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終編
知恵熱
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婚約してから、そろそろ一年になる。
竜王国の公表があったり、わたし個人としては学校に通いながらも王宮に勤めたり、忙しい一年だった。
婚約した当初、アルはすぐに結婚したいと言ってしばらく拗ねていたけど、わたしの気持ちを尊重して待ってくれている。
でも、もう限界かも知れない。
「勉強はもう終わりだ」
「あ、あと少しだけ・・・」
「駄目だ。・・・・・・また、知恵熱が出る」
わたしは魔力が高いせいか、めったな事では病気にかからないけど、たまに知恵熱を出す。
三月ほど前に、それをうっかりアルの前で出してしまった。
知恵熱は頭を使い過ぎた結果、オーバーヒートしたためで、休ませてやれば自然に治るものだ。
全く心配な病気ではない。
しかし、その説明がアルに通じるわけがなかった。
アルは大いに動揺した。
心配のあまり魔力をざわつかせ、離宮の上空に暗雲の大渦を巻いてしまうほどに。
「ローリー」
アルは椅子に腰掛け、わたしを呼んだ。
うっ、また今から、拷問のようなしつこいキス攻撃が始まる。
「うっ、ぐっ、あ、んぐぷ、んっぐ」
「もっと飲め、もっとだ。そう、よいこだ」
「アル、んっあ、んぐ、もう、むり」
「駄目だ、もっとだ」
「ああ、んー、もう、い、や」
アルは満足げに、膝の上でぐったりしたわたしを胸に引き寄せ、つむじにキスをして頭を撫でる。
アルはわたしが熱を出した事で、あの三百年前の竜族の雌を死に至らしめた流行り病を思い出してしまったみたい。
その流行り病は、初期症状が発熱で、その後赤いあざが体全体に広がり死に至る。
一日休んでわたしの熱はすっかり下がったけど、しばらくはアルの監視付きでベッドに押し込められたままだった。
それからずっと今に至るまで、アルは神経をピリつかせたままで、わたしが集中し過ぎて根を詰める事がないよう邪魔をしてくる。
アルのおかしな行動はいつものことだけれど、この頃特にエスカレートしていってるように感じる。
このキス攻撃、つまり、キスの最中アルの唾液をたっぷり飲まされる、に始まり、先日は唾液だけでなく血まで飲まされそうになったし、怪しい茶色の小瓶を持ってきて、万能薬だから飲んでくれると嬉しいって渡された。
とりあえず、今は元気だから疲れた時に飲ませて貰うわって誤魔化したけど、あの小瓶の中身ってこの流れからするときっとアレだよね。
一瞬、もしかしてこれが性癖とかいうやつなの?!(成人を迎えてから、自分が無知であると知ったわたしは大人になるための知識をレーナからいろいろ教わっている。主に男というものについて)と疑ったけど、アルの切羽詰まった様子からそういうものではないように思う。
まあ、いずれにしても、つまり、性癖であろうとなかろうと、アルのことは愛しているけど、ソレを飲むなんて絶対にむり!
乙女のわたしに、ハードルが高過ぎるわよ!
変態ともとれそうなアルの行動だけど、おそらく病気にならないようにわたしの体を強くしたいんだと思う。
アルはわたしが知恵熱を出した時、わたしを失うかも知れないという恐怖を味わってしまった、多分。
竜族の内蔵や血液は、人間にとって不老不死の妙薬、わたしはアルの精神の安寧のために、一番マシな唾液だけは受け入れたのだけど・・・
「なぁ、ローリー、卒業はまだ出来ないのか?」
アルはわたしを抱っこしながら、三月前から繰り返される問いかけをした。
「うん、ごめんね。もう少し・・・」
そしてわたしも、同じ返答を繰り返す。
「そうか。我は早く結婚したい。結婚して、学校に通うのではやっぱり駄目なのか?」
「うん、まあ、そうだね」
「そなたは、無知で子供だから我の妻になる自信が無いと言うが、今では我よりも我や竜王国について知っているし、その若さで王宮にも勤めておる。もう立派な大人だと思うが、それでもまだ駄目なのか?」
「う、うん。あなたの、竜王の妃にふさわしい女性になりたいの。そのために、出来ればもう少し竜王国に必要なものをレノルドで学んでおきたいわ」
「我は竜王と呼ばれておるが、何度も言うようにただの墓守、我の勤めは、同胞の眠りを守ることだ。そなたが気負うことなど何も無いのだぞ? 政は宰相に任せておけばよい」
「そうかも知れないけど、わたしも何か役に立ちたいの。あなたや竜族の人達のために」
「そうか。ならば仕方がないな」
アルはわたしを膝から降ろすと、何を思い立ったのか、シャツの前をはだける。
何が始まるのかと、隣で呆然と立ち尽くし見ているわたしの前で、小刀を取り出すと、自分のおなかを指して、肝はどのあたりにあるのかなと聞いてきた。
「え? なっ、ちょっと待って。それを聞いてどうしようっていうの!?」
「生き肝をそなたに食わせようかと思ったのだ。なに、全部を食わすわけではないゆえ、我の心配はせずともよいぞ? ああ、しかし、自分で切るには見づらいな。そなた」
わたしはとりあえず素早く小刀をアルから取り上げた。
心臓がバクバクしている。落ち着こうと深呼吸する。
人心地ついてから大きな声で叫んだ。
「何言ってんの?! わたしはそんなもの食べないわよ!? なんで、なんでそんなに馬鹿なのよ!」
涙が溢れる。
「わたしがあなたを傷つけて平気でいられると、本気で思ってるの!?」
「・・・・・・」
「そうだな。悪かった」
「そんなに、辛いの?」
「済まぬ。我は、怖いのだ。人間は弱い。病気になる。そなたを失ったら、我は、我は、」
やっぱり、どうにも時間切れみたい。
わたしはアルを抱きしめて宣言した。
「結婚しましょう? わたしの十六歳の誕生日がいいわ」
でも、結婚して体が丈夫になっても、病気にならなくなっても、それは単なる気休めでしかない。
根本的な問題が解消されない限り、アルが救われることはない。
「アル、その代わりといってはなんだけど、お願いがあるの。王子と二人っきりで話が出来るようにセッティングしてもらえないかしら」
アル、わたしが絶対にあなたを解放してあげる。
竜王国の公表があったり、わたし個人としては学校に通いながらも王宮に勤めたり、忙しい一年だった。
婚約した当初、アルはすぐに結婚したいと言ってしばらく拗ねていたけど、わたしの気持ちを尊重して待ってくれている。
でも、もう限界かも知れない。
「勉強はもう終わりだ」
「あ、あと少しだけ・・・」
「駄目だ。・・・・・・また、知恵熱が出る」
わたしは魔力が高いせいか、めったな事では病気にかからないけど、たまに知恵熱を出す。
三月ほど前に、それをうっかりアルの前で出してしまった。
知恵熱は頭を使い過ぎた結果、オーバーヒートしたためで、休ませてやれば自然に治るものだ。
全く心配な病気ではない。
しかし、その説明がアルに通じるわけがなかった。
アルは大いに動揺した。
心配のあまり魔力をざわつかせ、離宮の上空に暗雲の大渦を巻いてしまうほどに。
「ローリー」
アルは椅子に腰掛け、わたしを呼んだ。
うっ、また今から、拷問のようなしつこいキス攻撃が始まる。
「うっ、ぐっ、あ、んぐぷ、んっぐ」
「もっと飲め、もっとだ。そう、よいこだ」
「アル、んっあ、んぐ、もう、むり」
「駄目だ、もっとだ」
「ああ、んー、もう、い、や」
アルは満足げに、膝の上でぐったりしたわたしを胸に引き寄せ、つむじにキスをして頭を撫でる。
アルはわたしが熱を出した事で、あの三百年前の竜族の雌を死に至らしめた流行り病を思い出してしまったみたい。
その流行り病は、初期症状が発熱で、その後赤いあざが体全体に広がり死に至る。
一日休んでわたしの熱はすっかり下がったけど、しばらくはアルの監視付きでベッドに押し込められたままだった。
それからずっと今に至るまで、アルは神経をピリつかせたままで、わたしが集中し過ぎて根を詰める事がないよう邪魔をしてくる。
アルのおかしな行動はいつものことだけれど、この頃特にエスカレートしていってるように感じる。
このキス攻撃、つまり、キスの最中アルの唾液をたっぷり飲まされる、に始まり、先日は唾液だけでなく血まで飲まされそうになったし、怪しい茶色の小瓶を持ってきて、万能薬だから飲んでくれると嬉しいって渡された。
とりあえず、今は元気だから疲れた時に飲ませて貰うわって誤魔化したけど、あの小瓶の中身ってこの流れからするときっとアレだよね。
一瞬、もしかしてこれが性癖とかいうやつなの?!(成人を迎えてから、自分が無知であると知ったわたしは大人になるための知識をレーナからいろいろ教わっている。主に男というものについて)と疑ったけど、アルの切羽詰まった様子からそういうものではないように思う。
まあ、いずれにしても、つまり、性癖であろうとなかろうと、アルのことは愛しているけど、ソレを飲むなんて絶対にむり!
乙女のわたしに、ハードルが高過ぎるわよ!
変態ともとれそうなアルの行動だけど、おそらく病気にならないようにわたしの体を強くしたいんだと思う。
アルはわたしが知恵熱を出した時、わたしを失うかも知れないという恐怖を味わってしまった、多分。
竜族の内蔵や血液は、人間にとって不老不死の妙薬、わたしはアルの精神の安寧のために、一番マシな唾液だけは受け入れたのだけど・・・
「なぁ、ローリー、卒業はまだ出来ないのか?」
アルはわたしを抱っこしながら、三月前から繰り返される問いかけをした。
「うん、ごめんね。もう少し・・・」
そしてわたしも、同じ返答を繰り返す。
「そうか。我は早く結婚したい。結婚して、学校に通うのではやっぱり駄目なのか?」
「うん、まあ、そうだね」
「そなたは、無知で子供だから我の妻になる自信が無いと言うが、今では我よりも我や竜王国について知っているし、その若さで王宮にも勤めておる。もう立派な大人だと思うが、それでもまだ駄目なのか?」
「う、うん。あなたの、竜王の妃にふさわしい女性になりたいの。そのために、出来ればもう少し竜王国に必要なものをレノルドで学んでおきたいわ」
「我は竜王と呼ばれておるが、何度も言うようにただの墓守、我の勤めは、同胞の眠りを守ることだ。そなたが気負うことなど何も無いのだぞ? 政は宰相に任せておけばよい」
「そうかも知れないけど、わたしも何か役に立ちたいの。あなたや竜族の人達のために」
「そうか。ならば仕方がないな」
アルはわたしを膝から降ろすと、何を思い立ったのか、シャツの前をはだける。
何が始まるのかと、隣で呆然と立ち尽くし見ているわたしの前で、小刀を取り出すと、自分のおなかを指して、肝はどのあたりにあるのかなと聞いてきた。
「え? なっ、ちょっと待って。それを聞いてどうしようっていうの!?」
「生き肝をそなたに食わせようかと思ったのだ。なに、全部を食わすわけではないゆえ、我の心配はせずともよいぞ? ああ、しかし、自分で切るには見づらいな。そなた」
わたしはとりあえず素早く小刀をアルから取り上げた。
心臓がバクバクしている。落ち着こうと深呼吸する。
人心地ついてから大きな声で叫んだ。
「何言ってんの?! わたしはそんなもの食べないわよ!? なんで、なんでそんなに馬鹿なのよ!」
涙が溢れる。
「わたしがあなたを傷つけて平気でいられると、本気で思ってるの!?」
「・・・・・・」
「そうだな。悪かった」
「そんなに、辛いの?」
「済まぬ。我は、怖いのだ。人間は弱い。病気になる。そなたを失ったら、我は、我は、」
やっぱり、どうにも時間切れみたい。
わたしはアルを抱きしめて宣言した。
「結婚しましょう? わたしの十六歳の誕生日がいいわ」
でも、結婚して体が丈夫になっても、病気にならなくなっても、それは単なる気休めでしかない。
根本的な問題が解消されない限り、アルが救われることはない。
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