スキかキライかしかえらべません!

鷹槻れん

文字の大きさ
11 / 55
04.久遠寺柚弦/written by 市瀬雪

1

しおりを挟む
【side:久遠寺柚弦】


 学校最寄りの駅で電車を降りると、改札までの通路を萌々ももちゃ……春川さんと一緒に歩いた。
 改札の外に出れば、人の流れも穏やかだ。昔からひときわ小柄な彼女だけど、そこからはもう一人で大丈夫だろう。
 となれば、僕の役目もそこまでだ。

 思うけれど、それはそれでやはり名残惜しい。
 彼女とは高校からの付き合いだけど、それはあくまでもクラスメイトという関係で、こんなにも間近にその気配を感じられることはまれだったから。

 本当は、いつだって彼女の隣にありたかった。それはもう、高校生――よりもずっと前からそうだ。
 ……その想いを、伝えられたことは一度もないけれど。



(……どうしようかな)

 できるだけ彼女の歩幅に合わせて歩く。ちらりと視線を横向けると、つやつやとした黒い髪の毛に、綺麗なエンジェルリングが浮かんでいるのが見えた。

 ……可愛い。相変わらず可愛い。なんていうか、うっかりぎゅってしたくなる。

 うちの家系は高身長で、姉たちも僕と同じかむしろ高いくらいだから、150あるかないかという春川さんの存在はとても新鮮だ。
 そんな環境のせいか、僕は昔から小さくて可愛いものに惹かれる傾向があって……。
 いや、だからってもちろん、それが全てではないけどね。

「そういえば、久遠寺くおんじくんって、いつも自転車……」
「あ、うん。今日はちょっとパンクしちゃって」

(知っててくれたんだ……?)

 驚いた。どうしよう、たったそれだけのことがめちゃくちゃ嬉しい。
 僕は勝手に緩みそうになる顔をどうにか堪え、誤魔化すように微笑んだ。

 言われた通り、僕は普段自転車で通学している。
 学校までは数駅の距離があるけれど、運動を兼ねて、と思えばそう難しい距離でもない。
 だけど、今朝はその自転車がパンクしていて使えなかった。
 だから仕方なく、ラッシュは嫌だなぁと思いながらも電車を使ったんだけど……。

 それがまさか、こんな結果を生んでくれるなんて。
 同じ車両に君の姿を見つけたとき、僕の心臓は隣の人に伝わってしまうんじゃないかってくらい大きく跳ねた。
 それを努めてやり過ごしながら、僕は密やかに感謝した。僕の使い込まれた自転車に向けて、「パンクしてくれてありがとう。どうかそのまましばらくお休みください」って。

「ゆづるー!」

 そんな微妙に浮かれた僕を、思いがけない声が正気に引き戻す。
 改札を出たところで、死角となっていた方向から突然名前を呼ばれたのだ。
 振り返ると、見覚えのある一人の男がこちらへと駆け寄ってくるところだった。

楓馬ふうま……」

 思わず呟くと、隣から見上げるような視線を感じた。
 それを確認するより先に、彼――神木かみき楓馬――が再び声をかけてくる。

「おはよ」
「あぁ、おはよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...