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2章
5。眼福だったそうです
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あああぁ……なんでこのタイミングでこんな事に気づいてしまったんだろう。
できるなら最後まで気づきたくなかった自分の気持ちに気づいてしまって、現在進行形で凹み中である。
ーーもしかしなくても私、お姉ちゃんとお兄さんに顔合わせたくないって、そう思ってたんだ。
次に会う時に、自分がどんな顔をしてしまうのかと考えるとすごく怖い。
……ちゃんとおめでとうって、笑って言えるのかしら。
姉はとっても聡い人だから、きっと心から言えなければ私の気持ちがバレてしまう。そんなのは絶対イヤだ。
大好きな姉には、好きな人と心置きなく幸せになってほしい。それが私の好きな人だったとしても。
そう思うのは本当なのに、体の中心に氷水を流されるような、この感覚はどうしたらいいのだろう。
思考と感情は別なのだと思い知らされる。
……ほんと、さっさと諦めれられれば良いのだけど。
大体、私が姉と勝負して勝てる要素が見当たらないわ。なんたって私の姉は外見も中身もリアル女神様なんだもの。
そりゃ、お兄さんもあんな人が同じ職場にいたら好きになるわよね。間違いないわ。
一昨日も、二人が一緒にいるその立ち姿だけで、すっごく絵になっていたーー私の入り込む隙間なんて、カケラも無い程に。
あーあ。せめてサッサと告白して玉砕しておけば良かったわ。
そしたら、いっぱい泣く羽目にはなっただろうけど、きっとその分早くに諦められただろう。
はぁ……私って、自分で思ってた以上に女々しかったのね。
いやそもそも性別も女だけど、それにしたってもうちょっとサバサバしてる方かと思ってたのに。
まさかまさか、こんなに引きずっているとは思わなかった。
しかも、無自覚に夢に逃げてたって事じゃないのコレ。ほんと最悪だ。
ぐるぐると一向に止まらないネガティブ思考をなんとかしたくて、同時に自分の情けなさにどうしようもなく腹が立って。私は床を睨みつけて唇を噛んだ。
と、急に目の端にザラリとした温かくて濡れた感触ーーえ、ちょっ、コレ……
「マゼンタ!アンタ何してんの?」
「ん?舐めただけだぜ?」
「だ、だけってーーってだからなんでそんなことしてんの?!」
「えーと、なんか泣いてんのかな?って思って?」
……は、え?
泣いてると思って?
ーーな、なんなのコイツ?!天然タラシなの?!
いや待て待て、セリフはそうだが、女たらしだからって顔を舐めるのはオカシイ。そこは目元を指で擦るとかまででしょ。なんで舐めてんの……って猫だからだったわ……。
思考が振り切れて言葉が出てこない私に向かって「さっきから思い詰めた顔してる。なんか知らないけど元気出せよー」ってマゼンタがペロペロ顔を舐めてくるけど……いつまでやんのよコイツ。
「いー加減ヤメなさいよっ」
顎を掴んでグイッと押すと、ぐぇっと潰れた声を出してマゼンタが離れていった。
なんで笑ってんのよ、腹立つわね。
くそう、昨日といい今日といい、何簡単にガード突破されてるのよ私。しっかりしなさい。
「ま、気のせいだってならそれでいーけど?それより、もういい時間だから飯食おーぜ!」
「いい時間って、今何時なの?」
聞けば、なんともう10時過ぎていた。
思いっきり寝坊したわ……。
まー実際疲れてたんだろーし、オレらも今日仕事ないからゆっくりすればいいんじゃね?と言われたけど。
夢だからって自堕落にグータラ過ごしていたら、現実に戻った時がツラいのよ。規則正しい生活って超大事。
そう説明すれば、分かったような分からないような顔をされた後「じゃあそろそろ着替えてみる?」と何処から出したのかも不明な大きな紙袋を渡された。中身はーー昨日買った服?
ニヤニヤこちらを見つめてくる視線に、何が可笑しいのかと自分の姿を見下ろせばーー
!!なんてことなの?!
「いやあ、女の子のパジャマ姿ってグッとくるよねー♪」
「……っ!い、いいから出てけーーーー!!」
その下のショートパンツっていうの?脚がキレイに見えててめっちゃソソられるわー、と続けるマゼンタの顔に、思いっきり紙袋を叩きつける。
ーーやっちゃった、やってしまった……完全に失念してたわ……っ!
私、まだ着替えていないじゃない……!
さっきまで寝ていて、起きてすぐにマゼンタが入ってきたから。当たり前っちゃ当たり前だけど!
マゼンタがあまりにフツーにしてるから、頭からすっぽり抜け落ちてしまってた。
うわあぁ……と頭を抱えていたら、部屋の外に避難したマゼンタから「オレ飯の準備してるから、支度終わったら下に食いに来いよー」と声が掛けられる。
あ、なんかフツーな感じ……。
……うん、なんだろ。さっきみたいに揶揄われるのも嫌だけど、今みたいに普通に対応されるのも微妙に女としての自信が傷つくといいますか……。
じゃあどうしろって話になるが、そもそも私がちゃんとしろってことなのよね……目が覚めてからのことも含めて。
ノロノロと紙袋から着替えを取り出しながら一昨日からの自分のやらかし具合を振り返り、今後の諸々の対応に頭を痛めたのだった。
できるなら最後まで気づきたくなかった自分の気持ちに気づいてしまって、現在進行形で凹み中である。
ーーもしかしなくても私、お姉ちゃんとお兄さんに顔合わせたくないって、そう思ってたんだ。
次に会う時に、自分がどんな顔をしてしまうのかと考えるとすごく怖い。
……ちゃんとおめでとうって、笑って言えるのかしら。
姉はとっても聡い人だから、きっと心から言えなければ私の気持ちがバレてしまう。そんなのは絶対イヤだ。
大好きな姉には、好きな人と心置きなく幸せになってほしい。それが私の好きな人だったとしても。
そう思うのは本当なのに、体の中心に氷水を流されるような、この感覚はどうしたらいいのだろう。
思考と感情は別なのだと思い知らされる。
……ほんと、さっさと諦めれられれば良いのだけど。
大体、私が姉と勝負して勝てる要素が見当たらないわ。なんたって私の姉は外見も中身もリアル女神様なんだもの。
そりゃ、お兄さんもあんな人が同じ職場にいたら好きになるわよね。間違いないわ。
一昨日も、二人が一緒にいるその立ち姿だけで、すっごく絵になっていたーー私の入り込む隙間なんて、カケラも無い程に。
あーあ。せめてサッサと告白して玉砕しておけば良かったわ。
そしたら、いっぱい泣く羽目にはなっただろうけど、きっとその分早くに諦められただろう。
はぁ……私って、自分で思ってた以上に女々しかったのね。
いやそもそも性別も女だけど、それにしたってもうちょっとサバサバしてる方かと思ってたのに。
まさかまさか、こんなに引きずっているとは思わなかった。
しかも、無自覚に夢に逃げてたって事じゃないのコレ。ほんと最悪だ。
ぐるぐると一向に止まらないネガティブ思考をなんとかしたくて、同時に自分の情けなさにどうしようもなく腹が立って。私は床を睨みつけて唇を噛んだ。
と、急に目の端にザラリとした温かくて濡れた感触ーーえ、ちょっ、コレ……
「マゼンタ!アンタ何してんの?」
「ん?舐めただけだぜ?」
「だ、だけってーーってだからなんでそんなことしてんの?!」
「えーと、なんか泣いてんのかな?って思って?」
……は、え?
泣いてると思って?
ーーな、なんなのコイツ?!天然タラシなの?!
いや待て待て、セリフはそうだが、女たらしだからって顔を舐めるのはオカシイ。そこは目元を指で擦るとかまででしょ。なんで舐めてんの……って猫だからだったわ……。
思考が振り切れて言葉が出てこない私に向かって「さっきから思い詰めた顔してる。なんか知らないけど元気出せよー」ってマゼンタがペロペロ顔を舐めてくるけど……いつまでやんのよコイツ。
「いー加減ヤメなさいよっ」
顎を掴んでグイッと押すと、ぐぇっと潰れた声を出してマゼンタが離れていった。
なんで笑ってんのよ、腹立つわね。
くそう、昨日といい今日といい、何簡単にガード突破されてるのよ私。しっかりしなさい。
「ま、気のせいだってならそれでいーけど?それより、もういい時間だから飯食おーぜ!」
「いい時間って、今何時なの?」
聞けば、なんともう10時過ぎていた。
思いっきり寝坊したわ……。
まー実際疲れてたんだろーし、オレらも今日仕事ないからゆっくりすればいいんじゃね?と言われたけど。
夢だからって自堕落にグータラ過ごしていたら、現実に戻った時がツラいのよ。規則正しい生活って超大事。
そう説明すれば、分かったような分からないような顔をされた後「じゃあそろそろ着替えてみる?」と何処から出したのかも不明な大きな紙袋を渡された。中身はーー昨日買った服?
ニヤニヤこちらを見つめてくる視線に、何が可笑しいのかと自分の姿を見下ろせばーー
!!なんてことなの?!
「いやあ、女の子のパジャマ姿ってグッとくるよねー♪」
「……っ!い、いいから出てけーーーー!!」
その下のショートパンツっていうの?脚がキレイに見えててめっちゃソソられるわー、と続けるマゼンタの顔に、思いっきり紙袋を叩きつける。
ーーやっちゃった、やってしまった……完全に失念してたわ……っ!
私、まだ着替えていないじゃない……!
さっきまで寝ていて、起きてすぐにマゼンタが入ってきたから。当たり前っちゃ当たり前だけど!
マゼンタがあまりにフツーにしてるから、頭からすっぽり抜け落ちてしまってた。
うわあぁ……と頭を抱えていたら、部屋の外に避難したマゼンタから「オレ飯の準備してるから、支度終わったら下に食いに来いよー」と声が掛けられる。
あ、なんかフツーな感じ……。
……うん、なんだろ。さっきみたいに揶揄われるのも嫌だけど、今みたいに普通に対応されるのも微妙に女としての自信が傷つくといいますか……。
じゃあどうしろって話になるが、そもそも私がちゃんとしろってことなのよね……目が覚めてからのことも含めて。
ノロノロと紙袋から着替えを取り出しながら一昨日からの自分のやらかし具合を振り返り、今後の諸々の対応に頭を痛めたのだった。
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