メイドさんと仲良くしたら愛しの公爵様がついてきた

ちろこ

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1母の愛

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「やめなさいっ!」
私がそう叫ぶと静かにメイド達がある女性から離れた。
「大丈夫?怪我はない?」
心配になりながら虐められていた女性の顔を覗き込むと彼女は静かに微笑み言った。
「貴方こそ私の主人でございます。」



そんな彼女との付き合いはもう数年になる。
私が12歳の時にメイド仲間からいじめられていた彼女を助けたのだ。
けれど、本当の事を言えば助けられたのは彼女ではなく私だ。
彼女がお付きの者となってから私への兄弟からのいじめは無くなったし何故か伯爵家現当主である父も優しくなった。
「困ったことはないか」
よくそう聞かれるも、私には頼りになるメイドがいる。だからいつも「大丈夫ですわ、お父様、お気遣いありがとうございます」なんて事を言えるのだ。

「それでね、わたくしはやめてと言ったのよ?けれど兄様ったらそんな言葉聞こえてないのかわたくしの髪の毛を引っ張るの、痛くて涙が出ちゃったわ」
ため息混じりに彼女へ愚痴をこぼすと微笑みながら私の話を聞いていた彼女が笑みを消し顔を歪ませた。
「あら、ごめんなさい。感じの良くない話よね…、けれど私の文句なんて貴女しか聞いてくれないの…許してちょうだい」
私が俯きながらそう言うと私の髪を解いていた彼女が動きを止め、私の目が見える位置へと移動する。
「いいえ、私が今気分が悪くなったのはメイビー様のせいなどではありません。メイビー様の兄上でございます。」
「あら、兄様に?」
「えぇ、メイビー様の綺麗な御髪を引っ張るだなんて…とても心が痛くて」
「やっぱりラビは優しいわね、貴女に心配してもらえるだなんて光栄だわ」
満面の笑みで彼女を見ると何故か眩しい!とでも言うように顔を覆われる。
「隠しちゃうの?勿体無いわ、ラビのお顔はとても綺麗なのに。よければわたくしにそのお顔を見せてくれる?」
私がそう聞けば彼女はしぶしぶと言ったように顔から手を外した。
そこには真っ赤になった顔があり私はつい笑みが溢れた。
「あはは、可愛いお顔、さっきのは訂正するわ。貴女は綺麗だけじゃないわね、とても可愛いわ」
「そんなっ!メイビー様のお美しさや可愛さには全く持って敵いません!」
「ふふ、美しさは競うものではないのよ。わたくしも自身のことを愛しているし…、けれど貴女のことも…愛してますの。貴女のことは家族以上の愛情を持って接しているわ。…これは他の家族には内緒ですわよ?」
「嬉しい限りでございます」
そう言ってくれる彼女にまた笑顔がこぼれる。
「あら、そういえば今度公爵様の邸宅で舞踏会なんてものがあるらしいの。わたくし1人では心弱いわ…ラビが付いてきてくれたら…勇気を出して公爵様ともお話しできるかも…」
そんな事を私が言えばラビリスはNo!なんてことは言えない。
「私がですか?…私が行く方がメイビー様にご迷惑では…?」
「ラビがいない方がダメよ…。わたくしってば、ラビ無しでは生きていけないのに。…ねぇお願い、舞踏会に着いてきて…」
「ふふ、可愛らしいお嬢様です。かしこまりました。私が最善を尽くしてメイビー様に付かせていただきます」
「…本当っ!?嬉しいっ!」
年相応の喜び方をする私を微笑ましく見るラビリスについ顔が赤くなる。
「今のお父様には内緒よ、こんな所を見られては怒られちゃうわ」
「絶対に怒られなどいたしません。それにメイビー様の事を叱るものなどこの世にいるでしょうか」
そんな事を言うものだから私はあははと笑い出す。
「私なんてただのラフェルトン伯爵家2番目の令嬢よ?姉様ならまだしも世間的に私の立場が高いなんて事ないと思うのだけれど」
「そんなことはありません。メイビー様は将来とても素晴らしいご令嬢になる事は決定しているのです。伯爵家といえどお嬢様が侯爵家等に付けば将来は期待できるでしょう」
「…そうかしら、わたくしなんてどなか愛してくれるのかしら。」
「はい。必ず」
「…もしも、もしもよ?わたくしが愛を貰えるなら…」
「はい」
「…ラドリック様が良いわ」
私がそんな無理な願望を伝えると彼女は微笑む。
「はい、必ずメイビー様は公爵様とご結婚される事でしょう。」
「もう…、ラビったら!わたくしを上げたって何も貰えないわよ。…あ、そういえば」
私は椅子から立ち上がり、宝物入れへと向かう。
「これ、ラビにあげるわ」
「これは…メイビー様の亡き奥様から頂いたものでは…?」
「いいの、私にとって亡くなってしまったお母様よりずっとそばに居てわたくしを愛してくれるラビを愛しているのよ。きっとお母様が持っていたものだから高く売れるはず、これが私の夢を叶うと言ってくれた褒美よ」
「褒美…だなんて。私は褒美など何も入りません。貴女が生きて笑顔でいてくれればそれだけで」
「…ラビはまるでわたくしの母親みたい。」
ほんの少し年上のラビリスを私は母親のようだと勝手に思っている。
私の母は、私がほんの3歳の時に流行病でこの世を去った。
だから母親の愛…だなんて全く分からないし想像も付かない。
けれどきっとラビリスから私へ向けられるこの愛情は母親の愛と似た者ではないだろうかと期待してしまっているのだ。
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