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2章

お守り?・1

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 高級宿屋に一晩泊まって思った事は、室内の設備、多分、高位の貴族のお屋敷ってこういう感じなんだろうなって。
部屋風呂もそうだけど、部屋のあちこちにふんだんに魔石が使われていて、今まで泊ったことのある他の宿屋とは全然違う。
魔石の埋め込まれた甕は、魔力を流すと水栓からお湯でもお水でも、使い放題。
他の宿屋も、水栓つきの甕は置いてあったけど、魔石は流石についてなかった。
お湯や水を使いたければ、自分で魔法で甕に貯めるか、宿の人に頼む必要があった。
僕は水の魔法が得意だから、まぁ、いつでも使い放題なんだけど。
部屋の灯りも魔石照明で。便利だな、やっぱり、魔石の照明。蝋燭や灯火具ランプだと火の扱いに気を遣わないといけないから。まぁ、これも、うちでは炎の魔法の使い手のレオリムがいるから、マウリ家の照明事情は高位貴族並に良いんだけど。

 魔石は、小さい屑石のサイズのものなら多く広まっているけど、ここに使われているような大きなサイズのものは、相当高価なんだろうなぁ……。
一晩泊まって少し慣れたけど、最初に部屋に入った時は、魔石の大きさにびっくりして、壊さないか、触れるだけで緊張した。
今も、魔力を流す時は少し緊張するけど、それよりも、魔石と魔力を使った仕組みが興味深かった。
見えないようにしてあるけど、多分魔法陣も描かれているんだろうな。魔法陣は、魔法使いや魔法を扱う職人が独自に編み出した貴重な知識の結晶だから、基本的には秘匿されている。
魔法陣の研究も面白そう。学園で習えるだろうか。

 それに、侍従や侍女用の小部屋もついていた。
ラドゥ様はマウリに来る時は騎馬で来ていて、連れてくるのはいつも騎士さんだけだけど、多分、本来貴族はもっと多くの使用人を連れて旅をするんだろう。馬車で移動する貴族の方が多いだろうし。
宿屋の人に、使用人を付けることも出来ますが、と言われたけど、ラドゥ様は断っていて、父さんなんかは、とんでもない、と首を振って、僕とレオリムも必要ありませんと答えた。
次の宿駅では、もう少し庶民的なお宿だといいなぁ。

 身支度を整えて食堂へ行くと、ラドゥ様と父さんが既に食事をしていた。
先に頂いてるよ、と言う二人に朝の挨拶をして席に着くと、すぐに給仕さんが温かい朝餉を並べていってくれた。
他の宿屋では、宿屋全体の食堂で、麺麭パンとスープとか、簡単なものが出るのが普通だと思うんだけど、食堂ここも、この高級宿屋の最上階、僕たちが泊まる豪華な特別室専用の食堂だ。
あんまり贅沢になれちゃうと、後が怖いな。

 黄金色の透明スープを飲んだ後は、卵料理が用意された。
解きほぐした卵をふわふわとろとろに焼いた黄金色にナイフを入れたら、乾酪チーズがとろりと出てきて、すごくおいしかった。これも牛のお乳から作った乾酪で、癖が少なくて、卵の風味もよく感じられて僕の好みに合っていた。
麺麭もまっしろでふわふわで、牛酪バターをつけて食べるとじゅわりと口の中に小麦の香りと一緒に広がって、思わず何個もおかわりしちゃった。
サラダは、食べられる花が散りばめられていて、朝からとっても華やかだった。
マウリの料理は全体的に味が濃い目だから、こういう繊細な味は、マリーアで食べて以来。
もちろん、マウリの粗く引いた麦の粒の残ってる麺麭も好きだけどね。
レオリムは、濃い目のソースをどばっと掛けてた。どちらかと言うと、濃い目が好きだよね。

 レオ、口の端にソースがついてるよ。
ちょんちょん、とナフキンで拭いてあげる。

 あれ、こういうの、こういう場所では、はしたないかな。
ちらりと給仕さんを見ると、目を伏せて部屋の隅に控えている。
ラドゥ様も、にこにこと僕たちを見ながら、食後のお茶を飲んでる。
少なくとも、ラドゥ様の前はだいじょうぶそう。

 次の宿屋では、もう特別室じゃないといいんだけど。



 朝餉の後は、すぐに宿屋を出る準備。

「シーラ、魔石を貸して」

 荷物を纏めていると、レオリムに呼ばれた。
寒い時期、レオリムが身体を温める炎の魔法を込めてくれる紅玉の魔石の嵌ったペンダントは、レオリムからの贈り物。屑石よりは大きいし、魔石の透明度が高いから、多分ちょっと高価だろうけど、これくらいの大きさの魔石のペンダントなら、港の奥さんたちも首から下げていた。旦那さんを脅して贈ってもらったって軽口を叩きながら、仲良さそうな夫婦が多かったな。みんな、今日も元気に水揚げしてるかな。大漁だといいな。

 ペンダントを首から外してレオリムに渡しながら訊ねる。

「馬車の中は温かいから、魔法を込めなくてもだいじょうぶだよ?」
「温める魔法じゃなくて、まじないを込めようと思って」
「お呪い?」
「そう。お守り」

 こくんと頷くレオリムが差し出した手に、ペンダントを乗せた。

「シーラを、魔のものから守りますように」

 レオリムが、手の平に乗せた魔石に、反対の手を翳す。
ここまでは、いつも通り。
魔法の波動が、レオリムの翳した手の平から溢れるように出て、ぶわりと拡がって眩しく輝く。
眩しさに思わず目を細めると、それはすぐに集積して、光を凝縮したように、小さく紅く光る玉となって、魔石の中へ吸い込まれていった。

「はい」

 ペンダントのチェーンを持って、レオリムが掲げたので俯くと、僕の首に腕を廻して、掛けてくれた。
チャリ……と胸元に下がったペンダントに、そっと触れてみる。
温かい。
手の平に乗せて、しげしげと眺める。

 紅玉の魔石の中に吸い込まれた光が、中でゆらゆらと、炎のように揺れている。
いつも、明るいところで見れば、光を受けてそれを反射して輝いて見える魔石だけど、これは、内側から魔石自体が輝きを放っている。

「……きれい」

 思わず呟く。
魔石から、僕の大好きなレオリムの魔法の波動が、僕を包み込むように出ているのが分かる。
これ、守護の魔法だ。祝福とよく似ているけど、目的がもっと明確で、少しくらいの魔法の攻撃なら余裕で弾いてくれそう。
……お守り?
にしては、ちょっと強力なような……?

「気に入った?」
「うん!!」

 レオリムが、ん、と少し首を傾けて目を瞑ったので、お礼にちゅ、と口付ける。
お返しにもならない気がするけど、レオはこれが嬉しいのだって。いつもはほっぺただけど、今日は、唇に、してみた……。

「シーラ……」

 蕩けるような笑顔が返ってきて、やっぱり僕は、全然お返しに足りてないと思う。

 僕も守護の魔法、使えるように練習しよ!
魔法を込められる魔石もほしいな。




ーーーーー

次回の話に出てくる魔法と統一させるため、レオリムが魔石に込めた魔法を守護の魔法に変更しました。(2023.11.25 11:50)
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