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2章
14。祝福という名の呪いだそうです
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えーと。ダメだ、一旦ちょっと整理しよう。
一、この世界には、時空を司る神様がいるらしい
二、女王様はその昔、神様にケンカを売ったらしい
三、女王様は神様に負けて、呪いを掛けられたらしい
一は分かる。三も、二が前提なら、まああるだろう。
圧倒的に二がヤバい。なんで神様に喧嘩売っちゃうのよ。
どう考えてもそれやっちゃダメでしょ。子供でも分かるわ。
ジト目で女王様を見たら「ついウッカリじゃ」とてへぺろ☆された。誰だ教えたの。
「あー、それ聞いたな。ペナルティーで20年分時間を取られた上に、微妙に気に入られて以降の時間もずっと喰われてるんだっけ?」
「代わりに神から無制限に魔力を流してもらってるという話でしたね。老衰で死ぬこともなくなるのですから、呪いというより祝福ではないですか」
「ーーーこれを神の祝福と言うなら、そんなものはクソくらえですわ」
「おっ、宰相さんもナカナカ過激なこと言うねー!」
「親子二代で神にケンカ売ってますね。さすがです」
え、途中の声…宰相さまの?!
心を読まれたくなくて黙ってたんじゃないの?
「元々クロエは心を読まれないようにするのが巧いのでな。黙っていたのは、単に話す必要がなかっただけじゃ」
「ええその通りです。それよりも陛下、許可を得る前に勝手な発言をしました事をお許しください。祝福などと戯言を言われ、思わず反論してしまいました」
きっちり頭を下げて謝罪を述べる宰相さまは、かなり生真面目な方らしい。
「良い良い、元より今日は政務でなくぷらいべーとじゃからの。いつも通り、お母さまと呼んでくれても良いのじゃぞ?」
「…お戯れは程々になさいませんと、お食事の際に泣きをみますよ?」
「いやあ、こんな時でも公私の区別を忘れぬとは、我が国の宰相はしっかり者で頼りがいがあるの!」
あ、女王様が宰相さまに負けたわ。
見た目だけでなく、役割まで親子逆転してるのね。
呆れて眺めていると「さっさと折れぬと、夕食がピーマンとニンジンだらけにされるのじゃ…」と弱々しく呻いているけど…これで神様にケンカ売ったとか本当なのかしら。
「ええ、残念ながら本当なのですよ」
「……申し訳ありません、宰相さま。声出してしまってました…」
さっきから心を読まれっぱなしだったから逆に気が緩んで、つい思った通りに口に出してしまった。
気を緩めすぎね、気をつけないと。
「構いませんわ、私のことはクロエとお呼びください。ーー母のソレは間違いなく神の呪いです。もう随分昔の事になってしまいましたが…敵対国との折衝に出掛けたはずの母が何をどうしてか自分と変わらぬ幼子の姿になって戻ってきた時は、本当に気が狂うかと思いましたわ」
「それはーー確かに呪いですね…」
変わらぬ姿、というならその頃のクロエさんも5、6歳くらいだったのだろう。
まだ母親に甘えたい盛りの時期に、ある日突然その母親が子供になってしまったら…想像するのも難しいが、きっと荒れに荒れたんじゃないだろうか。
ただ、そもそもが神様にケンカを売るなよって話ではあるのよね…。
そう思いながら女王様をチラリと見ると、「クロエには本当に申し訳ないことをしたと思うておるよ」と神妙な顔で俯いた。
やらかした自覚はあるらしい。
「まあ宰相さんにとっては災難も災難だったろうけどさ。この国に住んでるヤツらは全員その呪いに感謝してる、ってのも事実なんだよなー」
「…ええ、民の意見も存じておりますよ」
「え、感謝してるの?」
そういえばさっきも祝福とか言ってたわね。今の話だけ聞くと普通に悲劇なんだけど…。
「ある意味神という最上位の存在に気に入られて、その身を供物として捧げ続けている状態ですからね。代わりにこの女王は無尽蔵の魔力を得て”人類最強”の座に君臨しているんですよ」
「それは…他国への抑止力にはもってこいね」
読心のスキル持ちで魔法使い放題、なんて聞いてるだけでも最強だもの。
誰だって敵に回したくないだろうし、戦争の危険なんかは一気に減りそうだわ。
「それもあるけどー。女王様はその無尽蔵の魔力で、この国全体の公共事業を支えちゃってるからなー」
国民全員大感謝!って感じで超絶便利な魔道具扱いなんだよね、と続けられて目が点になる。
それってーー
「主要地点の転移魔法陣への魔力供給はもちろん、国全体に行き渡らせた浄化魔法の水道も女王の魔力があってこそですね」
「もうエリザが神様よね!ーーエリザ、貴女は本当に素晴らしいわっ!」
思わず身を乗り出して、エリザの小さい手をきゅっと両手で包み込む。
ああ、なんてこと…あの浄化魔法が掛かったお水が、エリザのお陰だったなんて!
時空の神様がなんだって言うの、人への貢献度で言えばエリザの完全勝利で決まりじゃない!
人々の現人神はこの女王様よ!
心の中で心からの大絶賛を贈ると、エリザはびっくりした顔をしたあと、へにゃり、と笑った。
「ふむ、実際のゆーざーからの称賛の声というのは、思った以上に心地良いものじゃの」
こんなにももちべーしょんが上がるものだとは思わなんだなと、とても嬉しそうに顔を赤らめた。
か、可愛いわ…!女王様が神な上に天使だわ……!
「…どーしよ、フィアが普段のマヤみたいなテンションになってるぜ…ちょっと引いちまうんだけど」
「洗浄魔法については昨日も大絶賛でしたからね。僕はあのノリで褒められてもドン引きしない女王に引いてますよ…」
「……お母さま」
そのまましばしの間、少女と幼女が手を取り合って溶けるような笑みを浮かべる様を、酷く居心地の悪そうな大人達が遠巻きに見つめていたのだった。
一、この世界には、時空を司る神様がいるらしい
二、女王様はその昔、神様にケンカを売ったらしい
三、女王様は神様に負けて、呪いを掛けられたらしい
一は分かる。三も、二が前提なら、まああるだろう。
圧倒的に二がヤバい。なんで神様に喧嘩売っちゃうのよ。
どう考えてもそれやっちゃダメでしょ。子供でも分かるわ。
ジト目で女王様を見たら「ついウッカリじゃ」とてへぺろ☆された。誰だ教えたの。
「あー、それ聞いたな。ペナルティーで20年分時間を取られた上に、微妙に気に入られて以降の時間もずっと喰われてるんだっけ?」
「代わりに神から無制限に魔力を流してもらってるという話でしたね。老衰で死ぬこともなくなるのですから、呪いというより祝福ではないですか」
「ーーーこれを神の祝福と言うなら、そんなものはクソくらえですわ」
「おっ、宰相さんもナカナカ過激なこと言うねー!」
「親子二代で神にケンカ売ってますね。さすがです」
え、途中の声…宰相さまの?!
心を読まれたくなくて黙ってたんじゃないの?
「元々クロエは心を読まれないようにするのが巧いのでな。黙っていたのは、単に話す必要がなかっただけじゃ」
「ええその通りです。それよりも陛下、許可を得る前に勝手な発言をしました事をお許しください。祝福などと戯言を言われ、思わず反論してしまいました」
きっちり頭を下げて謝罪を述べる宰相さまは、かなり生真面目な方らしい。
「良い良い、元より今日は政務でなくぷらいべーとじゃからの。いつも通り、お母さまと呼んでくれても良いのじゃぞ?」
「…お戯れは程々になさいませんと、お食事の際に泣きをみますよ?」
「いやあ、こんな時でも公私の区別を忘れぬとは、我が国の宰相はしっかり者で頼りがいがあるの!」
あ、女王様が宰相さまに負けたわ。
見た目だけでなく、役割まで親子逆転してるのね。
呆れて眺めていると「さっさと折れぬと、夕食がピーマンとニンジンだらけにされるのじゃ…」と弱々しく呻いているけど…これで神様にケンカ売ったとか本当なのかしら。
「ええ、残念ながら本当なのですよ」
「……申し訳ありません、宰相さま。声出してしまってました…」
さっきから心を読まれっぱなしだったから逆に気が緩んで、つい思った通りに口に出してしまった。
気を緩めすぎね、気をつけないと。
「構いませんわ、私のことはクロエとお呼びください。ーー母のソレは間違いなく神の呪いです。もう随分昔の事になってしまいましたが…敵対国との折衝に出掛けたはずの母が何をどうしてか自分と変わらぬ幼子の姿になって戻ってきた時は、本当に気が狂うかと思いましたわ」
「それはーー確かに呪いですね…」
変わらぬ姿、というならその頃のクロエさんも5、6歳くらいだったのだろう。
まだ母親に甘えたい盛りの時期に、ある日突然その母親が子供になってしまったら…想像するのも難しいが、きっと荒れに荒れたんじゃないだろうか。
ただ、そもそもが神様にケンカを売るなよって話ではあるのよね…。
そう思いながら女王様をチラリと見ると、「クロエには本当に申し訳ないことをしたと思うておるよ」と神妙な顔で俯いた。
やらかした自覚はあるらしい。
「まあ宰相さんにとっては災難も災難だったろうけどさ。この国に住んでるヤツらは全員その呪いに感謝してる、ってのも事実なんだよなー」
「…ええ、民の意見も存じておりますよ」
「え、感謝してるの?」
そういえばさっきも祝福とか言ってたわね。今の話だけ聞くと普通に悲劇なんだけど…。
「ある意味神という最上位の存在に気に入られて、その身を供物として捧げ続けている状態ですからね。代わりにこの女王は無尽蔵の魔力を得て”人類最強”の座に君臨しているんですよ」
「それは…他国への抑止力にはもってこいね」
読心のスキル持ちで魔法使い放題、なんて聞いてるだけでも最強だもの。
誰だって敵に回したくないだろうし、戦争の危険なんかは一気に減りそうだわ。
「それもあるけどー。女王様はその無尽蔵の魔力で、この国全体の公共事業を支えちゃってるからなー」
国民全員大感謝!って感じで超絶便利な魔道具扱いなんだよね、と続けられて目が点になる。
それってーー
「主要地点の転移魔法陣への魔力供給はもちろん、国全体に行き渡らせた浄化魔法の水道も女王の魔力があってこそですね」
「もうエリザが神様よね!ーーエリザ、貴女は本当に素晴らしいわっ!」
思わず身を乗り出して、エリザの小さい手をきゅっと両手で包み込む。
ああ、なんてこと…あの浄化魔法が掛かったお水が、エリザのお陰だったなんて!
時空の神様がなんだって言うの、人への貢献度で言えばエリザの完全勝利で決まりじゃない!
人々の現人神はこの女王様よ!
心の中で心からの大絶賛を贈ると、エリザはびっくりした顔をしたあと、へにゃり、と笑った。
「ふむ、実際のゆーざーからの称賛の声というのは、思った以上に心地良いものじゃの」
こんなにももちべーしょんが上がるものだとは思わなんだなと、とても嬉しそうに顔を赤らめた。
か、可愛いわ…!女王様が神な上に天使だわ……!
「…どーしよ、フィアが普段のマヤみたいなテンションになってるぜ…ちょっと引いちまうんだけど」
「洗浄魔法については昨日も大絶賛でしたからね。僕はあのノリで褒められてもドン引きしない女王に引いてますよ…」
「……お母さま」
そのまましばしの間、少女と幼女が手を取り合って溶けるような笑みを浮かべる様を、酷く居心地の悪そうな大人達が遠巻きに見つめていたのだった。
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