さあ、ゲームを始めよう。

毛穴翔太

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予選

実況五 予選

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 本戦まであと三カ月を切った。他のプレイヤーである、実況者達は皆とてつもなくAIを育てている事だろう。
 そんなAIを使った予選が始まろうとしていた。

「さてと、クリム。予選を始めると実況者達に伝えてくれ」
『分かりました、マスター』
「さあ、ゲームを始めよう!」

『皆様お久しぶりです。先日、メールを送らせていただいた通り、予選会を開催します。その為にはこちらのコンピュータで予選の組み合わせを決めさせていただきます。では、始めさせていただきます』
 クリムはそう言うと、パチンと指を鳴らした。
 すると、画面に実況者達の名前と予選ブロックA~Hの八ブロックが表示された。
 俺はA~Hの八ブロックの中のFブロックに所属していた。対戦相手はリッチさん、まっさん03さん、HANABI001さんの三人であった。
 いずれも、有名な実況者さんである。
『では、それぞれの予選会で対戦する相手です』
 パチンと再び指を鳴らした。すると、各予選ブロックの対戦順が表示された。
 俺の第一試合は、まっさん03さんであった。

 まっさん03さんは、アクションゲームを主に実況している方で、動画再生回数は平均5万は超えている。
 そんなまっさんさんのパートナーの名前はモアちゃん。綺麗な水色の髪をツインテールにしている可愛らしい子だ。
「初めまして、まっさん03です。りゅーくさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
『では、始めさせていただきます。今回、まっさん03様とりゅーく様の対戦するゲームは、ポーカーです。ルールとして、役は普段と変わりません。次にジョーカーを一枚入れさせていただきます。カードの交換は一度のみとさせていただきます。尚、ゲームは五回行い、三戦した方が勝ちになります』
「ノーペアの場合はどうなるだ?」
『いい質問ですね、まっさん03様。その場合、仕切り直しとして、もう一戦します。引き分けで終わる事はありません。勝つか、負けるか。それだけです。ではこれより対戦を始めさせていただきます。因みにディーラーはこの私、クリムがやらせていただきます。では、Fブロック一回戦目、始めさせていただきます!』

 一戦目。エリスの札は、
 ハート   A
 クローバー 3
 クローバー 9
 スペード  A
 ハート   K
 であった。
 ここは、無難にハートのAとスペードのAを残して、残りは交換であろう。
 エリスも俺と同じ事を考えていたのか、A同士を残して、全てディーラーへと送った。
 ディーラーからは新たなカードが届いた。
『うぅ~~』
 エリスはカードを見てうなだれた。
 結局、スペードとハートのAのワンペアだった。
 一方、まっさんさんのAIモアちゃんはと言うと、一枚を残して、全てディーラーへ。ディーラーからは新たなカードを配られた。
 結果は、
 エリス ハート・スペードのAのワンペア。
 モア  クローバー・スペードの8
     ダイヤ・ハートのJのツーペア。
 つまり、一戦目はモアちゃんが勝った。

 二回戦目。
 さっきより、最悪だった。一つもそろって無いのだ。
 このまま、全てを捨てて、新たなカードをもらう。もしくは、クローバー・スペード・クローバー・ハート・クローバーなのでクローバーだけ残して、フラッシュを狙うか。
 どっちにしても、危ない。
 エリスもどうするのかを悩んでいるようだ。
 一方、モアの方はどうやらいいカードが来たらしい。三枚交換したところ、一気に笑顔になっている。
 ツーペアか、スリーカードか、フルハウスか、フォーカードか・・・。それとも・・・。
 どれにしても、エリスには絶望的だ。エリスは渋々、クローバー以外のカードを捨てた。
 結局、エリスはノーペアで、モアは4のフォーカードだった。
 これで二戦二敗。次負ければ、予選で負けがつく。と言うことは、残り二戦勝たなければ、本戦には出れない。
 ポーカー対決、残り三戦。是が非でも勝たなければならない。
『では、三戦目のカードを配ります』


「物語の主人公は、いかなる時も最後は勝つ。それは、ピンチである程強くなる。さあ、覚醒めざよ!そして、勝ってみせよ」


『この場の勝利を私に・・・』
 と、エリスが呟くように言うと、服が巫女服へと変化した。
 その光景に一同、驚きを隠せなかった。
『えーと、では気を取り直して配ります』
 クリムが人早く正気に戻り、カードを配りだした。
 あの時と同じだ。バンダナさんと模擬戦をして、エリスがスキルを使った時と。
 冷たく見られただけで凍ってしまいそうな瞳に、感情が失われた感じの表情。
 間違いない。だが、どこで使ったのだろうか。そもそも戦闘系以外でも使えるのか。
 などと俺は考えていると、エリスはクリムからのカードを受け取っていた。またしても、ノーペアであった。
 最悪だ。これはどう見ても先程と同じパターンだ。
 ただ一つ違うのは、相手のモアが先程と違って笑顔が無かった。だが、モアはワンペアはあるのか、手札から三枚捨て、ディーラーから三枚貰っていた。
 最低でも、ワンペアはある可能性がある。
 さて、エリスはどうするのか。
 するとエリスは五枚全てを捨てた。
「なっ・・・!?」
 俺は言葉が出なかった。
 クリムはエリスから貰ったカードを端に寄せ、新たなカードを五枚渡した。
 それをエリスは触れることさえ無く、その場に置いた。
 あまりの行動にモアが口を開いた。
『見なくていいのですか?』
『構わない。見たところで、どうにもならない』
 確かにその通りだ。だが・・・。
『それより、早くしなさい』
 エリスはクリムに向かって発した。
『わ、わかりました。では、オープン』
 モアは3と5のツーペアだった。
 そしてエリスはと言うと、4と9のフルハウスだった。
「「『『・・・っ!?』』」」
 俺を含め、まっさんさん、モアちゃん、クリムから言葉が出なかった。
『私の勝ち。さあ、次の試合を』
『あ、はい!では、第四戦目です』
 クリムは再び、カードを五枚ずつ渡した。
 そこでエリスは更に驚きの行動を見せた。
 一切カードを見ずに、エリスから見て右端二枚をディーラーに渡した。
『いいのですか?』
 流石のクリムもエリスの行動を止めた。
『大丈夫。それよりも早く』
『あ、はい。まっさん様の方はどうします?』
 モアはエリスの行動に唖然とした表情を見せ、動きが止まっていた。
「モア、大丈夫か?」
『あ、ハイ』
 モアはまっさんさんの声に再び動き出した。モアはディーラーに三枚のカードを渡し、三枚受け取った。
『では、オープン』
「「『『・・・なっ!?』』」」
 エリスの手札は、ハートのストレートフラッシュだった。
『嘘でしょ・・・』
 対戦相手のモアの手札は、Aのワンペアだった。
 二勝二敗。次で決まる。
 五戦目。再びクリムからカードが配られる。
『では、最後のカード交換に入ります。お二人ともよく考えて、カードの交換をーー』
『いや、その必要はない』
 クリムの言葉をエリスが遮った。
 エリスはそう言うと、カードを表に向けた。
「「『『・・・・・っ!!!』』」」
 スペードのロイヤルストレートフラッシュだった。
 これ以上のカードはない。つまり、この勝負は、
『し、試合終了。勝者、りゅーく・エリスチームです』
 よっしゃ~!まずは一勝目だ。
「仕方ない。勝負は勝負だ。次は勝とうぜ、な?」
『・・・はい!』
「ありがとうございました。まっさんさん」
「こちらこそ、りゅーくさん。これからの試合、お互いに頑張りましょう!」
「はい!」
「では、また」
 これにて、Fブロック予選一回戦目は終わった。試合はりゅーく・エリスチームの勝利で終わった。


『ふう、只今戻りました。予選一回戦AブロックからHブロックまで全て終わりました』
「ご苦労様。いや~、面白い試合だった。とくにFブロックの試作品001の試合は特に面白かった」
『そうです!あれは一体なんですか!?たまたまとは思えません』
「気づいて無かったのか?あれはだなーー」


「データを書き換えた!?」
『はい。簡単に言えば、ダメなカードをいいカードへと変えたんですよ。私達の世界はデータの世界ですから』
「こちらでは出来ないことだな」
『そうですね。でも、そのおかげで勝つことが出来ました』
「でもよ、下手したらバレるとこじゃないのか?」
『はい。だから、少しずつ勝てる手札にしたんですよ。まあ、向こうも気づいてはいなかったみたいなんで、最後はロイヤルストレートフラッシュで決めちゃいましたけどね』
 エリスはフフフと笑った。
「まあ兎に角、勝ちは勝ちだ。次も頑張ってくれよ」
『はい!次も頑張ります!』
 エリスは笑顔でそう言った。
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