俺と彼女と彼女と俺の出会いは少し違っている

毛穴翔太

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出雲の国

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 あれから三ヶ月程が過ぎ、夏真っ只中なこの日この頃、夏休みに入った俺たちは旅の準備をしていた。
 目指す場所は島根県出雲市にある出雲大社である。そこにいる巫女、神宮寺聖子という女性に会わなければならない。そこで、刀の霊力を更に上げてもらわなければならない。
 そうしないと、今のこの刀ではアイツには勝てないらしい。
 と言っても、夜奈曰く破壊力は凄まじいらしく、まるで豆腐を切っているような感じで、更に刀が軽い為、連続で斬れる速さが上がったと嬉しそうに話していた。
「よし!これで準備が出来た」
 俺は旅の支度が出来たカバンのチャックを閉め、部屋の隅に置いた。
 と、その時、机に置いてあった携帯にメールが入った。
『どう?支度は終わった?』
 夜奈からであった。
『こっちは終わったよ。そっちは?』
『こっちも終わったよー』
『そうか。刀は忘れるなよ?』
『大丈夫だよー!時間と場所はこの前に話した時と同じで!』
『了解です!遅れてくるなよ?』
『私が遅れて来た事があった?』
『其れは失礼しました。じゃあ、また明日』
『うん。また明日』
 夜奈からのメッセージを見た俺は、そっと画面を閉じた。
 そして、その携帯を持ったままベッドに横になった。
 どんどんと近づいていくあの日。思い返せば思い返す程あの化け物が、あの時の情景が、色濃く鮮明に恐怖と共に蘇ってくる。
 怖い。
 この感情は素直な俺の感情である。
 時々夢にあの情景が出てくることもあるくらいだ。
 恐らく、ずっと前の俺だったら確実に心が折れ、その時が来るのをじっと待っていただろう。そうならないのは、やはり彼女夜奈のおかげであろう。
 夜奈と撮ったツーショット写真や、夜奈との何気ないメールでの会話。そう言ったものが俺の唯一の支えである。
 いや、彼女事態が俺にとっての唯一の支えである。
 などと考えていた俺は、急な睡魔に襲われ、眠りについた。

 やってしまった。
 夜奈からのモーニングコールで起こされた俺はすぐさま寝巻きから外出用の服へと着替え、ある程度支度を整えたのちに、昨日用意しておいた荷物を持つと、慌てて家を出た。
 一時間。夜奈と当初約束していた時間との差である。もちろん前では無い。である。
 俺は着くや否やすぐさま夜奈を見つけ、開口一番に夜奈に向かって謝罪した。
 夜奈には、「よく昨日、遅れてくるなよって言えたもんね!」と相当お怒りモードでそう言われ、俺はぐうの音もでなかった。
 取り敢えず、次の電車に乗る事を勧めたが、終始お怒りモード。
 そんな状態が新幹線の車内でも続き、ようやく治ったのは、島根県出雲市に着いた時であった。
「たっくん」
「はい!何でしょうか!」
「まあ、折角の旅行だし、今回は大目に見てあげる」
「夜奈……」
「ただし、今夜のご飯はたっくんの奢りね!くれぐれも共同で使う分を使っちゃダメだからね!」
 其れで許してもらえるなら安いものか。
「あと、食べるところも決めてね!」
「了解致しました」
 俺は夜奈にそう約束をすると、出雲大社へと向かった。
 出雲大社は、旧暦の十月に八百万の神々が集いし場所として有名な場所であり、神無月と呼ばれる時期には、この出雲だけは神在月と呼ばれている。
 これに関しては俺も学校の授業中に先生からぼんやりだが、聞いた事がある。
 そんな出雲大社では、その時期に神在祭と呼ばれるお祭りがあるらしいが、今はその時期では無いので、少し残念である。
「さてと、問題はここからだな」
「うん」
 俺たちは神宮寺聖子と呼ばれる巫女さんに会いにきた訳だが……全く見当も付かない。
 「おーい!」と呼んで、すぐに見つかれば話が早いのだが、そんなにあまくはない。
「この広い神社で探すんは大変やで!」
「俺もそう思うが、地道に探すしか……え?」
 聞いた事のある声に俺は後ろを振り返った。同時に夜奈も振り返った。
 そこに居たのは、刀を作ってくれた関谷と何しに来たのか分からない、神田がいた。
「なんでお前らがここに!?」
 俺は思わずそう問いかけた。
 その問いに関谷が答えた。
「少しばかり気になってな」
「なるほど。で、お前は?」
「観光だよー」
「にしても、久しぶりだな!関谷。元気にしてたか?」
「おい!ちょっと、俺の扱い酷くないか!?一応神だぞ!」
「冗談にしても、笑えないわ!何が観光だよ!」
「すまん、すまん。しかしまあ、お前たちは運が良い。向こうから出向いてくれたみたいだぞ」
 神田にそう言われて、俺は後ろを振り向いた。
 そこに居たのは、夜奈より小さい小柄な黒髪ストレートの巫女服を着た少女であった。
「お待ちしておりました」
 そう言った少女の言葉に俺と夜奈と関谷は、疑問を抱いた。何故なら、その少女は目を閉じていたのだから。

 少女に案内されて、着いた場所は受付の中であった。
「どうぞ、お座り下さい」
 少女にそう言われ、俺たち四人は用意されていた座布団に座った。
「さて、まずは自己紹介からですかね?私の名前は神宮寺聖子と申します」
「俺は、国井拓真」
「私は、六霊夜奈」
「俺は、関谷和希や。よろしゅうに」
「で、もう一方の方は、人ではありませんね。巫女をやって十数年ですが、初めてお目にかかりました。神という存在に…」
「……ようやく、俺の偉大さが分かってくれる奴が……」
 神田は相当嬉しかったのか、泣きながらそう言った。
「ところで、神宮寺さんは、どうして俺たちの事を?」
「ちょっと、たっくん!」
 聞いてはいけない事だと分かっていたが、どうしても聞いておきたかった。
「大丈夫ですよ。どうしてですか……。まず、ここへ来るのは、ずっと前から伝えられていました。其れは、刀を作ったそこのあなた……名前は関谷さんでしたかね?と、同じです。まあ、其れに関しては皆様ご存知ですかね」
 そこまで話をすると、俺たちより少し上の巫女さんが、現れ、お茶を出してくれた。
「ありがとう」
 神宮寺聖子は、お茶を出してくれた巫女にそう告げると、早速お茶を一口飲んだ。
「私は生まれつき目が見えません。ですが、霊力により、霊視であなた方を見ることが出来るのです。詳しく説明しても、ここへ来た本来の目的とは脱線してしまうのと、分かりにくい可能性があるので、あえて説明はさせていただきません。其れでも納得していただきましたでしょうか?」
「何となくだが……」
「では、早速例のモノを見せていただけますか?」
 見せていただけますか?と言う言葉に、やはり少し違和感があるが、気にしない事にする事にした。
 夜奈は、横に置いていた霊刀五月雨を神宮寺に見せた。
「いい刀ですね。人は斬らず、妖魔だけを斬る刀。伝えられていた通りです。あとは私の霊力でこの刀の霊力値を上げるだけですね。ですが、今日一日では出来ません。一ヶ月程こちらで預からせていただきますが、宜しいでしょうか?」
 俺は、神宮寺の言葉を聞いて、夜奈の方を見た。夜奈も同様に俺を見ていた。
「どうする?」
 俺のこの問いに夜奈は少し考えて、
「お願いします!」
 そう答えた。
 まあ、その為に来たのだから、当然と言えば、当然だ。
「分かりました。では、こちらで預からせていただきます」
 神宮寺はそう言うと、霊力五月雨を側に置いた。
「ところで、皆さんはこちらにどれくらい滞在予定なのですか?」
「特には決めては無いんだが……。出来次第帰ろうかと思っていたんだけど、一ヶ月かかるのなら、少しの間観光でもして福井県に帰ろうと思う。夜奈、其れで良いかな?」
「私もそれが良いと思うよ。一ヶ月分の旅行費は無いからね」
「なるほど。そうですか」
「……?何か都合の悪い事でもあるのか?」
「あっ……いえ!都合が悪い事はありません……」
 そう言った神宮寺の表情は、何やら思い詰めた顔をしていた。
 そんな状況にある男が口を開いた。
「何か言いたいがあるんやったら、はっきり言ってくれんか?」
 関谷のその一言は、神宮寺聖子にとって良い方向へと向かった。
「では、話します。六霊夜奈さん。あなたにここで少しの間、修行をしていきませんか?」
 神宮寺のその提案に俺と夜奈は顔を見合わせた。

 今夜の宿は格安のビジネスホテルで、もちろん一部屋ずつ借りている。
 ようやく落ち着けると思うだろうが、今から夜奈に晩飯を奢らないといけない。
 荷物を部屋に置き、俺はロビーへと向かった。
 ロビーへと着くと、夜奈が既にロビーにおり、受付カウンターの近くのソファーで携帯をいじりながら座っていた。
「お待たせ。さあ、行こうか!」 
「うん!其れはそうと、お店は決まっているの?」
「まあな!」
 俺はそう言うと、夜奈を連れてロビーを出た。
 さて、どっちに行こうか。右か、左か。
 実のところ、場所は決まっていない。歩きながら探せば良いだろうと、夜奈に知れれば再び怒りを買うことになるだろうが、知らなければどうと言う事はない。
「さてと、どっちだろう」
 などと、行き先が有るかのように振る舞いつつ、携帯で地図を見た。
「左だな」
 これまた適当で有る。
「そう言えば、あの関谷くん?はどうしたの?」
「あー、一応誘ったのだが、別に良いって…」
「そうなんだ…」
「其れはそうと、どうするんだ?あの神宮寺の誘いは」
「うーん……。たっくんはどう思う?」
「どうって言われても…」
 こればかりは、夜奈に決めてもらうのが一番である。
 とは言え、彼氏としては、夜奈には死んで欲しくは無いので、修行をして死の確率が下がるのなら、其れはとても良い事だ。
 だったら……。
「やってみれば良いんじゃないかな?俺も出来るだけ協力するからさ」
「やっぱりその方が良いのかな?」
「神宮寺も言ってたろ?霊力の使い方を学べば、倒せる確率が上がるって」
 神宮寺に修行の誘いがあった直後、神宮寺は夜奈にこう言った。
『修行と言っても、剣術ではありません。筋力的な修行でもありません。六霊夜奈さん。あなたは、強い霊力値をお持ちですが、其れを使いこなせていないんです。霊力をうまく使えば、攻撃・防御・スピードが今より一段と強力になります。故に、魔物を倒す確率が僅かながら上がります。もし、今悩まれているようでしたら、お決まり次第またお越し下さい』
「うん。そうだね!そうする!」
「後はどれくらいの時間がかかるのかだな」
「ところで、たっくんがあの時に貰ったライフルは試し撃ちはしたの?」
「ああ。一週間に一度くらいだな。何にせよ、貰った弾が3発しか無いからな」
「弾をもっと貰えば良かったんじゃ?」
「俺もそう思って、神田にそう言ったんだよ。そしたら、弾に神聖力を込めるのに約一年程かかるらしいんだ」
「其れは無理そうね」
「因みに普通の人間が霊力を込めた場合千年ほどかかるらしい」
「うへー。そんなに!?」
「だから、ちゃんと練習して夜奈の援護が出来れば幸いだ」
「頼りにしているよ!其れはそうと、まだ着かないの?」
 あっ!そう言えば、忘れてた。
 夜奈にそう言われて我に返った俺は、キョロキョロと周りを見た。
 するとちょうど十メートル程前に綺麗な門構えをした料理屋を発見した。
「よし!ここにしよう!」
「うん!良いところだね!……ところでたっくん。とは?」
 しまったー!『ここにしよう』って、まるで今さっき決めましたって言っているようなもんだ。早く訂正しなければ!
「ここだよ!って言うのを間違えただけだよ。いつもデートの時、喫茶店とかレストランに入る時にそう言うだろ?あの口癖が出ただけだよ」
「ふーん。そうなの?」
 まだ少し疑っている夜奈に対して俺は、
「そうそう。其れはそうと、早く入ろうぜ」
 と、夜奈を連れて店に入った。

「美味しかったね!」
「そうだな」
 思っていた以上に美味しく、どこか新しい発見をした気分である。
「また来たいね!」
「ああ。いつかもう一度来たいな」
 店の外は既に暗くなっており、外灯や店などの人工的な明るさが街を輝かせていた。
「ねえ、たっくん」
 隣を歩いていた夜奈がいきなり歩みを止め、俺にそう言った。
「どうした?」
「少し……海に行かない?」
「海!?」
 一体どうしたのだろうか。
 近くに止まっていたタクシーに乗り、海へと向かった。
 案外早く海へ着き、夜奈は嬉しそうに海へと向かって走っていった。俺はその間、タクシーの運転手に運賃を支払う事に。
「ちょっと待ってくれよ!」
「早く!」
 夜奈に急かされ、俺は夜奈の元に走っていった。
「どうしたんだよ。海なんて、いつも見ているだろ?」
「そうだね。けど、同じ海でも周りの雰囲気はいつもと違うよ?」
「そりゃあ、場所が違うからな」
「そうだけども!」
 夜奈はプーっと頬を膨らませて、少し怒った表情を見せた。
「ねえ、たっくん。私ね、やっぱり怖いの。大阪で刀を貰ってから、あの日が近づくにつれて……」
「だからか?神宮寺に修行を誘われた時に返事を渋って、さっきもその事を聞いたのは」
 夜奈はコクっと小さく頷いた。
「死にたく無い!あの時みたいに!たっくんが死ぬのを見たくない!あの時みたいに!私もたっくんも運命を変えようと生き返ったけど、もし修行をしても敵わなかったらと思うと、もう打つ手がないと思うと……」
 そう話す夜奈は怯える仔犬のように震えていた。
 こんな時、どうすれば良いのだろうか?などと考える間もなく、俺の体は動いていた。
 震える夜奈に体をそっと抱いた。
「……っ!?」
「大丈夫だよ。と、本心では言いたいが、俺より生き返りを経験している夜奈にそんな事を言うのは間違っているような気がするし…だから、俺はこう言うよ。ずっと一緒に居る。だから安心して戦え!俺も一緒に戦うからさ」
「……うん!」
 ようやく笑顔になった夜奈を連れて、ホテルへと向かった。

 翌日。早速ホテルを出て向かったのは、神宮寺が居る出雲大社であった。
「お待ちしておりました。ではまず、こちらに着替えてください」
 来るのが分かっていたかのように用意されていた、夜奈に渡した。
「これって巫女服?」
「はい!その巫女服は霊力を引き出しやすいように特殊な加工を施しているモノです。もちろん、本番用は他にあるのでご安心下さい」
「……本番用って……?」
「あの魔物を倒す為に作られた巫女服があるのです。普段はどのような服で戦闘を?」
「色々かな?制服だったり、私服だったり、ウチで作っている戦闘用の服だったり……かな?」
「なるほど。では、対戦される時はそちらを着て下さい。理由は簡単です。圧倒的に防御力が上がるので」
「うん……まあ、検討しておくわ」
「そうですか。まあ、すぐに分かると思いますよ。取り敢えず、着替えてもらいましょうか!」
「はいはい、分かったわよ。……其れはそうと、男子はさっさと出てけ!」
 ポイ、ポイ、ポイっと夜奈によって部屋の外に出された俺たちは、夜奈が着替え終わるのを待った。
 数分後。部屋から巫女装束姿の夜奈が出てきた。
「おお!可愛いじゃないか!」
 と、神田が。
「べっぴんさんやの~。写真ええか?」
 と、関谷がそう言った。
 俺はと言うと、いつもの雰囲気と違う夜奈を見て、これだけでもここへ来た甲斐があったと心からそう思った。
「たっくん。どうかな?」
「か、可愛いよ。其れにとっても似合っているよ」
「そ、そうかな?」
 えへへ。と嬉しそうに照れ笑いをする夜奈の背後に、ニコニコと微笑みながら神宮寺が現れた。
「私もそう思いますよ。……では、折角の機会なので写真撮影会を……」
「えっ!?ちょっと!」
 神宮寺のいきなりの提案に、夜奈は驚いきの表情を見せた。
 一方、俺を含む男子はと言うと、体が勝手に携帯を握っていた。神田に関しては、どこから出したのか、小型のカメラを二台、ビデオカメラを一台を設置し、更に携帯を手に持っていた。
「ま、冗談なんですけどね」
 神宮寺のその言葉に、男達は、落胆した。
「もう!冗談はやめてよ!」
「失礼しました」
 と、神宮寺はしてやったりとした表情を見せていた。
「まあ、冗談はここまでで、本題に入ろうと思います。まず、霊力についてです。霊力とは、大きく分けて二つあります。一つ目は、霊力を術式に使う方法。二つ目は、霊力を身体的強化に使う方法です。一つ目に関しましては、あなた方が倒そうとしている魔物を封印した与那と言う女性が得意としていたモノです。二つ目に関しては、六霊夜奈さんのように刀や拳で戦うのが得意とします。故に、六霊夜奈さんは二つ目の身体的強化の方を学びます。その為の特別な講師を用意しております。あやさん。よろしくお願いします」
 神宮寺は部屋の出入り口の方を見て、そう言った。
 すると、出入り口の方からすらっとした、黒髪ロングの女性が入ってきた。
「初めまして。此度、六霊夜奈様に修行をつけるよう命じられた大城彩おおしろあやと申します。以後お見知りおきを」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「では、早速修行に移らせていただきます。先程聖子様からお聞きしていると思いますが、霊力には二種類存在し、私も六霊夜奈様と同じ身体的強化の方となります。故に今回私が見本を見せる形で、教えさせて頂きます」
「なるほど…」
「では一緒に、外に出て来ていただきますでしょうか?」
「あ、はい!」
 夜奈は大城彩と言う女性の後ろを、その後ろに俺や関谷が付いていった。もちろん、神宮寺と自称神もだ。
「ところで、何処へ向かっているんや?」
 と、関谷の問いに対し、神宮寺がこう答えた。
「私たちがいつも修行で使うところになります。其処はとても神聖な場所で、一般の方は絶対に入れない場所となっております」
「えっ!?じゃ、じゃあ、俺たちも入っちゃいけないって事?」
「いえ、今回は大丈夫ですよ。さて、そろそろ着きます」
 十分程歩いた先にあったのは、周りが木々に囲まれた、半径五十メートル程の何も無い地面だけのスペースであった。
「では、始めましょう。六霊夜奈様、数メートルほど離れて、向かいにお立ちください」
 夜奈は言われるまま、大城彩と数メートル離れて向かい合った。
「其れでは修行を始める前に六霊夜奈様の実力を見せていただきたい。方法は簡単。今から木刀をお渡ししますので、体に軽く当てられた方の勝ちです。よろしいですか?」
「ええ、大丈夫です。でもいいのですか?そんな簡単な事で」
 夜奈は随分と余裕の表情を見せた。
 何てったって、夜奈の得意な分野である。負けるはずがない。
 其れに体力的、筋力的にはどうか知らないが、経験に関しては、死んだ回数分人より多いはずなのだから。
 大城彩に渡された木刀を受け取ると、軽く数回振り、重さなどを確認すると、木刀を下段に構えた。
「其れでは、始めましょう。いつでもいいですよ」
 そう言う大城彩は、構えを取らず、ただ棒立ちしていた。
「いいんですか?構えなくて?」
「構える必要はありません。今のあなたに負ける気がしませんから」
「うわ。今の言葉は流石にカチンときましたよ。……では、いきます!」
 夜奈はそう言うと、駆け出した。
 流石夜奈。あっという間に、距離を縮め、すぐさま間合いに入った。
 そして、あらかじめ下段に構えていた木刀を振り上げた。
 その行動に大城彩は、スッと木刀を上段へ構え、そこから木刀を振り下ろし、夜奈の木刀と打ち合う形へ。
 カン!という、木刀の独特の乾いた音が周囲に響き渡った。
「ほう。思っていた以上に力はありますね」
 涼しげにそう言った大城彩に対し、夜奈は相当辛そうな表情を見せていた。
「重い……」
 よくよく見ると、夜奈は両手で木刀を握っているのに対し、大城彩は右手だけであった。
 いくら重力の力を使って振り下ろしたとは言え、はたまた夜奈より身長が大きいとは言え、ここまでの差が出るはずがない。
 夜奈は数秒堪えた力比べも分が悪いと判断したのか、木刀の角度を急にし、大城彩の木刀を受け流した。
 受け流された大城彩の木刀は、地面に衝突し、ドン!と言う爆竹でも仕込んでいたのかと思う程の大きな音と共に、軽く土煙を巻き上げた。
「……ッ!?」
「よく逃げましたね」
 土煙と共に間合いを再び取った夜奈の息は激しく切れていた。
「夜奈!力比べでダメなら、手数でどうだ?」
 気づけば、俺は夜奈にそう言っていた。
 夜奈はこちらを見てニコッと微笑み、小さく頷いた。
 そして再び走り出した。あっという間に、再び間合いに入った夜奈は、右から左へと水平に薙ぎ払った。だが、この攻撃は防がれる。
 この戦況に夜奈は諦めなかった。続いて上段から木刀を振り下ろした。だが、この攻撃も防がれる。
 夜奈は諦めず再び攻撃を加えた。左上から右下へ。中段左から中段右への水平斬り。ありとあらゆる斬撃を繰り出した夜奈だったが、その度尽く防がれた。
 その数、五十は超えていた。
 ここまでやって無理なら……。と思った夜奈は、一旦間合いを取り、そして、渾身の力を足に込め、体勢を低くし、一気に駆け出した。その速さは、ここ数分で一番の速さであった。
 其れは夜奈の最後の攻撃を意味しているのを、この場にいた全員が確証していた。
 そこまでしてスピードを上げた最後の攻撃は、突きであった。
 だが、その攻撃は防がれる事は無く、ひらりと躱された。
「いいスピードです。ですが、まだ遅いですね」
 そう言った大城彩は、夜奈の背後に移動し、持っていた木刀で夜奈の頭を軽く叩いた。
「いたっ!」
「これで私の勝ちです」
 大城彩は、恐らく全力を出した夜奈を相手に息の一つも乱す事無く、最後まで涼しげな表情を貫き通しながら、そう言い放った。
 夜奈は木刀で叩かれた頭を押さえながら、その場で固まっていた。
「国井。行ってやるべきちゃうか?」
「あ……ああ」
 関谷にそう言われ、夜奈の所へ向かった。
「夜奈……。だ、大丈夫か?」
「たっくん……。私、負けちゃった」
 そう言った夜奈は、目から涙が溢れて出ていた。
「六霊夜奈さん。どうしてあなたが負けたか分かりますか?」
 神宮寺のその問いに、泣いていて答え難い夜奈の変わりに俺が答えた。
「霊力のコントロールの差か?」
「はい。実のところ、彩さんは六霊夜奈さん程筋力はありません。純粋に力比べをすれば六霊夜奈さん。あなたに軍配が上がるでしょう。其れ程霊力というモノは、戦闘において最も重要だと言う事を覚えておいてください。さて、ここからは私が直々に霊力のイロハを教え差し上げます。では、先程のところへ戻りましょう」
「聖子様。私はこれにて失礼します」
「あ、はい!彩さん、お疲れ様でした」
 大城彩は神宮寺にぺこりと軽くお辞儀をすると、その場から姿を消した。
「消えおった……」
 実際に消えた訳では無い。モノ凄いスピードで、この場を離れただけだ。
 俺の目はそのスピードに余裕で付いていけるが、ごく普通の関谷には消えたように見えてしまったのだろう。
「さて、行きましょうか!」
 俺は夜奈を連れて、来た道を戻った。

 再び十分程歩いた俺たちは、最初に居た部屋の中へと向かった。
「夜奈さん。どうですか?少しは落ち着きましたか?」
「ええ。この帰路のお陰で」
「其れは良かったです。少し疲れていると思いますので、一度休憩をしてから霊力の修行を開始しましょうか」
 お茶を再び出され、ようやく一息付いた。
 そんな中、関谷が神宮寺にある疑問を問いかけた。
「一つ疑問に思ったんやけど、あの大城彩って言う女性が戦えばええんちゃうんか?」
 この関谷の疑問に、俺と夜奈は固まった。
 確かにそうかも知れない。
 今の夜奈より勝てる可能性があるのだから。
 だが、そう思った俺たちの推測は神宮寺によって崩れた。
「本気でそうお思いですか?」
「え!?」
 この神宮寺の言葉に、言葉が思いつかないかった。
「確かに先程、彩さんに負けた夜奈さんですが、実際に魔物と戦った場合、勝てる可能性があるのは、夜奈さんです。理由としては二つ。一つ目は、彩さんと夜奈さんの霊力値の差。二つ目は、モノ凄い霊力を帯びた刀の存在です。一つ目ですが、彩さんの霊力値は五段階の内、三。一方夜奈さんは五段階の内、五。この差は、私たち霊力者としては、相当大きな問題なんです。先程の戦い。負けてしまった夜奈さん、実は無意識に少しですが、霊力を使って攻撃と防御に使っていました。一方彩さんは全力で戦うように言いました。ここで問題です。全力で戦った彩さんと少しずつ霊力を使った夜奈さん。どちらが早くバテるでしょうか?答えは簡単。彩さんです。これが決定的な答えになります」
「つまり、さっきの戦い、長引かせれば夜奈が勝っていたって事か?」
「はい!その通りです。もちろん、彩さんも馬鹿では無いので、今の夜奈さんになら、今回のようにすぐに決着を付けるのが、確実ですがね」
「なるほどね。核を見つけながら戦う長期戦には、夜奈のような霊力値の高い人間がうってつけって事か」
「はい。夜奈さんがもし霊力のコントロールを極めたなら、彩さん程の霊力値を三十分から一時間ほど保っていられると思います。もちろんその場合は、動かない状態なんですけどね」
「其れで、二つ目の理由は?」
「二つ目の理由は、刀に宿る霊力が強すぎる為、彩さんが長い間刀に触ると、体が霊力に対して過剰に反応して、目の違和感、呼吸困難、吐き気などを起こします」
「なんか、アレルギー反応みたいやね」
「まさにその通りです。これが彩さんに戦えない理由です。……さて、そろそろ始めましょうか。では、夜奈さん。これより霊力の修行に入ります。まず、私のを見ていて下さい」
 神宮寺はそう言うと、両の掌を合わせ、ゆっくりと開いていき、約二十センチ程で動きを止めた。
「其れではいきます。手と手の間の空間をよく見ててください」
 神宮寺に言われた通り、手と手の間を見た。すると、ぽわんと暖かく優しい輝きのモノが現れた。
「これが霊力です。イメージとしては、手と手の間に球体を出現させる感じです。因みに、ある一定の力を込めるとこんな事も出来ます」
 神宮寺はそう言うと、手の形をまるで拳銃のような形にし、人差し指の先端に先程のような丸い輝く霊力が現れた。
 ……って、ちょっと待てよ。これってまさか……。
「溜まった霊力を対象に向けて、こう言いながら放ちます。霊「それ以上言うなー!」」
 神宮寺が放った霊力は、まるで弾丸のように飛んでいき、一本の木に命中した。
「霊力を完全にコントロール出来た人は、このように使う事が可能なのですよ。では、夜奈さん。手と手の間に球体を作るイメージで、霊力を集中してみてください」
 夜奈は、神宮寺と同じように胸の前で手と手を合わせ、ゆっくりと開いていき、二十センチ程で止めた。
「ここからです。霊力を集中してください」
「……あっ!出来た」
「「「え!?」」」
 俺、神宮寺、関谷の三人は、夜奈のその一言に、声をハモらせながら、手の中を覗き込んだ。
「これって…」
「出来てるんちゃうか?」
「はい。……出来てますね……」
「や、やった……」
 出来た本人もあっさり出来てしまって、驚いている様子であった。
「では、一度解除してもらいまして、もう一度やってみてもらえますか?」
「う、うん」
 夜奈は再び、霊力の集中に取りかかった。すると、夜奈の手の中で再び霊力の塊が出現した。
「まさか、ここまであっさり出来てしまうとは……。才能はお有りだとは思ってはいましたが……」
「もしかして、修行ってこれで終わりなのか?」
「いえ、一応修行については三段階あり、この霊力の出現は一段階目にあたります。では、二段階目に移ります。二段階目は、体に霊力を帯びさせます。イメージとしては、力むのでは無くて、霊力を注ぎ込む感じで。其れをあらゆる部位に自由にコントロールします。例えば、足に霊力を注ぎ込むと、スピードが。腕に霊力を注ぐと剣撃の速さと威力が上がります。防御に関しては、目に霊力を注ぐと動体視力が上がり、攻撃を受ける直前に当たるであろう場所に霊力を込めると、其れ程ダメージは受けなくなります。つまり、これを習得すれば走攻守が揃い、大きな戦力へと変わります」
「話を聞きながら勝手にやっているけど、む、難しい……」
「そりゃあそうです。この修行を会得するのに、どんなに早い人でも半年はかかりますからね。故に三段階目も同時にやろうと思います。霊力値を高める修行と、持続させる修行です。以上、この二つの修行が魔物を倒す為に必要な内容となっております。なお、この二つの修行については、テレビ電話でも見れますので、連絡先さえ教えて貰えれば、帰ってもらっても大丈夫ですから」
 其れは助かる。長い間居なければいけないのかと思っていたところで、その話は朗報である。
 そう思っていると、隣にいる夜奈が話しかけてきた。
「たっくん。私、もう少しここに居たい!」
 俺はこの発言に戸惑をみせた。
 何故なら、テレビ電話越しで出来る修行をわざわざここでやる必要があるのかと言う疑問があったからだ。
 もちろん、夜奈は夜奈の考え方があるのだから、全てを否定はしない。しかし……。
 俺は素直に聞いてみる事にした。
「どうしてここに?家に帰っても修行が出来るって神宮寺が言っているが?」
「そうだね。でも、私はもう少しここに居たい。理由としては……そもそも確証は無いんだけど、向こうに戻って修行をするよりも早く、霊力のコントロールをマスター出来そうな気がするんだ。だから、先に戻ってもいいよ?後でちゃんと帰るからさ」
 夜奈はニコッと微笑みながら、そう言ったが夜奈の瞳の奥は、寂しさで溢れていた。
 だから俺は、軽く夜奈の頭にチョップを喰らわせてやった。
「イタッ!?」
「馬鹿。一緒に居てやるよ。確証は無くても、お前の直感がそう言っているんだろ?だったら、俺は其れを信じるし、其れに……」
「ん?」
「少しでも、一緒に居たい……から……」
 恥ずかしいー!!
 まるで顔から火が出ているような熱さだ。
 其れを聞いていた夜奈も、周りが見ている中での発言に恥ずかしさを感じたのか、顔を真っ赤にしていた。
「……うん。あ、ありがとう……」
 こうして、俺と夜奈は暫くここに居ることが決定し、福井県へ帰ったのは、其れから一週間後の事であった。
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