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32.春凪の愚痴と宗親の本心

甘々な宗親

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***

春凪はな、そう言えばその服もご友人に借りられたのですか?」

 運転しながらだから、宗親むねちかさんのお顔は基本前に向けられたまま。

「そんな服、キミは持っていなかったですよね?」

 ちょっ、宗親さんっ! その発言、何気にストーカーチックですよ⁉︎

 私、自慢じゃないですが、宗親さんの手持ちのお洋服なんて把握していませんもの!

 そりゃあ圧倒的な枚数差のせいもあるかも知れませんが。


 時折チラリと流される宗親さんからの視線に、私は何だかソワソワと落ち着かなくて。
 一人、心の中で下らないツッコミを入れて心の均衡を保とうと試みる。


「わ、わらしが着てたにょ、ずぶにゅれになっちゃったん……」

 居た堪れなさにうつむきながらそう言ったら、宗親さんが吐息を落とす気配がして。

「そんなに濡れただなんて……身体、冷えませんでしたか?」

 初夏とはいえ、夜のこと。

 雨の中、濡れたままホロホロと夜の街を彷徨さまよった私は、そのとき結構寒かったのを思い出す。

 だけど――。

「ら、大丈夫らいじょぉぶれすよ。しゅぐ、ほたるにお洋服借りに行きましたもにょ」

 ふわふわと答えて、「わらし、結構優秀なのれ」と胸を張ったら「優秀な人間はそもそも雨に濡れるようなヘマはしません」とにべもないお言葉。

「しょ、しょれはそうなんれすけどぉ~」

 そもそも、そうなった原因を作ったのは貴方じゃないですか!と言いたい気持ちをグッと堪えた。

 そこで出かける前に作ったアレコレのことを思い出した私は、宗親さんの冷たい視線から逃れるように「しょう言えばしゃば味噌みしょ煮込み定食てぇしょきゅ、美味しかったれしゅか?」と問いかける。

 あれを作っていた時にはまだ健全な精神状態だった。

 だから卒なく作れていたはずなの。

 そこで車が停まって、宗親さんが「降りますよ」って言うから、私は〝お味の感想は~?〟と思いながらも、渋々シートベルトに手を伸ばす。

 さっさと車から降りてしまった宗親さんに焦りつつ、一生懸命金具を外そうとしたんだけど、あれ、おかしいな?

 外れないよ?

「あれれれ?」

 なんて言ってたら助手席側のドアが開いて、宗親さんが「何してるんですか? ベルトが外せないの?」と私の上に覆い被さってきて。

 カチカチと無駄な動きを繰り返していた手ごと、宗親さんの大きな手でふわりと包み込まれてしまう。

「ひゃわわっ」

 それにびっくりして思わず真っ赤になって変な声を出したら「春凪はな、ホント可愛い」ってつぶやかれた。

 わーんっ! 甘々宗親さん、慣れないので怖いですっ!
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