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18.大安吉日
実際、修太郎さんもよく我慢なさいましたよね
日織の視線に気がついた修太郎が、親族らへ会釈をすると、先ほどの日織同様こちらに来てしまった。
残された親族たちは主役二人が抜けてしまっても、親族同士での会話に盛り上がっているのか、そのままその場にまとまり続けていた。
修太郎がやってきたのを見て、理人と葵咲が二人揃って「おめでとうございます」と再度お祝いの言葉を述べて、修太郎がそれに礼の言葉を返して。
その後すぐ、自分の羽織をちょいちょいっと可愛らしく引っ張る日織に視線を移すと、「何かご相談ごとでも?」と愛し気に妻へ問いかけた。
「あのっ、この後あれこれ済んだら……そのっ、ききちゃんと池本さんを、その……うちに……」
日織にしてはどこか歯切れの悪い物言いへ、修太郎はニコッと微笑むと小さく頷いてみせる。
そうして理人と葵咲に視線を転じると、「もし宜しければ、うちへ遊びにいらっしゃいませんか?」と投げかけた。
日織は自分がなかなか言い出せなかったことを修太郎が言ってくれたのを見て、ギュッと修太郎にしがみついた。
「修太郎さん、有難うございますっ!」
思わず理人と葵咲が瞳を見開いてしまうほどに、日織はとても自然に修太郎に甘えて。
修太郎はそんな日織を当然のようにギュッと抱きしめる。
***
熱々な新郎新婦を間近で見せつけられた理人と葵咲は二人して顔を見合わせて、すぐさま葵咲が照れたようにふいっと理人から視線をそらせてしまう。
「もちろん。ご迷惑でなければ」
理人が応えて、「葵咲もそれでいいよね?」とすぐ横に立つ葵咲の腰を抱いた。
「り、理人っ」
葵咲が照れたように理人の名前を呼んで自分に掛かった手から逃れようとしたけれど、当然、理人は葵咲を離すつもりなんてない。
目の前で修太郎と日織に仲良しぶりを見せつけられたのだ。
僕だって、と対抗心を燃やしていたりする。
葵咲と理人は、葵咲が小一の頃からの長い長い付き合いだ。
理人の表情から、離してくれないと諦めてくれたのか、葵咲が小さく吐息を落として
「せっかくだから私ももっとひおちゃんと話したいです。喜んでお受けいたします」
理人にガシッと掴まれたまま、日織と修太郎にそう返した。
四人は着替えなども含めてゆっくりと、という話になって、夕方再度落ち合うことに決めた。
***
理人は以前こちらに遊びに来た時同様レンタカーを手配していたのだけれど、せっかくだしみんなでお酒を、と言う話になってタクシーを使うことになって。
「帰りはそれでいいとして、行きはタクシー代がもったいないと思うのです……」
日織がそう言って、物言いたげに修太郎を見つめたら、「ご迷惑でなければ僕が泊まり先までお迎えにあがりますよ」と、妻の意志を汲むことの出来るよくできた夫が〝自主的に〟そう提案してくれる。
だが理人にも男としての矜持があったのだろう。
「いや、さすがにそれは申し訳ないです」
と固辞しようとしたのだけれど。
日織がすかさず葵咲の手をギュッと掴んで、「そうすればお車の中でもききちゃんとお話が出来るのですっ! 私、少しでもたくさんききちゃんと一緒にいたいのですっ!」と瞳をキラキラさせて葵咲を懐柔してしまう。
「ねぇ、理人、私……」
日織にほだされた葵咲から、おねだりするように見つめられた理人に、断るという選択肢は残されてはいなかった。
「……お手数おかけします」
小さく吐息をつくと、理人が修太郎に頭を下げて。
修太郎も、そんな理人の気苦労を察したように淡い笑みを返した。
二人とも声にこそ出さなかったけれど、(お互い彼女には勝てませんよね)と苦笑しつつだったのは言うまでもない。
***
そんなこんなで、修太郎の運転で塚田夫妻の愛の巣があるマンションにたどり着いた四人だ。
この地域にしては珍しいくらい高く聳えているマンション内に入るなり、葵咲がほぅっと溜め息を落とす。
「ここがひおちゃんの新しいお家なんだね」
日織の生家は庭付きの一戸建て――純日本家屋だ。
葵咲はそれを知っているから、日織とこのマンションがなかなか結びつかなくて、そのギャップに少し驚いていたりする。
「はい! 私、今日からやっと……正式にここの住人になったのですっ! 本当やっと、なのですっ!」
言われて、葵咲がハッとしたように日織を見つめて。
「入籍しててもお式が終わるまでは一緒には住めないってひおちゃん、ずっと嘆いてたもんね」
心底気の毒そうに眉根を寄せて「ひおちゃん、頑張ったね」と親友に労いの言葉をかける葵咲だ。
それを日織のそばで見て、(日織さん、相当丸山さんに愚痴ってらしたんだろうな)と思った修太郎だ。
もちろん、日織は修太郎自身にも一緒に住めないことをとても残念がっては色々こぼしていたけれど、きっと第三者である友人への方が素直な気持ちを吐露出来ていたんじゃないかな?と思って。
自分同様、葵咲の方を愛し気にじっと見つめている理人に視線を転じて「うちの妻が丸山さんに大変お世話になったようで」とつぶやいたら、理人が驚いたように修太郎を見た。
「ええ。うちの葵咲も、せっかく入籍してるのに一緒に住めないなんて信じられない!ってよくこぼしてました」
と苦笑する。
「……実際、修太郎さんもよく我慢なさいましたよね」
入籍直後二人に会った時、他の男から日織のことを名前で呼ばれたくなかった修太郎が、理人に「妻のことは『塚田』、自分のことは彼女と区別するために『修太郎』と呼んで欲しい」と頼んだことがあった。
どうやら理人はそれをちゃんと覚えてくれているようだ。
理人に心底感心したようにそう言われた修太郎は、ほぅっと小さく吐息を落とした。
残された親族たちは主役二人が抜けてしまっても、親族同士での会話に盛り上がっているのか、そのままその場にまとまり続けていた。
修太郎がやってきたのを見て、理人と葵咲が二人揃って「おめでとうございます」と再度お祝いの言葉を述べて、修太郎がそれに礼の言葉を返して。
その後すぐ、自分の羽織をちょいちょいっと可愛らしく引っ張る日織に視線を移すと、「何かご相談ごとでも?」と愛し気に妻へ問いかけた。
「あのっ、この後あれこれ済んだら……そのっ、ききちゃんと池本さんを、その……うちに……」
日織にしてはどこか歯切れの悪い物言いへ、修太郎はニコッと微笑むと小さく頷いてみせる。
そうして理人と葵咲に視線を転じると、「もし宜しければ、うちへ遊びにいらっしゃいませんか?」と投げかけた。
日織は自分がなかなか言い出せなかったことを修太郎が言ってくれたのを見て、ギュッと修太郎にしがみついた。
「修太郎さん、有難うございますっ!」
思わず理人と葵咲が瞳を見開いてしまうほどに、日織はとても自然に修太郎に甘えて。
修太郎はそんな日織を当然のようにギュッと抱きしめる。
***
熱々な新郎新婦を間近で見せつけられた理人と葵咲は二人して顔を見合わせて、すぐさま葵咲が照れたようにふいっと理人から視線をそらせてしまう。
「もちろん。ご迷惑でなければ」
理人が応えて、「葵咲もそれでいいよね?」とすぐ横に立つ葵咲の腰を抱いた。
「り、理人っ」
葵咲が照れたように理人の名前を呼んで自分に掛かった手から逃れようとしたけれど、当然、理人は葵咲を離すつもりなんてない。
目の前で修太郎と日織に仲良しぶりを見せつけられたのだ。
僕だって、と対抗心を燃やしていたりする。
葵咲と理人は、葵咲が小一の頃からの長い長い付き合いだ。
理人の表情から、離してくれないと諦めてくれたのか、葵咲が小さく吐息を落として
「せっかくだから私ももっとひおちゃんと話したいです。喜んでお受けいたします」
理人にガシッと掴まれたまま、日織と修太郎にそう返した。
四人は着替えなども含めてゆっくりと、という話になって、夕方再度落ち合うことに決めた。
***
理人は以前こちらに遊びに来た時同様レンタカーを手配していたのだけれど、せっかくだしみんなでお酒を、と言う話になってタクシーを使うことになって。
「帰りはそれでいいとして、行きはタクシー代がもったいないと思うのです……」
日織がそう言って、物言いたげに修太郎を見つめたら、「ご迷惑でなければ僕が泊まり先までお迎えにあがりますよ」と、妻の意志を汲むことの出来るよくできた夫が〝自主的に〟そう提案してくれる。
だが理人にも男としての矜持があったのだろう。
「いや、さすがにそれは申し訳ないです」
と固辞しようとしたのだけれど。
日織がすかさず葵咲の手をギュッと掴んで、「そうすればお車の中でもききちゃんとお話が出来るのですっ! 私、少しでもたくさんききちゃんと一緒にいたいのですっ!」と瞳をキラキラさせて葵咲を懐柔してしまう。
「ねぇ、理人、私……」
日織にほだされた葵咲から、おねだりするように見つめられた理人に、断るという選択肢は残されてはいなかった。
「……お手数おかけします」
小さく吐息をつくと、理人が修太郎に頭を下げて。
修太郎も、そんな理人の気苦労を察したように淡い笑みを返した。
二人とも声にこそ出さなかったけれど、(お互い彼女には勝てませんよね)と苦笑しつつだったのは言うまでもない。
***
そんなこんなで、修太郎の運転で塚田夫妻の愛の巣があるマンションにたどり着いた四人だ。
この地域にしては珍しいくらい高く聳えているマンション内に入るなり、葵咲がほぅっと溜め息を落とす。
「ここがひおちゃんの新しいお家なんだね」
日織の生家は庭付きの一戸建て――純日本家屋だ。
葵咲はそれを知っているから、日織とこのマンションがなかなか結びつかなくて、そのギャップに少し驚いていたりする。
「はい! 私、今日からやっと……正式にここの住人になったのですっ! 本当やっと、なのですっ!」
言われて、葵咲がハッとしたように日織を見つめて。
「入籍しててもお式が終わるまでは一緒には住めないってひおちゃん、ずっと嘆いてたもんね」
心底気の毒そうに眉根を寄せて「ひおちゃん、頑張ったね」と親友に労いの言葉をかける葵咲だ。
それを日織のそばで見て、(日織さん、相当丸山さんに愚痴ってらしたんだろうな)と思った修太郎だ。
もちろん、日織は修太郎自身にも一緒に住めないことをとても残念がっては色々こぼしていたけれど、きっと第三者である友人への方が素直な気持ちを吐露出来ていたんじゃないかな?と思って。
自分同様、葵咲の方を愛し気にじっと見つめている理人に視線を転じて「うちの妻が丸山さんに大変お世話になったようで」とつぶやいたら、理人が驚いたように修太郎を見た。
「ええ。うちの葵咲も、せっかく入籍してるのに一緒に住めないなんて信じられない!ってよくこぼしてました」
と苦笑する。
「……実際、修太郎さんもよく我慢なさいましたよね」
入籍直後二人に会った時、他の男から日織のことを名前で呼ばれたくなかった修太郎が、理人に「妻のことは『塚田』、自分のことは彼女と区別するために『修太郎』と呼んで欲しい」と頼んだことがあった。
どうやら理人はそれをちゃんと覚えてくれているようだ。
理人に心底感心したようにそう言われた修太郎は、ほぅっと小さく吐息を落とした。
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