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6・タリエシン・レゲットの憂鬱
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ウェールズは常に侵略者を退けてきた。
ローマ帝国、サクソン人、イングランド。特にイングランドからの侵略は何度となく退けている。
それ故か、ウェールズ人のアイデンティティはとても強い。気難しい気質と言われるのもそれが所以かもしれなかった。
レゲット家は、かつてはウェールズでも名家であった。
男爵の爵位を持ち、薔薇戦争を勝ち抜いた。王位についた、テューダー朝の血縁であり、ボズワースの戦いでも命をかけて戦った。
だが、繁栄は1930年代の世界恐慌で一気に衰退する。
その後も、事業や投資の失敗が続き、先代当主ジョージ・レゲットの時代は負債も膨大な額に膨らんでいった。
それを立て直したのが現在の当主タリエシン・レゲットだ。
彼は数字に異常に強く、特に金融においては非凡な才能を発揮させた。
今では、世界有数の金融会社グループを運営、特に世界中の富豪を顧客にしたプライベートバンクは、大成功を収めている。つまり今の彼には、膨大な資産があるのだ。
その日、彼は、大金を投じてオークションで手に入れた聖剣エクスカリバーを目の前にして、悦に浸っていた。
剣を手に入れた事は成功の証、彼の自己満足というのも確かにあったが、彼の本当の望みは違う。
聖剣を手にして伝説のワイルドハントを指揮すること。それは子供の頃からの彼の夢だった。
幼き頃、夢中で読んだアーサー王の伝説。その後、様々なアーサー王伝説の書物を読み漁り、ワイルドハントのことを知った。
死者の兵士団と猟犬を率い、黄泉の国から現世に現れる亡霊の軍団。
タリエシンは、どういうわけかこの伝説に魅了されていた。いつしか自分がこの軍団を率いたいという密かな思いを持つようになる。
幼い頃、母から言われた言葉。
It’s never too late to be who you might have been.
(なりたい自分になるのに遅すぎることはない)
挫折しそうになるとき、常にこの言葉を信じてきた。それは本当だったとタリエシンは思うのだ。
物思いにふけっていると部屋に執事が入ってきた。父の代からいる古参の使用人だ。屋敷の事に限っては誰よりも知っている男だ。
「タリエシン様、遺品目録を作り終えましたのでご確認を」
執事がそう言ってタリエシンに書類を差し出した。
数日前、先代、つまりタリエシン・レゲットの父、ジョージ・レゲットが他界した。
突然の心臓麻痺であった。
イギリスの相続税は遺産の半分をもっていかれる。現在のレゲット家の資産は、ほぼタリエシンが稼ぎ出したものだ。
レゲット家の財産を食いつぶしていた父ジョージの遺産は微々たるもので、唯一価値あるものといえば、骨董品のコレクションだ。特に中世の武具は価値あるものが多かった。これを全て処分し、現金化するつもりだった。目録はその準備の為だ。
タリエシンが書類をざっと読み終えた後言う。
「そこにある中国清王朝時代の壺が入っていないようだね」
タリエシンは、飾られた壺を指差す。
「お父上のジョージ様が大変気に入っていたものでしたし、ジョージ様がコレクションを集める以前から、代々家にあるものでしたので、保留と致しました。勝手な事をして申し訳ございません。リストに加え直し致します」
そう言って執事は頭を下げた。だが、タリエシンは書類を執事に返さず言う。
「そうだった。父は、これが大のお気に入りだったな……」
「はい、大変お気に召しておりました」
「処分リストはこのままでいこう」
「では壺は残されるのですね」
「いや……」
タリエシンは、そう言いかけると、壁に掛かっていた狩猟用のライフルを手に取った。弾丸を込めると、銃口を壺に向けてライフルを構える。
執事は主人の行動に戸惑ったが、タリエシンは、構わずライフルの引き金を引いた。
銃声が部屋になり響くと同時に、清王朝時代の貴重な壺は粉々に吹き飛んだ。
「私はね、あれが昔から大嫌いだったんだよ」
タリエシンは感情のこもっていない声でそう言った。
足元には飛び散った陶器の欠片の一部が散らばっている。
タリエシンは、それを足で踏み潰す。欠片が床に擦れて細く鈍い音がした。
「ご機嫌斜めのご様子ですね」
いつの間にか部屋にアタッシュケースを持った女が入ってきていた。執事の驚いた表情を見るとどうやら彼も把握していなかった訪問者らしい。
「君は誰だ?」
女は微笑みながら答える。
「マルジン・ウィスルトから参りました。先日は、オークションへの参加、まことにありがとうございます」
女はそう言って恭しく頭をさげてみせた。
マルジン・ウィスルト
その言葉を聞いて思い出した。タリエシンが剣を手に入れたオークションの主催者で遺品処分の為のオークションを頼みたくてメールを送っておいたのだ。だがまだ会う約束まではしていなかった筈だ。
「ミスター・レゲット、わたくしどもに何か御用がおありだとか」
「来る約束をしてあったかな? マダム」
「メールでご連絡は差し上げてありましたが、なんらかの行き違いがあったのかもしれませんね」
「ああ……そうだな。たぶん私が見落としていたのかもしれない」
「出直す事もできますが?」
「いや、いい。逆に丁度よかったよ。実は父の遺品を処分したくてね。おたくのオークションに出品できないかと思ってね」
そう言ってタリエシンは、目録を女に渡した。
女は渡された目録を読むと、意味ありげな笑いを浮かべる。
「13世紀ごろの武具が多い。それも貴重なものが目につきますね。とても素晴らしい」
「素晴らしいだって? 私に言わさればまったく無駄な道楽さ。その為にレゲット家の資産を随分食いつぶした。愚かともいえる」
うんざりげに言うタリエシンは明らかに不機嫌な様子だ。
「お察しします。家族というのは実に厄介な因果です。必ずしも良きものを残すとは限らない。ミスター・レゲット。実は、我々マルジン・ウィスルトから提案があります」
「オークションのことか?」
「それとは別な事です。この目録に並ぶ品と、先日あなたが落札した品を使った実に有益なことです。興味はおありですか?」
そう言って女はタリエシンの目の前にあるエクスカリバーを指さした。
タリエシンは、不審に思いながらも女の話に耳を傾ける。
「なんだ?」
「新たなレゲット卿。あなたには、いくつか夢がおありでしょう。幼い頃から胸に秘めていた事です。そしてそのひとつは先日、ようやく叶えられた」
「私の夢がか? 落札したエクスカリバーのことなら確かにそうかもしれないが……」
「ええ、そのとおり。まずひとつは、エクスカリバーを手に入れた事。そしてもうひとつは、お父上の存在がこの世から消えた事です」
タリエシンは答えなかった。だが眼の前の女はタリエシンの心を見事に言い当てている。
確かに子供の頃から、自分を、事あるごとに否定し続けていた父親を疎ましく思っていたし、この世から消えてなくなることをずっと願ってきた。だが、それを誰かに明かしたことは一度もない。目の前の女が何故それを知っているのかと僅かに動揺する。
「そしてあとひとつの夢は、アーサー王になること」
その言葉にタリエシンは、女の顔を見た。
「何を馬鹿なことを……」
「いえ、我々の協力があれば決して馬鹿なことではありませんよ。イギリスの格言にもあるでしょう。
It’s never too late to be who you might have been.
(なりたい自分になるのに遅すぎることはない)……とね」
タリエシンは女の言葉に驚いた、彼が幼き頃に母から言われ、ずっと心の支えにしていた言葉だ。
「申し遅れましたが、私は、マルジン・ウィスルトで顧客へのコンサルティングを担当しております、モーガン・フェイと申します」
そう言って女は、不気味な笑みを浮かべた。
「我々が、あなたの最大の望みを叶えてみせましょう」
ローマ帝国、サクソン人、イングランド。特にイングランドからの侵略は何度となく退けている。
それ故か、ウェールズ人のアイデンティティはとても強い。気難しい気質と言われるのもそれが所以かもしれなかった。
レゲット家は、かつてはウェールズでも名家であった。
男爵の爵位を持ち、薔薇戦争を勝ち抜いた。王位についた、テューダー朝の血縁であり、ボズワースの戦いでも命をかけて戦った。
だが、繁栄は1930年代の世界恐慌で一気に衰退する。
その後も、事業や投資の失敗が続き、先代当主ジョージ・レゲットの時代は負債も膨大な額に膨らんでいった。
それを立て直したのが現在の当主タリエシン・レゲットだ。
彼は数字に異常に強く、特に金融においては非凡な才能を発揮させた。
今では、世界有数の金融会社グループを運営、特に世界中の富豪を顧客にしたプライベートバンクは、大成功を収めている。つまり今の彼には、膨大な資産があるのだ。
その日、彼は、大金を投じてオークションで手に入れた聖剣エクスカリバーを目の前にして、悦に浸っていた。
剣を手に入れた事は成功の証、彼の自己満足というのも確かにあったが、彼の本当の望みは違う。
聖剣を手にして伝説のワイルドハントを指揮すること。それは子供の頃からの彼の夢だった。
幼き頃、夢中で読んだアーサー王の伝説。その後、様々なアーサー王伝説の書物を読み漁り、ワイルドハントのことを知った。
死者の兵士団と猟犬を率い、黄泉の国から現世に現れる亡霊の軍団。
タリエシンは、どういうわけかこの伝説に魅了されていた。いつしか自分がこの軍団を率いたいという密かな思いを持つようになる。
幼い頃、母から言われた言葉。
It’s never too late to be who you might have been.
(なりたい自分になるのに遅すぎることはない)
挫折しそうになるとき、常にこの言葉を信じてきた。それは本当だったとタリエシンは思うのだ。
物思いにふけっていると部屋に執事が入ってきた。父の代からいる古参の使用人だ。屋敷の事に限っては誰よりも知っている男だ。
「タリエシン様、遺品目録を作り終えましたのでご確認を」
執事がそう言ってタリエシンに書類を差し出した。
数日前、先代、つまりタリエシン・レゲットの父、ジョージ・レゲットが他界した。
突然の心臓麻痺であった。
イギリスの相続税は遺産の半分をもっていかれる。現在のレゲット家の資産は、ほぼタリエシンが稼ぎ出したものだ。
レゲット家の財産を食いつぶしていた父ジョージの遺産は微々たるもので、唯一価値あるものといえば、骨董品のコレクションだ。特に中世の武具は価値あるものが多かった。これを全て処分し、現金化するつもりだった。目録はその準備の為だ。
タリエシンが書類をざっと読み終えた後言う。
「そこにある中国清王朝時代の壺が入っていないようだね」
タリエシンは、飾られた壺を指差す。
「お父上のジョージ様が大変気に入っていたものでしたし、ジョージ様がコレクションを集める以前から、代々家にあるものでしたので、保留と致しました。勝手な事をして申し訳ございません。リストに加え直し致します」
そう言って執事は頭を下げた。だが、タリエシンは書類を執事に返さず言う。
「そうだった。父は、これが大のお気に入りだったな……」
「はい、大変お気に召しておりました」
「処分リストはこのままでいこう」
「では壺は残されるのですね」
「いや……」
タリエシンは、そう言いかけると、壁に掛かっていた狩猟用のライフルを手に取った。弾丸を込めると、銃口を壺に向けてライフルを構える。
執事は主人の行動に戸惑ったが、タリエシンは、構わずライフルの引き金を引いた。
銃声が部屋になり響くと同時に、清王朝時代の貴重な壺は粉々に吹き飛んだ。
「私はね、あれが昔から大嫌いだったんだよ」
タリエシンは感情のこもっていない声でそう言った。
足元には飛び散った陶器の欠片の一部が散らばっている。
タリエシンは、それを足で踏み潰す。欠片が床に擦れて細く鈍い音がした。
「ご機嫌斜めのご様子ですね」
いつの間にか部屋にアタッシュケースを持った女が入ってきていた。執事の驚いた表情を見るとどうやら彼も把握していなかった訪問者らしい。
「君は誰だ?」
女は微笑みながら答える。
「マルジン・ウィスルトから参りました。先日は、オークションへの参加、まことにありがとうございます」
女はそう言って恭しく頭をさげてみせた。
マルジン・ウィスルト
その言葉を聞いて思い出した。タリエシンが剣を手に入れたオークションの主催者で遺品処分の為のオークションを頼みたくてメールを送っておいたのだ。だがまだ会う約束まではしていなかった筈だ。
「ミスター・レゲット、わたくしどもに何か御用がおありだとか」
「来る約束をしてあったかな? マダム」
「メールでご連絡は差し上げてありましたが、なんらかの行き違いがあったのかもしれませんね」
「ああ……そうだな。たぶん私が見落としていたのかもしれない」
「出直す事もできますが?」
「いや、いい。逆に丁度よかったよ。実は父の遺品を処分したくてね。おたくのオークションに出品できないかと思ってね」
そう言ってタリエシンは、目録を女に渡した。
女は渡された目録を読むと、意味ありげな笑いを浮かべる。
「13世紀ごろの武具が多い。それも貴重なものが目につきますね。とても素晴らしい」
「素晴らしいだって? 私に言わさればまったく無駄な道楽さ。その為にレゲット家の資産を随分食いつぶした。愚かともいえる」
うんざりげに言うタリエシンは明らかに不機嫌な様子だ。
「お察しします。家族というのは実に厄介な因果です。必ずしも良きものを残すとは限らない。ミスター・レゲット。実は、我々マルジン・ウィスルトから提案があります」
「オークションのことか?」
「それとは別な事です。この目録に並ぶ品と、先日あなたが落札した品を使った実に有益なことです。興味はおありですか?」
そう言って女はタリエシンの目の前にあるエクスカリバーを指さした。
タリエシンは、不審に思いながらも女の話に耳を傾ける。
「なんだ?」
「新たなレゲット卿。あなたには、いくつか夢がおありでしょう。幼い頃から胸に秘めていた事です。そしてそのひとつは先日、ようやく叶えられた」
「私の夢がか? 落札したエクスカリバーのことなら確かにそうかもしれないが……」
「ええ、そのとおり。まずひとつは、エクスカリバーを手に入れた事。そしてもうひとつは、お父上の存在がこの世から消えた事です」
タリエシンは答えなかった。だが眼の前の女はタリエシンの心を見事に言い当てている。
確かに子供の頃から、自分を、事あるごとに否定し続けていた父親を疎ましく思っていたし、この世から消えてなくなることをずっと願ってきた。だが、それを誰かに明かしたことは一度もない。目の前の女が何故それを知っているのかと僅かに動揺する。
「そしてあとひとつの夢は、アーサー王になること」
その言葉にタリエシンは、女の顔を見た。
「何を馬鹿なことを……」
「いえ、我々の協力があれば決して馬鹿なことではありませんよ。イギリスの格言にもあるでしょう。
It’s never too late to be who you might have been.
(なりたい自分になるのに遅すぎることはない)……とね」
タリエシンは女の言葉に驚いた、彼が幼き頃に母から言われ、ずっと心の支えにしていた言葉だ。
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