余計に辛くなった。
「はぁ……」
今夜、何度目になるか分からない溜め息をつくと、ブレイズは何かを断ち切るように手に付いた泥を勢いよく払い落とした。
そうしてもう一度月を仰ぎ見ると、きびすを返して歩き出す。
毎日、とはいかないまでもなるべく目立たない範囲で公園に出向いてみようと思い至った。
ここでこうして嘆息していたって、事態は好転しないのだから。
そう、気付いて――。
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