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35.やり直そう

半日問題

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***

 結局宗親むねちかさんは先にお風呂も済ませていらして、今や白のTシャツに黒のイージーパンツ姿。

 宗親さんがリビングに入って来るなり、ふわりとシャンプーと石鹸の香りが漂ってきて、私は内心ドキドキさせられて。

「す、すぐに食べられるので座って待っていてくださいっ」

 お風呂上がりで上気した色っぽい宗親さんから慌てて視線をそらすと、鍋の中のカレーに集中する。
 香辛料の濃いにおいが、いい具合に宗親さんのお風呂上がりの香りをかき消してくれたことにホッとしながら、焦げ付かないようにゆるゆるとお玉を動かす。


「うん。すっごく美味しそうだ。カレー、昨日から仕込んでくれていましたもんね」

「ひぁっ!」

 油断していたところ、いきなり背後から腰に腕を回されて、頭の上に軽くあごを載せるようにしてそう問いかけられた私は、変な声と共にビクッと身体を跳ねさせた。

「火っ! 使ってるのに危ないですっ!」

 IHだから実際には炎なんて出ていないけれど、熱いものを扱っているのは紛れもない事実。

 そんなに強く抱きしめられているわけではないのに、私はカチンコチンに固まってぎこちない動きになってしまう。

つれないなぁ。今日はキミが半休を取ったりするから……春凪はなと離れていたんですよ? 少しぐらいは充電させてください」

 言われて、腕の力をほんの少し強められた私は、この甘えたモードの宗親さんをどうしてくれようかとオロオロする。

 そもそも「半日」離れていません!

「あ、あのっ、その半休の時のっ、ほ、ほたるとのあれこれのお話、聞いてくださいっ!」

 ドキドキに手が止まっていて、カレーの表面にポコッポコッと気泡が上がってきたのに気付いた私は、慌ててお玉で鍋底付近を入念にかき回した。



***


 宗親むねちかさんに抱きしめられたまま、何とかカレーを温め終わった私は、「ご飯、好きな量よそってください!」と腰に回された彼の手をペチペチ叩いて引き剥がしに成功した。

 リビングでは、わざと対面になるようローテーブルにカレー皿を置いてから、ラグの上にこぢんまりと正座して。

 同じようにソファーを背もたれにするみたいにラグ上であぐらをかいた宗親さんに、今日あったことを話し始めた。


「ねっ? ねっ? すごいと思いませんか? もぉ~私、嬉しくって!」

 色々あって、話すのを我慢していた分、お口がいつも以上に高速に回転中です。

 食べるのも忘れて、私はマシンガンのようにほたるの恋心について捲し立てた。

「まぁ、とりあえず落ち着いて、春凪はな。せっかく熱々で出したんだから冷めないうちに食べてから話しましょう?」

 さすがに勢い込みすぎて、宗親さんに苦笑されてしまった。
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