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(20)罠にハメられた天莉
二人の男
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そのまま視線を上げる――。
いつもなら難なくこなせてしまうはずのそんな単調な動作ですらやたら労力を要してしまうことに戸惑いと恐怖を覚えた天莉だ。
「ねぇ、キミ。そんなに身を乗り出してたら落っこちちゃうよ?」
「――っ!」
言われて、動けないでいる間に距離を削ってきたらしい男に突然腕を掴まれた天莉は、声にならない悲鳴を上げる。
だけど天莉の怯えなんてお構いなし。
男はそのままソファへ天莉を仰向けに寝かせると、顔のすぐ横に渇望したけど手に取ることの叶わなかったスマートフォンを置いてくれた。
「あ……っ、……っ」
とりあえず助けてくれたらしい人物に礼を述べようと口を開いてみた天莉だったけれど、うまく言葉が紡げなかった。
「うわぁー、まさかと思ってたけど」
そんな天莉を見下ろしていた男が突如驚いたような声を上げるから、天莉は何事だろうと思う。
その理由が知りたくて緩慢な動きで視線を転じた天莉の目の前にいたのは、先程壁際で天莉を口説いてきた男だった。
[沖村、さん?]
声にならない声で男の名をつぶやいてから(どうして彼がここに?)と思って。
紗英はこの部屋は自分が江根見部長に頼んで取ってもらった部屋だと言っていた。
なのに――。
「……やっぱり玉木さんだ。ソファの上にちらっと見えた服装で、もしかしたらって思ったんだけど、また会えるなんて光栄だなぁ。――あっ。けど……よく考えたらマズイのかぁ」
「なになに、お前、この子猫ちゃんと知り合いなの?」
「知り合いっていうか……さっき会場の方でちょっとね。……けどさぁ俺、こんなことになるって思ってなかったから、そんとき彼女に社名とか名前とか色々教えちゃったわけよ」
「マジか。――なぁ、それ、やばくね?」
「やばいよね。どうしよっかなぁ。せっかくお前と二人、危険な橋渡ってこういうお楽しみ用意してもらってんのにな。俺、バカじゃん」
天莉の不安と疑問をよそに、沖村が一緒に来た男と話し始めてしまって。
天莉は一人状況が掴めず胡乱げな視線で男たちを見上げることしか出来なくて。
でも、ただ一つ。
何となくだけれど、今の状況が物凄く良くないモノだということだけは分かったから。
一生懸命ままならない身体を鼓舞して二人から少しでも離れようと頑張ったのだけれど、情けないことにほんの少し身じろぐだけで、物凄く時間が掛かってしまった。
「なぁ、オッキー。今からやること動画とかに残しとけばいいんじゃね? よく見たらさぁ、この子婚約してしてるみてぇじゃん? 婚約者に知られたくないこと沢山残されたら嫌でも俺らの言うこと聞いてくれるっしょ?」
「おっ、ザキ、お前さすがだな。それ名案だわ。――なぁ、俺とりあえず撮影に徹するから前半はお前が楽しめよ」
「え? いいの? お前、わざわざ自己紹介したってことはさ、この子のこと気に入ってんじゃねぇの? そんな女、俺なら先にやりてぇーって思うけど」
「まぁそれはそうなんだけどさ、ヘマしたのは俺じゃん? 口封じの材料が欲しいのもお前じゃなくて俺なわけよ。だからまぁ、そこは自業自得ってことで我慢するわ」
ソファに横たえられた自由のきかない身体をジロジロと品定めするような視線で舐め回されながら、〝オッキー〟〝ザキ〟と呼び合う二人の会話に、天莉は寒気を覚える。
天莉だって何も知らない生娘ではない。
目の前の二人が、今から自分にしようとしていることが何となく分かってしまった。
それに――。
いつもなら難なくこなせてしまうはずのそんな単調な動作ですらやたら労力を要してしまうことに戸惑いと恐怖を覚えた天莉だ。
「ねぇ、キミ。そんなに身を乗り出してたら落っこちちゃうよ?」
「――っ!」
言われて、動けないでいる間に距離を削ってきたらしい男に突然腕を掴まれた天莉は、声にならない悲鳴を上げる。
だけど天莉の怯えなんてお構いなし。
男はそのままソファへ天莉を仰向けに寝かせると、顔のすぐ横に渇望したけど手に取ることの叶わなかったスマートフォンを置いてくれた。
「あ……っ、……っ」
とりあえず助けてくれたらしい人物に礼を述べようと口を開いてみた天莉だったけれど、うまく言葉が紡げなかった。
「うわぁー、まさかと思ってたけど」
そんな天莉を見下ろしていた男が突如驚いたような声を上げるから、天莉は何事だろうと思う。
その理由が知りたくて緩慢な動きで視線を転じた天莉の目の前にいたのは、先程壁際で天莉を口説いてきた男だった。
[沖村、さん?]
声にならない声で男の名をつぶやいてから(どうして彼がここに?)と思って。
紗英はこの部屋は自分が江根見部長に頼んで取ってもらった部屋だと言っていた。
なのに――。
「……やっぱり玉木さんだ。ソファの上にちらっと見えた服装で、もしかしたらって思ったんだけど、また会えるなんて光栄だなぁ。――あっ。けど……よく考えたらマズイのかぁ」
「なになに、お前、この子猫ちゃんと知り合いなの?」
「知り合いっていうか……さっき会場の方でちょっとね。……けどさぁ俺、こんなことになるって思ってなかったから、そんとき彼女に社名とか名前とか色々教えちゃったわけよ」
「マジか。――なぁ、それ、やばくね?」
「やばいよね。どうしよっかなぁ。せっかくお前と二人、危険な橋渡ってこういうお楽しみ用意してもらってんのにな。俺、バカじゃん」
天莉の不安と疑問をよそに、沖村が一緒に来た男と話し始めてしまって。
天莉は一人状況が掴めず胡乱げな視線で男たちを見上げることしか出来なくて。
でも、ただ一つ。
何となくだけれど、今の状況が物凄く良くないモノだということだけは分かったから。
一生懸命ままならない身体を鼓舞して二人から少しでも離れようと頑張ったのだけれど、情けないことにほんの少し身じろぐだけで、物凄く時間が掛かってしまった。
「なぁ、オッキー。今からやること動画とかに残しとけばいいんじゃね? よく見たらさぁ、この子婚約してしてるみてぇじゃん? 婚約者に知られたくないこと沢山残されたら嫌でも俺らの言うこと聞いてくれるっしょ?」
「おっ、ザキ、お前さすがだな。それ名案だわ。――なぁ、俺とりあえず撮影に徹するから前半はお前が楽しめよ」
「え? いいの? お前、わざわざ自己紹介したってことはさ、この子のこと気に入ってんじゃねぇの? そんな女、俺なら先にやりてぇーって思うけど」
「まぁそれはそうなんだけどさ、ヘマしたのは俺じゃん? 口封じの材料が欲しいのもお前じゃなくて俺なわけよ。だからまぁ、そこは自業自得ってことで我慢するわ」
ソファに横たえられた自由のきかない身体をジロジロと品定めするような視線で舐め回されながら、〝オッキー〟〝ザキ〟と呼び合う二人の会話に、天莉は寒気を覚える。
天莉だって何も知らない生娘ではない。
目の前の二人が、今から自分にしようとしていることが何となく分かってしまった。
それに――。
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