隣の同居人

此宮

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9,勝田智浩

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『米田になんかされていないか?大丈夫か?』
集会が始まる前に鼎に耳打ちされたのはそんな言葉だった。少し眉を下げて心配そうにこちらを見る彼は本当に良い人なんだろう。なんか場違いにモテそうだなと思った。
米田について、すでに警戒心はあまり無い。事前情報よりも彼に人間味があったせいで傾いていた。トランクスとTシャツで歩き回るような人だし。部屋でのことを思い出してくすりと笑ってしまった。
『先輩に教えて頂いたより良い方でした。多分皆思い違いをしてるんですよ。大丈夫です』
そう耳打ちすればそれなら良いけどと言わんばかりに鼎は顔を顰めた。あまり良くないという顔なんだろう。
どうしたら誤解が解けるだろうか、とすこし考えていると横から手手が伸びてきて半分勝田の方を抱きしめるように寄せた。思わずわっ、と声を上げてしまった。真横に座ってた米田はにこりと笑う。
「鼎くん鼎くん。もうすぐ集会始まるみたいだし、席取っといた方がいいんじゃない?埋まって来てるよ?」
やっぱり米田は悪い人だとは思えない。周りのことを気配ったり、そういったことは勝田はできてなかった。埋まりかけていた席の事なんて気付かずに彼と話していたのだから。

鼎は米田を見て何故か一度怯んだ顔をし、勝田にだけ挨拶をして席を探しに行った。何があったんだろう?と首を傾げてその背を見ていると横からつんつんと頬を突いてくる手。当たり前だが米田だった。
「な、なんですか。先輩」
その手を受け止めながら尋ねると「フフフ」と満足そうに笑うのだから訳が分からない。今度は勝田の手を取ってにぎにぎし始める。はてなが3つくらい頭上を舞った。そして彼はそちらに目をやったまま、なんの話?と問いかけて来た。
流石に「あなたに注意しろと言われました」と答えたら彼も気分を悪くするだろう。なんて答えようか迷った挙句、「内緒です」という言葉が口をついて出た。
「ふぅん?」
とあまり納得していない口調で一度勝田の顔を見た後、手を離してくれた。なにやら難しい顔をしているが、集会が始まってしまったので聞く機会は失ってしまった。




思ったよりも長かった集会の殆どは寮則の事が多かった。一番最初に挙げられたのは「異性を寮に入れないこと」。……………もうさっき、やってた人が隣にいるわけで。まぁ俺には無縁のことだし、と思いながら他に重要そうなことをメモに取った。
一番厳しいのは門限だ。夜11時、と書いてあるからそこまで厳しくはないと思うかも知れないが、それに遅れると入れてもらえない。最悪野宿の上寮長に叱られるのはごめんである。



「…寮則、覚えるの大変そうですね」
配られた5枚組の紙をめくりながらつい顰めっ面に拍車が掛かる。後日暗記テストをやると言われたし、覚えておかないといけないのかもしれない。不安になって部屋に戻る途中、そう米田に言うと真面目だねぇとのんびりした声が返ってきた。
「僕それ覚えなかったけど今もちゃんとここいられるからね」
「はぁ…」
それはそれでどうなんだろうか。
「まぁある程度なら僕も教えられるだろうしいつでも遠慮せず部屋においでよ」
「ありがとうございます」
と返答しつつ、また彼女との時間を邪魔してしまうのは申し訳ないし、気まずい。気持ちだけありがたく貰っておこうと思った。

「そう言えばさ」
突然米田がこちらに声を掛ける。
「来週、食べたいの考えてたんだけどカレー食べたい」
「え?カレーって食堂とかでも出ないんですか?」
「学食のカレー、なんか辛すぎて食べらんないんだよね。甘いのがいいなぁ」
辛いのダメなんだ、と脳の片隅において分かりましたと答える。

やったぁと少し飛び跳ねた少し幼い動作を見てクスッと笑うと、彼は目を丸くしてから小さくガッツポーズを決め、「よし」と言った。
「?」
そんなにカレーが食べたかったんだろうか。

「じゃあ楽しみにしてるね!おやすみ!」
そう言うと彼は小走りで部屋へと駆けて行く。
その背におやすみなさい、と声を掛けた。
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