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昔話
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今から千二百年程前の話。
ある村でとても綺麗で美しい少女がいた。その少女は、美しい瑠璃色と琥珀色の瞳を持っており、その珍しく美しい瞳の色から、神の子や龍神、天女の生まれ変わりなのではないか?とも言われた。
そんな少女は、ある年の夏。超能力に目覚めた。傷を癒し、相手の心を読み、全てを見通し、そして、当時暴れ回っていた魔物を退治するなど、幅広く活躍していた。
その活躍は、瞬く間に全国の都や村に伝わり、少女へ相談や頼みごとが後を絶たなかった。
その相談の中で多かったのは、嫁に来ないか?と言うものであった。
大金を持って来るもの。上質な着物などを持って来るもの。最悪の場合、夜中に誘拐しようとする者までいた。
周りの人は、
「どうしたら、あの娘を我が家へ連れて来る事が出来るのだろうか?」
と、頭を抱えて、考えた。
そんなある日。いつものように、嫁に来て欲しいと言う者が現れた。
「息子の嫁に、来てはくれないだろうか?」
その男は、ある街で魔物退治をしている男の父親だった。
「本人は居ないのですか?」
今まで、本人と付き添いの者が来るのが、一般的であった。
すると、その父親は、
「息子は、結婚というものに興味が無く、こうして親である私が探しに来ているのです」
まさかの本人非登場にその少女は、呆気にとられた。
数秒固まった少女は、再び口を開いた。
「私も今は、結婚というものをしようとは思っていません。理由としては、この辺りにも魔物が沢山出ており、傷を癒し、魔物を退治するので忙しいのです。他の所も大変であるのは承知ですが、生まれ育ったこの村を守っていきたいのです」
「そうですか。其れは申し訳ない。そんな理由があるとは知らずに自分勝手な事を…。お恥ずかしい限りです」
その父親は、ぺこりと頭を下げて、帰って行った。
その日から一カ月程が過ぎたある日。
ある街の男がやってきた。その男は、額から汗を滝のように垂らしながら、焦った様子で少女の元へとやって来た。
「どうか、お願いです!都を助けて下さい!」
男は、土下座をしながらそう頼み込んできた。
「落ち着いて下さい。何があったのですか?」
少女は、落ち着いた声で男に聴いた。すると男は、
「失礼しました。実は昨日、京の都で、魔物が現れ、街は半壊。死者・怪我人多数と言う被害を受けました。生き残った我々は、あらゆる村などに向かい、魔物の退治をする方にこうして頼みに来た所存です」
「なるほど。分かりました。行きましょう」
少女は、早速身支度を整えて、都へと向かった。
籠に揺られながら、二日程。ようやく京の都へと着くことが出来た。
街には、魔物退治をしている地方の方たちが既に着いており、何とか魔物を食い止めていた。
「ありがとうございます。それでは行ってきます」
籠を担いでいた者に礼を言って、少女は魔物へと向かった。
「女が何しに来た!?さっさと立ち去れ!」
魔物退治をしている一人の老人が、そう言って来た。
「黙りなさい」
少女はそう言うと、十五メートル程ジャンプをすると、右手を魔物に向けた。
魔物は、先に着いた魔物退治の者たちから視線を外し、ぎょろりと少女の方を見た。
「死になさい!」
圧倒的な力であった。
魔物は呻き声を上げて、四散した。
「お嬢ちゃん。あんた一体何者なんだ?」
「ここから東の方に行った所で、魔物退治や、村人の治癒などをしている者です」
「もしかして!噂の 与那か?」
「はい。そうです」
「なるほど。そりゃあ、強い訳だ」
などと話していると、己の足から肩くらいまである大きな刀を携えた男がこちらに来た。
「なんだ…終わってしまったのか…」
「兄ちゃんも、魔物退治で呼び出されたのかい?」
「まあ、そう言うことだ。それより、何故ここに女が居るんだ?」
「居ちゃ、悪いんですか?
「ああ。足手まといになるかも知れないからな」
「んなっ!?」
与那にとって、ここまで言われたのは、初めてであった。その為、呆気にとられ、数秒、フリーズした。
「おいおい。そこまで言う事は…」
「そうだぞ!この子はなあ、与那と言われる少女で、数々の魔物退治をしておる者だ」
「与那……。はて、何処かで聞いた事のある名前だな…」
男は数秒考え、そして、
「思い出した。俺の嫁にする為に一人で行って断られた時に聞いた名前だ!」
その言葉を聞いた瞬間、あの時来た父親を思い出した。
「そう言うあなたは、なんて言う名前なのかしら?」
自分だけ名前を知られるのはあまり好きではない与那は、男に名前を聞いた。
「俺か?俺の名は、崇峰さ。いい名前じゃろう?」
ハッハッハッと笑う崇峰にイラッとしながら、村へ戻る支度をした。と言っても、特に荷作りをする事も無い。ただ、籠を運んでくれる人にその事を伝え、出来るだけ快適に過ごせる空間を作るだけなのだが。
「なんじゃ?もう帰るのか?」
「ええ。あなたみたいに暇ではありませんから」
「ワシらも帰るよ。自分たちの故郷が心配じゃからのう。じゃあな!」
「なんだよ!祝賀会は?」
「一人でやっていればいいでしょう?」
「そんな事言うなよ~」
「あー、もう!」
流石にブチ切れた。
「私には私の事情があり、他の人にも他の人の事情がある!貴方みたいに、のらりくらりと過ごしてはいないんです!貴方も故郷へと帰らなくていいのですか?心配じゃないのですか?」
勢いのままに何も知らずに、そう言い放った与那は、崇峰から言われた言葉に言葉を失った。
「心配か、心配じゃないかと言われれば、心配だ。……いや、心配だったと言うべきか」
「其れはどう言う意味?」
「ここが俺の故郷だったのさ」
与那は胸が痛くなった。
「少し前に、他の村で魔物が出たと聞いて、俺はその村へ魔物退治に向かった。しかし、着いてすぐに、その村でここの事を聞いた。俺は、急いで魔物を倒し、戻った。見てみろよ。この有様。家は無く、親父やお袋も皆んな……」
「でも、貴方。ここへ来た時にへらへらと笑って……」
「俺の親父はな、悲しい時辛い時苦しい時。いつでもどこでも笑えって、そう俺に言ってたんだ。でも、今回は……。……なあ、与那。俺はちゃんと笑えているか?」
今思い返せば、この男がここへ来た時、どこか悲しそうな、悔しそうな顔でいたような気がする。今もそうだ。
体の傷は癒せても、心の傷は癒せない。
与那がどう言おうが、最後は本人次第だ。
「さあ、どうですかね?貴方の笑顔に興味が無いので…」
まあ、この男なら大丈夫であろう。
根拠はないが、確信している。
「フッ。なるほど。そうか……。そうだよな!」
どこか吹っ切れたような声で、そう言い放った。
ほら。上手くいったようだ。
「なあ、与那」
「何ですか?」
「俺と結婚してくれ」
「はあ?」
コイツは一体何を言っているんだ?
「いきなり何を言っているのかしら?」
「何って……愛の告白?」
「死ね」
などと、話していると、東の方から誰かが走って来た。
服装からするに男であるのは、間違いない。
その者は、次第に二人に近づき、目の前で止まった。
「与那様……」
はあ…はあ…。と息を切らしながら、近づいて来た男は、与那の村の男であった。過去に傷を癒した事があるので、間違いない。
「どうしたのですか?」
「む、村が…」
「村がどうしたのですか?」
嫌な予感がした。
「与那様が出られてすぐに、魔物、約十体が村に攻めてきました」
「村に魔物が…?それでどうしたの?」
「村人総出で魔物に立ち向かっていきました。そんな中、私は村長に頼まれ、与那様にこの事を伝えるべく、こうして与那様のところまで走って来ました」
「分かりました!すぐに行きましょう」
与那は、急いで籠に乗り込んだ。
「待て!俺も連れて行け!」
「何で貴方を連れて行かなければいけないんですか?結婚なら、お断りしたはずです」
「お前は馬鹿か?」
「バ……カ……?私が馬鹿だと?」
「ああ、そうだよ。今まで、魔物の殆どが、一体ずつ。多くても三体しか現れてはいない。それが約十体もいる。これは異常だ。手伝ってやる。これでも、魔物退治をしている者だから!」
「……分かりました。では、お願いします」
「素直になったじゃないか!」
「私は今までも素直でしたよ」
「さあ、行こうか!」
崇峰はそう言うと、与那が住んでいる村へと向かった。
「遅い……」
「何ですか?何か言いましたか?」
「遅いんだよ!着いた時には間に合わなくなってしまうぞ!」
「仕方ないでしょ!私、そんなに歩けないし……」
「はあ……。これだから引きこもりは……」
「何か、言いましたか?」
「いえ、何も…。其れはそうと、本当に間に合うのか?」
「どうでしょう…」
分からない。間に合うのか、間に合わないのか。
今後ろで同じように走っている村の男曰く、与那が出てすぐに襲撃が始まったと言っていた事をふまえて、すでに二日は経っている。近隣の村から応援が来れば、何とか時間稼ぎにはなるが……。嫌な予感しかしない。
胸の辺りがぎゅーっと、痛くなる。
そんな与那の姿を見て、崇峰が再び話しかけて来た。
「はあ……。仕方ない。どっちがいい?」
「何がですか?」
「乗り心地が悪いが、急いで村に向かう方法と、乗り心地が良い今の状態か……。どっちがいい?」
「一体、何の事……」
「良いから選べ!」
「………。其れは、早く着くに越した事は無いですけど…」
「良し!決まりだ!取り敢えず、籠から降りろ!」
「え?」
「いいから!」
「ちょ、ちょっと…」
崇峰は、与那が乗っていた籠を止めて、与那を籠から出した。そして、崇峰はしゃがんだ状態で、与那に背中を向けた。
「こ、これって……もしかして…」
「早く乗れ!」
「む、無理無理無理!」
「俺みたいに間に合わなくても知らないぞ!」
「……っ!わ、分かりました」
与那は、ひょこっと、崇峰の背中に乗った。
「じゃあ、行くぞ!」
グッと、立ち上がった崇峰の背中から見た景色は、今までに見たことの無い景色であった。
「しっかり掴まっとけよ!」
崇峰にそう言われた与那は、崇峰の首元に腕を回した。
その瞬間、崇峰は走った。籠よりも、速い速度で。
後ろから村から来た男が、走って来ているが、それでもおんぶをしている崇峰の方が速かった。
まるで、馬のように。
凄い…!
与那は素直にそう思った。
これなら、夕方には着く!待ってて。村のみんな!
与那の予想は的中した。
速度を緩める事無く、走り続けた崇峰のおかげで、夕方までに村へ帰る事が出来た。出来たのは良いのだが……。
「…………嘘でしょう……」
間に合わなかった。
魔物の姿はすでに無く、地面に足跡がいくつも確認できた。
その光景に与那はがくりと地面に膝をついた。
崇峰が見たところ村は既に壊滅しており、周りには村人の死体が転がっていた。
この状況に与那は頭が真っ白になった。
「これは、酷い……」
崇峰は村を見て呟くようにそう言った。
「おーい!」
そんな時、都の方から声が聞こえた。
「アイツは……」
途中で別れた、この村の男であった。
「ようやく追いついた。お兄さん、足、速いね~!」
「日頃から鍛えているからな!其れはそうと、魔物を退治するとしよう」
「え?」
崇峰はそう言うと、この村の男の首を刎ねた。
「……ッ!?」
コロンと、男の首が地面に転がったのを確認すると、崇峰は刃先を転がった首に向けた。
「生きているんだろ?魔物よ」
「一体どう言う事?」
「見てれば分かる」
「…………くくくく。何故俺が魔物だと分かった?」
転がった首が口を開けた。
その光景を見て、崇峰はニヤリと笑い、話し始めた。
「理由は二つ。一つ目は、お前から邪悪な気配を感じた。二つ目は、行きは二日掛かったのに、帰りはたった半日ほどで村に着いた事」
「なるほど。其れは失敗した…」
魔物はそう言うと、離れた体から黒い液体のようなものを出すと、次第にその液体は鬼のような、ごつい体へと変わっていき、五メートル程まで身長が伸びると、そこで体の大きさが止まった。そして最後に、落ちた首を取ると、首が液状化し、体に首が戻った。
「惜しかった。横に斬らずに縦に斬れば、脳に致命傷を与えられ、倒せたのに……」
「…………其れは大変惜しい事をした。其れはそうと、お前。ここの村の人を殺して楽しかったか?」
崇峰の問いに魔物はニヤリと笑い、
「ええ。とても。騒ぐ村人たち。泣き叫ぶ子供。勝てもしないのに立ち向かってくる男たち。其れは其れは、とても楽しかった。……其れにしても、大変だった。必死に言葉を覚え、気づかれないように過ごし、殺す機会を伺う。これがどれ程大変だったか、貴方に分かりますか?」
「分かりたくもないな」
「しかし其れも、無駄になってしまった。あなたの所為で!」
「俺の所為だと?」
「ええ。俺の作戦は、この村で過ごし、俺に対する警戒心を下げる。その後、都で魔物が暴れていると、この村から与那を離し、その間に村人を殺し、食べる。そして、与那にこの村の状況を知らせ、帰路の途中か、この村で、与那を不意打ちで殺す。其れが俺の作戦だ」
「なるほどね…。其れで俺の父や母、この村の人が犠牲になったと………。許せねえ。許さねえぞ!クソ野朗!」
崇峰は走った。鬼のような体つきをした魔物に向かって。
「魔を断ち切れ!霊刀出雲!霊気魔斬!」
崇峰は上段から刃を振り下ろした。
スパン!と、まるで豆腐を斬るような感触で、鬼のような体つきをした魔物の右腕が吹き飛んだ。
うおおおお!と、叫ぶ魔物に崇峰は追い討ちをかけた。
今までの魔物ならこれでケリはついた。しかし、この魔物は違った。
左手で斬れた右腕を抑えながら、間一髪のところで避けたのだ。
「はあ……はあ……。危ない所だった…」
「やるじゃないか…。初めてだよ。今の攻撃を避けた魔物は…」
「俺様は、他の魔物とは違い、知能が発達している」
「なるほど。因みに、お前と同じように知能の高い魔物はいるのか?」
「ああ、いるさ。俺たちを産んでくれた母親が」
「は、母親?そんなものが、いると言うのか……」
「さて、お喋りはそこまでだ。二人には、ここで死んでもらう。さあ、弟達よ。出て来い!」
鬼のような体つきをした魔物がそう言うと、地中から筍のように五体程出てきた。
その五体も同じような鬼のような体つきをしていたが、先程の奴に比べれば、少し体が小さかった。
「六体一か……。厳しいな」
「いえ、私もいます!」
先程まで地面に膝をついていた与那が、立ち上がり、そう言った。
「もう大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。さあ、さっさとやっつけちゃいましょうか!」
「おう!」
二人の息はぴったりであった。
お互いにお互いを助けつつ、魔物を退治していき、あっという間に、最初の一匹になっていた。
「くっ…!こんな筈では…」
「俺たち人間を…」
「私たち人間を…」
「「怒らせた!其れがお前の敗因だ!」」
与那は、両の手のひらを魔物に向けた。すると、魔物はまるで紐でぐるぐる巻きにされたように体が動かなくなった。その隙に崇峰は、魔物の身長を超える程のジャンプをし、剣を上段へと上げ、魔物の脳天目掛けて、剣を一気に振り下ろした。
魔物は呻き声を一切あげる事無く、薪割りで割った薪の如く、地面へと倒れた。
「ありがとう…」
「うん?」
「一緒に付いて来てくれて…」
「俺も、コイツを倒せて良かった…」
「そうだね。コイツの所為で、都が半壊しましたですものね」
「ああ……。其れはそうと、与那。お前は、これからどうするつもりだ?」
「私は……」
与那は言葉を詰まらせた。
「……もし、お前が良ければ、俺と一緒に来ないか?」
「え?」
「嫌なら構わないんだ!俺も今は、家も失っている身。泊まる所も無ければ、お金も無い。けど……、お前と一緒なら、何だって乗り越えられる気がするんだ!って……何言ってるんだか……」
崇峰は頬を赤く染め、軽く頭をかいた。
その様子を見た与那はくすくすと笑い、
「いいですよ…。私も、今は家がありませんし、其れに……魔物の囮にも使えそうですし」
「お、囮って…」
「さあ、行きましょう!」
「行きましょうって、何処に行く気だ?行く当てでもあるのか?」
「無いですよ」
「無いって……じゃあ、何処に行くんだよ!」
「都へ行きましょう!あそこなら、色々な情報が入りますし、情報が入れば、すぐに行けるでしょ?」
「すぐに行けるって……」
「魔物退治ですよ!私たちには、それしかありませんから」
「なるほど。都で、魔物退治でやって行くって訳か!面白そうだ」
「面白そうって、貴方は都でそうやって魔物退治をしていたのでは無いのですか?」
「勘だ!直感で、魔物退治に行っていたからな!」
「………」
ハッハッハッと笑う崇峰に、与那は言葉を失った。
都に着く頃には、朝になっていた。
「とりあえず、休むとしよう」
崇峰のその提案に賛成したいところである。しかし、崇峰は普段からその辺りに寝ているのかも知れないが、与那はそんな暮らしはしていなかった。
果たして寝れるだろうか……。
寝れなかった。うとうととは来るが、すぐに目が覚めてしまう。
日は真上くらいまで上がっており、腹の虫が先程から鳴り止まない。
「おっ!起きてたのか?」
「寝れなかっただけ……」
「そうか……。其れはそうと、食と住を探さないとな」
崇峰はそう言うと、与那を背中に乗せて、都の中へと入って行った。
しかし、人の減少により、思った以上の賑わいはなかった。
「ねえ、貴方の家は何処にあったの?」
「殆どの家が壊された今、分かりにくいが、恐らくここだと思う」
崇峰が、そう言った場所に家は無く、木材が散乱していた。
「何度見ても酷い有り様だよ」
「で、どうする?ここに建てるの?」
「………」
崇峰は、与那の問いに対して、返答は無かった。そんな状況の中、後ろから声をかけられた。
「おうおう!お兄ちゃん達!ここはワシらの土地だ!欲しければ金目になるものを置いて行け!」
と、三人組の男達が話しかけて来た。
左から、色白の肌をした細身の二十代前半くらいの男。続いて右に、見た目は細身だが、筋肉は其れなりにある、こちらも二十代前半くらいのつるっ禿げの男。そして、その二人の間にいる三十代くらいの髪はボサボサ、ヒゲもボサボサのムキムキ男が、ニヤニヤしながら立っていた。
「何を言ってるんだ?ここは元々俺が住んでいた土地だ!その土地に何で俺が払わないといけないんだ?」
「へっ!そんな事も分からねぇのか?元々はお前の土地かどうかは知らないが、今はワシの土地だ!その土地が欲しければ金を払う。其れが礼儀ってもんだろ?」
「おい、おっさん!覚悟は出来ているか?」
崇峰はニコッと笑っていたが、内心はブチギレていた。
「ふん!青二才が!いくぞ!野郎ども!」
「「おう!」」
三人組の男達は、崇峰に向かっていった。
「さあ、来い!」
三体一では、流石に分が悪った。
勝てる訳が無い。
十体一ぐらいではないと…。
崇峰は、三人組に容赦なく殴り、殴り、殴った。
圧倒的だった。
「「「参りました」」」
ボコボコに殴られ、顔が腫れている三人は、崇峰に土下座した。
「少しぐらい、手加減するべきです!」
与那はそんな三人組に近づき、手のひらを向けて、治療した。
みるみると傷が治っていく。
「き、傷が治って……」
「はい!これで傷は治りましたよー」
与那はにこっと微笑みかけながら、そう言った。
「あ、あんた達は一体……」
二人の凄まじい能力と力に、呆気にとられた三人だったが、一番左に居る男が、何かを思い出したように、口を開いた。
「兄貴!どっかで見た顔だなあ、と思っていたんですが、思い出しました!こいつら……いや、この人達、魔物退治で有名な鬼狩りの崇峰と東の天女、与那ですよ」
「な、何ですか?それ?」
「俺も初めて聞いた……」
「そう言えば、そんなデカイ剣、鬼狩りの崇峰しかいねえ。そして、治癒術と片目の色が違うのも、東の天女、与那しかいねえ……。そりゃあ強い訳だ……!」
ガハッハッハッハと三十代くらいの男は、高らかに笑った。
「すまなかった!ここの土地は返す。しかし……鬼狩りのあんちゃんがここに居るのは分かるが、東の天女さんはどうしてここにいんだ?」
崇峰達は、ここ最近で起きた出来事を話した。
「なるほど。そう言うことなら、家造りは任せてくれ」
「任せるって……家をか?」
「こう見えて、ワシたち元大工だからよ!」
「しかし、俺たちお金を持っていないんだが……?」
「要らねえよ。……だが、条件がある」
「「条件?」」
崇峰と与那は顔を見合わせた。
「おう!条件ってのは、仇を討って欲しいんだ?」
「仇?って……魔物か?」
「ああ。ワシたちはここから少し南の方で住んでいたんだ。ある日、そこから少し西の方へ家を建てる仕事を済ませて帰ってみたら……」
「魔物に襲われていたのか?」
三十代くらいの男は、コクリと頷いた。
「全滅だった。ワシたちは必死にその魔物を探した。しかし、見つける事が出来なかった」
「見つける事が出来なかったって、どんな魔物なのか見たのか?」
「いいや。近くを通り過ぎた商人が、その瞬間を見ていたのを聞いただけだ」
「聞いただけで、分かる特徴でもあるのか?」
三十代くらいの男は、再びコクリと頷いた。
「その男が言うには、その魔物は山のように大きかったらしい……」
「そんな魔物は聞いた事が無い……」
「恐らくだが……今までにも出没していたが、誰かに伝える事なく、全滅した可能性がある」
「なるほど…。もしその仮説が正しければ、今回のその情報はとても貴重なモノだ」
「情報とはとても大切なモノですからね。出来るのであれば、もう少し情報が欲しいところではありますが、無いものは仕方ないので」
「……まあ、そう言うことだ。取り敢えず、あんた達に家は任せる。俺は魔物の聞き込みをする」
「私は……」
「与那は取り敢えず、休んどいてくれ。寝れて無いんだろ?」
「そうだけど……」
「与那さん!取り敢えず、簡易の寝床を作っておいたので、ここでお休み下さい!」
いつの間に作ったのか、何も無い地面に寝床のようなモノが作られていた。
「あ、ありがとうございます……」
与那は取り敢えず、横になった。
あれ?思ったより悪くないかも……。
と、思ったのも束の間、気が付けば夜になっていた。
その景色に驚いた与那は、飛び起きた。
「よう。よく寝れたか?」
崇峰は、焚き火に木を入れながら、そう言ってきた。
「うん……。お陰様で」
「其れは良かった」
「あの三人は?」
「横で寝ているだろ?」
崇峰にそう言われて、隣を見た。
人、三人分程の隙間を空けて、いびきをかきながら、其れは其れはとても気持ち良さそうな寝顔であった。
「其れより見てくれよ!」
崇峰は、南の方を指差すと、与那はそちらの方へ視線を向けた。
「え?凄い!」
腕は確かであった。壊れた家の木材で、家の基礎が出来上がっていた。
「これでも、半分程らしい」
「完成まで?」
「いや、家の大きさが」
「下手をすれば、貴族の家よりも大きくなっちゃうんじゃ……」
「かもな。でも、これくらい無いと……」
「何か不便な事があるの?」
「其れは…………」
崇峰は、夜空を数秒見上げると、「よし!」と何か覚悟を決めたように、与那の方を見た。
「なあ、与那」
「うん?」
崇峰は真剣な表情で、口を開けた。
「俺と夫婦になってくれないか?」
「はあ?」
「俺は一度断られただけでは、引かないぜ」
「その根性はすごいわ…」
「で、どうだ?」
「……か、考えておいてあげる。返事は、この三人が言っていた魔物を倒してからね!其れまで、死なないでよ?」
「了解です!」
「じゃ、おやすみ」
「また寝るのかよ!」
「う・る・さ・い!」
そう言った与那の顔は、どこか嬉しそうな表情であった。
「ああ。おやすみ」
崇峰は、呟くようにそう言うと、眠りについた。
翌日。一番早く起きたのは、与那であった。
「寒っ!」
焚き火の炎は消えて、辺りは放射冷却で冷え込んでいた。
「どうやって、つけるのだろう?」
火のつけ方が分からない与那は、試行錯誤を繰り返し、火がつくように頑張った。しかし……
「ダメ。全然つかない…」
与那は火をつけるのを諦め、誰かが起きるのを待った。
次に起きたのは、三十代くらいの男であった。
「おはようございます、与那さん。早いのぅ…」
「おはようございます!起きてすぐのところすみませんが、火を起こして貰えないでしょうか?」
「いいですぜ」
起きてすぐだったが、三十代くらいの男は、慣れた手つきで火を起こした。
「ありがとうございます!そう言えば、名前を聞いて無かったですね」
「ワシの名は、千吉。こっちの色白の男が、圭。そして、もう一人が貞って言うんだ」
「皆さん、いいお名前……」
ゾクッ!体が震えた。
寒さの所為では無い。
圧倒的な恐怖によるものであり、その恐怖は、北の方角から感じた。
そして、その圧倒的な恐怖は、都中の人々の他、その周囲に及んだ。
「一体何が起きている?」
流石の負の力に、崇峰は飛び起きて、与那に問うた。
「分からない。けど、今までとは明らかに違う……」
「恐らくワシらの村を破壊したモノだろう」
「その可能性が高いな……。にしても、ゆっくりだが、近づいてきているな」
「ええ。あと、約十里くらいでしょうか?」
「多分、それくらいだろう……。恐らく、今近づいてきている魔物は、この前倒した魔物の母親のような存在だろう」
「魔物に母親のような存在だと……?そんなモノが……」
「この前倒した魔物が、そう言っていた。そして、その時にその魔物はこう言っていた。『与那を不意打ちで殺す』と。その作戦が失敗し、今度は魔物の親玉が直々に与那を殺しに来たと、俺はそう考えている」
「しかし、何故私を殺すのでしょうか?同胞を殺されたから?それとも、邪魔だから?」
「それか、その両方か……。いずれにせよ、迎え撃たなければならないが、ここはマズイ。折角造ってくれている家を壊されては困るからな!」
「と言うことは、向かうって事?」
「そうだ。与那は行くだろ?」
「もちろん」
「お前たちは、どうする?」
「ワシたちも行く!その魔物の姿、そして、倒されるところを、見てみたい!勿論、邪魔をするつもりはない!」
「了解!それじゃあ、行くぞ」
崇峰を先頭に、男達は走り出した。
今回も、与那は崇峰の後ろにしがみ付いている。
「もし、この戦いで山のように大きな魔物を倒せたなら、魔物の出没は減り、後世に安寧をもたらすと、私は考えます。故に、この戦いは絶対に勝たないといけません!」
与那のその一言は、この場にいる全員の士気を上げた。
二時間ほど走ると、目の前にその辺りの山を越えるくらいの大きさの魔物が現れた。
距離にしてまだ少しあるが、それでも大きいのは、一目見れば分かる。
そんな魔物の姿は、黒く大きく、蹴鞠のような形をしており、何本もの触手がうねうねと動いている。そんな触手の間に、目が沢山あり、色んな方向を見ていた。
「気持ち悪!」
「全く同じ感想だ」
「ワシも同感だ。しかしアイツ、あそこで一体何をしているんだ?」
さっきまで向かってきた魔物が、進むのをやめ、その場にとどまっている姿を見た千吉は、ぼそりと呟くように、そう言った。
「……俺の記憶が正しければ、あそこに村があったはずだ」
「つまり、村を破壊しているって事?」
「その可能性がある」
「じゃあ、すぐに助けに行かなくては……」
「いや、このままここで待機して、アイツが来るのを待つ!」
「は?つまり、あの村の人は見殺しにするって事?」
「……残念だが、あの村の人達は誰もいない」
「なんで、そんな事が分かるのよ?」
「見えているからだ」
見えているとは、どう言う事なのだろうか?と、与那の頭の中では疑問が出てきた。
「俺の目は他の人とは違って、遠くにいる魔物たちがはっきりと見える。この前、都で与那が倒したのも見えていた」
それが本当ならば、凄い能力である。
「其れはそうと、与那。あの魔物を与那の力で溶かす事は可能なのか?」
「溶かすって……。出来れば、成仏するとか、言い方があるでしょう!」
「分かった、分かった。で、出来るのか?」
「やってみないと分からない。あの大きさは初めてだから」
「そうか……。だったら、俺がアイツの体を斬って、その……成仏?をする事は可能か?」
「恐らく、可能だと思う」
「よし!其れに賭けよう。取り敢えず、あの魔物がこちらに近づいて来るのを待つ。そして、近づいて来たところを俺の霊刀出雲で斬る。そして、与那が斬った所を消し去る」
「分かった。それでいきましょう」
「千吉達はどうする?」
「正直、あの大きさを見たら腰が抜けちまって、戦えそうでは無い。故に、お二人さんに任せたい」
千吉のその言葉に、両サイドの圭と貞は、コクン、コクンと頷いた。
「了解した。三人はここから少し離れてくれ!与那は、ここで俺と待ち伏せだ。じゃあ、作戦開始だ!」
結論から言うと、崇峰の作戦は成功した。
「霊気魔斬!」
崇峰が魔物の一部を斬ると、与那が…
「神力魔殺!」
その部分を消した。
二人の息の合った戦いは、夕方まで続いた。
元の大きさの十分の一程まで削り切った魔物は、これはマズイ!と体に溜めていた負のエネルギーを周囲にだした。まるで、タコが墨を吐いて逃げるように。
だが、与那達も馬鹿では無い。
崇峰は、目で魔物を見つけ、与那に距離と方角を教えた。
「与那から北北東の距離、約半町と二丈!」
「任せて!魔物よ、これで終わり!神力魔殺!」
手応えはあった。
「どう?」
「四散した…」
「という事は、これで私たちの勝利ってことね!」
「そういう事だ」
二人はあまりの疲労にその場に座った。
「おーい!お二人さん!大丈夫か?」
数分後、逃げていた千吉達が現れた。
「すまないが、俺たちを運んでもらえないだろうか?」
「任せな!ちゃんと家まで送っていくよ!」
二人は、千吉らの背中に乗せられ、中途半端な家へと戻った。
それから三年程過ぎたある日。
残党狩りをしていた崇峰のところに、千吉が走ってきた。
「千吉!どうした?」
「与那さんが、もうそろそろ……」
「な、なんだって!」
「急ぎましょう!」
「お、おう」
崇峰は、千吉と共に家へと戻った。
「与那!」
勢いよく開けた扉の先には、可愛い可愛い赤ちゃんを抱いた与那の姿が、そこにはあった。
「無事に生まれてきて良かった!」
「大袈裟よ。其れより、この子の名前はどうする?」
「実は、考えてあるんだ。男の子なら、常義。女の子なら、伊予。どうだ?」
「そうね……。いいんじゃないかな?じゃあ、子の名前は、伊予ね!」
「女の子か!これはお母さん譲りのべっぴんさんになるぞ!」
「やめてよ!恥ずかしい!」
「あの……ワシらにも見せて欲しいんだが…」
「ええ、どうぞ!」
「ほう!可愛いのう」
すーすーと寝ている姿に、その場にいた全員が癒された。
そんな赤ちゃんを眺めていると、いきなり、泣き始めた。
「うん?どうしたの?いい子だから…」
ゾクッ!
「この感じは……」
「ああ、間違いない。あの魔物だ!」
「でもあの時、倒したはずよね……」
「ああ。俺はこの目でちゃんと見た。アイツが四散するところを……」
だが、其れは崇峰の見間違いであった。
魔物は最後の最後に、己の体を形成する核を外に吐き出し、体は四散。核を外へと出した魔物は、少しずつ負のエネルギーを周囲から集めていき、全盛期の大きさの半分くらいまで回復させた。
そんな事は知らない崇峰は、霊刀出雲を持ち、外へ飛び出した。
「すみません。この子と共に少し離れたところへお願いします!」
与那は、生まれたばかりの赤ちゃんを千吉に預けた。
「もしかして、与那さん。倒しに行くのですか?」
「……そうです!あの魔物を倒さないと、この子が安心して暮らせませんから!」
「しかし、今のあなたは、出産で体力を…」
「大丈夫です!ですから、伊予をお願いします!」
「……分かりました!どうか、お気をつけて!」
千吉は、伊予を抱え、裏口から離れて行った。
与那は、一歩一歩と歩くと、崇峰の居る外へと出た。
「与那!?どうして逃げなかった!」
「あなた一人であの魔物には勝てないからよ……」
「馬鹿か!そんな体力で、何が出来るって言うんだよ!」
「あら?あなたは知らないようね。母になった私の強さを!」
「………」
「兎に角、任せなさい!」
「分かったよ。しかし、無理はするな!」
「了解!で、どうやって倒す予定で?」
「斬っても奴はすぐに回復する。故に消滅させなければいけないが……何回程使える?」
「さあ……?三回程じゃ無いかな?」
「三回か……」
以前の戦いで十回以上は消滅させた敵に、以前の半分くらいの大きさとは言え、三回とは酷なものであった。
一発も無駄には出来ない。
崇峰は、何か良い方法はないのか、思考を巡らせた。だが……
「クソッ!良い方法がない!」
崇峰は、複数ある目を睨んだ。すると、
「何だ?アレは?」
魔物の中で、何が動き回っているのを発見した。
「どうしたの?」
「いや、あの魔物の中で動き回っているのは、何だろうな?って思ってよ…」
「魔物の中で動き回っているもの?」
「見えないのか?」
「全然」
「ほら、今右上の方に。今度は左下だ」
「……もしかして、それって……アイツの弱点なんじゃ無いかな?」
「弱点?」
「うん。もしかしたら、他の魔物にもあったのかも知れないけど、その動き回っているものに攻撃を与えれば倒せるかも知れない…。逆に、アレに当たらなければ、倒せない……とか?」
「それなら説明がつく。アイツは最後の最後に、あの動き回っているものを体から離して、死を免れたとすれば……こうして元に戻る事ができる」
与那は、コクンと頷いた。
「そうと決まれば、俺がアレを斬りに行く。与那はここで待っててくれ」
崇峰はそう言うと、魔物に向かって走り出した。
「………出来れば、私も行きたいんだけど……どうも体が動かないや」
与那はその場にぺたんと座り込んだ。
「頑張って……」
崇峰の背中を見ながら、呟くようにそういった。
「うおおおおお!」
崇峰は、雄叫びを上げながら、魔物に斬りかかった。
「チッ!外した……」
動き回っている核を目掛けて、斬りかかろうとする崇峰だが、あまりの速さに、刃が当たらない。
「クソッ!」
体が大きい分、逃げるところも大きい。しかも、核の大きさが一寸程しか無い為、余計に難しい。
与那に助けを……いや、駄目だ。さっき、三回程なら能力を使えると言っていたが、恐らく俺の見た感じ、一発が限度だろう。故にここで俺が倒さなければ、この国は滅びてしまうだろう。
そう言えば、与那は……。
「ッ!?」
先程まで座っていた与那は、地面に倒れていた。
「与那!」
崇峰は急いで、与那の元へと向かった。
「だ、大丈夫か?」
「うん……。大丈夫。ちょっと疲れただけ……」
「……………」
崇峰は少し与那を見つめた後、抱き抱えた。
「えっ?え?」
そして、走り出した。
「一旦ここから離れる。それまで、出来るだけ体力を回復させておけ!」
「一旦ここから離れるって、どこに行くつもりなの?」
「海の方さ。あそこなら、人が少ないからな」
崇峰は走った。その後ろを魔物が、触手を足のように動かして、追ってきた。
「予想通りだ」
「予想通りって?」
「……俺はずっと考えてた。三年前からずっと。アイツやその他の魔物の目的は、お前を殺す事だ」
「……でしょうね」
「でしょうねって、分かってたのか?」
「当たり前!三年前に一緒に村で倒した奴が言っていたでしょ?私を不意打ちでもいいから殺すと。アイツや今追って来ているコイツ、そしてそれ以外の魔物たち全て、私を殺し、この世を手に入れる…。そんなところでしょう」
「膨大な力がある与那が一番弱っているこの時を密かに待っていたってところか……」
与那はコクリと頷いた。
「全く、腹立たしい!俺の嫁が弱っているこんな時に来るとは……!」
と言ったものの、そんな事を言っても仕方ない。
崇峰は、両足に力を込めて、更に速度を上げた。
「ん?この匂いは……」
走る事数時間。崇峰は微かな磯の香りを感じ取った。
正直、何処を走っているのか分からない。だが、この先に海があるのは間違いない。
更に磯の香りが増して来た。
近い!
崇峰は、落ちて来たペースを上げた。
そして、ついに海へと着いた。
「海、初めて見ました…」
与那は目を輝かせながら、崇峰の背中から海を眺めた。
「すまんが、海を眺めるのは後だ」
崇峰は、ゴツゴツとした切り立った磯に与那を下ろした。
「さあ、来るぞ!」
崇峰たちが着いて数分後、魔物が姿を現した。
「しつこいなぁ。……仕方ない。与那を戦わせる訳にはいかないんで、俺は本気を出して、お前を倒す」
崇峰はそう言うと、出雲を切り立った磯にぶっ刺した。
「覚悟しろよ。………神力!」
崇峰はそう叫ぶと、身体中に力を込めた。
すると筋肉が膨れ、崇峰の身体が一回り大きくなった。
その状態の崇峰は、ぶっ刺していた霊刀出雲を右手で掴み取り、引き抜いた。そして、出雲も背中の方へと持っていき、バランスを取る為に左手を前に突き出し、左足は前に、右足は後ろに、腰は中腰の姿勢になった。
その型でいる事、数秒。崇峰は右足に力を込めた。
「神速!」
与那には見えなかった。あっという間に魔物との間合いを詰めた崇峰の姿が。そして、
「神斬り!」
魔物の前でそう叫んだ崇峰は、後ろに構えていた出雲で、魔物を斬った。たった一秒の間に二十回もの斬撃を。だが、
「畜生!当たらない……」
思った以上に、複数ある目が厄介であった。
と言うのも、複数ある目で崇峰の超人的スピードを捉えたのだ。
一瞬にして、間合いを詰められた魔物は崇峰のスピードに驚いたが、すぐさま冷静さを取り戻し、中の核を動かし、回避することに成功した。
其れを分かっていても、崇峰は手を止めなかった。斬り続けていた。
あと、少し……。
再生能力以上の速度で切り続ける崇峰に、魔物は焦っていた。
ゆっくり、じわじわと核の動ける範囲が狭まってきたのだ。
そんな魔物は、一旦体の再生するのをやめた。
それが魔物にとって、都合が良かった。魔物は、再生するのをやめる代わりに、思考能力を上げた。
その瞬間、魔物は棋士のように数手先を読んだ。そして、其れによりこの状態の打破に成功した。
作戦は簡単だ。
体に酷な神技は、崇峰の体力をどんどんと減らし、神斬りの速度が低下。更に、核への意識集中に他への意識が散漫に。故に、斬られた体で、崇峰を攻撃すれば、この危機は打破出来る。
「ぐはっ!」
斬った体から触手が飛び出し、崇峰の横腹に命中した。
勝った。魔物は、勝利を確信した。その瞬間、殺気を感じた。
この男からでは無い。となると……
「与那!やっちまえーーー!!!」
「神力魔殺!」
し、しまった……!
魔物の体中にある目が、核の方へと向いた。その時、横から何が飛んでくるのが、見えた。数個の目が、その物体に視線を向ける。
よく来た!我が子よ……。
小さい魔物が、デカい魔物の核を守った。
小さい魔物は四散し、跡形も無く消し去り、魔物は止めていた再生能力を再び開始し、体を元に戻した。
一方与那と崇峰は、能力の使い過ぎで、その場に倒れ、魔物が元の姿に戻るのをただただ見ていた。
「クソ!クソ!クソ!クソ!完全に戻りやがった!」
「…………」
「……一体どうすればいいんだ……」
「……これしか思いつきません。崇峰……。伊予を頼みます」
与那はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、魔物の方へと歩いて行った。
「おい!其れはどう言う意味だよ!」
意味が分からない崇峰は、そう叫んだ。身体が動かない今、其れしか出来なかった。
嫌な予感しかしない。
崇峰の心に不安、恐怖、そして愛おしさで胸が痛くなった。
崇峰は分かっていた。この時点で。与那が自らの命をかけて、アイツを倒す事を。
「魔物よ!貴方をここで封印します!」
与那はそう言うと、手を合わせた。
「木・火・土・金・水の守護者たちよ!私に力を!」
すると、与那の周りに見たことのない人のような、……正確には人影のような白い、半透明の者が五人現れた。
その者達は、魔物へと向かって行ったと思いきや、魔物から逸れ、一人は対角線に。一人は与那から見て三十度右側に。一人は、その対角線に。一人は与那から見て三十度左側に。そしてもう一人は、その対角線に配置した。
其れは、六芒星の頂点と同じ位置に。
「そこに私の霊力を加えて……六芒星封緘!」
与那がそう叫ぶと、魔物の足元に六芒星が現れた。
そして、その六芒星は光輝き、それぞれの頂点にいる者達から、まるでリボンのような紐状のモノが魔物の体を拘束した。
其れは次から次へと出て行き、次第に魔物の姿は、紐状のものに巻き付かれて見えなくなった。
「出来れば、貴方を倒したかったですが、今の私にはこれしか出来ません」
与那は魔物に近づきそう言った。
「ですから、貴方を倒す者が現れるまで、貴方を海へ封印させて頂きます」
与那は、とんっと、軽く紐状に巻き付かれた魔物に触れ、海に落とした。
ザバーンと水飛沫を上げて、海に落とす事に成功した与那は、膝から崩れ落ちた。
「与那!」
その光景を見た崇峰は、動かない体に鞭を打って、ゆっくりだが、与那に近づいた。
「与那……」
やっとの思いで与那の元へと辿り着いた崇峰は、与那を抱き抱えた。
その時には既に与那は息絶えていた。
「うわあああああああ!」
崇峰は叫んだ。与那を抱えたまま。
「これが、お前たちが戦った魔物だ。そして、其れと戦った者たちの話だ」
「………何と言うか、悲しい話だ」
「そう言う考え方もあるな。けど俺は、素晴らしい話だと思う。誰かを助けたい。自分を犠牲にしてまで守りたいと思うその意思は、神には無いからな」
コイツの言う事も一理あるかも知れない。
「其れはそうと、俺が見た魔物とは姿が違うんだが?」
「簡単な話だ。封印が解かれて間もない為、体の形成がされていないからだ」
「なるほど。あの魔物についてもう一つ聞きたい事があるんだが?」
「何だ?」
「魔物の正体は、一体何者なんだ?」
「さっきも言ったろ?負のエネルギーの塊さ。恐怖、絶望、妬み、恨み。そう言ったものの集まりさ。この話は、これから話す事と大きく関わってくるから、覚えておいてくれ。さて、そろそろ昔話第二章へと進むが、大丈夫か?」
「大丈夫だ!問題無い!」
「もし、疲れたら言ってくれ。少し休憩を取るからよ」
「了解」
「さて、では始めよう。昔話第二章、六霊夜奈のお話だ」
ある村でとても綺麗で美しい少女がいた。その少女は、美しい瑠璃色と琥珀色の瞳を持っており、その珍しく美しい瞳の色から、神の子や龍神、天女の生まれ変わりなのではないか?とも言われた。
そんな少女は、ある年の夏。超能力に目覚めた。傷を癒し、相手の心を読み、全てを見通し、そして、当時暴れ回っていた魔物を退治するなど、幅広く活躍していた。
その活躍は、瞬く間に全国の都や村に伝わり、少女へ相談や頼みごとが後を絶たなかった。
その相談の中で多かったのは、嫁に来ないか?と言うものであった。
大金を持って来るもの。上質な着物などを持って来るもの。最悪の場合、夜中に誘拐しようとする者までいた。
周りの人は、
「どうしたら、あの娘を我が家へ連れて来る事が出来るのだろうか?」
と、頭を抱えて、考えた。
そんなある日。いつものように、嫁に来て欲しいと言う者が現れた。
「息子の嫁に、来てはくれないだろうか?」
その男は、ある街で魔物退治をしている男の父親だった。
「本人は居ないのですか?」
今まで、本人と付き添いの者が来るのが、一般的であった。
すると、その父親は、
「息子は、結婚というものに興味が無く、こうして親である私が探しに来ているのです」
まさかの本人非登場にその少女は、呆気にとられた。
数秒固まった少女は、再び口を開いた。
「私も今は、結婚というものをしようとは思っていません。理由としては、この辺りにも魔物が沢山出ており、傷を癒し、魔物を退治するので忙しいのです。他の所も大変であるのは承知ですが、生まれ育ったこの村を守っていきたいのです」
「そうですか。其れは申し訳ない。そんな理由があるとは知らずに自分勝手な事を…。お恥ずかしい限りです」
その父親は、ぺこりと頭を下げて、帰って行った。
その日から一カ月程が過ぎたある日。
ある街の男がやってきた。その男は、額から汗を滝のように垂らしながら、焦った様子で少女の元へとやって来た。
「どうか、お願いです!都を助けて下さい!」
男は、土下座をしながらそう頼み込んできた。
「落ち着いて下さい。何があったのですか?」
少女は、落ち着いた声で男に聴いた。すると男は、
「失礼しました。実は昨日、京の都で、魔物が現れ、街は半壊。死者・怪我人多数と言う被害を受けました。生き残った我々は、あらゆる村などに向かい、魔物の退治をする方にこうして頼みに来た所存です」
「なるほど。分かりました。行きましょう」
少女は、早速身支度を整えて、都へと向かった。
籠に揺られながら、二日程。ようやく京の都へと着くことが出来た。
街には、魔物退治をしている地方の方たちが既に着いており、何とか魔物を食い止めていた。
「ありがとうございます。それでは行ってきます」
籠を担いでいた者に礼を言って、少女は魔物へと向かった。
「女が何しに来た!?さっさと立ち去れ!」
魔物退治をしている一人の老人が、そう言って来た。
「黙りなさい」
少女はそう言うと、十五メートル程ジャンプをすると、右手を魔物に向けた。
魔物は、先に着いた魔物退治の者たちから視線を外し、ぎょろりと少女の方を見た。
「死になさい!」
圧倒的な力であった。
魔物は呻き声を上げて、四散した。
「お嬢ちゃん。あんた一体何者なんだ?」
「ここから東の方に行った所で、魔物退治や、村人の治癒などをしている者です」
「もしかして!噂の 与那か?」
「はい。そうです」
「なるほど。そりゃあ、強い訳だ」
などと話していると、己の足から肩くらいまである大きな刀を携えた男がこちらに来た。
「なんだ…終わってしまったのか…」
「兄ちゃんも、魔物退治で呼び出されたのかい?」
「まあ、そう言うことだ。それより、何故ここに女が居るんだ?」
「居ちゃ、悪いんですか?
「ああ。足手まといになるかも知れないからな」
「んなっ!?」
与那にとって、ここまで言われたのは、初めてであった。その為、呆気にとられ、数秒、フリーズした。
「おいおい。そこまで言う事は…」
「そうだぞ!この子はなあ、与那と言われる少女で、数々の魔物退治をしておる者だ」
「与那……。はて、何処かで聞いた事のある名前だな…」
男は数秒考え、そして、
「思い出した。俺の嫁にする為に一人で行って断られた時に聞いた名前だ!」
その言葉を聞いた瞬間、あの時来た父親を思い出した。
「そう言うあなたは、なんて言う名前なのかしら?」
自分だけ名前を知られるのはあまり好きではない与那は、男に名前を聞いた。
「俺か?俺の名は、崇峰さ。いい名前じゃろう?」
ハッハッハッと笑う崇峰にイラッとしながら、村へ戻る支度をした。と言っても、特に荷作りをする事も無い。ただ、籠を運んでくれる人にその事を伝え、出来るだけ快適に過ごせる空間を作るだけなのだが。
「なんじゃ?もう帰るのか?」
「ええ。あなたみたいに暇ではありませんから」
「ワシらも帰るよ。自分たちの故郷が心配じゃからのう。じゃあな!」
「なんだよ!祝賀会は?」
「一人でやっていればいいでしょう?」
「そんな事言うなよ~」
「あー、もう!」
流石にブチ切れた。
「私には私の事情があり、他の人にも他の人の事情がある!貴方みたいに、のらりくらりと過ごしてはいないんです!貴方も故郷へと帰らなくていいのですか?心配じゃないのですか?」
勢いのままに何も知らずに、そう言い放った与那は、崇峰から言われた言葉に言葉を失った。
「心配か、心配じゃないかと言われれば、心配だ。……いや、心配だったと言うべきか」
「其れはどう言う意味?」
「ここが俺の故郷だったのさ」
与那は胸が痛くなった。
「少し前に、他の村で魔物が出たと聞いて、俺はその村へ魔物退治に向かった。しかし、着いてすぐに、その村でここの事を聞いた。俺は、急いで魔物を倒し、戻った。見てみろよ。この有様。家は無く、親父やお袋も皆んな……」
「でも、貴方。ここへ来た時にへらへらと笑って……」
「俺の親父はな、悲しい時辛い時苦しい時。いつでもどこでも笑えって、そう俺に言ってたんだ。でも、今回は……。……なあ、与那。俺はちゃんと笑えているか?」
今思い返せば、この男がここへ来た時、どこか悲しそうな、悔しそうな顔でいたような気がする。今もそうだ。
体の傷は癒せても、心の傷は癒せない。
与那がどう言おうが、最後は本人次第だ。
「さあ、どうですかね?貴方の笑顔に興味が無いので…」
まあ、この男なら大丈夫であろう。
根拠はないが、確信している。
「フッ。なるほど。そうか……。そうだよな!」
どこか吹っ切れたような声で、そう言い放った。
ほら。上手くいったようだ。
「なあ、与那」
「何ですか?」
「俺と結婚してくれ」
「はあ?」
コイツは一体何を言っているんだ?
「いきなり何を言っているのかしら?」
「何って……愛の告白?」
「死ね」
などと、話していると、東の方から誰かが走って来た。
服装からするに男であるのは、間違いない。
その者は、次第に二人に近づき、目の前で止まった。
「与那様……」
はあ…はあ…。と息を切らしながら、近づいて来た男は、与那の村の男であった。過去に傷を癒した事があるので、間違いない。
「どうしたのですか?」
「む、村が…」
「村がどうしたのですか?」
嫌な予感がした。
「与那様が出られてすぐに、魔物、約十体が村に攻めてきました」
「村に魔物が…?それでどうしたの?」
「村人総出で魔物に立ち向かっていきました。そんな中、私は村長に頼まれ、与那様にこの事を伝えるべく、こうして与那様のところまで走って来ました」
「分かりました!すぐに行きましょう」
与那は、急いで籠に乗り込んだ。
「待て!俺も連れて行け!」
「何で貴方を連れて行かなければいけないんですか?結婚なら、お断りしたはずです」
「お前は馬鹿か?」
「バ……カ……?私が馬鹿だと?」
「ああ、そうだよ。今まで、魔物の殆どが、一体ずつ。多くても三体しか現れてはいない。それが約十体もいる。これは異常だ。手伝ってやる。これでも、魔物退治をしている者だから!」
「……分かりました。では、お願いします」
「素直になったじゃないか!」
「私は今までも素直でしたよ」
「さあ、行こうか!」
崇峰はそう言うと、与那が住んでいる村へと向かった。
「遅い……」
「何ですか?何か言いましたか?」
「遅いんだよ!着いた時には間に合わなくなってしまうぞ!」
「仕方ないでしょ!私、そんなに歩けないし……」
「はあ……。これだから引きこもりは……」
「何か、言いましたか?」
「いえ、何も…。其れはそうと、本当に間に合うのか?」
「どうでしょう…」
分からない。間に合うのか、間に合わないのか。
今後ろで同じように走っている村の男曰く、与那が出てすぐに襲撃が始まったと言っていた事をふまえて、すでに二日は経っている。近隣の村から応援が来れば、何とか時間稼ぎにはなるが……。嫌な予感しかしない。
胸の辺りがぎゅーっと、痛くなる。
そんな与那の姿を見て、崇峰が再び話しかけて来た。
「はあ……。仕方ない。どっちがいい?」
「何がですか?」
「乗り心地が悪いが、急いで村に向かう方法と、乗り心地が良い今の状態か……。どっちがいい?」
「一体、何の事……」
「良いから選べ!」
「………。其れは、早く着くに越した事は無いですけど…」
「良し!決まりだ!取り敢えず、籠から降りろ!」
「え?」
「いいから!」
「ちょ、ちょっと…」
崇峰は、与那が乗っていた籠を止めて、与那を籠から出した。そして、崇峰はしゃがんだ状態で、与那に背中を向けた。
「こ、これって……もしかして…」
「早く乗れ!」
「む、無理無理無理!」
「俺みたいに間に合わなくても知らないぞ!」
「……っ!わ、分かりました」
与那は、ひょこっと、崇峰の背中に乗った。
「じゃあ、行くぞ!」
グッと、立ち上がった崇峰の背中から見た景色は、今までに見たことの無い景色であった。
「しっかり掴まっとけよ!」
崇峰にそう言われた与那は、崇峰の首元に腕を回した。
その瞬間、崇峰は走った。籠よりも、速い速度で。
後ろから村から来た男が、走って来ているが、それでもおんぶをしている崇峰の方が速かった。
まるで、馬のように。
凄い…!
与那は素直にそう思った。
これなら、夕方には着く!待ってて。村のみんな!
与那の予想は的中した。
速度を緩める事無く、走り続けた崇峰のおかげで、夕方までに村へ帰る事が出来た。出来たのは良いのだが……。
「…………嘘でしょう……」
間に合わなかった。
魔物の姿はすでに無く、地面に足跡がいくつも確認できた。
その光景に与那はがくりと地面に膝をついた。
崇峰が見たところ村は既に壊滅しており、周りには村人の死体が転がっていた。
この状況に与那は頭が真っ白になった。
「これは、酷い……」
崇峰は村を見て呟くようにそう言った。
「おーい!」
そんな時、都の方から声が聞こえた。
「アイツは……」
途中で別れた、この村の男であった。
「ようやく追いついた。お兄さん、足、速いね~!」
「日頃から鍛えているからな!其れはそうと、魔物を退治するとしよう」
「え?」
崇峰はそう言うと、この村の男の首を刎ねた。
「……ッ!?」
コロンと、男の首が地面に転がったのを確認すると、崇峰は刃先を転がった首に向けた。
「生きているんだろ?魔物よ」
「一体どう言う事?」
「見てれば分かる」
「…………くくくく。何故俺が魔物だと分かった?」
転がった首が口を開けた。
その光景を見て、崇峰はニヤリと笑い、話し始めた。
「理由は二つ。一つ目は、お前から邪悪な気配を感じた。二つ目は、行きは二日掛かったのに、帰りはたった半日ほどで村に着いた事」
「なるほど。其れは失敗した…」
魔物はそう言うと、離れた体から黒い液体のようなものを出すと、次第にその液体は鬼のような、ごつい体へと変わっていき、五メートル程まで身長が伸びると、そこで体の大きさが止まった。そして最後に、落ちた首を取ると、首が液状化し、体に首が戻った。
「惜しかった。横に斬らずに縦に斬れば、脳に致命傷を与えられ、倒せたのに……」
「…………其れは大変惜しい事をした。其れはそうと、お前。ここの村の人を殺して楽しかったか?」
崇峰の問いに魔物はニヤリと笑い、
「ええ。とても。騒ぐ村人たち。泣き叫ぶ子供。勝てもしないのに立ち向かってくる男たち。其れは其れは、とても楽しかった。……其れにしても、大変だった。必死に言葉を覚え、気づかれないように過ごし、殺す機会を伺う。これがどれ程大変だったか、貴方に分かりますか?」
「分かりたくもないな」
「しかし其れも、無駄になってしまった。あなたの所為で!」
「俺の所為だと?」
「ええ。俺の作戦は、この村で過ごし、俺に対する警戒心を下げる。その後、都で魔物が暴れていると、この村から与那を離し、その間に村人を殺し、食べる。そして、与那にこの村の状況を知らせ、帰路の途中か、この村で、与那を不意打ちで殺す。其れが俺の作戦だ」
「なるほどね…。其れで俺の父や母、この村の人が犠牲になったと………。許せねえ。許さねえぞ!クソ野朗!」
崇峰は走った。鬼のような体つきをした魔物に向かって。
「魔を断ち切れ!霊刀出雲!霊気魔斬!」
崇峰は上段から刃を振り下ろした。
スパン!と、まるで豆腐を斬るような感触で、鬼のような体つきをした魔物の右腕が吹き飛んだ。
うおおおお!と、叫ぶ魔物に崇峰は追い討ちをかけた。
今までの魔物ならこれでケリはついた。しかし、この魔物は違った。
左手で斬れた右腕を抑えながら、間一髪のところで避けたのだ。
「はあ……はあ……。危ない所だった…」
「やるじゃないか…。初めてだよ。今の攻撃を避けた魔物は…」
「俺様は、他の魔物とは違い、知能が発達している」
「なるほど。因みに、お前と同じように知能の高い魔物はいるのか?」
「ああ、いるさ。俺たちを産んでくれた母親が」
「は、母親?そんなものが、いると言うのか……」
「さて、お喋りはそこまでだ。二人には、ここで死んでもらう。さあ、弟達よ。出て来い!」
鬼のような体つきをした魔物がそう言うと、地中から筍のように五体程出てきた。
その五体も同じような鬼のような体つきをしていたが、先程の奴に比べれば、少し体が小さかった。
「六体一か……。厳しいな」
「いえ、私もいます!」
先程まで地面に膝をついていた与那が、立ち上がり、そう言った。
「もう大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。さあ、さっさとやっつけちゃいましょうか!」
「おう!」
二人の息はぴったりであった。
お互いにお互いを助けつつ、魔物を退治していき、あっという間に、最初の一匹になっていた。
「くっ…!こんな筈では…」
「俺たち人間を…」
「私たち人間を…」
「「怒らせた!其れがお前の敗因だ!」」
与那は、両の手のひらを魔物に向けた。すると、魔物はまるで紐でぐるぐる巻きにされたように体が動かなくなった。その隙に崇峰は、魔物の身長を超える程のジャンプをし、剣を上段へと上げ、魔物の脳天目掛けて、剣を一気に振り下ろした。
魔物は呻き声を一切あげる事無く、薪割りで割った薪の如く、地面へと倒れた。
「ありがとう…」
「うん?」
「一緒に付いて来てくれて…」
「俺も、コイツを倒せて良かった…」
「そうだね。コイツの所為で、都が半壊しましたですものね」
「ああ……。其れはそうと、与那。お前は、これからどうするつもりだ?」
「私は……」
与那は言葉を詰まらせた。
「……もし、お前が良ければ、俺と一緒に来ないか?」
「え?」
「嫌なら構わないんだ!俺も今は、家も失っている身。泊まる所も無ければ、お金も無い。けど……、お前と一緒なら、何だって乗り越えられる気がするんだ!って……何言ってるんだか……」
崇峰は頬を赤く染め、軽く頭をかいた。
その様子を見た与那はくすくすと笑い、
「いいですよ…。私も、今は家がありませんし、其れに……魔物の囮にも使えそうですし」
「お、囮って…」
「さあ、行きましょう!」
「行きましょうって、何処に行く気だ?行く当てでもあるのか?」
「無いですよ」
「無いって……じゃあ、何処に行くんだよ!」
「都へ行きましょう!あそこなら、色々な情報が入りますし、情報が入れば、すぐに行けるでしょ?」
「すぐに行けるって……」
「魔物退治ですよ!私たちには、それしかありませんから」
「なるほど。都で、魔物退治でやって行くって訳か!面白そうだ」
「面白そうって、貴方は都でそうやって魔物退治をしていたのでは無いのですか?」
「勘だ!直感で、魔物退治に行っていたからな!」
「………」
ハッハッハッと笑う崇峰に、与那は言葉を失った。
都に着く頃には、朝になっていた。
「とりあえず、休むとしよう」
崇峰のその提案に賛成したいところである。しかし、崇峰は普段からその辺りに寝ているのかも知れないが、与那はそんな暮らしはしていなかった。
果たして寝れるだろうか……。
寝れなかった。うとうととは来るが、すぐに目が覚めてしまう。
日は真上くらいまで上がっており、腹の虫が先程から鳴り止まない。
「おっ!起きてたのか?」
「寝れなかっただけ……」
「そうか……。其れはそうと、食と住を探さないとな」
崇峰はそう言うと、与那を背中に乗せて、都の中へと入って行った。
しかし、人の減少により、思った以上の賑わいはなかった。
「ねえ、貴方の家は何処にあったの?」
「殆どの家が壊された今、分かりにくいが、恐らくここだと思う」
崇峰が、そう言った場所に家は無く、木材が散乱していた。
「何度見ても酷い有り様だよ」
「で、どうする?ここに建てるの?」
「………」
崇峰は、与那の問いに対して、返答は無かった。そんな状況の中、後ろから声をかけられた。
「おうおう!お兄ちゃん達!ここはワシらの土地だ!欲しければ金目になるものを置いて行け!」
と、三人組の男達が話しかけて来た。
左から、色白の肌をした細身の二十代前半くらいの男。続いて右に、見た目は細身だが、筋肉は其れなりにある、こちらも二十代前半くらいのつるっ禿げの男。そして、その二人の間にいる三十代くらいの髪はボサボサ、ヒゲもボサボサのムキムキ男が、ニヤニヤしながら立っていた。
「何を言ってるんだ?ここは元々俺が住んでいた土地だ!その土地に何で俺が払わないといけないんだ?」
「へっ!そんな事も分からねぇのか?元々はお前の土地かどうかは知らないが、今はワシの土地だ!その土地が欲しければ金を払う。其れが礼儀ってもんだろ?」
「おい、おっさん!覚悟は出来ているか?」
崇峰はニコッと笑っていたが、内心はブチギレていた。
「ふん!青二才が!いくぞ!野郎ども!」
「「おう!」」
三人組の男達は、崇峰に向かっていった。
「さあ、来い!」
三体一では、流石に分が悪った。
勝てる訳が無い。
十体一ぐらいではないと…。
崇峰は、三人組に容赦なく殴り、殴り、殴った。
圧倒的だった。
「「「参りました」」」
ボコボコに殴られ、顔が腫れている三人は、崇峰に土下座した。
「少しぐらい、手加減するべきです!」
与那はそんな三人組に近づき、手のひらを向けて、治療した。
みるみると傷が治っていく。
「き、傷が治って……」
「はい!これで傷は治りましたよー」
与那はにこっと微笑みかけながら、そう言った。
「あ、あんた達は一体……」
二人の凄まじい能力と力に、呆気にとられた三人だったが、一番左に居る男が、何かを思い出したように、口を開いた。
「兄貴!どっかで見た顔だなあ、と思っていたんですが、思い出しました!こいつら……いや、この人達、魔物退治で有名な鬼狩りの崇峰と東の天女、与那ですよ」
「な、何ですか?それ?」
「俺も初めて聞いた……」
「そう言えば、そんなデカイ剣、鬼狩りの崇峰しかいねえ。そして、治癒術と片目の色が違うのも、東の天女、与那しかいねえ……。そりゃあ強い訳だ……!」
ガハッハッハッハと三十代くらいの男は、高らかに笑った。
「すまなかった!ここの土地は返す。しかし……鬼狩りのあんちゃんがここに居るのは分かるが、東の天女さんはどうしてここにいんだ?」
崇峰達は、ここ最近で起きた出来事を話した。
「なるほど。そう言うことなら、家造りは任せてくれ」
「任せるって……家をか?」
「こう見えて、ワシたち元大工だからよ!」
「しかし、俺たちお金を持っていないんだが……?」
「要らねえよ。……だが、条件がある」
「「条件?」」
崇峰と与那は顔を見合わせた。
「おう!条件ってのは、仇を討って欲しいんだ?」
「仇?って……魔物か?」
「ああ。ワシたちはここから少し南の方で住んでいたんだ。ある日、そこから少し西の方へ家を建てる仕事を済ませて帰ってみたら……」
「魔物に襲われていたのか?」
三十代くらいの男は、コクリと頷いた。
「全滅だった。ワシたちは必死にその魔物を探した。しかし、見つける事が出来なかった」
「見つける事が出来なかったって、どんな魔物なのか見たのか?」
「いいや。近くを通り過ぎた商人が、その瞬間を見ていたのを聞いただけだ」
「聞いただけで、分かる特徴でもあるのか?」
三十代くらいの男は、再びコクリと頷いた。
「その男が言うには、その魔物は山のように大きかったらしい……」
「そんな魔物は聞いた事が無い……」
「恐らくだが……今までにも出没していたが、誰かに伝える事なく、全滅した可能性がある」
「なるほど…。もしその仮説が正しければ、今回のその情報はとても貴重なモノだ」
「情報とはとても大切なモノですからね。出来るのであれば、もう少し情報が欲しいところではありますが、無いものは仕方ないので」
「……まあ、そう言うことだ。取り敢えず、あんた達に家は任せる。俺は魔物の聞き込みをする」
「私は……」
「与那は取り敢えず、休んどいてくれ。寝れて無いんだろ?」
「そうだけど……」
「与那さん!取り敢えず、簡易の寝床を作っておいたので、ここでお休み下さい!」
いつの間に作ったのか、何も無い地面に寝床のようなモノが作られていた。
「あ、ありがとうございます……」
与那は取り敢えず、横になった。
あれ?思ったより悪くないかも……。
と、思ったのも束の間、気が付けば夜になっていた。
その景色に驚いた与那は、飛び起きた。
「よう。よく寝れたか?」
崇峰は、焚き火に木を入れながら、そう言ってきた。
「うん……。お陰様で」
「其れは良かった」
「あの三人は?」
「横で寝ているだろ?」
崇峰にそう言われて、隣を見た。
人、三人分程の隙間を空けて、いびきをかきながら、其れは其れはとても気持ち良さそうな寝顔であった。
「其れより見てくれよ!」
崇峰は、南の方を指差すと、与那はそちらの方へ視線を向けた。
「え?凄い!」
腕は確かであった。壊れた家の木材で、家の基礎が出来上がっていた。
「これでも、半分程らしい」
「完成まで?」
「いや、家の大きさが」
「下手をすれば、貴族の家よりも大きくなっちゃうんじゃ……」
「かもな。でも、これくらい無いと……」
「何か不便な事があるの?」
「其れは…………」
崇峰は、夜空を数秒見上げると、「よし!」と何か覚悟を決めたように、与那の方を見た。
「なあ、与那」
「うん?」
崇峰は真剣な表情で、口を開けた。
「俺と夫婦になってくれないか?」
「はあ?」
「俺は一度断られただけでは、引かないぜ」
「その根性はすごいわ…」
「で、どうだ?」
「……か、考えておいてあげる。返事は、この三人が言っていた魔物を倒してからね!其れまで、死なないでよ?」
「了解です!」
「じゃ、おやすみ」
「また寝るのかよ!」
「う・る・さ・い!」
そう言った与那の顔は、どこか嬉しそうな表情であった。
「ああ。おやすみ」
崇峰は、呟くようにそう言うと、眠りについた。
翌日。一番早く起きたのは、与那であった。
「寒っ!」
焚き火の炎は消えて、辺りは放射冷却で冷え込んでいた。
「どうやって、つけるのだろう?」
火のつけ方が分からない与那は、試行錯誤を繰り返し、火がつくように頑張った。しかし……
「ダメ。全然つかない…」
与那は火をつけるのを諦め、誰かが起きるのを待った。
次に起きたのは、三十代くらいの男であった。
「おはようございます、与那さん。早いのぅ…」
「おはようございます!起きてすぐのところすみませんが、火を起こして貰えないでしょうか?」
「いいですぜ」
起きてすぐだったが、三十代くらいの男は、慣れた手つきで火を起こした。
「ありがとうございます!そう言えば、名前を聞いて無かったですね」
「ワシの名は、千吉。こっちの色白の男が、圭。そして、もう一人が貞って言うんだ」
「皆さん、いいお名前……」
ゾクッ!体が震えた。
寒さの所為では無い。
圧倒的な恐怖によるものであり、その恐怖は、北の方角から感じた。
そして、その圧倒的な恐怖は、都中の人々の他、その周囲に及んだ。
「一体何が起きている?」
流石の負の力に、崇峰は飛び起きて、与那に問うた。
「分からない。けど、今までとは明らかに違う……」
「恐らくワシらの村を破壊したモノだろう」
「その可能性が高いな……。にしても、ゆっくりだが、近づいてきているな」
「ええ。あと、約十里くらいでしょうか?」
「多分、それくらいだろう……。恐らく、今近づいてきている魔物は、この前倒した魔物の母親のような存在だろう」
「魔物に母親のような存在だと……?そんなモノが……」
「この前倒した魔物が、そう言っていた。そして、その時にその魔物はこう言っていた。『与那を不意打ちで殺す』と。その作戦が失敗し、今度は魔物の親玉が直々に与那を殺しに来たと、俺はそう考えている」
「しかし、何故私を殺すのでしょうか?同胞を殺されたから?それとも、邪魔だから?」
「それか、その両方か……。いずれにせよ、迎え撃たなければならないが、ここはマズイ。折角造ってくれている家を壊されては困るからな!」
「と言うことは、向かうって事?」
「そうだ。与那は行くだろ?」
「もちろん」
「お前たちは、どうする?」
「ワシたちも行く!その魔物の姿、そして、倒されるところを、見てみたい!勿論、邪魔をするつもりはない!」
「了解!それじゃあ、行くぞ」
崇峰を先頭に、男達は走り出した。
今回も、与那は崇峰の後ろにしがみ付いている。
「もし、この戦いで山のように大きな魔物を倒せたなら、魔物の出没は減り、後世に安寧をもたらすと、私は考えます。故に、この戦いは絶対に勝たないといけません!」
与那のその一言は、この場にいる全員の士気を上げた。
二時間ほど走ると、目の前にその辺りの山を越えるくらいの大きさの魔物が現れた。
距離にしてまだ少しあるが、それでも大きいのは、一目見れば分かる。
そんな魔物の姿は、黒く大きく、蹴鞠のような形をしており、何本もの触手がうねうねと動いている。そんな触手の間に、目が沢山あり、色んな方向を見ていた。
「気持ち悪!」
「全く同じ感想だ」
「ワシも同感だ。しかしアイツ、あそこで一体何をしているんだ?」
さっきまで向かってきた魔物が、進むのをやめ、その場にとどまっている姿を見た千吉は、ぼそりと呟くように、そう言った。
「……俺の記憶が正しければ、あそこに村があったはずだ」
「つまり、村を破壊しているって事?」
「その可能性がある」
「じゃあ、すぐに助けに行かなくては……」
「いや、このままここで待機して、アイツが来るのを待つ!」
「は?つまり、あの村の人は見殺しにするって事?」
「……残念だが、あの村の人達は誰もいない」
「なんで、そんな事が分かるのよ?」
「見えているからだ」
見えているとは、どう言う事なのだろうか?と、与那の頭の中では疑問が出てきた。
「俺の目は他の人とは違って、遠くにいる魔物たちがはっきりと見える。この前、都で与那が倒したのも見えていた」
それが本当ならば、凄い能力である。
「其れはそうと、与那。あの魔物を与那の力で溶かす事は可能なのか?」
「溶かすって……。出来れば、成仏するとか、言い方があるでしょう!」
「分かった、分かった。で、出来るのか?」
「やってみないと分からない。あの大きさは初めてだから」
「そうか……。だったら、俺がアイツの体を斬って、その……成仏?をする事は可能か?」
「恐らく、可能だと思う」
「よし!其れに賭けよう。取り敢えず、あの魔物がこちらに近づいて来るのを待つ。そして、近づいて来たところを俺の霊刀出雲で斬る。そして、与那が斬った所を消し去る」
「分かった。それでいきましょう」
「千吉達はどうする?」
「正直、あの大きさを見たら腰が抜けちまって、戦えそうでは無い。故に、お二人さんに任せたい」
千吉のその言葉に、両サイドの圭と貞は、コクン、コクンと頷いた。
「了解した。三人はここから少し離れてくれ!与那は、ここで俺と待ち伏せだ。じゃあ、作戦開始だ!」
結論から言うと、崇峰の作戦は成功した。
「霊気魔斬!」
崇峰が魔物の一部を斬ると、与那が…
「神力魔殺!」
その部分を消した。
二人の息の合った戦いは、夕方まで続いた。
元の大きさの十分の一程まで削り切った魔物は、これはマズイ!と体に溜めていた負のエネルギーを周囲にだした。まるで、タコが墨を吐いて逃げるように。
だが、与那達も馬鹿では無い。
崇峰は、目で魔物を見つけ、与那に距離と方角を教えた。
「与那から北北東の距離、約半町と二丈!」
「任せて!魔物よ、これで終わり!神力魔殺!」
手応えはあった。
「どう?」
「四散した…」
「という事は、これで私たちの勝利ってことね!」
「そういう事だ」
二人はあまりの疲労にその場に座った。
「おーい!お二人さん!大丈夫か?」
数分後、逃げていた千吉達が現れた。
「すまないが、俺たちを運んでもらえないだろうか?」
「任せな!ちゃんと家まで送っていくよ!」
二人は、千吉らの背中に乗せられ、中途半端な家へと戻った。
それから三年程過ぎたある日。
残党狩りをしていた崇峰のところに、千吉が走ってきた。
「千吉!どうした?」
「与那さんが、もうそろそろ……」
「な、なんだって!」
「急ぎましょう!」
「お、おう」
崇峰は、千吉と共に家へと戻った。
「与那!」
勢いよく開けた扉の先には、可愛い可愛い赤ちゃんを抱いた与那の姿が、そこにはあった。
「無事に生まれてきて良かった!」
「大袈裟よ。其れより、この子の名前はどうする?」
「実は、考えてあるんだ。男の子なら、常義。女の子なら、伊予。どうだ?」
「そうね……。いいんじゃないかな?じゃあ、子の名前は、伊予ね!」
「女の子か!これはお母さん譲りのべっぴんさんになるぞ!」
「やめてよ!恥ずかしい!」
「あの……ワシらにも見せて欲しいんだが…」
「ええ、どうぞ!」
「ほう!可愛いのう」
すーすーと寝ている姿に、その場にいた全員が癒された。
そんな赤ちゃんを眺めていると、いきなり、泣き始めた。
「うん?どうしたの?いい子だから…」
ゾクッ!
「この感じは……」
「ああ、間違いない。あの魔物だ!」
「でもあの時、倒したはずよね……」
「ああ。俺はこの目でちゃんと見た。アイツが四散するところを……」
だが、其れは崇峰の見間違いであった。
魔物は最後の最後に、己の体を形成する核を外に吐き出し、体は四散。核を外へと出した魔物は、少しずつ負のエネルギーを周囲から集めていき、全盛期の大きさの半分くらいまで回復させた。
そんな事は知らない崇峰は、霊刀出雲を持ち、外へ飛び出した。
「すみません。この子と共に少し離れたところへお願いします!」
与那は、生まれたばかりの赤ちゃんを千吉に預けた。
「もしかして、与那さん。倒しに行くのですか?」
「……そうです!あの魔物を倒さないと、この子が安心して暮らせませんから!」
「しかし、今のあなたは、出産で体力を…」
「大丈夫です!ですから、伊予をお願いします!」
「……分かりました!どうか、お気をつけて!」
千吉は、伊予を抱え、裏口から離れて行った。
与那は、一歩一歩と歩くと、崇峰の居る外へと出た。
「与那!?どうして逃げなかった!」
「あなた一人であの魔物には勝てないからよ……」
「馬鹿か!そんな体力で、何が出来るって言うんだよ!」
「あら?あなたは知らないようね。母になった私の強さを!」
「………」
「兎に角、任せなさい!」
「分かったよ。しかし、無理はするな!」
「了解!で、どうやって倒す予定で?」
「斬っても奴はすぐに回復する。故に消滅させなければいけないが……何回程使える?」
「さあ……?三回程じゃ無いかな?」
「三回か……」
以前の戦いで十回以上は消滅させた敵に、以前の半分くらいの大きさとは言え、三回とは酷なものであった。
一発も無駄には出来ない。
崇峰は、何か良い方法はないのか、思考を巡らせた。だが……
「クソッ!良い方法がない!」
崇峰は、複数ある目を睨んだ。すると、
「何だ?アレは?」
魔物の中で、何が動き回っているのを発見した。
「どうしたの?」
「いや、あの魔物の中で動き回っているのは、何だろうな?って思ってよ…」
「魔物の中で動き回っているもの?」
「見えないのか?」
「全然」
「ほら、今右上の方に。今度は左下だ」
「……もしかして、それって……アイツの弱点なんじゃ無いかな?」
「弱点?」
「うん。もしかしたら、他の魔物にもあったのかも知れないけど、その動き回っているものに攻撃を与えれば倒せるかも知れない…。逆に、アレに当たらなければ、倒せない……とか?」
「それなら説明がつく。アイツは最後の最後に、あの動き回っているものを体から離して、死を免れたとすれば……こうして元に戻る事ができる」
与那は、コクンと頷いた。
「そうと決まれば、俺がアレを斬りに行く。与那はここで待っててくれ」
崇峰はそう言うと、魔物に向かって走り出した。
「………出来れば、私も行きたいんだけど……どうも体が動かないや」
与那はその場にぺたんと座り込んだ。
「頑張って……」
崇峰の背中を見ながら、呟くようにそういった。
「うおおおおお!」
崇峰は、雄叫びを上げながら、魔物に斬りかかった。
「チッ!外した……」
動き回っている核を目掛けて、斬りかかろうとする崇峰だが、あまりの速さに、刃が当たらない。
「クソッ!」
体が大きい分、逃げるところも大きい。しかも、核の大きさが一寸程しか無い為、余計に難しい。
与那に助けを……いや、駄目だ。さっき、三回程なら能力を使えると言っていたが、恐らく俺の見た感じ、一発が限度だろう。故にここで俺が倒さなければ、この国は滅びてしまうだろう。
そう言えば、与那は……。
「ッ!?」
先程まで座っていた与那は、地面に倒れていた。
「与那!」
崇峰は急いで、与那の元へと向かった。
「だ、大丈夫か?」
「うん……。大丈夫。ちょっと疲れただけ……」
「……………」
崇峰は少し与那を見つめた後、抱き抱えた。
「えっ?え?」
そして、走り出した。
「一旦ここから離れる。それまで、出来るだけ体力を回復させておけ!」
「一旦ここから離れるって、どこに行くつもりなの?」
「海の方さ。あそこなら、人が少ないからな」
崇峰は走った。その後ろを魔物が、触手を足のように動かして、追ってきた。
「予想通りだ」
「予想通りって?」
「……俺はずっと考えてた。三年前からずっと。アイツやその他の魔物の目的は、お前を殺す事だ」
「……でしょうね」
「でしょうねって、分かってたのか?」
「当たり前!三年前に一緒に村で倒した奴が言っていたでしょ?私を不意打ちでもいいから殺すと。アイツや今追って来ているコイツ、そしてそれ以外の魔物たち全て、私を殺し、この世を手に入れる…。そんなところでしょう」
「膨大な力がある与那が一番弱っているこの時を密かに待っていたってところか……」
与那はコクリと頷いた。
「全く、腹立たしい!俺の嫁が弱っているこんな時に来るとは……!」
と言ったものの、そんな事を言っても仕方ない。
崇峰は、両足に力を込めて、更に速度を上げた。
「ん?この匂いは……」
走る事数時間。崇峰は微かな磯の香りを感じ取った。
正直、何処を走っているのか分からない。だが、この先に海があるのは間違いない。
更に磯の香りが増して来た。
近い!
崇峰は、落ちて来たペースを上げた。
そして、ついに海へと着いた。
「海、初めて見ました…」
与那は目を輝かせながら、崇峰の背中から海を眺めた。
「すまんが、海を眺めるのは後だ」
崇峰は、ゴツゴツとした切り立った磯に与那を下ろした。
「さあ、来るぞ!」
崇峰たちが着いて数分後、魔物が姿を現した。
「しつこいなぁ。……仕方ない。与那を戦わせる訳にはいかないんで、俺は本気を出して、お前を倒す」
崇峰はそう言うと、出雲を切り立った磯にぶっ刺した。
「覚悟しろよ。………神力!」
崇峰はそう叫ぶと、身体中に力を込めた。
すると筋肉が膨れ、崇峰の身体が一回り大きくなった。
その状態の崇峰は、ぶっ刺していた霊刀出雲を右手で掴み取り、引き抜いた。そして、出雲も背中の方へと持っていき、バランスを取る為に左手を前に突き出し、左足は前に、右足は後ろに、腰は中腰の姿勢になった。
その型でいる事、数秒。崇峰は右足に力を込めた。
「神速!」
与那には見えなかった。あっという間に魔物との間合いを詰めた崇峰の姿が。そして、
「神斬り!」
魔物の前でそう叫んだ崇峰は、後ろに構えていた出雲で、魔物を斬った。たった一秒の間に二十回もの斬撃を。だが、
「畜生!当たらない……」
思った以上に、複数ある目が厄介であった。
と言うのも、複数ある目で崇峰の超人的スピードを捉えたのだ。
一瞬にして、間合いを詰められた魔物は崇峰のスピードに驚いたが、すぐさま冷静さを取り戻し、中の核を動かし、回避することに成功した。
其れを分かっていても、崇峰は手を止めなかった。斬り続けていた。
あと、少し……。
再生能力以上の速度で切り続ける崇峰に、魔物は焦っていた。
ゆっくり、じわじわと核の動ける範囲が狭まってきたのだ。
そんな魔物は、一旦体の再生するのをやめた。
それが魔物にとって、都合が良かった。魔物は、再生するのをやめる代わりに、思考能力を上げた。
その瞬間、魔物は棋士のように数手先を読んだ。そして、其れによりこの状態の打破に成功した。
作戦は簡単だ。
体に酷な神技は、崇峰の体力をどんどんと減らし、神斬りの速度が低下。更に、核への意識集中に他への意識が散漫に。故に、斬られた体で、崇峰を攻撃すれば、この危機は打破出来る。
「ぐはっ!」
斬った体から触手が飛び出し、崇峰の横腹に命中した。
勝った。魔物は、勝利を確信した。その瞬間、殺気を感じた。
この男からでは無い。となると……
「与那!やっちまえーーー!!!」
「神力魔殺!」
し、しまった……!
魔物の体中にある目が、核の方へと向いた。その時、横から何が飛んでくるのが、見えた。数個の目が、その物体に視線を向ける。
よく来た!我が子よ……。
小さい魔物が、デカい魔物の核を守った。
小さい魔物は四散し、跡形も無く消し去り、魔物は止めていた再生能力を再び開始し、体を元に戻した。
一方与那と崇峰は、能力の使い過ぎで、その場に倒れ、魔物が元の姿に戻るのをただただ見ていた。
「クソ!クソ!クソ!クソ!完全に戻りやがった!」
「…………」
「……一体どうすればいいんだ……」
「……これしか思いつきません。崇峰……。伊予を頼みます」
与那はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、魔物の方へと歩いて行った。
「おい!其れはどう言う意味だよ!」
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「出来れば、貴方を倒したかったですが、今の私にはこれしか出来ません」
与那は魔物に近づきそう言った。
「ですから、貴方を倒す者が現れるまで、貴方を海へ封印させて頂きます」
与那は、とんっと、軽く紐状に巻き付かれた魔物に触れ、海に落とした。
ザバーンと水飛沫を上げて、海に落とす事に成功した与那は、膝から崩れ落ちた。
「与那!」
その光景を見た崇峰は、動かない体に鞭を打って、ゆっくりだが、与那に近づいた。
「与那……」
やっとの思いで与那の元へと辿り着いた崇峰は、与那を抱き抱えた。
その時には既に与那は息絶えていた。
「うわあああああああ!」
崇峰は叫んだ。与那を抱えたまま。
「これが、お前たちが戦った魔物だ。そして、其れと戦った者たちの話だ」
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しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
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