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04.久遠寺柚弦/written by 市瀬雪
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すぐ傍まで来て足を止めたこの男は、高校の時に通っていた塾で知り合った僕の友人だ。
偶然にも同じ大学、同じ学科で、成り行きとはいえ、現在は昼食なども一緒にとるような間柄になっている。
「え? あ、えっと……」
ちなみに楓馬も背が低い。いつだったか、「160はあるし!」と言い張っていたのを思い出す。
そのせいだろうか。楓馬は僕の陰になっていたはずの春川さんをすぐさま目に留めて、思わずといったふうに彼女を指さした。
(いや、ちょっと待て)
僕はその指先をすっと握って下ろさせる。指をさすな、指を……。
けれども、それを気にするふうもなく、春川さんはにこ、と笑って、
「あ、春川です」
と次には小さく頭を下げた。
(可愛い上に、優しい……)
こんなにも不躾な友人に、こんなにも誠実な態度をとってくれるなんて……。
僕は改めて春川さんを見直してしまう。
いや、知ってたけどね。知ってたけどこう、ある意味惚れ直したっていうか!
そんな僕を尻目に、楓馬は思い出したように表情を明るくし、
「そうだ、春川さん! 知ってる知ってる。ちっちゃい仲間のね!」
うんうんと一人勝手に頷いた。
(ちっちゃい仲間?)
僕は小さく瞬き、双方の顔をちらりと見遣る。
すると春川さんが、少しだけはにかむみたいに僅かに肩を竦めた。
「あ……はい。実は私も知ってます。神木さん、ですよね」
「そうそう、俺、神木楓馬! ……って、敬語とかやめてよ、同級生なのに」
「え、えっと……じゃあ、はい、分かりま……分かっ、た。……神木くん」
しかも、確認のためだとは分かるけれど、噛み締めるみたいに楓馬の名前を口にする。
いやいや、ちょっと待ってよ。
知ってるけど、楓馬がもともと人懐こい性格だってことは。人の懐に飛び込むのが上手いってことも、確かに知ってるけどさ。
だけど……だとしても、だよ?!
「うんうん。じゃあ、学校まで一緒にいこー! 萌々ちゃん!」
(萌々ちゃん!?)
それはない!
それはないだろ!
そこまで何とか黙って二人のやりとりを見守っていた僕だったけれど、突然のその呼び方チェンジにはさすがに唖然としてしまう。
いや、いやいやいや……。それはさすがにないでしょ。
僕が今までどんな思いで〝春川さん〟って呼んできたと思ってんの。
そりゃ、心の中ではたまに〝萌々ちゃん〟って呼んでたけどさ……。
「ん? どした、ゆづ?」
思わず楓馬の顔をガン見していたら、それに気付いた楓馬が僕の方を見た。
かち合った大きめの瞳が、心底不思議そうに俺を見返してくる。
「……いや、何でもない」
僕は微笑みを湛えたまま、ふるりと首を振った。
そうだった。
こんなにも人との距離を埋めるのが上手いのに、楓馬はきわめて鈍感なのだ。
結果として、春川さんと学校まで一緒に歩けることになった、そのこと自体は素直に嬉しい。
嬉しいし、そこは楓馬に感謝したいところだけれど、
(っていうか、ちっちゃい仲間ってなんだよ……)
僕は妙に会話が弾んでいる(ように見える)二人を相手に、しばらくはただ微笑むことしかできなかった。
偶然にも同じ大学、同じ学科で、成り行きとはいえ、現在は昼食なども一緒にとるような間柄になっている。
「え? あ、えっと……」
ちなみに楓馬も背が低い。いつだったか、「160はあるし!」と言い張っていたのを思い出す。
そのせいだろうか。楓馬は僕の陰になっていたはずの春川さんをすぐさま目に留めて、思わずといったふうに彼女を指さした。
(いや、ちょっと待て)
僕はその指先をすっと握って下ろさせる。指をさすな、指を……。
けれども、それを気にするふうもなく、春川さんはにこ、と笑って、
「あ、春川です」
と次には小さく頭を下げた。
(可愛い上に、優しい……)
こんなにも不躾な友人に、こんなにも誠実な態度をとってくれるなんて……。
僕は改めて春川さんを見直してしまう。
いや、知ってたけどね。知ってたけどこう、ある意味惚れ直したっていうか!
そんな僕を尻目に、楓馬は思い出したように表情を明るくし、
「そうだ、春川さん! 知ってる知ってる。ちっちゃい仲間のね!」
うんうんと一人勝手に頷いた。
(ちっちゃい仲間?)
僕は小さく瞬き、双方の顔をちらりと見遣る。
すると春川さんが、少しだけはにかむみたいに僅かに肩を竦めた。
「あ……はい。実は私も知ってます。神木さん、ですよね」
「そうそう、俺、神木楓馬! ……って、敬語とかやめてよ、同級生なのに」
「え、えっと……じゃあ、はい、分かりま……分かっ、た。……神木くん」
しかも、確認のためだとは分かるけれど、噛み締めるみたいに楓馬の名前を口にする。
いやいや、ちょっと待ってよ。
知ってるけど、楓馬がもともと人懐こい性格だってことは。人の懐に飛び込むのが上手いってことも、確かに知ってるけどさ。
だけど……だとしても、だよ?!
「うんうん。じゃあ、学校まで一緒にいこー! 萌々ちゃん!」
(萌々ちゃん!?)
それはない!
それはないだろ!
そこまで何とか黙って二人のやりとりを見守っていた僕だったけれど、突然のその呼び方チェンジにはさすがに唖然としてしまう。
いや、いやいやいや……。それはさすがにないでしょ。
僕が今までどんな思いで〝春川さん〟って呼んできたと思ってんの。
そりゃ、心の中ではたまに〝萌々ちゃん〟って呼んでたけどさ……。
「ん? どした、ゆづ?」
思わず楓馬の顔をガン見していたら、それに気付いた楓馬が僕の方を見た。
かち合った大きめの瞳が、心底不思議そうに俺を見返してくる。
「……いや、何でもない」
僕は微笑みを湛えたまま、ふるりと首を振った。
そうだった。
こんなにも人との距離を埋めるのが上手いのに、楓馬はきわめて鈍感なのだ。
結果として、春川さんと学校まで一緒に歩けることになった、そのこと自体は素直に嬉しい。
嬉しいし、そこは楓馬に感謝したいところだけれど、
(っていうか、ちっちゃい仲間ってなんだよ……)
僕は妙に会話が弾んでいる(ように見える)二人を相手に、しばらくはただ微笑むことしかできなかった。
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