竜王様のヘタレな恋 ーR18バージョンー

Arara

文字の大きさ
31 / 144
出会い編

暗雲3

しおりを挟む
 部屋に戻ると二人はもう起きていて、食堂に行く準備をしていた。

「ローリー、おはよう」

 我はコワゴワローリーに挨拶をした。
 顔つきから考えるに、まだ怒ってるみたいだ。

「アル、夜中なのにどこに行ってたんだ?」

 ローリーは我とは目を合わせようとはせず、冷たい声色で問うてくる。

「え? あ、ああ、散歩だ。目が冴えて眠れなかったのでな、それで、」

「ああ、言い訳はもういいよ! しばらくアルとは口をききたくないから、話しかけないでくれよな」

「え? え? そんな、ローリー」

 ローリーは我の声は聞きたくないとばかりに、先に行くと一人で食堂に行ってしまった。
 ああ、しまった! 我は頭を抱えた。
 我の幼稚な言い訳など、聡いローリーに通じるわけがなかった。
 何と言うことだ、また、怒らせてしまった。
 しかし、では、何と言えば良かったのだ?
 本当の事は言えないのに。

「ディーン、ローリーが・・・」

 ディーンに向き直り助けを求めたが、肩をすくめるばかりで何の役にも立たなかった。
 食欲はとうに消え失せたが、ローリーの様子も気になるので、二人で食堂に向かった。
 ローリーは一人隅っこの席にぽつんと座って食べていた。
 隣が空いていたので、黙って座った。
 話しかけるなとは言われたが、隣に座るなとは言われていない。
 
 ディーンがしきりに、軽い調子で話しかけるが、ローリーは答えない。
 我は話しかける事を禁止されているので、話しかけたいが出来ない。
 もぞもぞしているとローリーがため息をつき、くるりと我の方に首を回し、諦めたように言った。 

「ごめん。しばらく話す気分じゃないんだ。気持ちが落ち着くまで待ってくれ。頼むから」
 
「分かった。我はローリーの気持ちが落ち着くまで話しかけない」

 我はしっかりと宣言した。
 分別をわきまえた大人だからな、ちゃんと待てるぞ。

「でも、しばらくってどのくらいなのだ? 食事の間か? 終わったらよいか?」

「・・・・・・」
「・・・・・・」 
 
 誰も答えてくれない。
 ああ、そうか、なるほど! 我は手を打った。 
 今がまさに”しばらく”の時間だから、話しかけてはならぬのだ。
 慌てて口をつぐみ、我は黙って食事をすることにした。
 
 話しかけることは禁止され、あ~んは状況を鑑みるに無理っぽい、寂しく黙々と食事をとっていると、急に周りがざわざわし始め、不穏な内容の会話が漏れ聞こえてきた。

「おい、聞いたか? サンドール男爵家が三日前襲われたらしいぞ」
「ああ、俺も今聞いたところだ。男爵様は重傷、一番下の令嬢は攫われちまったらしいぞ」
「男爵様と言えば、有名な魔法使いだろう?」
「確か、そうだな。なんだか、数年前に起こった事件を思い出すな。まさか、また奴らが動き出したんじゃあ」
 
 さらに、バタバタと一人の客が食堂に駆け込んで来て、皆に聞こえるように一報をもたらした。

「大変だ。コッペン子爵家が昨夜襲撃に遭って、一家全員行方不明だ!」
 
 コッペン子爵?
 昨日立ち寄ったところがそんな名ではなかったか。
 近いな。
 我はただそう思っただけだった。

「もう、間違いない。また、奴らが動き出したんだ!」

 食堂にいる者達が口々に言い合っている。

「それで、王宮付きの魔法使いが派遣されて来るらしいぞ」
「へえ-」

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・


 食堂にいる者たちが口々に話すのを、しばらく黙って聞いていた。
 もう、我らの食事をする手は完全に止まっている。
 
 昨夜、我はディーンからサンドール男爵家の報告を受けていた。
 実のところ我らが知らなかっただけで、王都近辺の都市において、サンドール男爵家以外にも散発的に襲撃事件は発生していたらしい。
 それがここにきて、周囲に知られないよう巧妙に隠されていたはずの襲撃が、大ぴらに見せつけるように起き始めた。
 まだ、王都内で襲撃事件は起こっていないようだが、今日にも起きないとの確証はない。
 もしやと思い、動いておいて良かった。

「オ、オレ、帰る」

 立ち上がって言ったローリーの顔は青ざめて、そして体は小刻みに震えていた。

「途中で悪いけど、ここで辞めさせてもらう。金はいらない」

 只ならぬ様子に何かが起きているのだと思った。
 足早に出て行こうとするローリーを止めて、我らも共に王都に戻ろうと申し出た。

「これから馬車を探して向かうより、一緒に乗って戻った方が早い。遠慮はいらぬ」

 ローリーはしばらく迷う素振りを見せたが、決心したように頷き、皆で馬車へと急いだ。
 
「あ、そうだ。ローリー、今日から新しい御者になる」

 ディーンが思い出したように、ローリーに御者が交代したことを告げる。

「え? なんで?」

 ローリーは立ち止まり、怪訝そうにディーンに尋ねた。

「急用かなんかが出来たらしい。済まないって謝っていたよ。でも代わりの御者がいるんだから、別に構わないだろ?」

 ローリーは納得のいかない顔をしていたが、何も言わずに馬車に乗り込んだ。
 
 それからは、馬も可能ならば換え、とにかく先を急いだ。
 その間にも、新たな襲撃事件の報が舞い込んできて、ローリーはその度に爪を噛みながら、焦りを必死に堪えていた。

 ローリーの様子から、緊迫した何かが起ころうとしているのが分かる。
 何らかの危機に直面しているのではないか、巻き込まれてしまうのではないか。
 我もまた焦りを感じていた。
 
「ローリー、困ったことがあるなら、我らに話してみる気はないか? ローリーの手助けをしたいのだ。どうだろう?」
 
 今まで何度となく繰り返してきた言葉を、再びかける。
 しかし、ローリーはやはり黙ったままで、何も言わない。

「七年前の襲撃事件に関係しているのだろう? 両親のこともローリーにかかっている魔法のことも。また襲われる可能性があるのか? ローリーの家は平民派なんだろう?」
 
 番いの危機に狼狽しない雄などいるはずもなく、我は我慢しきれずうっかり問い詰めてしまった。
 ローリーは我らに襲撃事件についての知識があることに驚いたようで、ハッと俯いていた顔を上げ、目を皿のように見開き我らを見つめる。
 呆然として何を考えているのか、顔色はますます悪くなり、唇を噛んで何かに耐えるような素振りさえ見せた。

「ああ、すまぬ、ローリー。我はただローリーが心配なだけだ。問い詰めるつもりなどなかったのだ」

 我はまた失敗してしまった。
 しかし、どうすれば良いのか全く妙案など浮かぶはずもなく、おろおろする我に険しい顔をしたローリーが覚悟を決めたように口を開いた。

「分かった。アルがそこまで言うなら、話してもいい。王都に着いたら話すよ」
 
 
 



 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...