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終編
エピローグ1
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目が覚めるとそこは別世界だった。
息苦しささえ感じる。こんな事は初めてだ。
僕たち魔族は、力が弱ってくると眠りに入り、力が蓄えられればまた目覚める。
だから、死ぬという事はない。いや、なかった。
でも、これは、一体どういうことなんだろう? このままここに居たら、僕は消滅する。
僕は、目覚めた時、いつもそうしているように、適当に人間を見繕って姿を写しとった。
でも、自分の欲しい情報はその人間の中に全く存在しなかった。
次々に人間を取り替えてみたけれど、やっぱりこの世界には魔法が存在しないみたいだ。
目覚めて感じた違和感、それは魔法のエネルギーともなる魔素がほとんど存在しない事だった。
魔素は魔族を構成する物質でもある。
それを補給出来ないともなれば、消滅するしかない。
おかしなものである。あんなに憧れていた死を目前にすれば、必死に生きようとしている僕がいた。
「もしあなたが生きるのに飽きたらこれを飲んで」
竜王とリアは二人が死ぬ数年前に、竜王国を出ていた二女のマリーの家族と僕に会いに来てくれた。
二人の娘のマリーは好奇心が強く、突拍子もない事を思いつくのが得意で面白いから、僕はマリーが生まれてからは、彼女と行動を共にする事が多かった。
「これは?」
「人間になる薬よ。あと三本ある。可能なら、あなたの仲間に渡してちょうだい」
僕は驚いた。
リアは僕の事を座敷わらしだと思っていて、本当の正体には気付いていないと思っていたから。
「いつから気付いていたの?」
「結婚するちょっと前かしら?」
「僕の正体に気付いてたのに、竜王国へ一緒に連れて行ってくれたの?」
リアは頷いて、笑って言った。
「わたしはあなたの親分だもの、子分の面倒をみるのは当然でしょ?」
魔族は嫌われ者だ。
邪悪な者の代名詞だし、実際にろくなことをしない。
だから僕は、気に入ったリアに嫌われたくなくて、魔族だとは言い出せなかった。
証拠はないけど、僕は大昔に竜族を狩るよう人間を唆したのも、竜族の雌が死の病を得たのも、魔族の仕業じゃないかと思っている。
人間に戦争をさせて遊ぶのはいつもの事だし、あのレノルドでの襲撃事件だって、魔族が関わっている可能性が高い。
そして、この魔素の消失だって、魔族の自殺願望が招いた結果なんじゃないかなと考えている。
全く他の種族からしたら迷惑な話だ。
不老不死の魔族は皆、長く生き過ぎて、生きる事に飽きている。
竜族のように番いを持つ事も無く、人間のように仲間同士仲良くするわけでもない。
目的もないままただ人間に紛れて、孤独に生き続けるだけだ。
遠い昔には何か理由があったように思うけど、僕はもう忘れてしまった。
でも、僕はラッキーだった。
リアと出会って竜族と付き合うようになってから、飽きる事のない生を謳歌出来た。
竜族は人間と違って、あっという間に死んでしまう事もない。
でも、千年ほど経って、僕が思っていたよりもずっと早く、竜王とリアは死んだ。
だから、僕も眠りについた。
「リアの薬がこんなふうに役に立つとは思わなかったよ」
僕は一息に飲み干した。
身体が重い。
気を失っていたみたいだ。
「僕、大丈夫? どこから来たの? お母さんは? にほんご分かる? 僕の名前は? な、ま、えは?」
え? 何? 名前? 頭がぼうっとする中、反射的に呟いていた。
「ティム・・・」
突然、頭の中に鮮明な映像が浮かび声が聞こえ、走馬灯のようにこれまでの出来事が駆け巡る。
「う、あ、あたまが、頭が痛いっ」
僕は頭を抱え、目を瞑ってただひたすら痛みに耐えることしか出来なかった。
どうやら、そのまま気を失ってしまったらしい、次に目覚めた時は病院と呼ばれている場所だった。
突然、涙がぽろりとこぼれた。
何故かぽろぽろぽろぽろ次々に流れ出す。終いには声を上げて泣いた。
悲しくて、嬉しくて、寂しくて、愛おしくて、いろんな気持ちがないまぜになって溢れ出し、止まらない。
今まで人間と共に暮らしていても、泣いたり笑ったり怒ったり喜んだりしているのを見ても、いつも皮一枚隔たっていて現実味に乏しく、心の底から湧き上がってくるような感情など経験した事がない。
人間になって、初めて自分が愛されていたのだと知った。
嬉しくて、暖かくて、心が満たされて、胸がいっぱいになる。
でも、今頃気付いたところで、もう遅い。
最早、僕はお礼を言う事も叶わない。僕も愛していると返す事も出来ない。
僕はこの世界にひとりぼっちだ。
何も答えられない僕に病院は”記憶喪失”という病名を付けた。
僕は人間になって、何も出来ない子供になってしまったから、周りの大人達の言う通りするしかなくて、しばらく病院に住んだ後は施設のようなところに移り、戸籍も作ってもらってそこから学校へ通った。
ひとりぼっちの僕に、皆、親切にしてくれた。
暖かい気持ちが嬉しい。人間の僕にはそれが分かる。
涙が出た。寂しくて、恋しくて、涙が出た。
僕は普通の人間のように、恋をし、結婚して、子供を持つ大人になった。
仕事は特技をいかして通訳だ。
魔法は使えなくなったけど、昔の性質はそのまま引き継がれていて、どんな言葉でも理解できる。
昔、言葉は一つだったような気がするけど、この性質のせいで気付かなかっただけかもしれない。
こうして現代で魔法を使う事なく、科学の恩恵を受けて便利に普通に生活していると、自分が本当に魔族だったのだろうかと思う時がある。
確かに存在していたはずの魔法も国も、史実としては何も残っていない。
ただ、伝説やお伽話に中にその痕跡があるだけ。
竜王国で暮らした日々も、全て夢の中の出来事、もしくは寂しさのあまりに自分で作り上げてしまった妄想のような気がしてくるのだ。
それがとても寂しくて、辛く悲しい。
やはり自分はひとりぼっちなのだと、思い知らされる。
そんな時、通訳の仕事でドイツに行く事になった。
通訳の仕事も終り、帰りの飛行機の時間までまだ間があった僕は、街の本屋に立ち寄った。
子供達に絵本でも買っていってやろうと思ったのだ。
絵本を探していると、同じように子供の本を物色している男性の呟きが耳に入ってくる。
「えっと、竜王様と魔法使いシリーズの第5巻だっけ? 王女マリーの大冒険っと、これだこれだ」
え? 僕は一瞬自分の耳を疑った。ほんとうに?
自分の聞き間違いでないようにと祈りながら、男性に声をかける。
「すみません。あの、竜王様と魔法使いシリーズって聞こえたんですけど、それはどれですか? 申し訳ありませんが、副題を読んでもらえませんか?」
「え? それは構いませんが、あなた、どうしたのですか? 大丈夫ですか?」
僕が泣いているのを不思議そうにしながらも、その男性は第1巻から10巻まで読んでくれた。
間違いない。それは竜王国にいた頃、ディーンが竜王国の子供達のために書いた物語だった。
息苦しささえ感じる。こんな事は初めてだ。
僕たち魔族は、力が弱ってくると眠りに入り、力が蓄えられればまた目覚める。
だから、死ぬという事はない。いや、なかった。
でも、これは、一体どういうことなんだろう? このままここに居たら、僕は消滅する。
僕は、目覚めた時、いつもそうしているように、適当に人間を見繕って姿を写しとった。
でも、自分の欲しい情報はその人間の中に全く存在しなかった。
次々に人間を取り替えてみたけれど、やっぱりこの世界には魔法が存在しないみたいだ。
目覚めて感じた違和感、それは魔法のエネルギーともなる魔素がほとんど存在しない事だった。
魔素は魔族を構成する物質でもある。
それを補給出来ないともなれば、消滅するしかない。
おかしなものである。あんなに憧れていた死を目前にすれば、必死に生きようとしている僕がいた。
「もしあなたが生きるのに飽きたらこれを飲んで」
竜王とリアは二人が死ぬ数年前に、竜王国を出ていた二女のマリーの家族と僕に会いに来てくれた。
二人の娘のマリーは好奇心が強く、突拍子もない事を思いつくのが得意で面白いから、僕はマリーが生まれてからは、彼女と行動を共にする事が多かった。
「これは?」
「人間になる薬よ。あと三本ある。可能なら、あなたの仲間に渡してちょうだい」
僕は驚いた。
リアは僕の事を座敷わらしだと思っていて、本当の正体には気付いていないと思っていたから。
「いつから気付いていたの?」
「結婚するちょっと前かしら?」
「僕の正体に気付いてたのに、竜王国へ一緒に連れて行ってくれたの?」
リアは頷いて、笑って言った。
「わたしはあなたの親分だもの、子分の面倒をみるのは当然でしょ?」
魔族は嫌われ者だ。
邪悪な者の代名詞だし、実際にろくなことをしない。
だから僕は、気に入ったリアに嫌われたくなくて、魔族だとは言い出せなかった。
証拠はないけど、僕は大昔に竜族を狩るよう人間を唆したのも、竜族の雌が死の病を得たのも、魔族の仕業じゃないかと思っている。
人間に戦争をさせて遊ぶのはいつもの事だし、あのレノルドでの襲撃事件だって、魔族が関わっている可能性が高い。
そして、この魔素の消失だって、魔族の自殺願望が招いた結果なんじゃないかなと考えている。
全く他の種族からしたら迷惑な話だ。
不老不死の魔族は皆、長く生き過ぎて、生きる事に飽きている。
竜族のように番いを持つ事も無く、人間のように仲間同士仲良くするわけでもない。
目的もないままただ人間に紛れて、孤独に生き続けるだけだ。
遠い昔には何か理由があったように思うけど、僕はもう忘れてしまった。
でも、僕はラッキーだった。
リアと出会って竜族と付き合うようになってから、飽きる事のない生を謳歌出来た。
竜族は人間と違って、あっという間に死んでしまう事もない。
でも、千年ほど経って、僕が思っていたよりもずっと早く、竜王とリアは死んだ。
だから、僕も眠りについた。
「リアの薬がこんなふうに役に立つとは思わなかったよ」
僕は一息に飲み干した。
身体が重い。
気を失っていたみたいだ。
「僕、大丈夫? どこから来たの? お母さんは? にほんご分かる? 僕の名前は? な、ま、えは?」
え? 何? 名前? 頭がぼうっとする中、反射的に呟いていた。
「ティム・・・」
突然、頭の中に鮮明な映像が浮かび声が聞こえ、走馬灯のようにこれまでの出来事が駆け巡る。
「う、あ、あたまが、頭が痛いっ」
僕は頭を抱え、目を瞑ってただひたすら痛みに耐えることしか出来なかった。
どうやら、そのまま気を失ってしまったらしい、次に目覚めた時は病院と呼ばれている場所だった。
突然、涙がぽろりとこぼれた。
何故かぽろぽろぽろぽろ次々に流れ出す。終いには声を上げて泣いた。
悲しくて、嬉しくて、寂しくて、愛おしくて、いろんな気持ちがないまぜになって溢れ出し、止まらない。
今まで人間と共に暮らしていても、泣いたり笑ったり怒ったり喜んだりしているのを見ても、いつも皮一枚隔たっていて現実味に乏しく、心の底から湧き上がってくるような感情など経験した事がない。
人間になって、初めて自分が愛されていたのだと知った。
嬉しくて、暖かくて、心が満たされて、胸がいっぱいになる。
でも、今頃気付いたところで、もう遅い。
最早、僕はお礼を言う事も叶わない。僕も愛していると返す事も出来ない。
僕はこの世界にひとりぼっちだ。
何も答えられない僕に病院は”記憶喪失”という病名を付けた。
僕は人間になって、何も出来ない子供になってしまったから、周りの大人達の言う通りするしかなくて、しばらく病院に住んだ後は施設のようなところに移り、戸籍も作ってもらってそこから学校へ通った。
ひとりぼっちの僕に、皆、親切にしてくれた。
暖かい気持ちが嬉しい。人間の僕にはそれが分かる。
涙が出た。寂しくて、恋しくて、涙が出た。
僕は普通の人間のように、恋をし、結婚して、子供を持つ大人になった。
仕事は特技をいかして通訳だ。
魔法は使えなくなったけど、昔の性質はそのまま引き継がれていて、どんな言葉でも理解できる。
昔、言葉は一つだったような気がするけど、この性質のせいで気付かなかっただけかもしれない。
こうして現代で魔法を使う事なく、科学の恩恵を受けて便利に普通に生活していると、自分が本当に魔族だったのだろうかと思う時がある。
確かに存在していたはずの魔法も国も、史実としては何も残っていない。
ただ、伝説やお伽話に中にその痕跡があるだけ。
竜王国で暮らした日々も、全て夢の中の出来事、もしくは寂しさのあまりに自分で作り上げてしまった妄想のような気がしてくるのだ。
それがとても寂しくて、辛く悲しい。
やはり自分はひとりぼっちなのだと、思い知らされる。
そんな時、通訳の仕事でドイツに行く事になった。
通訳の仕事も終り、帰りの飛行機の時間までまだ間があった僕は、街の本屋に立ち寄った。
子供達に絵本でも買っていってやろうと思ったのだ。
絵本を探していると、同じように子供の本を物色している男性の呟きが耳に入ってくる。
「えっと、竜王様と魔法使いシリーズの第5巻だっけ? 王女マリーの大冒険っと、これだこれだ」
え? 僕は一瞬自分の耳を疑った。ほんとうに?
自分の聞き間違いでないようにと祈りながら、男性に声をかける。
「すみません。あの、竜王様と魔法使いシリーズって聞こえたんですけど、それはどれですか? 申し訳ありませんが、副題を読んでもらえませんか?」
「え? それは構いませんが、あなた、どうしたのですか? 大丈夫ですか?」
僕が泣いているのを不思議そうにしながらも、その男性は第1巻から10巻まで読んでくれた。
間違いない。それは竜王国にいた頃、ディーンが竜王国の子供達のために書いた物語だった。
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