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出会い編

決着2

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「ちょっと、あれ、何なのよ! 番いって何?!」

 ローリーがすごい剣幕で俺に詰め寄ってきた。
 
 まー、そうなるわな。
 いきなり、我の番い!!って呼ばれて熱烈に求愛、ならまだ良かったけど、襲われたもんな。
 俺だって驚いた。
 ツバ付けたって、竜族の古式ゆかしい番いへの挨拶なのかな。
 
 訳も分からず襲われたままじゃあ、あまりにもローリーが気の毒なので、俺は詳しく説明してやることにした。
 ついでにローリーの誤解もしっかり解いて氷漬けをやめさせないと。
 王宮の魔法使いが来るまでに、生粋の竜族二人と違ってやわなハーフの俺は死ぬ。たぶん。
 そのへん分かってやってんのかな、こいつ。
  
「だから、さっきから言ってるだろ? 俺達の目的はアルベルト様の花嫁探しだ。闇の魔法使いなんか俺達には全く関係ない! そんでもって、たった今、その花嫁が見つかった! つまり、お前だ! アルベルト様はこれまでも、お前だろうとはおっしゃっていたんだけどさ、本物の女の子の姿を見てテンション上がっちゃったみたいだな!」

「!!」

 ローリーは絶句していた。 
 そこにアルベルト様が割り込んでくる。

「ローリー、ローリー、ディーンとばかり話していないで、我の方にも来てくれ。ローリー、愛しい我の番い、こっちへ」

「アル、ちょっとうるさいから、黙ってて!」

「本当に闇の魔法使いとは関係ないの?」

 しばらく逡巡した後、ローリーがぼそっと呟いた。

「全く関係ない! どうしてそんなふうに誤解したのか、こっちが聞きたいくらいだよ」

 こんな氷柱にされて、迷惑も甚だしい。

「だって、イシュラムから来たっていうのに、襲撃事件に詳しかったし、それに何より、あなた達コッペン子爵家が襲われた晩、二人ともいなかったじゃない!」

「花嫁について調べるのは当然だろう? その上お前は、なんかややこしい事情を抱えてるみたいだったしさ。それから、あの夜はフランミルド様を迎えに行ってた。これまでちょくちょく外出してたのは、国許と連絡を取り合うためだ。あ、そうだ、こちらがフランミルド様だ。お前の護衛をするために来て下さったんだ」

 手が氷漬けで動かないので、仕方なく首でローリーに紹介した。
 フランミルド様は「やあ」と軽い挨拶をしている。
 この方は生粋の竜族で、やはり竜王国復興の立役者の一人だが、一応常識人?だとは思うものの鷹揚でのんびりしたところがある。
 大体竜族はもともとが集団行動などする種族ではないから、他人に合わせるとか、考えもしないのだと思う。
 そのくせ、番いには恭順しか示さないけどな!

 竜王様の番いだ、何かあっては一大事ということで、宰相様が遣わせてくれた。
 闇の魔法使いとやらが動き出し始めて、どうもローリーの家は狙われているようだし、竜王様がついているのだから大丈夫だろうとは思うものの、ローリーに出会ってからの竜王様を見ると一抹の不安を覚える。
 だから、常識人のしかも経験豊富な竜族の助っ人が来てくれたのはとてもありがたい。
 俺はほとほと竜王様とローリーには手を焼いていたから、もうご勘弁願いたい。
 竜族の雄にとって番いというものは、こんなに冷静さを失わせ、狂わせるものなのだと空恐ろしく思う。

「護衛って・・・。アルって一体何者なのよ!?」
 
 あー、竜王様っていうのはさすがに言いにくいな。
 でも、正体は明かさないと絶対に信用されないよな。
 氷漬けも解いてもらわないといけないしな。
 俺は悩んで、竜王様のもう一つの名前を出すことに決めた。

「アルベルト様の名前を教えてやる。アルベルト=シュヴァイツだ」

「アルベルト=シュヴァイツ? アルベルト=シュヴァイツって、」

「そうだ、お前が会いたいと熱望していた侯爵閣下だよ」

「嘘。なんで? なんで言ってくれなかったの?」

 ローリーが当然の問いを俺にしてくる。
 今の俺の顔は苦虫を噛み潰したように、きっと歪んでいるだろう。
 俺だってそう思ったさ!
 そしたら、こんなふうに誤解を生む事もなく、誤魔化したりしなくても済んだのにって思うよ!
 だけどしょうがないじゃないか!
 お前に役立たずの竜王様だって失望されるのがイヤっ、ていう竜王様の事情があるんだよ!

「こっちにもいろいろ事情があるんだよ。それよりも、疑いは晴れたわけだろ? この氷、早くなんとかしてくれよ。アルベルト様も、いくら丈夫だっていってもあのままじゃあ凍ってしまうぞ」

「・・・・・・」

「おい、聞いてんのか?」 
 
 アルベルト様に向けていた視線をローリーに戻すと、ローリーは眉を顰め、壊れた窓の隙間から外をじっと凝視していた。
 俺もつられてそちらを見ると、遠くの方に赤く火柱が立っているのが見える。
 まさか、と思ってローリーに目を戻した瞬間、ローリーは消えた。

「時間稼ぎだったのね」と捨て台詞を残して。
 
 まずい! 

「アルベルト様!! 大変です!!」
「アルベルト様!! ローリーが消えました!!」
「アルベルト様!! アルベルト様!!」
 
 竜王様に呼びかけるが、聞こえないようだ。

「フランミルド様、この氷なんとかなりませんか? アルベルト様に早くお知らせしないと!」

「いや、分かってはいるが、それがなかなか。これはただの氷ではないようだ。さすが竜王様の番いだな、ははは」

「そんな悠長な! ローリーの家が襲われたようなのです。窓の外に火柱が見えました。ローリーは転移魔法で、おそらく家に向かったと思われます。早く助けに行かないと!! アルベルト様に早くお知らせしないと!!」

「アルベルト様!! アルベルト様!!」

 ああ、もうこんな時に、なんで聞こえないんだよ!
 あ、もしかして、待ちくたびれて寝ちゃったとか? 
 それとも体温が下がって、まさかの冬眠? 
 黒竜が凍死なんて事はないよな?!

「ああ、そうか、それは大変だ。魔力を溜めて、力で打ち破るしかないな」

 フランミルド様はそう言うと、目を瞑る。
 しばらくして、ピシッとフランミルド様の氷に亀裂が入ったと思ったら、ピシピシと音を立てあっという間に氷が瓦解した。
 そして、竜王様の前に回り、俺の代わりに説明をしてくれた。
 竜王様はやっぱり寝てたみたいで、飛び起きて、大きな岩のような氷塊をいとも簡単に粉砕した。
 俺の氷も竜王様が手を触れた瞬間、ばらばらになって床にこぼれ落ちた。
 
「ディーン、行くぞ」

 ああ、俺の中にもうこれで安心だと安堵が広がる。
 やっぱり、竜王様は竜王様だった。
 


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