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8・車の中での夢
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それからの数時後。
フルドラの運転する車は、人通りが少ない郊外の道路を走り続けていた。
長距離運転で疲れるだろうからとリアムが運転を代わるかと申し出たが、フルドラは車の運転は好きだからとハンドルを握り続けた。
そのままドライブを続けているとサスペンションの性能が良いのか、助手席での乗り心地はとてもいい。リアムは眠気に誘われ意識が遠のいていく。
意識が落ちる瞬間に運転席のフルドラの方を見た。無表情といっていくらい真剣な顔で、まっすぐに前を向いてハンドルを握っている。車好きの妖精は安全運転らしい。
しかし綺麗だな。
リアムはぼんやりと思った。
そして、エマによく似ているとも思った。特に色こそ違えど瞳の色がそっくりだ。
きっとエマもこんな美しい女性になっていただろう。
そうだ、きっと……
エマはリアムの姉だ。正確には姉だった。心優しくリアムが寝過ごした時には、穏やかな笑顔で言葉をかけてくれた。
「まだ寝てれば?」
そう言いながらリアムの髪を撫でる感触は今でも忘れていない。
けれど、彼女は、もうこの世にはいない。
三つ歳上のエマは弟のリアムの面倒をよく見てくれた。
食事が与えられないときも、具合が悪い時も、父親に殴られ続けた時も……
そして、あの日もそうだ。
エマは、いつものようにリアムをかばってくれた。だが、その日はそれをしてはいけなかったのだ。
父親はいつにも増して機嫌が悪かった。その怒りは邪悪といってもいい。
あの時、父親は、リアムを庇うエマがどう見えたていたのか?
生意気なガキ、虫けら、それとも価値のない何か……
その後の記憶は曖昧だが、アパートの前には、警察の車がサイレン灯を回して停まっていた。それと救急車が一台だった。
大柄な警官がリアムを抱えてアパートから連れ出してくれた。彼は後にリアムの養父となってくれてディアスの姓名は彼のものだ。
離れた場所に停車していたパトカーに父親が押し込まれているのが見えた。
その表情はリアムが初めて目にするものだった。恐怖に怯え、後悔と怒りが入り混じっているのが小さなリアムにも何故か感じ取れた。いつも見ていた父親とは違う姿が不思議だったのを覚えている。
救急車の方を見ると担架が運ばれている。担架に乗せられているのは黒いビニールの袋だった。
誰にも説明されなかったが、なんとなくそれがエマだとわかった。
暴力と恐怖からの開放感と今までに感じたことのない程の喪失感が幼いリアムの心をかき乱していた。やがて途方もない罪悪感がリアムの心に広がっていく。
エマがああなったのは自分のせいなのだと……。
何かが飛び出たのか、急ブレーキで身体が大きく振られ、リアムは、目が覚ました。
寝ぼけ眼で運転席のフルドラの方を見た。
「もう、着いたの?」
「もうすぐよ」
フルドラは、抑揚のない声でそう言う。
「まだ寝てれば」
懐かしい言葉だった。
「何か悲しい夢でも見た?」
その言葉にリアムが自分が泣いているのに気がついた。
「これは……寝起きはいつもこんなだ」
「寝ている時から泣いていたわよ」
もう何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうからリアムは言い訳をやめた。
「リアムがどんな夢を見たのかしらないけど……」
フルドラは無表情のままで続けた。
「死者に囚われない方がいい。引きずり込まれるから」
彼女は俺が何の夢を見たのか知っているのか?
「そのひともそれは望んでいないと思うわ。リアムに悲しい想いをして欲しくはないと思う」
「俺の夢を覗いたのか?」
「私にそんな能力はない。ただ……」
フルドラがリアムの方を見る。
「なんとなくそんな気がしたの」
そう言って優しく微笑んだ。
フルドラの運転する車は、人通りが少ない郊外の道路を走り続けていた。
長距離運転で疲れるだろうからとリアムが運転を代わるかと申し出たが、フルドラは車の運転は好きだからとハンドルを握り続けた。
そのままドライブを続けているとサスペンションの性能が良いのか、助手席での乗り心地はとてもいい。リアムは眠気に誘われ意識が遠のいていく。
意識が落ちる瞬間に運転席のフルドラの方を見た。無表情といっていくらい真剣な顔で、まっすぐに前を向いてハンドルを握っている。車好きの妖精は安全運転らしい。
しかし綺麗だな。
リアムはぼんやりと思った。
そして、エマによく似ているとも思った。特に色こそ違えど瞳の色がそっくりだ。
きっとエマもこんな美しい女性になっていただろう。
そうだ、きっと……
エマはリアムの姉だ。正確には姉だった。心優しくリアムが寝過ごした時には、穏やかな笑顔で言葉をかけてくれた。
「まだ寝てれば?」
そう言いながらリアムの髪を撫でる感触は今でも忘れていない。
けれど、彼女は、もうこの世にはいない。
三つ歳上のエマは弟のリアムの面倒をよく見てくれた。
食事が与えられないときも、具合が悪い時も、父親に殴られ続けた時も……
そして、あの日もそうだ。
エマは、いつものようにリアムをかばってくれた。だが、その日はそれをしてはいけなかったのだ。
父親はいつにも増して機嫌が悪かった。その怒りは邪悪といってもいい。
あの時、父親は、リアムを庇うエマがどう見えたていたのか?
生意気なガキ、虫けら、それとも価値のない何か……
その後の記憶は曖昧だが、アパートの前には、警察の車がサイレン灯を回して停まっていた。それと救急車が一台だった。
大柄な警官がリアムを抱えてアパートから連れ出してくれた。彼は後にリアムの養父となってくれてディアスの姓名は彼のものだ。
離れた場所に停車していたパトカーに父親が押し込まれているのが見えた。
その表情はリアムが初めて目にするものだった。恐怖に怯え、後悔と怒りが入り混じっているのが小さなリアムにも何故か感じ取れた。いつも見ていた父親とは違う姿が不思議だったのを覚えている。
救急車の方を見ると担架が運ばれている。担架に乗せられているのは黒いビニールの袋だった。
誰にも説明されなかったが、なんとなくそれがエマだとわかった。
暴力と恐怖からの開放感と今までに感じたことのない程の喪失感が幼いリアムの心をかき乱していた。やがて途方もない罪悪感がリアムの心に広がっていく。
エマがああなったのは自分のせいなのだと……。
何かが飛び出たのか、急ブレーキで身体が大きく振られ、リアムは、目が覚ました。
寝ぼけ眼で運転席のフルドラの方を見た。
「もう、着いたの?」
「もうすぐよ」
フルドラは、抑揚のない声でそう言う。
「まだ寝てれば」
懐かしい言葉だった。
「何か悲しい夢でも見た?」
その言葉にリアムが自分が泣いているのに気がついた。
「これは……寝起きはいつもこんなだ」
「寝ている時から泣いていたわよ」
もう何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうからリアムは言い訳をやめた。
「リアムがどんな夢を見たのかしらないけど……」
フルドラは無表情のままで続けた。
「死者に囚われない方がいい。引きずり込まれるから」
彼女は俺が何の夢を見たのか知っているのか?
「そのひともそれは望んでいないと思うわ。リアムに悲しい想いをして欲しくはないと思う」
「俺の夢を覗いたのか?」
「私にそんな能力はない。ただ……」
フルドラがリアムの方を見る。
「なんとなくそんな気がしたの」
そう言って優しく微笑んだ。
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