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9.利害が一致するとかしないとか

母親の疑念

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「さっきカフェでどのくらい僕と母の会話を聞きましたか?」

 不意に話を変えられた気がしてキョトンとしたら、

「誤魔化さず、単刀直入に話しましょう。僕は今、母から結婚を急かされて参っています」

 溜め息まじりにじっと見つめられて、私は彼のアンニュイな雰囲気を漂わせる色気に、ソワソワしてしまう。

 その空気に耐えきれなくて、マグを置いてさっき取り上げられたグラスに残ったビールを一気に煽って。
 それでも足りなくてキョロキョロと視線を彷徨さまよわせたら、

「お酒に逃げずに真面目に向き合ってもらえませんかね?」

 そう言われて、再度グラスを取り上げられてしまった。

 でも、だからと言って、そんな宗親むねちかさんに返せる言葉は「はぁ」ぐらいしか思い付けなくて。

「気のない返事ですね」

 当然のように即座に苦笑されてしまって、「……すみません」と謝る。

 そうしてみたところで、じゃあどんな反応をするのが正解なのか分からないまま。


春凪はなは僕の恋人だという自覚はありますか?」

 言うなり距離をグイッと詰められて、私は思わず彼から距離を取るように仰け反った。

 結果、期せずしてソファに押し倒されたみたいになってしまう。


「そっ、それはっ。仮初かりそめの設定だったじゃないですかっ」

 慌てて視線を逸らしながらそう言い募ったら、「母にもそれを疑われているみたいでしてね」と苦笑される。

「えっ!?」

 それは初耳です。

 だって葉月さん、そんなこと一言もっ。

 そこで私が席を外していた間におふたりの雰囲気がどことなくおかしくなっていたことをふと思い出して、あの時、かな?とハッとする。


春凪はながコーヒーを買いに行ってくれている間に聞かれました。本当にあの子と結婚する気があるのか?とね。もしそのつもりがないのなら、すぐにでも別れて見合いしなさいと――」

 何だかよくは分からないけれど、宗親むねちかさんはどこかの会社の社長のご子息で、今の勤め先には社会勉強の一環として出ているみたい。

 彼が家業を継ぐためには伴侶をめとって身を固めることが、父親との間で取り決められた唯一無二の絶対条件なんだとか。

 家庭も持てないような人間には会社も任せられないというのがその理由らしい。


 うちの両親も大概前時代的だけれど、宗親むねちかさんの親御さんも似たり寄ったりだな、と思ってしまった。
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