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ベルフォール帝国編

貴人と面会するらしい

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 なんだか気が重い。
 でも呼ばれたからには仕方ない。

 ・・確かにボクは王太子の同行者という名目で帝国に入国したよ。
 けどさ・・。
 それって形だけじゃん。
 実際には王太子に面会もしていないし。ご本人にもボクの存在を知らせていないし。
 こっそりと入国したんだよなぁ。勿論ボク達の力ではなく協力してもらったんだけどね。
 本当はコッソリはいけないらしい。
 よく入国できたよなぁと聞いたら。伯爵が上手く手続きしてくれたんだって。
 入国当時はサンダーランド王国は戦時だった。難民もあるけど敵国からの侵入の可能性もある。
 だから帝国への入国は簡単じゃない。一般人でも厳しい中、貴族は本当に厳しかったようだ。
 手続きはボクがしていないから大変さがイマイチ分かってない。・・すみません。
 
 タイミングがよかった。王太子の帝国に留学に乗っかっれたもの。
 王太子の同行者という名目でボク達は問題なく帝国に入れた。
 もともと入国が一番の問題だと思っていたんだ。
 その手続きを円滑に進めてくれた伯爵には感謝しかない。
 でも何故ボク達に力を貸してくれたのか?この理由は未だに教えてくれない。なんでだろ?

 現在は商人達は普通に入国できるようになっているようだ。それでも結構厳しいチェックはあるのは聞いている。
 その他の人々は変わらず厳しいみたい。なんちゃって商人が横行しているらしい。どさくさに悪い事を考える連中はどこにでもいるんだな。
 その連中は漏らさず捕まっているそうだ。サンダーランド王国は思ったよりボロボロかもしれない。
 とりあえずボク達は王太子に知られることなく入国できたていたのだけど。
 
 ・・どこからボクの存在が漏れたんだろう?
 これが一番の疑問だ。

 しかも伯爵邸にボクが滞在しているという事まで知られていたようだ。
 ここまで手続きをしてくれた伯爵がボクの存在を伝えるわけがない。本人も話をしていないと言ってくれたし。
 さてどこから漏れたのやら。

 ボクは一応サンダーランド王国貴族の子息だ。
 なので・・サンダーランド王国王太子の命令は断れない。

 王太子からの招待状は伯爵が受け取ってくれた。きちんとした正式なものだったみたい。断れなかったそうだ。
 所在が判明してしまったのであれば応じないといけないだろうとは、伯爵の言。はい、確かにそうですね。
 何故ボクの存在が王太子に知られてしまったのかは調査してくれるらしい。
 どこまで情報が漏れているのか気になって仕方ない。王太子が帝国内でそこまで行動出来無い、と伯爵。
 ボクについては伯爵家でも箝口令を出しているんだって。やっぱりどこから漏れたんだろう。
 
 ・・謎だ。
 そんで面倒だ。
 正直関わりたくない。


 王太子がどのような態度を取るか全く分からないし。
 どうせ良い事じゃない。
 
 う~ん。
 ・・気が重い。
 会いたくない。面倒事が増えそうだ。
 ほんと帰りたい。

 でも無理。
 だから・・・・・気鬱のままの重い足取りで皇宮内を歩いているのだけど。

 いっその事間違った部屋に案内してくれないかなぁ。と、微かすぎる期待している。ま、無理だよね。
 ちらりと案内してくれている人に目を向ける。
 ボクを案内しているのは帝国の護衛官のようだ。聞けばサンダーランド王国王太子専任護衛官だそうな。
 強い事は確かだ。とっても鍛えられた軍人である事は動きで十分に分かる。この人が護衛なら単独で暗殺は無理だろう。
 武器の持ち込みも無理だから倒しようもない。
 道中はボディチェックを何度もされた。凶器は持ってないチェックが主だった。持ち込みはほぼ無理だ。
 皇宮に入る時も念入りに武装チェックされたのにだ。
 ほんと厳重だよ。
 
 王太子の今回の希望は歓談だと、同行してくれている護衛官が伝えてくれた。
 歓談ねぇ・・。
 
 ・・そんなん無理じゃないかな。
 
 だって年齢が倍以上離れているんだよ。親子ほどの年齢差があるし。
 初対面で、王太子で、年齢差ありありで、どんな話題があるってのさ。
 無理っす。勘弁してほしい。

 は~。

 気が重いのはボク一人だからというのもあるかな?
 実際に一人で行動するのは久しぶりだもの。
 今回はクレアを連れてきていない。いや、連れてこれなかった。
 伯爵情報によると王太子はとんでもない好色らしい。
 今回の異動に女性の同行者はいなかったそうだ。
 帝国が女性を向かわせた事実もないらしい。
 と、これまた伯爵情報だけど。
 毎日男だけに囲まれた健全な生活を送っているとの事。

 ・・まずくない?

 そんな所にクレアを連れていけるわけがないよ!
 冗談じゃない。絶対無理!
 なんだけど・・ボクを一人で行かせる事をクレアは心配しすぎる程心配していた。理由は分からないでもないけどさ。今回は無理だよ。
 最後まで連れていけ光線を出していたけど諦めて貰った。。
 残念だけどダメ。
 見かねた伯爵の奥様がクレアに話があると誘ってくれたみたい。女同士で相談しようとか。奥様はニコニコとクレアを連行していった。
 あのニコニコがちょっと気になるけど。

 クレアはハッテンベルガー家の女性達と仲良く交流できているんだよなぁ。
 ボクなんかと大違いだ。
 あの若様からは一方的に嫌われているし。失言や失礼な態度はしていなかったと思うのだけど・・嫌われている。
 当然若様周辺の人達の対応も違和感があったりする。
 グスン。そこはボクの目的じゃないからいいんだけどさ。

 
 ・・だけど結構歩いているよ。

 離宮は相当遠いんだな。と、いうか皇宮が広すぎる。
 相当人数の衛兵ともすれ違ったし。結構な人数が配置されているのが分かった。逃走防止や侵入の警戒なんだろうけど。これって隔離施設みたいな感じがするよ。
 現時点での王太子の扱いが推測できてしまう。
 サンダーランド王国側はこの扱いを知っているのだろうか。そもそも王太子本人がこの扱いで大丈夫なんだろうか?
 今回の救援要請でサンダーランド王国側は帝国に相当な借りを作ってしまったそうだ。
 このままだと他の公国と同じように属国になってしまう気がする。
 レッドリバー地方の奪還前に属国にされてしまうのはボクとしては困る。奪還する機会を失ってしまうから。兵を向ける大義を逃してしまう。
 だからサンダーランド王家には頑張って欲しいのだけど。
 それを踏まえ将来の国王である王太子の考えを聞く事は重要かもしれない。
 うん、そんな感じの話ができるといいのかも。
 
 と、考えていたら、
 同行の護衛官に声を掛けられた。

「こちらで少々お待ちください」

 でかい建物に入ってからも相当歩かされたのだけど、やっと到着か?
 うながされるまま小部屋に入室する。
 ここは待合室なんだろうか?
 少人数が待機するためのテーブルセットがある。
 護衛官が近くのでっかい扉に立っているのがちらりと見えた。同行してくれた護衛官と会話をしているようだ。
 成程。ここは護衛官達の待機所かな。あそこが目的の王太子の部屋なんだろう。
 じっと見ていると、その扉が開き同行してくれた護衛官が入室していく。
 暫くすると扉で待機していた護衛官がボクの前までやってくる。
 
「お待たせしました。手続きですので危険物の装備が無いか確認させてください。手荷物はありませんね」

 無言で頷いて立ち上がる。
 ここでもか。結構厳重というか必要なの?
 利き腕はどっちかまで聞かれるし。
 しつこくチェックに少々だるくなってきてしまう。次はもう来たくないなぁ。

 あれこれとしたボディチェックは問題無く終わる。
 ボクが着ているのは帝国軍人の飾りつけが無い礼装のみ。凶器なんか持ち込めない事は護衛官も分かっているだろうに。
 やっと王太子の部屋に案内される。
 一体どんな人なんだろう。話せる人だといいのだけど。あんまり王家の人にいいイメージないからなぁ。
 正直不安しかない。
 

 案内された部屋は案の定というか・・・ただ広い部屋だった。思ったよりは地味な装飾の部屋だ。
 窓の開口部は馬鹿でかい。壁をくりぬいて作ったのかというくらい広い。そこから見える庭は趣味がいいと思う。落ちつく感じがする。これなら変なストレスはないかも。
 部屋には目的の人物がいた。

 あれ?
 二名?
 
 一人は控えめにいっても小太りの中年おやじ。
 茶色の髪は整えられているけど肌はギトギトじゃん。緑の目は生気がない感じ。サンダーランド王家の服を着ている。キラキラする装飾がこってり付いているのは余計だけど。
 趣味は良くない。
 上座に座っているから・・。彼がサンダーランド王国王太子であるエドワード・アンダーウッド殿下だろう。年齢もだいたい合っている感じだし。
 自国の王族を初めてみた。
 思った以上に良い印象を感じないのはどうしてなんだろうか?
 
 問題はもう一人のほうだ。
 帝国式の軍服を着用。細身の長身で優雅に足を組んでいる。長めの金髪で細面。ヘーゼルの瞳は鋭く、ボクを見ている。・・観察しているのか。
 この人の背後に二名の護衛官が控えている。強面の見るからに屈強な男達。筋力でフライパンを曲げてしまう連中だ。ボクなんか捩じ切られるぞ。
 その一人が鞘に納まった長剣を捧げている。この時点で金髪細麺の男の身分が高い事は明らか。無礼討ち用だよね。

 当然だけどガン見していると不敬になる。既にボクは跪いている。そのままの網膜に焼き付けたに二人をチェックをしている所だ。
 ボクからは話しかけてはいけない。許可があるまでこのまま待機。高貴な連中というのは面倒だ。

 しかも・・・。なんか二人で話を続けているし。無視かよ。
 
「あれがレイ・フォレットだと?本当に子供じゃないか」
「子供とお伝えしましたよ。殿下の慰みにはならないと申したではありませんか」
「だが、フォレット家がこんな子供を帝国に送るとは思っていなかったぞ。少なくても成人手前の子供だと思うだろうが」
「そこまでは他国の私には分かりかねます。フォレット家は武勇の家と帝国では伝わっています。経験を積むために我が国を訪れる事があると聞き及んでいます。今回もそうなのでしょう」
「そ、そうか武家だったか。それにしても本当に子供じゃないか」

 ボクは何しに来たんだ?
 話の肴?
 う~ん。そんなパターンがある事を想定しておくべきだったか。

 それにしても・・・王太子様。
 自国の貴族家の特徴とか知らないのか?
 覚える気がないのか。興味がないのか。
 少しは気にしてくれていればフレーザー家だって存続していたかもしれない。
 変なヤツの家ばかり優遇するのは、この無知のせいなのか?

 ああ・・。なんか怒りがふつふつと・・。なんでこんな・・。ボクは・・こんな・・。

 ・・いけない。
 落ちつけ!
 ゆ~っくりと深呼吸だ。
 ここでは大人しくしていないと後々マズイ。

 ふ~。
 
 落ちつけ!
 落ちつくんだ!
 今は我慢!
 
 す~は~~。

 ふ~。

 ・・うん。我慢だ。

 結局もう一人は誰だろうか?
 推測では帝国の皇子だと思うんだ。監禁されている王太子に接触できるのは皇帝か皇子のみらしい。宰相すら許可されないと伯爵が言っていた。
 皇帝はありえない。
 皇子だとしても国外の貴族の家まで把握しているのは素直に驚く。耳が良いというか、帝国では常識なのか。伯爵もそれなりに知っていたものなぁ。

 ボクを放置した二人のやり取りは続いている。マジで置物にされている。
 

「フォレット家は見込みのない者は外に出さないそうですよ。将来性を期待したのではないでしょうか?」
「う、うむ。そうだな。そういう事だろうな」

 やっぱり皇子様が気になる。この場でも話の主導権を握っているし。
 一体誰だろう?

 現皇帝の皇子で男子は三名だ。
 三人とも年齢は近い。当然ボクは面識が無い。知る必要も無いと思っていたから、そんなに情報を集めていなかった。

 お、なんかボソボソと話声がする。
 ほっておかれたボクを見かねたんだろうか。
 王太子の後ろに控えていた御付から耳打ちされたみたいだ。
 王太子は慌ててボクに声を掛けてきた。

「お、お前がレイ・フォレットか?」

 やっとだよ。
 本当に何の用事があるのやら。だんだん面倒になってきた。
 挨拶したら早々に立ち去りたい。
 こんな人物に相談はできない。ボクの願いは何一つ聞いてくれないだろう。
 この人にフレーザー家の事情を話しをしても意味が無い。
 むしろ皇子様のほうが気になって来る。
 注意しないとやばいかも。困った時は子供ですからと言って誤魔化せるといいんだけど。
 などと瞬間の判断をする。
 
「はい。フォレット家当主マーヴィンが甥のレイと申します」

 やっとできた形式的な応対をした後に、やっと立ち上がる事を許される。足痺れる所だったよ。

「しかし本当に子供だな。帝国訪問の目的は何だ?」

 え~、そこから?
 帝国の皇子様が言っているじゃん。表向きは武術の修行だよって。
 それより早く皇子様は誰なのか教えて欲しい。
 
 面倒な場所に来てしまったと改めて思ってしまう。
 ベルフォール帝国の帝室とサンダーランド王家の二人で何を企んでいるんだ?
 
 ぶっちゃけボク必要ないよね?
 ・・帰して欲しい。

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