同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る

海狼ゆうき

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炎上配信者の再始動

再接続

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 配信は切れていない。

 暗転したまま、数秒。

 やがて映像が戻る。

 石床。

 何もない。

 さきほどまであった黒い円も、巨大な瞳も、痕跡すらない。

《消えた》 《今の何?》 《演出じゃないのか?》 《説明しろ》

 コメントの速度が異様に速い。

 画面の端に表示される数字が跳ねる。

《同接一万八千》 《やば》 《切り抜き回ってる》

 零は壁に背を預ける。

 呼吸は整っている。

「……録画は残ってる?」

《残ってる》 《スクショ撮った》 《目だった》 《絶対目》

 “目”。

 また単語が揃い始める。

 零はゆっくり首を振る。

「目、だったかな」

《は?》 《見ただろ》 《否定すんな》

「俺には、黒い円にしか見えなかった」

 一瞬、コメントが止まる。

 それから――

《いや目だった》 《瞳あった》 《瞬きした》 《全員見た》

 断定が重なる。

 零は床を照らす。

 石の継ぎ目を確認する。

「じゃあ、確かめよう」

《何を》 《やめろ》 《検証するな》

 零は立ち上がる。

 カメラが階段を映す。

 上へ戻る。

 足音が反響する。

「さっきのは、空気が揃った結果かもしれない」

《空気?》 《何言ってんだ》 《また始まった》

「だから、揃えなければどうなるか」

 静かな声。

《やめろって》 《フラグ立てるな》

 分岐まで戻る。

 右と左。

 さっき開いた左の壁は、元に戻っている。

《は?》 《階段消えた》 《嘘だろ》

 零はライトを当てる。

 継ぎ目はない。

「……揃ってない」

《何が》 《意味わからん》

「さっきは“目”で揃った」

 コメントが荒れる。

《だから目だって》 《まだ言うか》

「じゃあ今から、別の言葉で揃えてみよう」

 一瞬の沈黙。

《やめろ》 《実験すんな》 《また事故る》

 零は右の通路を照らす。

「この先、安全だと思う人」

《思う》 《安全》 《安全》 《安全だろ》

 “安全”の文字が増える。

 零は、何も言わない。

 数秒。

 断定が揃っていく。

《安全》 《安全》 《安全》

 揃った。

 零は一歩、踏み出す。

 右の通路。

 何もない。

 十歩。

 二十歩。

《ほらな》 《安全》 《何もない》

 零は立ち止まる。

「……まだ足りない」

《は?》 《何が》

「もっと断定して」

 一瞬、空気が変わる。

《安全確定》 《絶対安全》 《罠ない》 《100%》

 数字まで出る。

 断定が濃くなる。

 その瞬間。

 天井から、砂が落ちる。

《え》 《今揺れた?》

 小さな振動。

 零は動かない。

「続けて」

《安全》 《崩れない》 《絶対平気》

 ゴ、と鈍い音。

 天井に亀裂。

《嘘だろ》 《崩れる》 《逃げろ》

 断定が反転する。

 “崩れる”が増える。

 亀裂が広がる。

 石が落ちる。

 零は一歩下がる。

 崩落。

 通路の先が完全に塞がれる。

 粉塵。

 ノイズ。

《危な》 《死ぬとこだった》 《安全じゃねえ》

 零は咳き込みながら言う。

「……安全、だった?」

《違う》 《騙したな》 《お前誘導しただろ》

「俺は聞いただけ」

 静かな声。

「みんなが、安全って言った」

《だから何だよ》 《責任転嫁すんな》

 零は崩れた通路を照らす。

「さっきは“目”で揃った」

「今は“安全”で揃った」

《偶然だろ》 《たまたま》

「じゃあ次」

 零の声が、ほんの少しだけ低くなる。

「危険で揃えたら?」

《やめろ》 《もういい》

 それでも、コメントは止まらない。

《危険》 《やばい》 《死ぬ》

 単語が集まり始める。

 零は、ゆっくり左を照らす。

 さきほどの行き止まり。

「この壁、危険だと思う人」

《危険》 《触るな》 《罠だ》

 揃う。

 空気が濃くなる。

 石壁が、わずかに震える。

《動いた》 《またかよ》

 縦に、細い線。

 継ぎ目が浮かぶ。

 零は一歩下がる。

「……ほら」

 壁が、内側から膨らむ。

《開く》 《何出る》 《やばい》

 断定が重なる。

 膨張が止まる。

 静止。

 数秒。

 そして――何も起きない。

《は?》 《止まった?》

 零は息を吐く。

「揃いきらなかった」

《意味わからん》

「数と、方向」

 ぽつり。

「両方が揃わないと、形にならない」

 コメントがざわつく。

《理屈つけるな》 《怖いんだけど》

 零はカメラを少しだけ上げる。

「今、一番多い単語は?」

《危険》 《事故》 《死ぬ》

 三年前の単語が混じる。

 零の指が、わずかに震える。

「……今日はここまで」

《逃げるな》 《続けろ》 《もっとやれ》

 同接がさらに増える。

《二万》 《二万超えた》

 零は壁に背を預ける。

「揃えれば、形になる」

「揃わなければ、曖昧なまま」

 小さく笑う。

「観測って、面白いね」

《その言い方やめろ》 《また人死ぬぞ》

 零は、ほんの少しだけ間を置く。

「……だから、死なせない」

 配信終了ボタンに指をかける。

 その瞬間。

 背後の闇で、何かが瞬く。

 一瞬だけ。

 カメラが拾う。

《今何かいた》 《見えた》 《目じゃね?》

 零は振り返らない。

「断定、早いね」

 配信終了。

 暗転。

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