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10.アレもコレも布石

偽装だからこそ

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「もっ、問題しかありませんからっ!」

 いくらお酒を飲んでぼんやりした頭でも、このまま「はい分かりました」ってサインをすると思ったら大間違いです!

 っていうか、今ので一気に酔いが覚めました!


「何が問題なんですか?」

 私のすぐ横に腰掛けた宗親むねちかさんが、ペンを持ったままの私の手をギュッと両手で包み込んできて。

 その、繊細そうに見えて……その実、私の手なんかより圧倒的に大きくて、尚且つ思いのほか骨張ってゴツゴツした手のひらの感触に、ドキッとしてしまう。

 ――いや、待って春凪はな、そうじゃないっ。


「もっ、問題がないと思っていらっしゃる方がおかしいと思いますっ」


 手を取り戻そうと必死に引いてみるけれど、びくともしなくて焦りが募った。

 そんなに強く掴まれているようには見えないのに何なの!


「あ、あのっ……」

 ――何で離してくれないんですかっ?

 そんな気持ちを込めてじっと見つめたら、「さっき、利害関係が一致することは確認しましたよね?」

 その上で、春凪わたし宗親むねちかさんの提案を受け入れるのが得策だという結論に達したでしょう?というのが彼の言い分らしい。


 いや、確かにそうなんですけど……。でも!


「仮にも〝結婚〟ですよ? 戸籍に傷がついてしまうとか思わないんですか?」

 本当に好きな女性が出来た時、バツイチになってしまうことに、この人は何の躊躇ためらいもないんだろうか。


 私は……あるのに。


「バツイチになるのとか嫌です!」

 勢いこんで言ったら、何でもないことみたいに「離婚しなけりゃならないでしょう?」って返されて。

「偽装……なのに?」

 思わずううかがうような表情になってしまって、不覚にも好みのド・ストライクなお顔をばっちり見てしまった私は、固まったみたいに動けなくなった。


「偽装だからこそ、です」

 言われている言葉の意味がさっぱり分からなくて、キョトンとしてしまう。



 あまりに意味不明な展開に、握られた手を振り解くこともできないまま、私は宗親むねちかさんの次の言葉をじっと待った。


 もちろんだから顔は見ない。

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