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2章

お守り?・2

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 炎の輝きが煌めく魔石は、ずっと見つめていたい程きれい。
暖炉の火を眺める時のような気分。ぱちぱちと言う薪が弾ける音と、揺らめく炎が心を落ち着けてくれる、そんな優しく穏やかな波動が僕を包んでくれる。
ペンダントを服の下へ仕舞って、服の上から撫でた。

「レオ、ありがとう」

 改めてそう言うと、肌身離さず持っていて、と言っておでこにキスをされた。

 これで支度は全て済んだとばかりに、レオリムは、自分の荷物と僕の荷物を持つと、空いている手を僕に差し出した。
あ、また先を越されちゃった。
返してって言っても戻ってこないのはもう毎回のことで分かっているけど、一応抗議の目を向ける。
レオリムは、くすくす笑いながら、早く、と催促するので、その手を握った。

 レオリムと手を繋いでエントランスへ向かうと、ラドゥ様と騎士さん達が宿の人と話していた。
ラドゥ様たちに挨拶をして、宿屋の人にお礼を言う。食事がとっても美味しかったことを伝えると、料理人に伝えます、と嬉しそうに言ってくれた。

 宿を出て馬車へ向かうと、父さんと馭者さんが話していた。
二人に挨拶をして馬車に乗りこむと、レオリムが、僕の手を取った。
振り返ると、手の甲にちゅっとして、少し待っていて、と宿屋の方へ戻って行った。
ちょうど、宿屋から出てきたラドゥ様に、父上、と声を掛けて、そちらの方へ歩いていった。
ラドゥ様に用事があったんだね。
僕はそのまま、座り心地の良い座席に腰を降ろした。
父さんが乗り込んできたので、馬車の扉を閉める。馬車の中は既に温かい。
馬車の中から、レオリムとラドゥ様をなんとなく眺めていたら、父さんが、シーラン、と呼んだ。

「シーラン、レオリムが、お前に何かあった時の顔をしていたが、だいじょうぶか」

 ラドゥ様とレオリムの方を見ながら、そう心配気に言う父さんの言葉に、僕は、はっとした。

「昨日、馬が脅えた話を聞いてから、ずっと心配しているだろう、レオリムは」

 うん、と頷く。父さんも、感じていたんだ。

「昨日、変な夢見ちゃったから、余計心配しているみたい」
「そうか……だいじょうぶか」

 今度は、僕に向かって父さんがそう聞いて、思わず笑ってしまった。
服の上から、胸元のペンダントを撫でた。

「ふふ。二人共、心配性だね」

 父さんは、軽く笑って、そうか?と言ったけど、その後、じっと何かを考え込むように目を伏せた。
小さく溜息を吐くと、顔を上げて僕の顔を見た。

「魔獣の話を聞いて思ったんだが、マウリはそういう被害がずっとないな」

 うん、それは僕も思った。
ラドゥ様から聞いた、人心の乱れや自然の気の乱れ、魔獣の被害は、どこか遠い国の出来事のようだって。
たまに伝え聞く魔獣の被害は、僕たちの住む国の中の話なんだけど、南海州を出た事のない僕には、特に他州の話は、身近には感じられなかった。

「港で、他の街の船の連中がな、マウリの周辺は海の魔物が出ないし天気も穏やかだから助かると言うんだ」

 それは、僕も聞いたことがある。
マウリはいい街だなって。大きな街から来た船員さんが言ってた。きっとそれは……

「オレは、それは海竜様のおかげだと思っていてな」

 うん! そうだね!
こくこくと頷く。

「州候様も、マウリとマリーアを結ぶ街道はもうずいぶんと魔獣が出たという話を聞かない、他の街道沿いもそうだと良いんだが、と言っていてな。陸も守ってくれるなんてありがたい守護竜様だなぁと思っていたんだが。イラーゼは毎年歌謡いに選ばれるし、その上、シーランたちに、祝福までもらえたしなぁ。」

 イラーゼ姉さんの歌は、我が家の自慢だもんね。
海竜様は、僕とレオの魂の誓いと旅立ちを、祝福してくれた。
母さんのことは、父さんの中では、区切りがついているみたい。あまり語ることはないけれど。

 父さんは、一度言葉を切ると、馬車の窓から、ラドゥ様とレオリムに目を向けて、また僕に視線を戻した。

「……お前の生まれる前の話だが、マウリも、それなりに魔獣の被害はあったんだ」

 どくんと心臓が跳ねた。

「いつ頃から魔獣の話を聞かなくなったか考えたんだ。最後にマウリの周辺で魔獣や魔物が現れたと聞いたのはいつだったかと」

 僕の中に、街が大嵐に飲み込まれる暗い夜の光景が浮かぶ。

「海竜様だ」

 嵐に立ち向かう母さんの後ろ姿は、姉さんの背中と重なる。僕は、母さんの顔や姿を覚えていないから。

「あれ以降、マウリは魔獣や魔物に襲われたことがない」

 父さんは首を振って、ちょっと困った時の顔をした。

「だからというワケじゃないが、魔獣の話を聞いたら、今更、他の街にお前たちをやるのを、オレも少し不安に思っちまってな」

 はは、と笑って肩を竦めた。

「自由に、やりたい事を見つけてきなさい、なんて背中を押しておいて情けないが、気を付けるんだぞ」

 優しく、僕を見つめて、ぽんぽんと頭の上に手が乗せられた。
もう、僕、小さな子供じゃないんだけど。

「うん」

 よし、と言って、父さんは馬車の座席に深く腰掛け直すと、天井を見た。

「それにしても、この馬車は、なんかすごいんだろう? 魔除けの結界もついてるって」

 うんうん、と僕も頷く。

「スーリアもすごいらしいな」
「スーリアも?」
「ラドゥ殿が言っていたが、スーリアの結界は王都の結界より数段すごいらしいぞ」
「王都より?」

 大きな街には、魔の侵入を防ぐ守護結界がある。州都マリーアにもあって、街を囲むように五つの結界塔が立っている。結界塔は立ち入り禁止で、街の中や街道から塔を眺めるだけで、近寄ったことはない。

「魔法の研究が盛んらしいからなぁ。改良に改良を重ねて、学園都市というより、結界都市と呼ぶべきなんじゃないかって言っていたな」

 道中は結界つきの馬車、学園は結界都市、それなら、安心だなぁ!と、父さんはがははと笑った。

「ラドゥ殿は、うちの街にも守護の魔法を掛けてくれてるしな。役場とうちに、ほら、あるだろう、守護の魔法陣」

 うん、お守りみたいなものだよって、マウリに来るたびに掛け直してくれる。

 あれ?

 天人に近しい伴人ともびとの守護の魔法?

 それって、ただの、お守り???
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