黒髪の魔女は暗闇を恐れている

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8、最初の事件現場

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「お待ちしていました。さあ、行きましょうか!」
「お、おはよう。早いね」
 地下駐車場の専用車の前で待機していた僕は、タチアナさんの姿を見つけるなり大声で挨拶した。タチアナさんは予想外だったらしく、冷静を装いながらも若干動揺も見えている。作戦どおりだ。
「初仕事ですからね」
「そうか……」
 スマートキーが反応して車のドアのロックが解除される。
「ところでキミはボクの噂を聞いていないのかい?」
 運転席に乗り込みながらタチアナさんが言う。
「え? 噂?」
「ボクの噂だよ。隠れて賭けの対象になっている事も知ってるんだ」
「まあ、そんな話も聞きましたが、僕は1ヶ月以上保つ方に100ポンド賭けておきました」
「まったく……まあ、いい。ついておいで」
 タチアナさんは助手席を指をさして乗り込むように促した。僕は何かが許可されてような気がしつつ、助手席に乗り込んだ。
「これから捜査行くがその前に聞いておきたい事はあるかい?」
 シートベルトをしている最中の僕にタチアナさんが言う。
「えーと、捜査なんですが、どんな事件を扱っているんですか?」
「そうだよね。一緒に捜査を進めるなら、まずはそれを知っていないといけないな。すまなかった」
 そう言いながらエンジンをかけるタチアナさん。僕にはタチアナさんが謝罪するのが驚きだった。そういう風な人には見えなかったからだ。
「今、ボクが最優先で追っているのは、”コレクター”という連続殺人犯なんだ」
「それ、ニュースでやってましたよね。世間騒がしているシリアルキラーですね」
「ああ、だが、ユースティティア・デウスは”コレクター”をただのシリアルキラーではなく魔術師だとみている。犯行現場では死体から臓器の一部が抜き取られていて毎回、抜き取られる臓器の種類が違うんだ。そこは”コレクター”の由来だが、マスコミに圧力をかけて伏せてる事がある。死体の傍にはいつも魔術儀式を行った形跡があるんだ」
「儀式? そんな事で人を?」
「金の為に人を殺す、恨みで人を殺す、身を守る為に人を殺す。理由は様々さ。”コレクター”は儀式の為に人を殺しているんだ」
 少し間をおいた後、タチアナさんは言い直す。
「いや、違うな。儀式も殺しも目的を達成する為の手段だ。こいつが何の目的でこんな行動をとるのか突き止めたい。こんな魔術儀式をおこなうのは、とても最悪な事を企んでいるんだよ。もちろん連続殺人を止めるのも大事なんだが、こいつのしようとしている事は、もっと多くの人間に災いが降りかかるよなものに違いないんだ」
 タチアナさんは何かに知っている……というか気がついているようだった。
 深く聞いてみようとも思ったが、きっと今の僕にタチアナさんの踏み込んでいる世界の知識が足りなくて理解できないだろうと思ってやめた。
「とにかくこんな魔術儀式を続ける奴はとても危険な魔術師だろう。そいつを追うという事は、すごく危険なんだよ。それがボクのバディになるという事だ。覚悟を決めて取り組んで欲しい」
 そう言い終わると、それがスタートの合図かのようにタチアナさんを走らせ始めた。

  *  *  *  *  *

 僕らは一番新しい事件の現場に到着していた。
 そこは治安の悪い再開発地域で、夜になるとさらにたちが悪くなる。
 監視カメラも設置されておらず、何か犯罪が起こっても、見て見ぬふりが当たり前のような地域だった。
 その使われなくなった工場の中で起きたのだ。
 被害者がわからない人間の臓器の山が魔法陣の中心に山積みになっていた。同じ種類の臓器があった事から複数名の被害者のいる可能性が推測された。
 ユースティティア・デウスにこの事件の情報がもたらされたのは発見から1日後。遺留品はすべて改修。地元警察の鑑識チームも入った後だった。その後、ユースティティア・デウスが捜査に介入。現場は特殊班が封鎖し、立ち入り禁止にしてある。地元警察は渋ったが、それを説得するのはいつもの事だ。納得する説明をし、警察の回収した証拠品はすべていただいた。
「だいたいテロの可能性を言うと話が通りやすいんだ。化学兵器とかなんとか……便利な言い訳だよ」
 そう言いながらタチアナさんは車から降りる。
「OK、では行こうか」
「ふーん、ここが現場ですか。ん? なんか物騒な人たちが近づいてきますよ?」
 どこからともなくカスタムしたMP5とボディアーマーに覆面と、軍隊並みの武装をした隊員が現れた。
「タチアナ捜査官」
「どんな様子だい?」
「警官には引き上げてもらい、その後は我々が封鎖しています。中には奇妙な魔法陣が描かれています。現在、魔術鑑識チームが来るのを待っているのですが、到着がかなり遅れています」
「そう。それにしても時間がかかりすぎているんじゃないのかい?」
「どうやら、別の現場での仕事が長引いているようですね」
「そうか。なら先にボクらが現場を見させてもらいたいんだけどいいかな?」
「どうぞ、捜査官」

 僕らは特殊部隊員に案内されて建物の中に入った。
 そこは元が小さな工場だったらしく仕切りもない広い場所だった。非合法な取引にはピッタリの場所だ。
「ありがとう。後は大丈夫だ」
 タチアナさんが礼を言うと特殊部隊員は頷いて元いた持ち場に戻っていった。
「ここは暗いな……やな感じだ」
 タチアナさんが小さく呟いたのが聞こえた。
 それとなく見てみると、驚くほど怯えている。いつもの強気な姿はどこにもない。
 一瞬、もしかしたら、この人は暗いところが苦手なのかなと思ったが、有能な捜査官と言われている人に限ってそんな弱みがあるわけないだろうと思い直した。
 だが、気づかれないように横目で様子を伺うと、やはり怯えているようにしかみえない。
「どうしました?」
「いや……その……ここは暗すぎないと思わないかい?」
「たしかに暗いですね。ライトを持ってくればよかった。今から取りに行って来ましょうか?」
「いや、ちょっと待って」
 タチアナさんが指を弾くと空中に火の玉が現れて周囲を照らした。
 普通にやってみせたけど、これが魔術というやつか。
 ユースティティア・デウスの捜査官の多くは魔術が使えるらしいが、それに比べたら僕の霊感なんてささやかなものだと軽く自己嫌悪に陥る。別に死者と会話できるわけでもないし、サイコメトリーができるわけでもない。本当に、なんで俺がユースティティア・デウスにスカウトされたのかいまだに分からない。
「これで少しはマシかな……」
 そう呟いたタチアナさんの表情も、少しマシになっていた。
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