ソード・ダンサー

すあま

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第9話 会議と邪教と禁則事項

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 俺たちは三手に分かれ屋敷内を把握し、一階の客間にてマッピングを共有した。

「正面玄関からシアタールームと食堂と厨房は南側で一番出難い箇所でした。しかし、フォスプレッセンス・ファイバーの陽光が完全に落ちましたので、それも関係なくなりました。そろそろ出てくる頃では無いかと」
「こっちの客間三部屋と大浴場、その他も今の所異常なしっスね」
「2階は、元夫妻用の寝室と思われる部屋と客室、その他も異常なしでしたねー」
「後は使用人の離れ家か」

 確かに豪邸だが、部屋数はそれ程多いとは言い難い規模でドワーフ建築の中でもグレードは質素と言われる2階建て。

「失礼します。皆様、お疲れ様です。私、此方で執事長を勤めさせていただいているバンダノフと申します。御茶をご用意させていただきましたので、どうぞお召し上がりください」

 ノックが響くと扉を開きながら執事が入って来た。

「どうぞ、お構いなく。此方も仕事ですので……」
「いえ、旦那様から仰せつかっておりますので、どうぞ時間まではお寛ぎください」
「シュツルムさん、ここはいただきながら作戦会議としましょうよー」
「俺も賛成っス。執事長さんにも話を聞きたいっス」
「ありがとうございます。旦那様にどやされずに済みます」

 破顔する初老の頃を迎えたナイスミドルの執事の種族はダークエルフもかくやと言う肌の色と中途半端に尖った耳。それに首にある焼印から奴隷の身分である事が分かった。恐らくはダークエルフとのハーフ。戦災孤児だった可能性が伺えた。

「ついでに、お話いいっスか?」
「答えられる範囲であれば、何なりと」
「貴方の旦那様の人となりの感想を聞きたいです」
「旦那様のですか?」
「えぇ。何でも良いんスよ。ただの興味っスから」
「貴方のような興味本位の方が多く、旦那様はあの外見ですからね色々悪い噂が立ちますが私の様な戦災孤児を買い集めては仕事をくださります。旦那様には、感謝すれど恨みや増して外の噂の裏付け行為は度し難いものがあります」

「すまない、メンバーの非礼を私から詫びさせていただきたい」

 シュツルム先輩がパーティーリーダーらしく割って入ってきたところにすかさず被せていく。誤解は早めに解いておきたい。

「いやいや、お気を悪くなされたなら、申し訳ないっス。しがない駆け出し冒険者なので商いにも疎くて、今日初めてブヒボンド氏に会ったもんスからね。どうにも判断し難くて聞いてみたんスよ」
「私としたことが早合点を……コレはとんでもない失態でした」
「いえいえ、お気になさらずっス。此方も不躾に聞いたのが間違いだったっスから。シュツルム先輩もフォローありがとうございます」

 シュツルム先輩が此方を向いて、一瞬固まる。なに? この間は。

「いや、コレもメインでクエストを受けた者の務めだよ。気にしないでいただきたい」

 ヴァレンティナ嬢がシュツルム先輩に耳打ちする。
「よかったですねー」

 何が良かったのかは、俺にはさっぱりっスね。

「あぁ、もう一つ。奥様が関わった邪教についてなんですが……」
「その件に関しては、呪術によるキマイラ研究の話はご存知でしょうか?」
「キマイラ研究? ティポーン神を崇めるマッドアルケミスツですか?」
「ご存知ならば、話は早いですね。しかし、ここから先を聞けば後には引けぬ事になりかねません。それでも聞かれますか?」

「なるほどっス。聞かなかった事にしたいっスね」
「アリュフさん、ここは聞いておきませんかー?」
「そうだぞアリュフ。乗りかかった船だ。毒食わば、皿まで行こうではないか」
「ヴァレンティナ嬢は邪教徒が許せないだけっスよね? それと俺は普通の人間なんスよ。毒を食ったら死ぬっスよ」
「アリュフ。その例えはあくまでも比喩表現という奴ですよ」
「シュツルム先輩。甘いんスよ。宗教系の論争はそれ自体が麻薬みたいな毒なんスよ。そこに巻き込まれると人生終わるっス」
「見てきたような事を言うんですねー」
「昔、パーティーごとそれに巻き込まれたっスよ」
「仕方ありませんね。バンダノフさん、申し訳ありませんがその話は聞かなかったことにしておきます」
「そうですか。残念です。かつての英雄の子が我々に手を貸してくれると勝手な期待をしてしまい、私も口が軽くなってしまいましたな。お忘れいただきたい」

 イヤーな予感しかしない発言してくる人っスね!

「かつての英雄の子!?」
「アリュフのお父様かお母様って英雄だったのか? 全然知らない話ですね」
「人違いっスよ。天涯孤独の冒険者っスよ。駆け出しの頃良く間違われたっス。ファミリーネームを名乗っていい身分じゃないですからね」

「そう言えばファミリーネームなんだっけ? 聞いてもいい?」
「貴族の家で平民が貴族みたいにミドルネームやファミリーネームを名乗るのは不敬罪に当たるっスよ。ファミリーネームには役職が昔はあったっスその重みが貴族と平民との差でもあるんスよ」
「まぁ、それはそうだがここにはバンダノフ氏以外貴族所縁の者は居ないのだし」
「二人ともわかってないっスね。宗教戦争に巻き込まれるかどうかの瀬戸際なんスよ。人違いで巻き込まれてからじゃ、手遅れになるっスよ。ご本人には申し訳ないスけど、同じ名前で迷惑してる身にもなれって思ってるっス」
「そ、そうなんだー。ごめんねー」
「分かってくれれば良いっスよ」

 よし、このまま乗り切ろう。バンダノフさんの笑顔が怖い。どう怖いって言われても"口元に張り付かせた様な笑み"がキショい。兎に角、黒だ。明らかに黒だわ。このクエスト。



 _____
 キマイラ研究
  『ティポーン神を崇めるマッドアルケミスツ』が進めて
 いる研究。素人上がりから魔術研究まで色んな人が所属。
 アルケミーと名乗っているが魔術研究の一端として発生し
 て魔力に依存する為誇大妄想的な出来しかない。その為、
 余計質が悪い。


 奴隷解放宣言の英雄
  人の救いとしての宗教と言う考え方と、悪魔族を許さな
 いが故に、忌子として生まれた子供の人権を認めない奴隷
 制度の矛盾が、聖デコグリフ教会の断罪の是非を叫ぶ集団
 を生ませた。カルト教団級でありながら、崇める神の居な
 い集団はネザーツの考えが口伝により広まって作られたと
 噂された。
  噂がネザーツを英雄に仕立て上げるのはそれほど時間は
 かからず民衆に担ぎ上げられたネザーツは、戦い、敗れ、
 見せしめに貴族の爵位を取り上げられた。



__________
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 ネザーツ
  ドワーフが一人住んでいた辺境の名もなき村。そこの領主は、村
 人に混ざって畑仕事に出る程、人手不足と貧困に喘いでいた。
  ドワーフの名は"ネーデル"。当時、鉄が主流であるにも関わらず
 彼は加工の難しい呪われた鉄、『コバルト』をどうにか使えないか
 と研究し続けていた。この地で取れるコバルト鉱石を求めて、村に
 住み着いたのだった。彼の考えを理解する者はなく、唯一賛同した
 のが当時領主だった"小さなワルド"だった。少ない資金を物々交換
 や労働券などを併用し、やりくりする手腕で毎年の納税をクリアし
 ていた。その村でドワーフは、寄生だの無駄な努力だの揶揄され続
 けながらも、黙々とコバルト鉱石の開発を行っていた。そして遂に
 鉄を切削する工具を作り出した。この功績からドワーフのいるこの
 村はネーデル(Neder)村に名前は変わる。高級工具生産のこの村を
 納める領主にはネザーツ(Netherts)の名が王から与えられた。

 コバルト合金
  ネザーツ領で造られた合金はニッケルとクロームと言うより深い
 場所で取れる鉱石との配合で造られるがネーデルの合金技術は高く
 簡単には真似はできなかった。ネザーツが没落し、ネーデルが王の
 命令で工房を築き弟子を雇い、やっとその技術が公開された。現在
 ではかなり普及され、武器にも使わせろと言う声も多い。副産物で
 レアメタルを少量で済ませる為に複合材料(コンポジット)・アイテム
 が生まれ、武器にその技術が使われている。最近になってようやく
 高いダメージを出す為に加工用レアメタルを使用する場合は許可制
 となっている。悪魔族側に技術が流入しにくくするための措置であ
 る。しかしコボルドによってコバルト鉱脈が作られる事は何故か知
 らない者は多い。悪魔族の呪いと実しやかに言われている。

 _____
 お読みいただきありがとうございます。
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