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ベルフォール帝国編

四の皇子

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 帝国訪問の意図を王太子に問われ、答えに困ってしまう。
 だって既に説明済みじゃない?
 それとも裏の目的を探っているのか?
 ・・いいや。
 そんなに鋭い人じゃないだろ。思慮に欠けるタイプだと思う。うん、そうだ。
 だからといって下手な返事は付け込まれる可能性もある。無難な対応するしかないか。
 高貴な方々の腹芸は面倒。
 ・・・・どうすればいいのだろうか。

「殿下。先程申し上げた通りですよ。武術の修行で来ているのだよね?」

 助け船を出してもらえた。
 よかった。後半はボクに対しての問いのようなんですけど。ボクは皇子様に向けての発言の許可を得ていない。
 だから何も言えない。
 ・・やっぱり面倒だよね。
 沈黙の理由を察してくれたのか皇子様が更に声を掛けてくれた。
 
「そういえば私の事は知らなかったかね」

 ボクの状況を汲んでくれた。実にありがたい。この皇子様は大丈夫な人の気がする。

 そこから暫しの間待つ。待つしかない。
 後に・・、控えていた護衛官が重々しく口を開く。
 
「こちらは皇子様であられる。四の皇子様と呼ぶが良い。本来は直接声を掛けられる方ではないのだぞ。この名誉に感謝する事だ」

 結構な威嚇たっぷりの声ですな。ビビらせる事を主眼に置いているかも。残念だけどこの程度じゃ怖くないっす。もっと怖い人を知っているからね。
 簡単に会えない方というのは賛同します。皇子様はボクも会いたくない筆頭だ。
 全力で会いたくない対象だ。
 おそらく有難さに震えて感動しろという事を言外に乗せているんだろう。マウント取りたいんか。でも残念。有難いなんてこれっぽっちも思っていない。面倒事のタネにしかならないからね。
 帝国の皇子がいると事前に分かっていたら絶対に来ていなかった。
 
 それはそれとして来てしまった以上は無難な対応はしておかないと。
 非礼と思われたら、あの剣でばっさりだ。今は切られたくないっす。
 
「は。サンダーランド王国の臣マーヴィンが甥のレイ・フォレットでございます。四の皇子様に拝謁でき、この上ない栄誉でございます」

 再度跪いて口上を言う。非公式だから略式でいい筈。

「殿下の問いに答える事を許可する」

 面倒・・・。簡単に終わってくれないかなぁ。面倒事の予感しかない。

「は。母国は戦時中ですので安全なベルフォール帝国での武術の修練を叔父が勧めてくれました」

「他の目的はないのか?」

 これは殿下。
 とりあえず直答は許されたらしい。まだ目線は上げられないけどね。
 ・・面倒。ボクとの身分差であれば遮る物もない、近い場所にいるだけで異常なんだし。
 皇子様の背後の人達の殺気がどんどん濃くなってきています。無礼討ち狙ってませんか?と聞きたい。
 
「は。ございません。現在は交流があるハッテンベルガー家に寄宿しております。日々訓練に明け暮れております」

 表向きの理由を正直に言う。これは伯爵とも調整済みな理由だ。全く問題無し。
 と、思ったら護衛官と四の皇子様が小声でやりとりをはじめだした。
 会話は当然聞こえない。

 なんだ?

 四の皇子様は現皇帝の三男。
 名前はコンラーディン・マルシュナー。年齢は・・16だったかな。
 四は生まれた順番なので継承順では無いのがややこしい。
 四は四番目の継承順ではなく、皇帝の子供が継承する事になった際の順番。
 もう少し番号付けを考えてほしかったなぁとは思う。
 現在で継承順が一番高いのはハッテンベルガー伯爵夫人であるエリーゼ様。この方が第一位。
 現皇帝に万が一があればエリーゼ様が次期皇帝となる。
 一方の四の皇子様は継承順は最下位に近い。確か・・十三番目だったか。今の所皇帝になれない方だ。
 こういう方は成人したらどうなるのか。
 帝国の属国である公国の公王になるのか一番の出世街道みたい。でも公王枠は空が無い。後継も決まっているみたいだから。
 将来が確約されていない方なのだ。
 王太子に接近しているのも今後を考えているからなのかもしれない。自分の未来は自分で切り開かないといけない方なのだ。
 
 今回ボクをここに呼んだ首謀者はこの皇子様だろう。
 何かの方法でボクの存在を知った。
 王太子にボクの存在を伝えた。
 面白がった王太子がボクを呼んだ。
 と、いう流れなんだろうか?
 
 でも二人の接点はボクには全く分からない。何の交流があるんだろう。他国の皇族、王族が会うのは人質・・あ、留学しているとしても簡単じゃない。
 ボクの存在を伝えるメリットも全く予想できない。

 四の皇子様は一体何を考えているのやら。
 分からな過ぎて怖い。
 
 気になる事はまだある。
 何故、四の皇子様にボクの存在が漏れたのか?
 何故興味を持ったのか?
 表向きで知り得る情報だけだと興味湧かない筈なんだけど。
 何の準備も無く来たのは失敗だったかも。
 
「レイ君。君は何度か家名を変えているようだね。今の家名は御母堂の生家かな」

 おおっと!
 ・・驚いた。
 これを知っているのか・・。表情にださないよう注意はしていたけど。ボクは上手く誤魔化せているか心配だ。

「は。臣には詳細な事情は告げられておりませぬ。幼かったからだと理解しております。何度か変わっている事は事実でございます」
「それはそうだ。御母堂からは何か聞いてないのかな?」
「は。物心つく前に母は亡くなりました」

 何を知りたいんだ?
 ちらりと王太子を見る。こっちは完全に興味を無くしているようだ。何かをカップに注がせている。水じゃないだろうな。・・・朝から酒浸りかよ。
 顔も赤い。焦点が定まらない目。ぼんやりした表情だ。・・ダメだこりゃ。最初から酔っ払いだったのか?
 最早ボクに興味は一欠片もないようだ。皇子様がボクに興味があったんだな。
 なんでかはまだ分からない。
 
「安心して欲しいな。私はレイ君に危害を与えるつもりはないよ。むしろ仲良くしたいんだよ」

 へ?
 いま何と・・・。

「ああ、君達。殿下はお疲れのようだな。寝所で休まれた方がよいようだね。この場は私が預かるから下がって良いぞ」

 王太子はもう酔い潰れたようだけど。その前の言葉が気になってしかたない。
 でも・・確かに寝てますね。
 王太子の御付の人達が巨漢の酔っ払いを苦労しながら運ぼうとしている。酔い潰れた人を運ぶのはかなり大変だ。ご苦労様です。

「さて。邪魔者は排除した」

 皇子様の呟きに我に返る。
 邪魔・・?どいうこと?
 
「難しいかもしれないけど。礼に拘らなくていいよ。私も本来は堅苦しいのは苦手でね。ここは公式の場ではない。気にしないで欲しいな」

 先程までの重々しいトーンでは無い声で皇子様が言ってきたけど。・・普通に無理でしょ。後ろの人達の殺気は全く消えていないからね。
 緊張するなと伝えたいだけなんだろうと解釈するしかない。跪いたまま待つ。これが現在のベストチョイスだ。
 皇子様の目的が全く分からないから下手な事は絶対にできない。
 無礼討ち・・避けたいもの。

「随分と慎重なんだね。年齢の割に賢明だね。フレーザー家は教育か行き届いているのか、レイ君の性格なのかは興味が尽きないよ。あの王太子殿とは違うようで安心だね。君の経歴は分かる範囲で調べていたのけど。性格まで把握するのは難しいからさ」

 ・・調べられていた?
 なんでボクを・・。
 一体どこから?
 書類等の記録ではそれ程分からない筈。だと思う。実際に痕跡は殆ど無いんだから。
 それを帝国の皇子様は知る事ができる・・。
 帝国怖い・・。

「そんなに警戒しなくてもいいよ。ハッテンベルガー家のリーンハルトからレイ君の事を聞かされたんだよ。ずる賢い子供が来て、家が乗っ取られるんじゃないかと私達に意見をしてきたんだよ。それで少し興味が出てね」

 ええ!!?
 若様!
 漏洩先は若様だったのか!!

 あんた何しちゃってくれているの!ボクについては外部に漏らさない約束じゃん!
 マジかよ。
 こりゃ、あちこちで悪口言いまくっているんじゃ・・。
 皇子様にまで言うなんて。
 伯爵報告案件だ。困ったもんだ。
 ボクの存在が漏れた経路が分かった。やっぱり人の口に戸は立てられないか。
 当初予定を前倒しにする必要があるかも。早く帝都を出ないと。

「リーンハルトは子供だけどね。年齢以上に冷静だと思っていたんだよ。だから気になったのさ。私も立場があるから直接会うのは難しいのは分かって貰えると思うのだけど。このような手段を使って来てもらった訳だ」

 やはり目的が分からない。
 なんでボクに興味持つですかね?
 普通の子供だよ。ちょっとだけ違うかもしれないケド。
 ・・・。
 
 
 柔らかな口調とは違いヘーゼルの目は鋭いままだ。

 嫌な予感しかしない。
 
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