ソード・ダンサー

すあま

文字の大きさ
7 / 19

第7話 リファイン・アーマー

しおりを挟む



 五代神が一柱、恋愛の神プリシェラは、長きに渡る戦で疲弊した民を憐れみ生まれた五代神の中で最も若い女神である。

 女神曰く、『愛こそが世界を救い愛こそが全てに報いる手段である。隣人を愛し、草木を愛でよ。愛を育むべし』

 ◆

 貴族からのクエストを受ける事にした俺たちは、準備の為街へと買出しへ行く。待ち合わせを兼ねて大衆食堂に遅めの昼食を食べに来ていた。その食卓でまだ食べているにも関わらず語り出すヴァレンティナ見習い神官は流暢に語る。

「我が女神プリシェラは、縁結びの成功率がそれはそれは高く女の子の心強い味方なのです!」

 聖職者クレリックヴァレンティナ嬢が鼻息荒くご高説を垂れていらっしゃる。女の子限定なんじゃ、関係無いッスネ。

「……あ、そ」

 答えた後、サジに乗った朝食の最後の一欠片を口に運び飲み込む。

の味方と言ったが男性側の願いとかはないのか?」
「あぁ、男性に関しては、ある理由から特にプリシェラが支援すると言った事はないですねー」
「それでは、不平等ではないのか?」
「男性の戦神が兼任してると聞きますのでー」
「え? マジで? 聞いた事ないけど」
「私も初耳だ」
「お二人とも恋愛と縁遠いとこにいたのですねー」
「「ほっとけ!」」

 シュツルム先輩と心の叫びが被った。とても微妙な気持ちだ。告白はされたが、条件付きでオーケーでマスクを脱ぎたがらない。今も上下に分かれるマスクで食事してるッス。それサビねーの?

「仲がいいんですねー」
「インスピシェアの影響だろう。あまり長くシェアリングしてると脊髄反射が似て来ると言うしな」
「そんな副作用が?」
「面白いですねー」
「まぁ、それは、いいから二人とも早く食べなよ。俺ァ支度して待ってるッス」

 そう言って、その場を立ち去る事にした。このまま居ると恋バナとか巻き込まれそうだ。過去の悲惨な恋バナ披露とか勘弁。退散。

「そんなに慌てて行かなくても、依頼主と会うのは午後だぞ?」
「買い物があるッスからね。じゃ、お先ッス」

 ◆

 アリュフが去ったテーブルで残り僅かな昼食をそのままに騎士が切り出した。

聖職者クレリックヴァレンティナ。先程話していた支援の件ですが、信徒でなくとも受けられますか?」
「ええ、関係はありませんよー。女騎士ワイブリチャリッターシュツルム」
「ならば! 何か支援を受ける事は出来るだろうか!?」
「落ち着いてくださーい。そうですねー極々弱い気付かれにくい奇跡がありますからー」
「そ、それは! どど、どどどう言ったものがあるのだろうか」

 女とぱっと見分からない式典鎧の騎士が一瞬声を裏返らせ、声の大きさに自ら驚いた様子でマスクの上から手を当て周りを見回し声のトーンを落として聞き直す。

「女神の如く神々しいオーラを纏う"ガッデソーラ"、目で射殺す様に魅了する"クパイダローズ・アイ"、天使の様な美声になる"エンゼル・ボイス"。どれも目標にのみ効果を及ぼします」
「す、素晴らしい。早速それを使いたい」
「分かりました。ですが効果時間は限られていますから」
「報酬はお布施で良いだろうか?」
「いいえ、女神プリシェラは恋する乙女の味方。その行為も無償であれば尊きものと考えておられます」
「なんと!」

 女騎士ワイブリチャリッターシュツルムは感動のあまり、女神プリシェラに祈りを捧げた。それを見て口元を、#聖職者_クレリック__#ヴァレンティナ。

 ◆

 街の雑踏に耳を傾けながら、フォスプレッセンス・ファイバーから降り注ぐ光で作られた、北東へ傾いた自分の影に目を落としていた。軽く雑貨の買い物を済ませ、店の前へ戻って来たものの、まだテーブルの食事を終わらせず何やら話しているのが見えた。
 そのまま待っていたが二人が中々出てこない。一体どんな恋バナを展開させているのやら。お陰でこのあと回る店のルートと軍資金の確認も済んでしまった。

「お待たせー」
「遅……いよ?」

 顔を上げ文句の一つも言ってやろうと思っていた矢先に目に入ったのは妙に艶かしい・・・・式典鎧となったシュツルム先輩だった。そして、鎧の眼窩の奥からの瞳に射抜かれた。蛇に睨まれたカエルの様に身動き一つできなくなった。

「すまない、それではどこから回ろうか」

 トドメとばかりに耳朶を打つ美声。いや、おかしい。何かが違う! しかしながらその考えが打ち消されそうなほど鎧のシュツルム先輩に心を揺さぶられた。

 その時、腰に下げたジゼルが一瞬シュツルム先輩に光を放った。次の瞬間にはいつものシュツルム先輩に戻る。

「なんだ? アレ?」
「ちょっと! ジゼルさん邪魔しないでよ!」
「ど、どうなったのだ? 私は今どうなっている?」

 ヴァレンティナの発言に目を奪われ、シュツルム先輩の悲鳴に視線を戻すとシュツルム先輩の鎧にどこか違和感が現れた。

「え? 別に何処も……変わって……」

 ヴァレンティナがそう言おうとした時、歪む様に鎧が変形した。胴ががくびれ胸と腰が女性らしいフォルムになり、さっきより艶めかしい感じになった。

「か、変わった……私にも分かるほど変わった」
「「バカな!」」
「今まで一度も体型など変わらなかったのに!」
「鎧がこんなにも艶かしいなんて!」
「ジゼルさん! 一体何をしたんですか!」

 大衆食堂横の街路樹の下でわいのわいのと騒いだ為に衆目を集めた。

「うわ! 見ろよあの鎧! ぴったりしてて体型がバッチリじゃん! ビキニアーマーよりエッロ!」
「ヒューヒュー! 良いケツしてんな! 姉ちゃん! 兜を取って顔を見せてくれよ!」

 途端に下品な野次が飛んで来た。

「え!?」

 見る見るシュツルム先輩の鎧がピンク色に染まって行く。

「おお、色が変わった。なんか可愛く見えてきたぞ!」
「スゲー! どうなってんだ」

 観衆に晒されて羞恥に耐えられなくなったシュツルム先輩は、僕らの首根っこを掴んで跳躍すると観衆を飛び越え走り出す。

「ちょちょちょ、ちょーっ待っ」
「ままま、待って! 待って! 待ってー!」

 シュタタタタと信じられない位の速度で静かな音がする。地響きがしそうな速度なのに。シュツルム先輩は街を疾駆し、そのままある店に入った。

 ◆

 涼やかな呼び鈴が鳴り、店の奥からお爺さんが出てきた。この店は、革製防具まで扱う旅装店。布製の服はレンタルが多い中珍しく売る店だ。ちなみにこれから回る店のリストには入ってない。

「おや、おや。いらっしゃい」

 ドワーフのお爺さんが優しい声で出迎えた。

「あの! 外套をください! 私の身体がすっぽり入るくらいの!」

 シュツルム先輩の身体は確かにこのままだと刺激的過ぎる。

「ほっほっほ、若いモンは羨ましいのぉ。どれどれ、これなんかどうかの?」
「あら、意外と素敵ですねー」
「と言うか、そろそろ降ろしていただけないッスか?」
「あ! ご、ごめんなさい!」

 首根っこ掴まれたあと脇に抱えられていた。シュツルム先輩の慌てた感じは今までのイメージを払拭した。ヴァレンティナ嬢と共に優しく降ろしてくれる。

「ほっほっ。つけてみなさい」
「あ、では、遠慮なく」

 肩当ての裏にあるボタンが丁度合う。白を基調にした鎧に合うメタリックな光沢の青いマントだ。戦乙女が顕現したかと思うほど似合いすぎて見惚れた。

「こ、これください」
「ほいほい。ありがとうございます。お値段10グシート40スディスになります。冒険者カードもご利用になれます」

 値段を聞いて固まる。高い。ほぼ一月分の中級の宿代と同等だ。

「では、これで」
「ほっほっ、冒険者カードですね。畏まりました。少々お待ちを」

 事も無げに冒険者カードを出して支払う。その姿にますます惚れそうになる。いやいやいや、ホントに格好良いんだって。逆玉狙ってないって。

 ◆

 買い物も揃え、ヴァレンティナ嬢とシュツルム先輩がジゼルに詰め寄った。

「何故、邪魔をしたんですかーっ?」
「私に何をしたんだ?」

 二人の疑問にまた文字を浮かべ答えるジゼルさん。いい加減俺にもわかる様に簡単に喋ってほしい。それを読み取る二人は声に出さず目元をぴくぴく、肩が細かく震え、怒りと困惑と言葉にならない混沌とした感情がスパゲティの如く渦巻いた雰囲気を醸し出す。
 二人がこちらを睨みつける。いや、なんで矛先がこっちになるの?

「「アリュフ(さん)のエッチ!」」

 突然の咆哮にトバッチリですよを大袈裟に表現するポーズをして主張するが、どうにも通用しなかった。正直、シュツルム先輩の、女体鎧は本当にエロカッコいい。コレのことだろうか? ジゼルが余計な事を言ったのは確かだろう。

 これから、クエストだと言うのに。ヤレヤレだぜ(一回やってみたかった)

 ◆

「何故、邪魔をしたんですかーっ?」
「私に何をしたんだ?」

 小娘共が生意気にも詰問して来たので、真実を突き付けてやることにした。

『主人に好かれようなどと、姑息な真似をする。鎧の貴様の呪いを少々組み替えて主人の好みの姿にしてやったまでよ。それと繁殖花畑司祭はせいぜい、露出の高い服でも着て主人の目を楽しませることだな。そうすればめかけくらいには認めてやっても良い』

 む? 何故、主人を睨む?

「「アリュフ(さん)のエッチ!」」

 何故、罵倒に似た言い方をする? 繁殖アピールをして来たのは小娘共ではないか? 納得がいかんのぉ……我に肉の身体があれば直ぐにでも主人を鍛え直して、部族の長に相応しい男に仕立て上げ、子もたくさん宿そうと言うに……

 _____
 恋愛の神プリシェラについて
  縁結びの神ですが男尊女卑文化にありながら珍しい
 女性支援推しの神様です。と言うのも、かつては戦争
 ばかりで、人口が減る一方の世界でした。レディー
 ファーストの概念がある最前線でプリシェラ信仰が始
 まりました。
  女性が居なければ人は生まれる事も育つ事も難しい
 ので繁殖の大元である恋愛至上主義を掲げ人口増加に
 大いに貢献したのです。その結果が、アレかよと言わ
 れると辛いものがありますね。

 お金について
 100銅コインクディス=1銀コインスディス
 100銀コインスディス=1紙幣グシート
 ほぼ共通通貨で出回り、この他は証券(株式)でお金
 を集める機構が出来上がった頃でもある。



__________
 お読みいただきありがとうございます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...