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コンタクト

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「絶対コンタクトにした方がいいよぉ~」

 とは、メガネをかけている人間が一度は耳にする言葉である。これはメガネがない方がかっこいい、かわいいという万人に効く魔法の言葉である。

 だが待ってほしい。果たしてメガネはかけているだけでダサく見えるアイテムなのか、と。

 否、否である。メガネ属性という稀有な人物は横に置いておくにしても、伊達メガネというファッションアイテムが存在する以上、メガネそのものがダサく見えるアイテムではないと言えるだろう。

 ではなぜ、世のメガネたちはダサいだのオタクだのガリ勉だの言われなければならないのか。

 答えはシンプルである。

『明日のお出かけのことなんですが、やっぱり二人きりという状況でうまくお話しできそうもないので、今回は遠慮させてください。また機会があったらお願いします』

 とまぁ、デート前日になって断られたわけで。酒でも飲まなきゃやってられないわけで。あとタバコも。

 ドタキャンするぐらいなら最初から断れよ! なにちょっと優しさ見せといて前日になってやっぱ無理だわ(笑)って目ェ覚ましてさぁ! 顔か? 顔がダメなんか? やっぱり顔か!?

「ちょっとけいちゃん。飲みすぎじゃない?」
「明日は仕事休みだから大丈夫! ……うぅ、デートぉ……」
「誰かお水持ってきてあげてー?」

 このご時世、深夜に開いてる店なんてものはそれこそ個人経営の、いい意味で場末な感じの店しかない。

 俺の話を聞いてくれているこの女性も、ちょっとばかし問題がある……というか、この店の従業員はみんなある問題を抱えている。

 この店には、酒豪な女しかいないのだ。

 酒癖が悪いわけではない。むしろ酔わなさすぎる。だから飲んでいても楽しさが伝わってこない。そう言われて店を追い出された女の子が集まったのがこのお店だ。

 もちろん、一応は客商売ではあるのでそこそこキレイどころが集まっているわけだが、この女性は一味も二味も違う。

 何せ彼女が出勤するだけで店内の平均年齢を5も6も7も上げる……。

「けいちゃん?」

「うん?」

「いくら酔っているからって言っていいことと悪いことがあるのよ?」

「ママは超能力者だったの?」

「全部口に出てたわよ?」

「いや、ママはきれいだなぁって思ってただけなんだけど」

「……年増だけど?」

「年増だけど……あっ」

「だれかー、お水じゃなくてテキーラショット三杯持ってきて~」

「やめて! これ以上は死んじゃう!」

「大丈夫よけいちゃん」

 妙に怖い笑顔を携えながら。

「人はそんな簡単には死なないから」

「いやアンタらは人じゃなくて蛇じゃん……」

 と、ママが無理やり飲ませてきたテキーラのおかげで一時記憶を飛ばす俺なのであった。

 アルコールハラスメントは、やめようね!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ママァー、合コンセッティングしてよ~」

「復活した途端にこれなの!?」

「彼女なんて大それたことは言わない。ただヤりたいだけなんだよぉ~」

「最低じゃん」

「都合のいい女の子紹介してよぉ~。欲求不満なんだよ~」

「……あのねけいちゃん。男が思っている以上に女の世界ってのはそれはそれは複雑なものなのよ?」

 すこしだけ、ママの目の色が変わった……ような気がした。

「……例えば?」

「そうねぇ。合コンで彼氏持ちだったり既婚者だったりをうまく言いくるめてお持ち帰りする物語あるじゃない?」

「ああ、NTR物によくあるシチュね」

「女の幸せって観点から読むとNTR物って実はハッピーエンドなものも少なくないんだけど……それは置いておくとして」

「お金だったり夜の性活に満足できるようになるってやつね」

「そもそも合コンってのはメインがいるわけよ。美男美女が一人ずつ。つまりお見合いとそのおこぼれにあずかる男共って図なのよ」

「え、でも男はそんなこと考えてないと思うけど」

「だってけいちゃんはイケメンじゃないし。それよりも、メインの美男美女のレベルで合コンをセッティングした女のカーストが決まるの」

「カースト……」

 イケメンについては触れない。だって自覚あるし。

「で、参加者の女はどれだけ男からモテたかでカーストが決まるわ」

「え、でも美人さんじゃない人がモテるときもあるよね? その時は……」

「メインに落ち度があればメインの、他の女の力が強ければ合コンをセッティングした女の株が下がるの。力量を見極められない目の持ち主ってことで」

「男がB専の時は?」

「男の愚痴で酒が進むだけよ」

「あ、ハイ」

 うーん、想像したくないシチュエーションだなぁ。毒の沼地っぽい。

「だから、けいちゃんも女の子から合コンに誘われない限りは期待しちゃだめよ。もちろん例外もあるけど」

「……例外って……?」

「イケメンの力がなくて仕方なく女側から数合わせで呼ぶこともあるの。期待しすぎもダメよ。まぁ、ワンナイトでもいいっていうなら止めはしないけど……あ!」

「え、なに?」

「一応私の知り合いに都合のいい女がいたわ。お金も持ってるから金銭トラブルにはならないだろうし、広い心を持った大人の女だからケンカにもなりにくいだろうし」

「それ既婚者じゃない? もしくは50代」

「ちゃんと20代よ。ただ……」

「……ただ……?」

「ほんの少しだけ本物のヤンデレちゃんで前科持ちの……」

「ごちそうさま! これ今日のお代ね!」

 やっぱり場末じゃねぇか! なんで前科持ちを紹介できるとか言うんだこの女は!

「まぁ、もうけいちゃんのことは紹介してるんだけど……ヤンデレちゃんも慣れちゃえば可愛いものよ?」

 去り際に何か言われたような気もしなくもないけれど、ここで振り返ったら何かが終わる予感がした俺は脇目も振らずに家へと急いだ。

「…………(じーっ)」

 だから、先週から妙に感じるこの悪寒を伴う得体の知れない視線も、お酒の影響で感じているに違いない。しばらくは禁酒禁煙に努めようと誓う俺なのであった。
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