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22.玉ねぎが目にしみただけ

あの時のっ!

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 もぉ~! 何で貴方、名札付けてないのよぅ!などと、己の記憶力の悪さを棚に上げて思ってみたり。

 そこでふと自分の胸元に視線を落とした私は「あ」と思う。
 私も付け忘れてますね、ごめんなさい。
 思えば今日は朝からずっと机の中に入れっぱなしでした!
 思い出させてくれて有難うございます。後でこっそりとつけておきますね。

 ではなくっ。


「あー、その反応。さては柴田しばたさん。俺の名前が思い出せなくて困ってるでしょ?」

 言われた言葉があまりに図星すぎて、思わずギクッと肩が跳ねた。

柴田しばたさん、入社式の時はガチガチに固まってたからどんな子かイマイチ分かんなかったけど、結構面白いね」

 ククッと笑った彼は、目が糸みたいに細くなって、やけに人懐っこい印象だなと思ってしまった。

 年の近い男性は苦手なはずだけど、何だかこの人は大丈夫かも?とちょっとだけ肩の力を抜く。

 それで、かな。「隣、いい?」と聞かれて小さくうなずいてしまったのは。

 私と彼以外、今は広いフロア内、誰もいやしないのだから、何もそんなくっ付いて座る必要ないと思うんだけど。

 私に話し掛けてしまった手前、彼、もしかしたらよそに座るのが躊躇ためらわれて気遣ってくれているのかもしれない。

 まぁもう、何でもいっか。隣に座られちゃったし。

「それで……あの」

「ああ、俺の名前ね。足利あしかが足利あしかが玄武げんぶだよ。――記憶にない?」

 聞かれて、そう言えばそんな名前の人もいたような、と思って「えへへ」って曖昧に微笑んだ。

「あ、いま絶対誤魔化したでしょ?」

 ギクリッ! またしても図星。
 何この人、エスパーか何かなの?

 後に、「俺が何かを言い当てるたび、柴田しばたさんの肩、めっちゃ跳ねていたからね」と、足利あしかがくんに教えられるまで、私、これからしばらくの間、何度も同じ過ちを繰り返すことになる。
 だけどもちろんこの時はまだ知るよしもなくて。

「入社式の時にさ、あんまり柴田しばたさん、ひとりで緊張してたから『よろしくね』って声掛けたんだけど……それも忘れちゃった?」

 ああ、それは覚えてる!

「あの時のっ!」

 それで思わず自信満々に横を向いて言ったら、思いのほか足利あしかがくんとの距離が近くてビックリした。
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