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第19話 白銀のドラゴン③

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「おとぎ話だと思っていた白銀のドラゴンが今目の前にいるとは・・・・・・。
人生何があるかわからんな。」


ヴァルファード辺境伯は白銀のドラゴンを目の前にして遠くを見つめながら、感慨深げに聞こえそうで聞こえないくらいの声量でポツリと呟く。


「ふぅ・・・・・・。辺境伯、現実逃避しておる場合じゃなかろう?
其方の言うようにおとぎ話とされていた白銀のドラゴンが今目の前にいるのは事実なのだ。
このことがほかの王侯貴族共に知れたらどうなるかのぉ?」

「・・・・・・はぁ。権力の塊のような奴らが知ったら黙ってないだろうな。
何がなんでも捕まえようとするに決まっている。」


クラウディオさんの含みを持たせた物言いに、ヴァルファード辺境伯は厄介なことになったと頭をかきながら眉を顰めた。

軽い気持ちでドラゴン部隊を見に来ただけのはずなのに、なぜか大きな問題に関わることになり、現実から目をそむけるようにスハイルのモフモフの体毛に顔をうずめ、ため息を漏らす。


「白銀のドラゴン殿、お初にお目にかかります。
ヴァルファード領、領主ヘンドリック・ヴァルファードと申します。」


流れるように綺麗な騎士の礼をしながらヴァルファード辺境伯が名乗る。


<・・・・・・まだ我が主様に名前をつけられてないので名乗れぬ。>


白銀のドラゴンは名乗りを聞き鷹揚に頷くが、遠慮がちにこっそりと視線を僕の方に投げかけシュンと縮こまるように肩を落とす。

その場にいるヴァルファード辺境伯、クラウディオさん、ドラゴン部隊の人達の視線がグサグサと音がしそうな程僕の体に突き刺さる。


「昴広様が汚れてしまいますので、そのような不躾な目で昴広様を見ないでください。」


視線から僕をかばうように前に出たセバスチャンの冷たい一言でその場の空気が一気に下がり、僕を凝視していたドラゴン部隊の人達は顔を青ざめさせ一斉に目をそらす。


「・・・・・・白銀のドラゴン殿のいう我が主様というのは、黒いフェンリルのそばにいる者のことでしょうか?」

<あぁ、そうだ。>


ヴァルファード辺境伯は先程までの会話で何となく察しているが念の為確認の意味を込めて問いかけると、白銀のドラゴンは間を開けることなく速攻で肯定した。

クラウディオさんからそうなのか?と問いかけるような目が向けられ、僕は違うというように全力で首を振り否定する。


「ふむ・・・・・・。

お初にお目にかかります白銀のドラゴン殿。
わしは貴殿が主の言われているものの父で、クラウディオと申します。

我が息子である昴広は白銀のドラゴン殿と縁もゆかりもないはずなのだが、なぜ昴広のことを我が主様と言うのかのぉ?

昴広自身も突然我が主様などと呼ばれ困惑しておるので、その理由をお聞かせねがいませんかな?」


僕が否定するのを見てクラウディオさんは顎に手を当てて僅かの間考え込むと、ヴァルファード辺境伯の横に立ち、人好きのする笑みを浮かべ白銀のドラゴンを仰ぎ見る。


<主様のお父上ですか!こちらこそお初にお目にかかります。

お父上の仰られるとおりです。
私も主様とは今までお会いしたことはありません。

ですが、他のドラゴンとは違い私の一族は生涯を通してお仕えするたった一人だけの主が天命により決められています。

たとえお仕えする主が生涯を終えたとしても、転生すればすぐに分かるようになっています。

普通だと生まれてからお仕えする主がわかるのは早くて100年、遅くて500年。

一族の同じくらいに生まれた者達が主を見つける中、私は2000年もの間この世界中を端から端まで探し回ってもお仕えすべき主様見つからなかったのです。

半ば諦めかけていたのですが、1ヶ月程前突然目の前が真っ暗になり、光の中から女神様が現れ我が主様となるお方をお見せくださったのです。>

「それが僕だったってこと・・・・・・?」


語り終えた白銀のドラゴンの目から一筋の涙がこぼれ落ちる。

寂しげに語るその姿をみて、僕は抱きついていたスハイルから離れ、白銀のドラゴンの前へと立って問いかけると、白銀のドラゴンは僕の言葉に頷き肯定を示す。


「そっか・・・・・・。
うん、決めた。僕は貴方の主になる。」

「な!?昴広くんそんな簡単に決めることじゃないぞ?!
白銀のドラゴン殿の主になるというのがどんなに大変なのか分かっているのか!?」


白銀のドラゴンとジッと見つめ合い、僕がふにゃっと力の抜けた笑みを浮かべて宣言すると、横にいたヴァルファード辺境伯が慌てて問い詰めてきた。


「ヴァルファード辺境伯が僕のことを心配して言ってくださってるという事は分かるのですが、僕は今自分が言ったことを取り消すつもりはありません。

確かに未熟者の僕が白銀のドラゴンさんの主になることは大変だと言うことはわかります。
けど、2000年の長い間僕が来るのを待ってくれていたって聞いたらその思いに答えるしかないじゃないですか。」


僕が自身の言葉を曲げるつもりはないと伝えるようにヴァルファード辺境伯を目をそらさずに見続けると、厳しい表情を浮かべていたヴァルファード辺境伯ははぁっと深く溜息を吐き、眉を下げる。


「綺麗な顔をしていて似ても似つかないのに頑固な所だけはクラウディオ殿と似ているな・・・・・・。

昴広くんが決意出来ているなら仕方ない。
乗りかかった船だ、私も昴広くん達のことを全力でサポートしよう。」

「うむ。わしも出来うる限り手伝うぞ?」

僕の真剣さが伝わり、仕方ないという言葉と共にヴァルファード辺境伯とクラウディオさんから許しを得ることができた。


「ありがとうございます!

スハイル、僕が白銀のドラゴンさんの主になる為にはどんな風にすればいいのかな?」


ヴァルファード辺境伯とクラウディオさんに頭を下げお礼を述べると、後ろを振り返りスハイルを見上げ尋ねる。

スハイルと主従の契約を結んだ時は普通のじゃなかったから普通のやり方よくわからないのだ。


<結び方は簡単だ。

昴広のスキル『召喚魔法』には2種類の契約方法がある。
今回の場合は対象のものに『契約したい!』と強く心で訴えかけ、俺の時のように強い光が現れて、名前をつければ無事契約成立となる。

契約成立になったら離れた場所にいても名前を呼べばいつでも召喚できる。>


成程っと頷きながらスハイルの説明を聞き、緊張を落ち着けるように深呼吸をし、白銀のドラゴンと再度目を合わせる。


「白銀のドラゴンさん。
僕と契約を交わしてくれませんか?」


スハイルの言うように気持ちを込めて訴えかけると、白銀のドラゴンが長い大きな首をさげるのと同時に僕と白銀のドラゴンの体が明るく光始めた。

周りにいた人たちは幻想的な光景を目の当たりにし、口をポカンと開く。


「ステータスオープン」


だんだんと光が収まっていくのを確認して、久しぶりにステータスを開き、召喚獣のところにある白銀のドラゴンの項目を指で触る。


「僕の名前は昴広。これから宜しくね。アルジェント!」

<良い名をつけて下さりありがとうございます。
生涯の忠誠を美しく可憐な我が主様に捧げます。>
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