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29.目立ち過ぎて困ります

今日もキミを抱いていい?

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「や、やっぱりビールには……えっと、ほ、程よく辛みのきいたペッパーチーズが合いますね」

 なるべく左隣に座る宗親むねちかさんから伝わってくる体温のことは考えないようにしながら、大好物のチーズを齧ってビールをグイッと煽る。

 だけど紡いだ言葉はグダグダで。

 それを誤魔化すみたいにゴクゴクと喉を鳴らして半分以上ビールを飲み干して。宗親むねちかさんに「え……」とつぶやかれた。

 この距離!
 これが飲まずにやってられますかぁ~!って感じなんですけど……まさか宗親むねちかさん、今日も昨日みたいなことなさろうとか思っていたりしません、よ、ね?

 考えただけで心臓バクバクでどうにかなりそうです!



春凪はな。そんなに一気に煽ったら酔い潰れてしまいますよ?」

 明日も仕事なのに――。

 そう付け加える宗親むねちかさんを横目に、心の中で「だってだって……」と言い訳をする。

 好みの男性が、お互いの吐息や体温さえも感じられるようなすぐ近くで飲んでおられるんですよ?

 しかもその人と私、昨夜はあんなことやこんなことを……ゴニョゴニョ。


 そんなことを考えたら、とてもシラフのままではいられないんですものっ。


「あ、あのっ。最近あまりお酒を飲む機会に恵まれていなかったので、その、つ、ついお酒が進んじゃうといいますか……」

 えへへ。

 とか笑いながらも、ビールの味はもちろんのこと、大好きなはずのチーズの味さえ殆ど感じられないとか。……もぉ、もぉ、もぉ!


「久々なら尚更。もっとゆっくりとしたペースで飲むべきだと思うんですけどね? だいたい春凪はなはお酒の飲み方が下手なんです。僕がMisokaミソカで初めてキミに声をかけた時だって……」


 至極もっともなことを仰いながら、説教モードに移行していく宗親むねちかさんに、私は「うー」と小さくうなって抗議の気持ちを表す。


「いっ、家でまで上司みたい喋り方しないでくださいっ」

 照れ隠し。宗親むねちかさんを恨めしげに睨んだら、彼は一瞬驚いたように私を見つめてから、すぐさまクスッと笑って。

 その笑顔は紛れもなく例の腹黒スマイルだったから、私は嫌な予感に身体をギュッと硬くした。


「それもそうですね。では、春凪はなのご提案通り、〝溺愛夫モード〟に切り替えましょうか」

 ククッと喉の奥で楽しそうに笑うと、宗親むねちかさんが私の手からグラスを奪い取る。

「あっ、それ、まだっ――」

 中身残ってます!って言おうと開いた口を、宗親むねちかさんのビールでひんやり冷えた唇で塞がれてしまう。

 口中を掻き回す舌先に、すぐさま下腹部がキュンと疼いたのは、昨日の今日だから――?


「ふぁ、っ」

 キスの合間、たまらず喘ぐように息継ぎをした私を満足そうに見下ろして、「春凪はな、キミは本当に可愛いね。こんな綺麗で愛らしい奥さんをもらえて、僕は幸せ者です」とか。

 さっき、に切り替えるっておっしゃってたし、本心じゃないのは十分すぎるほど分かってるのに、馬鹿な私はついついほだされそうになってしまう。

宗親むねちかさ……」

 意識がトロンととろけて、もっともっとキスして欲しいと願ってしまうのは、お酒を飲みすぎたせいですか?

 それとも宗親むねちかさんのキスが、すっごくすっごくエッチだったから?


「ねぇ春凪はな。今日もキミを抱いていい?」

 瞳の奥に宿した熱を見透かしたように聞かれて、私はうっとりとうなずいた。

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