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04.久遠寺柚弦/written by 市瀬雪
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【side:久遠寺柚弦】
学校最寄りの駅で電車を降りると、改札までの通路を萌々ちゃ……春川さんと一緒に歩いた。
改札の外に出れば、人の流れも穏やかだ。昔からひときわ小柄な彼女だけど、そこからはもう一人で大丈夫だろう。
となれば、僕の役目もそこまでだ。
思うけれど、それはそれでやはり名残惜しい。
彼女とは高校からの付き合いだけど、それはあくまでもクラスメイトという関係で、こんなにも間近にその気配を感じられることはまれだったから。
本当は、いつだって彼女の隣にありたかった。それはもう、高校生――よりもずっと前からそうだ。
……その想いを、伝えられたことは一度もないけれど。
(……どうしようかな)
できるだけ彼女の歩幅に合わせて歩く。ちらりと視線を横向けると、つやつやとした黒い髪の毛に、綺麗なエンジェルリングが浮かんでいるのが見えた。
……可愛い。相変わらず可愛い。なんていうか、うっかりぎゅってしたくなる。
うちの家系は高身長で、姉たちも僕と同じかむしろ高いくらいだから、150あるかないかという春川さんの存在はとても新鮮だ。
そんな環境のせいか、僕は昔から小さくて可愛いものに惹かれる傾向があって……。
いや、だからってもちろん、それが全てではないけどね。
「そういえば、久遠寺くんって、いつも自転車……」
「あ、うん。今日はちょっとパンクしちゃって」
(知っててくれたんだ……?)
驚いた。どうしよう、たったそれだけのことがめちゃくちゃ嬉しい。
僕は勝手に緩みそうになる顔をどうにか堪え、誤魔化すように微笑んだ。
言われた通り、僕は普段自転車で通学している。
学校までは数駅の距離があるけれど、運動を兼ねて、と思えばそう難しい距離でもない。
だけど、今朝はその自転車がパンクしていて使えなかった。
だから仕方なく、ラッシュは嫌だなぁと思いながらも電車を使ったんだけど……。
それがまさか、こんな結果を生んでくれるなんて。
同じ車両に君の姿を見つけたとき、僕の心臓は隣の人に伝わってしまうんじゃないかってくらい大きく跳ねた。
それを努めてやり過ごしながら、僕は密やかに感謝した。僕の使い込まれた自転車に向けて、「パンクしてくれてありがとう。どうかそのまましばらくお休みください」って。
「ゆづるー!」
そんな微妙に浮かれた僕を、思いがけない声が正気に引き戻す。
改札を出たところで、死角となっていた方向から突然名前を呼ばれたのだ。
振り返ると、見覚えのある一人の男がこちらへと駆け寄ってくるところだった。
「楓馬……」
思わず呟くと、隣から見上げるような視線を感じた。
それを確認するより先に、彼――神木楓馬――が再び声をかけてくる。
「おはよ」
「あぁ、おはよう」
学校最寄りの駅で電車を降りると、改札までの通路を萌々ちゃ……春川さんと一緒に歩いた。
改札の外に出れば、人の流れも穏やかだ。昔からひときわ小柄な彼女だけど、そこからはもう一人で大丈夫だろう。
となれば、僕の役目もそこまでだ。
思うけれど、それはそれでやはり名残惜しい。
彼女とは高校からの付き合いだけど、それはあくまでもクラスメイトという関係で、こんなにも間近にその気配を感じられることはまれだったから。
本当は、いつだって彼女の隣にありたかった。それはもう、高校生――よりもずっと前からそうだ。
……その想いを、伝えられたことは一度もないけれど。
(……どうしようかな)
できるだけ彼女の歩幅に合わせて歩く。ちらりと視線を横向けると、つやつやとした黒い髪の毛に、綺麗なエンジェルリングが浮かんでいるのが見えた。
……可愛い。相変わらず可愛い。なんていうか、うっかりぎゅってしたくなる。
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そんな環境のせいか、僕は昔から小さくて可愛いものに惹かれる傾向があって……。
いや、だからってもちろん、それが全てではないけどね。
「そういえば、久遠寺くんって、いつも自転車……」
「あ、うん。今日はちょっとパンクしちゃって」
(知っててくれたんだ……?)
驚いた。どうしよう、たったそれだけのことがめちゃくちゃ嬉しい。
僕は勝手に緩みそうになる顔をどうにか堪え、誤魔化すように微笑んだ。
言われた通り、僕は普段自転車で通学している。
学校までは数駅の距離があるけれど、運動を兼ねて、と思えばそう難しい距離でもない。
だけど、今朝はその自転車がパンクしていて使えなかった。
だから仕方なく、ラッシュは嫌だなぁと思いながらも電車を使ったんだけど……。
それがまさか、こんな結果を生んでくれるなんて。
同じ車両に君の姿を見つけたとき、僕の心臓は隣の人に伝わってしまうんじゃないかってくらい大きく跳ねた。
それを努めてやり過ごしながら、僕は密やかに感謝した。僕の使い込まれた自転車に向けて、「パンクしてくれてありがとう。どうかそのまましばらくお休みください」って。
「ゆづるー!」
そんな微妙に浮かれた僕を、思いがけない声が正気に引き戻す。
改札を出たところで、死角となっていた方向から突然名前を呼ばれたのだ。
振り返ると、見覚えのある一人の男がこちらへと駆け寄ってくるところだった。
「楓馬……」
思わず呟くと、隣から見上げるような視線を感じた。
それを確認するより先に、彼――神木楓馬――が再び声をかけてくる。
「おはよ」
「あぁ、おはよう」
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