俺と彼女と彼女と俺の出会いは少し違っている

毛穴翔太

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大阪

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「ここが大阪……。人の数が凄い」
「うん。其れに福井よりも暑い気がする」
 地面がアスファルトの為か、下からの熱で猛烈な暑さになっている気がする。
「取り敢えず、堺市の方へ向かってみましょう?」
「そうだな」
 俺たちは再び電車に乗り込み、堺市へと向かった。
 堺市は元々、河内かわち摂津せっつ和泉いずみの三国の境で発展した街であるとされていて、市章で其れが表されている。そんな街には、日本最大の前方後円墳である仁徳天皇陵がある街として有名である。
「と、書いてある」
「ふーん」
「あまり興味なさそうだな」
「歴史に興味は無いだけなの。それより鍛冶屋よ!何処にあるのかしら?」
「其れが……この堺は、包丁や鋏が有名らしく、鍛冶屋が結構あるそうだ」
「其れって……一件一件調べていかないといけないって事?」
「そう言う事だ」
「そんな~」
 俺と夜奈は甘く見ていた。多くても二、三件程だと思っていたのだ。
 これは、長期戦になるかもしれないな。
 俺はそう考えながら、夜奈と二人で関谷和希と言う男を探した。
 まず向かったのは、堺包丁歴史会館という場所であった。
「うわ!凄い包丁の数!」
「そうだな」
 出刃包丁、刺身包丁、牛刀、ペティナイフなど沢山の包丁が飾っていた。
 特に興味が無かったのだが、何処か心を惹かれるものを感じ、しばし包丁を眺めていた。すると、そんな俺たちに六、七十代くらいのご年配の男性が話しかけてきた。
「若いお二人さん。どうしたんだい?こんな所へ?」
「いや、実は……人を探してまして……」
「人を?ここには包丁くらいしか無いが?」
「そうなんですけど……、探している人がですね、鍛冶屋の人でして、ここに来れば何か情報が有るのでは無いかと探していたんですよ」
「ほう。鍛冶屋を。名前は?」
「関谷って言う名前の方なんですけど」
「関谷!?」
「し、知っているんですか?」
「……いや、知らん」
 知らねえのかよ!
 知っているような素振りで言うなよ!と心で突っ込んだ。
「何やったら、ここの人に聞いてみたろか?ちょうどワシも用事があったんでな」
「そうですか!ありがとうございます!」
 俺たちは頭をぺこりと下げ、年配の男性が帰ってくるのを待った。
 数分程でご年配の男性は、その男性と同い年くらいの男性を連れて戻ってきた。
「この子らだ。なんや、人を探している言うてるのは」
「名前は分かるか?」
 話しかけて来たご年配の男性とはまるで違い、連れて来られたこのご年配の男性は、仏頂面ぶっちょうづらの第一印象は最悪とも取れる人であった。
 そんな仏頂面の男性の問いに答えた。
「関谷って人何ですけど、分かりますかね?」
「関谷!?」
「知っているんですか!?」
「ああ、知っている。しかし……」
 仏頂面の男性は少しだけ間をあけた。そしてこう答えた。
「一か月程前に、若くして病気で亡くなられたよ。今は、その人の奥さんと高校生の坊主とで暮らしているよ」
「……そうですか……。場所は分かりますか?」
 俺たちは仏頂面の男性に説明されながら地図を書いて貰い、其れを手に鍛冶屋へと向かった。
 歩く事十五分程。
 ついに目的の場所へと着いた。
「ここだな」
「そうみたいだね」
 そこは木造で出来た古い家で、看板には『関谷刃物店』と書かれていた。
「じゃあ、押すよ」
「うん」
 俺は、入口の横についていたインターホンを押した。すると中から女性の声で「はーい」と言う声が聞こえて来た。
 数秒後。がらがらと引き戸が開かれ、先程の声の主である女性が出てきた。
 見た目は、三十代前半くらいだろうか。すらーっとした体型のその女性は、モデルでもやっているかのような容姿であった。
 数秒程、その女性に見惚れた俺たちに、その女性は困った表情を見せながら、俺たちに問うた。
「あの~、君たちは……?」
「あっ!すみません!俺たち、関谷和希君に……」
「和希の友達ね!でもごめんね!和希の奴、今何処かに行っているみたいなの!」
「そうですか。では改めて来ます」
「あ、そう?もしアレだったら、中で待っててもいいよ?」
 とは言われたが、正直悩む。
 例の彼に会うのには変わらないが、俺たちと彼は初対面。故に彼が帰ってきた場合、『お前、誰?』ってなるのは明白。ここは一旦引くのが良いかも知れない。
 と、俺は考えた。しかし、夜奈の考えは違った。
「そうですか!ありがとうございます!」
 にっこりと微笑み、何の相談も無く、ズカズカと家の中へと入っていった。
 もう、どうにでもなれ!
「お邪魔します!」
 そう言って、俺も家の中へと入った。

 関谷和希と言う男との対面までは、そんなに長くは掛からなかった。
 家の中へと入って、三十分程した時、引き戸のがらがらと言う独特の音と共に、若い男性の声で「ただいま」と言う声が聞こえて来た。
 その声から数秒後、彼こと、関谷和希は俺たちの前に姿を現した。
「だれ?」
 金髪に眼鏡をかけた青年は、俺たちを見て、疑問符が頭の上に現れていた。
 うん。知ってたよ。その反応。
「えーっと、俺たちはだな……」
 どこから話せばいいだろうか。
 俺はちらりと夜奈の方を見た。
 夜奈は俺の意思が伝わったのか、関谷和希に対して、話しだした。
「初めまして!福井県からあなたに会いに来ました。六霊夜奈です」
 なるほど!まず最初は自己紹介だよな!色々と伝えたい事があり過ぎて、忘れていたよ。
「俺は国井拓真。よろしく」
「いや、いきなり自己紹介されても困るんやけど……」
 その通りで御座います。
「あら?和希、帰ってたん?」
 洗濯物を取りに向かっていた、三十代前半の先程のお姉さんが戻ってきた。
「今な!で、こいつら誰なん?」
「あんたの友達とちゃうの?」
「知らんな。で、あんたらは何しにここへ来たんや?」
「すみません、和希君のお姉さん。少し彼と三人でお話をしたいんですけど……」
 すると、三十代前半、もしくは二十代後半くらいの女性はにこっと微笑み、
「私、和希の母親です」
 その言葉に、俺と夜奈の思考回路は一時的に停止した。
 嘘だろ……。
 あまりの衝撃の事実に言葉を失った二人に、関谷和希は自分の母親に「なんや訳ありのようやから、部屋に行くわ」と言って立ち上がった。
「じゃあ、俺の部屋に行こうか」
「あ、うん……」
 関谷和希の言葉に、ようやく停止していた思考回路が動きだした二人は、彼の後を追いながら、二階にある関谷和希の自室へと向かった。
「ここが俺の部屋や。取り敢えず、先に入っててくれ。飲み物取ってくるから」
 そう言うと、関谷和希は再び、一階へと降りていった。
「じゃあ、入って待とうか」
「うん。そうだね。其れにしてもビックリだね。私もお姉さんかと思ってたよ」
「まさか、お母さんだったとは……」
 ガチャリとドアノブを回し、扉を開けて中に入った。
 特に変哲も無い部屋。強いて言えば、天井には、アニメのキャラクターが描かれたポスターが貼られており、床にはエロ本が三冊落ちており、壁にはアイドルのポスターやこれまたアニメのポスターなどが全面に貼られていた以外、普通にベッドと本棚、机のある部屋であった。
「待たせたな。そんじゃあ、話を聞こう……色々と突っ込みたい事があるかも知れんが、気にせんといてくれ。お前も男ならわかるやろ?」
「あ、うん」
 関谷和希は、持ってきた飲み物を机に置くと、ベットに腰掛けた。
「で、何しにここへ来た?」
「俺たちは、君に頼み事があって、福井県から来たんだ」
「頼み事?」
「ああ。俺たちに、いや、この夜奈に刀を一本作って欲しいんだ!」
「刀やてー!何を言うとんねん!このご時世に戦でも行くって言うのか?」
「えーっと、だな……」
 魔物を退治する為に必要なんだ!なんて、言えるか?いや、言ったとして信じてもらえる筈がない。
 と思っていた矢先、夜奈は俺が思っていた事を言い放った。
「信じてもらえないかも知れない。けど、あなたを信じて、私は言う。私たちはある魔物を倒す為に刀が必要で、その刀をあなたに作って欲しく、私たちはここへ来た」
「………どうして俺のところに?」
「神がそう言っていたから」
「神が?」
 夜奈はコクンと頷いた。
「あはははは!面白い事を言うやんけ。が、恐らく俺のところへ来たのはたまたまでは無さそうやな。それにしても、まさか本当に来るとはなあ……。金銀妖瞳きんぎんようとう、病名で言ったら虹彩異色症こうさいいしょくしょう。そして、分かりやすく言えばオッドアイ。その少女が今年辺り来ると、親父が言ってたんだ」
「親父さんが?」
 其れは一体どういう事だろうか?
 そう俺が問う前に、関谷は再び語り出した。
「ああ。親父は祖父に。祖父は曽祖父に。代々受け継がれてきたんだ。恐らくこの日の為に」
 俺は其れを聞いて申し訳無く思ってしまった。何故なら、こちらも悪気があった訳では無いが、絶え間無く伝えて来た言い伝えを疑う事なく、この世に伝えた。其れなのに、俺たちだけで倒そうなどとは……。しかも倒されているし…。そう思うと関谷の一族に申し訳ない。其れは恐らく、出雲にいるもう一方もそうだろう。
 だから俺は、一歩後ろに下がり、両手を床につけ、頭を下げた。
「頼む!俺たちに刀を作ってくれないか!」
 俺の渾身の願いだった。
 もし作って貰った刀で化け物あいつを倒す事が出来れば、もう夜奈を苦しめる事は無くなる。
 そしてその為なら、俺はどんな痛い目に遭おうが、どんな醜態を晒そうが、プライドを捨ててでも、夜奈を護りたい!
 俺は数秒程頭を下げた。
 すると関谷は、口を開けた。
「まさか、土下座してまで頼むとは思わなんだ。そこまでせんでも、作ったる」
「本当か!」
 俺は頭を上げ、隣を見た。
 隣では嬉しそうな表情をした夜奈が、俺に飛びついてきた。
「やったよ!たっくん!作ってくれるって!」
 隣に居たんだから、説明しなくても聞こえているよ!と言いたいところだが、今はどうでもいい。
 俺は…いや、俺たちはその言葉を聞けて十分だったから。
「おいおい。こんなところでイチャイチャしないで欲しいんだが?」
 関谷のその言葉に、俺と夜奈は正気に戻り、すぐさま元の位置へと戻った。
「けど、実は…作ったるって言っても、俺刀とか包丁を作ったこと無いねん」
「は?」
 この言葉に俺と夜奈は開いた口が塞がらなかった。
「でも、だ、大丈夫や!研ぎなら出来るから!」
「いやいやいや。研げても研ぐ為の刀は?」
「まあ、一応あるから何とかいけるねんけど、ちょっとな……」
「ん?ちょっとな?とは、どう言う事だ?」
「説明するより、見てもうた方が早いわ」
 関谷にそう言われ、俺と夜奈は関谷の後を付いて行く。
 自室を出て一階に下りた俺たちは、少し前まで居た居間を横ぎり、玄関の方へ。
 玄関へ着くと、外へ出る為の入り口の右横にこれまた引き戸があり、関谷はその扉をガラガラと音を立てながら開けた。
「ここは……」
「見ての通り作業場や」
 俺たちは、玄関に置いていた靴を履いて、作業場へと入った。
 夏の暑い中でも、冷たさを感じるコンクリートの床。名前は分からないが、色々な道具と機械があちらこちらに置かれていた。
「で、刀は?」
「こっちや!」
 再び関谷の案内で、作業場の奥へと行くと、床に金属製の両開きの扉が現れた。
 関谷はその扉を重そうに片方ずつ開けた。扉のその先にはコンクリートで出来た階段があり、下へと続いているが、暗闇で階段の終わりが見えない。
「ちょっとそこにある懐中電灯を取ってくれへんか?」
 関谷は指を差しながら、俺たちに言った。俺は、関谷の指示の元、壁に設置されていた懐中電灯を取ると、関谷に渡した。
 懐中電灯を手にした関谷は、明かりをつけて階段の壁側を照らした。
「あれ?ここに電気のスイッチがあった筈……下やったけ?」
 などと呟いた関谷は更に壁側を調べたが、それらしきスイッチは無かった。
「仕方ない。二人とも俺が先導するから、後から気をつけて降りてきてくれ」
 そう言った関谷は、懐中電灯で足元を照らしながら、最初の一歩を踏み外した。
 懐中電灯が回転しながら階段を跳ねるように落ちて行くのが、懐中電灯の光で分かった。
 関谷はと言うと、コンクリートの所為であろう、派手に転げ落ちた筈だが、思っていたより派手な音はしなかった。
「痛ってーー!」と言う声が転けた事の大きさと無事を物語っていた。
 数秒後、懐中電灯の光が動き、何やら探っている様子が伺えた。
 すると、暗かった階段先がいきなり明るくなった。
「もう大丈夫や!ゆっくりと降りてきいや!」
 どう転げ落ちたのか、鼻の頭にすり傷をつけた関谷が俺たちを呼んでいた。
 俺たちは、あいつのようにはならぬように、慎重に慎重を期して階段を降りて行った。
 数段の階段を降りた俺たちは、階段の先に沢山のが置かれていた。
「ここは物置や。お前たちの欲している刀はここにある」
 関谷はそう言うと、物置に置かれた色んな使わなくなった家具やら仕事道具を退けて行った。
 そして、其れは突然現れた。
「あった!」
 関谷の声に俺たちは駆け寄った。
 そこで見たに、俺は驚いた。
 刃渡り一メートル五十センチ程で、一番分厚いところで五センチはある、人が振り回せるとは思えない刀が目の前にあった。
その刀には幾つもの傷があり、使い込まれた刀だという事は、素人の俺が見てもすぐに分かった。
 そして、俺はこの刀を知っている。
「霊刀・出雲」
「ッ!?」
「たっくん、知っているの?」
「何でお前、この刀の名前を知っとんねん!この刀は一切の記載も無ければ、ここへ来るまでの間に言った覚えもない!」
 確かに、ずっと大切に置いていたのだったら、この刀の事を知っているのは不可思議である。
 が、俺は知っている。これで魔物を斬っていた事。それによって守れた命。そして守れなかった最愛の人の事を。
「まあ、ええわ。理由は後で聞くとして、工房に運ぶの手伝ってくれ」
 関谷のその一言に俺たちは頷いた。
 何キロあるだろうか?
 俺、関谷、夜奈の三人でようやく持てる重さなのは、持ってみて分かった。
 てか、高校生三人で持てる重さのこの刀をよく振り回せていたな、あのおっさん!
 と、心の中でツッコミながら、工房に運んだ。
「で、これをどうするんだ?」
 という俺の問いに、関谷は当たり前のように答えた。
「研ぐ。正確に言えば、持ちやすい重さに削る、かな?」
 これをか!?
 三人でようやく持てる重さを、振り回せる程の重さまで、一体どれくらいの時間がかかるのだろうか。
 そもそも、この重さを持って研ぐ事は出来るのだろうか。
「その為には、二人の力も必要やから、期待しとるで!」
 ですよねー!
 という訳で、三人で作業場へと運んだ俺たちは、一時的に休憩を取った。
「ふぅー。疲れた。運ぶだけで疲れた」
「だねー」
「でも、これからやで!二人とも、少しの間よろしくやで」
 腰に手を当て、ニッと笑った関谷にそう言われて、俺はやる気のスイッチが密かに入った。
「さてと、やっていこうか」
 関谷の一言で、俺と夜奈は霊刀出雲を持った。
 一方関谷は、作業場にある電動砥石を起動させた。
「こっちに持ってきてくれ」
 関谷の指示の元、俺と夜奈は、霊刀出雲を砥石のところへ持っていった。
 砥石の近くまで持っていくと、関谷も再び霊刀出雲を持ち、三人で砥石に当てた。
 ギィィィィ!と言う独特の音と共に、霊刀出雲が削られる。
 そこで俺は、ふっとある事を思った。
「なあ、これってどれくらいかかるんだ?」
 勿論、費用では無い。時間である。
 俺のこの問いに対して関谷は、こう答えた。
「知らん」
 この答えに俺は頭を抱えた。
「理由としては、二つ。一つ目は俺一人で持てる重さになるまで、お前らがおるのかどうかや。もし明日帰るとした場合、この重さを一人でって言うのは流石に酷やし、出来たとしても二、三時間が限度やろう。二つ目は、始めたはいいが、刀の厚さと長さと重さを考えておらんのや。これに関しては、決まっとらんかったら、作業に迷いが生まれる。故に分からんのや」
「なるほどな」
 参った。当初の計画とかなりズレが生じてきた。
 ここまで大きな剣を削るとは思っていなかったのだ。
 何故なら、アイツ神田に見せてもらった俺たちが死んだあとの世界で、コイツ関谷は刀を完成させて持ってきていた。だが、その世界では、俺たちは手伝っちゃいないのだ。
 そこで疑問が浮かぶ。一体誰がこの大剣を削るのを手伝ったのだ?
「其れはね、神宮寺聖子ちゃんが手伝いに来たからだよ」
 俺たちの後ろで突如聞き慣れた声が聞こえてきた。
「「「ッ!?」」」
 あまりの突然に俺たちは一瞬驚き、そして後ろを振り向いた。
「やあ!元気かい?」
 そこに居たのは、福井県に居るはずの神田であった。
「お、お前…ここで何をしてるんだ?」
 俺は素直な疑問を神田に問いかけた。
「ん?ああ…。刀の調子はどうかな?と、見に来ただけ。にしても、まだまだかかりそうな雰囲気だねー」
 現状の大剣を見た神田がそう答えた。
「そっちで会話が始まったから聞きにくかったけど、コイツ誰なん?」
「ああ。コイツは自称神を名乗っている奴だ」
「そうでーす。自称神を名乗っている神田と言いまーす。……って、誰が自称神だ!正真正銘の神であるぞ!」
「…………」
「…………」
「……コイツ、頭になんか湧いてるんか?」
「気にしないでくれ」
「お前ら、本当に神である俺を舐めてないか?いざとなれば、お前らを一瞬で消すことも可能だと言うことを覚えておけよ?」
 そう言った神田の表情に嘘、偽りは無かった。本気で怒らせれば、助かる未来も存在しなくなるだろう。
 ここは素直に謝っていた方が身のためだろう。
「分かったよ。俺が悪かったよ」
「分かれば良い。しかし、見たところその大剣が数日じゃあ完成しないな。……仕方ない。俺が簡単にしてやる」
 神田はそう言うと、大剣のほうに右手を伸ばし、人差し指をクイっと曲げた。すると、三人で息を荒げながら持ち上げた大剣が、まるで風船のように浮き上がった。そして浮き上がった大剣に向けて人差し指の中指の二本だけ立てた状態で、高速で腕を動かした。
 数秒後、神田は動きを止めると、空中に浮いていた大剣に切れ目が現れ、刃の部分や不要な部分が切り落とされ、大剣の中心だけを残す状態のものが、空中に漂い続けた。
 その空中に浮いていた大剣の中心を神田は手を伸ばし柄を握った。
 影も形も無い大剣の中心を神田は暫し見つめると、関谷に其れを渡した。
「これで何日で出来る?」
「………あっ!えーっと……二日もあれば出来ると……」
 目の前で起きた現象に頭がついていけない関谷に、俺はぽんっと肩を叩いた。
「気にするな」
「……いや!気になるわ!何なんだ、コイツは!?」
「だから言ったろ?神だと」
「信じられん……」
 関谷のその意見には、俺も未だに同意見である。
「んじゃ、俺は帰るわ」
 と言う神田に俺はある問いを問いかけた。
「お前は一体何のためにこんな事をしてるんだ?」
 すると神田は少々考えてからこう答えた。
「ただの暇つぶしだ。人間の可能性を賭けた、暇つぶし」
 そう言うと、神田は俺たちの目の前で姿を消した。

 其れから俺たち二人は刀の完成を待つ事にした。
 そして二日後。ようやく待ちに待った刀が完成した。
 外はしとしとと雨が降る中、
「出来たで!」
 お昼を過ぎた工房で関谷がそう叫んだ。
 関谷は合間合間に作っていた鞘に刀をしまうと、夜奈に其れを渡した。
「名付けて、霊刀五月雨。まあ、完成したこの時をいつまでも覚えてて欲しいと言う意味と、五月雨とは五月に継続的に降る雨の事。つまりだらだらと続くこの歴史を斬り、平和をもたらして欲しいと言う意味で名付けた」
 夜奈は其れを聞いて両手で鞘をギュッと握った。
「とりま、抜いてみ」
 関谷にそう言われ、夜奈は刀を抜いた。
「え!?うそ…。か、軽い……。鞘を掴んだ時から思ってはいたけど、相当軽い」
「え!?どれ?」
 俺は夜奈から奪うように刀を持った。
「なっ!?何だこれ!まるで綿飴を持っているようだ!」
「たっくん。そこまで軽くは無いと思うよ?」
「例えだから……」
「其れはさておき、」
「さておかれた…」
「その刀は人は斬れん。魔物仕方ない斬れんから安全安心。そんでもって、軽い割に硬い。そんな刀がこの五月雨や。……お二人さん。絶対に勝ってくれ」
「そんなの…」
「言われなくたって、」
「「分かってる!」」
「ッ!?……そうだったな。まあ、頑張ってくれや」
「ああ!」
「うん!」
 俺たちは関谷に託された刀を持って、福井県へと帰った。

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