水の巫覡と炎の天人は世界の音を聴く

井幸ミキ

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3章

おみやげ探し・2

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 外出の支度を済ませて、レオリムと一緒に広間へ降りる。騎士さんたちはまだ来ていなかった。

「おみやげ、何がいいかな」
「何が売ってるかにもよるな」
「そうだねぇ」

 従僕さんが、お茶を淹れましょうかと聞いてくれたけど、朝のご飯を食べたばかりなので、お礼を言って断り、その代わり、おみやげに良いお店の場所を尋ねることにした。

「姉夫婦と、姪、それから、今度生まれる赤ちゃんへのおみやげがほしいんです。あと、友達にも良い物があれば」

 そう言うと、従僕さんは、ゆっくり頷いてしばらく考え込んだ。

「さようでございますか……それでは、貴族街よりも、外街の、中街大通りがよろしいかと思います」

 サンタナ家の管理している西の貴族門の向こう、城壁の内側は、王城や貴族の邸宅があり、貴族街と呼ばれているそうだ。貴族ご用達の高級店が並ぶ王都通りがあり、高級品が多く売られているんだって。
 昨日僕たちが通って来た、貴族街を囲む城壁の外の街は、外街と呼ばれていて、貴族以外の王都の人々が暮らしている。

「そうだね、あんまり高いものをおみやげに買っても、びっくりしちゃうよね」

 レオリムも、こくこく頷いて、僕たちは、中街大通りという場所へ向かおうという話になった。
 そこに、父さんと、マーチナーさんとエイプハラフさんが来て、その話をすると、三人共、うんうんと大きく頷いた。

「執事殿や、ラドゥ殿とも話して、そこがいいという話をしたんだ」
「そうなの?」
「はい、お二人のご意見も同じで、大変安心いたしました」
「いくつか、良さそうな店も聞いて参りました。案内はお任せください」

 父さんは、学校の友達や、港のみんなにも、好きなように買うといい、お金は二人に預けてあるからと言って、僕の頭をぽんぽんと撫でた。

「オレより、シーランが選んだと言って渡せば、文句も出んだろう。頼んだぞ!」

 最後に、父さんはこっそり、エルナンと一緒に飲む酒を2、3本入れといてくれ、と耳打ちした。
 もう、飲み過ぎはだめだからね。イラーゼ姉さんに怒られても知らないよ? 父さんもエルナン義兄さんも大酒飲みなんだから。

 少し離れた場所で、レオリムとマーチナーさんが、こそこそと会話をしていた。ちょっとだけ、耳に入ったのは……。

「シーラって、やっぱり目立つ?」
「間違いなく」
「もっと外の方が良いかな」
「いえ、外へ向かう程、治安も悪くなります」
「そっか……」

 レオリムは、僕の傍に寄ると、左手を取って指輪を撫でた。

「幻惑の魔法も籠めて貰えばよかった」

 えー?





 中街大通りの入り口までは、サンタナ王都邸の馬車で移動した。マリーア州都から乗って来た新しい馬車より一回り小さいし、乗り心地は比べちゃいけないけど、上等な馬車だった。やっぱりサンタナ家は高位貴族だと実感する。でも、マウリに住む僕の家族のことを考えて、貴族街じゃなくて、外街のお店を進めてくれたことに、気遣いを感じて、ありがたいなぁと思う。
 昨日通った街道の、貴族街に近い、大きな建物が並ぶ辺りが中街大通りらしい。城壁に近い街道は幅が広く、通りの真ん中には街路樹が並んでいて、西通りと東通りに分かれている。その二つを総称して中街大通りと呼ぶそうだ。どちらも同じようなお店が並んでいるということで、近い方の、西通りへ向かう。
 馬車を降りる時、外套のフードを深く被せられた。

「シーラは、可愛いから、人さらいに目を付けられるかもしれない。顔を隠しておいて」

 人さらいって。

「レオは心配しすぎだよ」

 フードを外そうとしたら、先に馬車を降りて待機していたマーチナーさんとエイプハラフさんが、ふるふると首を振った。

「シーラン様、大仰ではありません。我々も、お顔をお隠しになることを強く勧めます」

 えー?

 僕は、渋々、フードを被ったままレオリムと手を繋いだ。
 まぁ、まだ冬の参の月だし、王都はマウリと比べて寒いから、道行く人もフードを被ったり、防寒着を着込んだりしているからいいか。

「食器屋はその先です」

 馬車の中で、ある程度、回るお店を決めておいた。食器屋さんでは、生まれてくる赤ちゃんのための、出産祝いを探す予定。生涯食べる物に困りませんようにって、お皿やスプーンを贈ると喜ばれますよって、教えてもらったから。

「これ、どうかな?」
「いいんじゃないか」
「……もう。さっきからそればっかり。レオも少しは考えてよ」
「シーラがいいと思うものなら、間違いない」

 実際に使える食器と、飾りやアクセサリーになるものと、どっちがいいかは先に相談した。レオリムは、使える方がいいんじゃないかというので、目についたお皿やスプーンを指差すけど、どれも、いいんじゃないか、としか言わないんだもん。どれも良さそうで迷っちゃうから聞いてるのに。

「これは?」

 レオリムが、一番上の棚にあった小箱を手に取った。ちょっと高級品の棚みたいだったから、まだ見てなかった。開けてみると、中には、柄の部分がハンドル状の、小さな子ども用の、スプーンとフォークが納められていた。

「わぁ!」

 銀色の本体に、柄のハンドルの縁は青色の飾り縁取り。柄は、上半分がが透かし模様になっていて、真ん中に小さな魔石が嵌め込まれている。
 お店の人が、そちらは、北崚州の職人の製作で、出産祝いに人気のお品です、と説明してくれた。

 ずっと、大人になるまで長く使えるものじゃない。でも……。

「アランカが小さい頃に使っていたお椀と皿に、合いそうだな」

 うん。アランカが生まれた時、父さんとレオと一緒に、マリーアの街で買った出産祝いのお椀とお皿。赤ちゃん用のその食器は、最近使われなくなったけど、姉さんが、食器棚の奥に大事に仕舞っているのをしっている。本体は銀色で、青の飾り縁取り。それらと、このスプーンとフォークは、まるでセットみたいなデザイン。あれも、北崚州の職人の品だったんだろうか。
 あの時も、レオが見つけたんだった。俺にはシーラみたいなセンスはない、と言いつつ、こうして良い物を見つける嗅覚はするどいんだよね、レオって。
 なんとなく、くやしい。
 でも、そういうところも、好き。

「これをください」

 店員さんは、丁寧に小箱を受け取り、お祝いの包みを掛けに、店の奥へ。お店の入り口で待っていてくれたエイプハラフさんが、お会計をしてくれている。マーチナーさんはお店の外で待機。あまり待たせずに済みそう。

 僕は、レオリムの手を握った。レオリムは、嬉しそうに、僕にぴったり寄り添う。

「良いのが見つかって、よかったな」
「うん」

 姉さんも義兄さんも、きっと喜んでくれるだろう。
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