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19.キミが思っている以上に僕は

どのみち経緯は変わらなかった?

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「くぅ~! 最高です!」

 そんなことを考えながら思わずつぶやいて、ニンマリ笑顔になる。
 ふとそこでその様子を宗親むねちかさんにで見守られていると気付いた私は、慌ててピシッと姿勢を正した。


「う、うちの事情をご存知なんだったらっ……ま、前もって一言ぐらい教えてくださっても……よかったのに!」

 しどろもどろになりながらも何とか不機嫌顔を取り繕いながらそう言ったら、「春凪はなだって自分のあちらでの立ち位置を僕に話してくれていなかったじゃないですか」と即座に返された。

 それを言われてしまうと何も言えなくて言葉に詰まってしまう。

 今時そんな前時代的な風習が残っている家に生まれたなんて、知られたくなかったんです。

 何よりそれを知られてしまったら、宗親むねちかさんから「そんな面倒な女性との契約は、やっぱり反故ほごにしたいです」と言われてしまうんじゃないかという不安があったんですもの。

 だけどそんなこと、口が裂けても言えないじゃないっ。
 どうしてそんなこと思ったの?って聞かれてしまったら、私は宗親むねちかさんを好きになってしまったことを隠し通せる自信がなかったから。

 そんな心の葛藤を、頭の中でひとりこねくり回して。

 ブルーチーズを小さく削り取るように味わいながら、チビチビとウィスキーで口の中を湿らせる。


***


「――前もって私が話していたら、葉月さんの手をわずらわせたりしませんでしたか?」

 そこだけちょっぴり気になってしまった。

 もしそうなら申し訳なかったな、としゅんとしながらすぐ隣に座る宗親むねちかさんを見詰めたら、頭をクシャリと撫でられた。

「まぁ春凪はなが言ってくれなくても、先ほど申し上げたように僕は最初からキミの事情は全部知っていましたから。その上でこう動くのが一番と判断したわけですし……どのみち経緯は変わらなかったと思いますよ?」

 私が萎れたことを気遣うみたいにそうおっしゃって。

「おかしいですね。僕が腹黒ドS上司だっていうの、お忘れになられたんですか?」

 クスッと笑われて、「そっ、それはっ」と弾かれたみたいに宗親むねちかさんの方を身体ごと向いたら、「春凪はなからの評価ですよ?」と意地悪く笑うの。――すっごくズルイ。

「い、今はそんなこと――」

 思ってません。

 言おうとして、いや、そもそもこうやってしおらしくしている私をおちょくってくる時点でやっぱり腹黒ドSだよねって思い直す。
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