【完結】【R18】崖っぷち告白大作戦⁉︎〜彼氏と後輩に裏切られたら、何故か上司に寵愛されました〜

鷹槻れん

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(15)初めてのマリアージュ

見慣れない景色

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「使えるのに買い替えの、もったいないす」

 天莉あまりとしては一生懸命話しているつもりなのに呂律ろれつが回らない。

(さっきあおった残りのお酒がいけなかったのかも)


「それはそうなんだがね。キミとの夫婦茶碗めおとぢゃわんに憧れているだけなんだろうな、とか察してはくれないの? ホントつれないなぁ、天莉は」

 恥ずかしげもなくそう付け加えたじんに、天莉はやたらと照れてしまう。

「しょ、んなこと言われても……」

 お酒のためばかりではなさそうな頬の火照ほてりにどぎまぎする天莉に、尽が追い打ちを掛けるみたいにプレゼンを続けた。

「それにね、天莉。知っているかい? そういう無駄な物欲が経済を回すんだ。言うなれば景気のために必要な欲望だね」

 とどめを刺すように眼鏡越し、極上の笑顔を向けられてそんな風に言われてしまっては、天莉に勝ち目なんてない。

 たかだか高嶺家たかみねけの食器問題が、経済問題云々うんぬんにまで発展するだなんて。

「はぁ~、尽。言ってることはめちゃくちゃなのに……んなにかっこいいとか反則……」

 とした頭は、日頃思っていても口に出来ないことを簡単に垂れ流してしまう。

 尽から『も要らない』と言われたことも失念して舌っ足らずで〝尽さん〟と呼び掛けていることにも気付けないまま、天莉はうっとりと隣に座る尽を見詰めた。

「俺は呂律ろれつの回っていない無防備な天莉の方こそたまらなく可愛いと思うがね?」

 言うなり尽の手がスッと伸びてきて、天莉の手からからになっていた猪口ちょこを奪い取った。

 そこで初めて、(私ってばお猪口ちょこを持ちっぱなしで話していたのね)と気が付いた天莉だ。

 どうにも悲しいほどに頭が回っていないらしい――。


「だが、これ以上酔われたら色々忘れられてしまいそうで惜しい。――酒を飲むのはこの辺でやめにしておこうか、天莉」

 尽の言葉に、天莉は「そうですねしょうれしゅね」とつぶやいて「ふふっ」と声に出して笑うと、尽の肩にポスンッと額を預けた。

 尽のまとう甘い香りが、ぼんやりした脳に心地よく届いて……。

 天莉は酷く満たされた気持ちになってうっとりと目を閉じた。


***


 天莉あまりがふと目を覚ますと、見慣れない景色で――。

「んっ」

 不用意に動かした頭がほんの少しズキンと痛んだ。

「あれ? 私……」

 こめかみを押さえながらつぶやいたと同時、「目覚めたかい?」という声がすぐそばから
 まだしゃが掛かったみたいに回らない頭で声の方へ視線を向けた天莉はビクッと身体を撥ねさせた。

「ひゃっ、高嶺たかみね常務っ⁉︎ ……えっ、えっ⁉︎」

 自分のすぐ真上。じんが天莉の顔をうっとりと覗き込んでいて、天莉は自分がリビングのソファーの上にいて、じん膝枕ひざまくらで目覚めたことを知った。
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