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第7章 新国テンプルム

第292話 王になる

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 シャルフ王や他国の王様からの提案――5カ国の中心地に流通の中継となる国を建国して、僕にそこを治めてほしいと言われてしまった。
 僕は特に家柄も良いわけじゃないし、政治なども素人だ。人の上に立つ条件を全然満たしていない。
 そんな僕のような一般人が、果たして国を運営することなんてできるんだろうか?

 一時的に僕が統治していたゼルドナは、すでに国家としての体制が出来上がっていた国だ。
 それに、ゼルドナで僕がやったことなんて、魔法で農作物の収穫を上げたり、前王が貯め込んでいた財産を配っただけで、政治的なことは特に何もしていない。

 うーん、やっぱ無理だなあ……。

「ふふん、ユーリよ、国政など自分には無理だという諦め顔をしているが、オレを見てみろ。今でこそ世界の危機ということで毎日玉座に尻を着けちゃいるが、オレは元々ロクに王宮にも行かず世界を放浪していたくらいだ」

「あ……言われてみれば、確かに……」

「王なんて大事な決断さえ間違わずにできれば、あとの仕事は飾りだ。内政なんて優秀な部下が全てやってくれる。ま、あまり任せすぎると、バカな貴族とかにつけ込まれることはあるがな」

 そういえば以前フリーデン国で、困った貴族親子に絡まれたことがあったっけ。
 あのときはシャルフ王に助けられたなあ。

 そっか……僕ができないことは、できる人に任せればいいのか。
 思えば、エーアスト奪還を考えてたときは、とにかく力が欲しかった。
 魔王軍の動きに対して迅速に対応できるように――他国が魔王軍に利用されないように、僕が全部管理したいと思ってたくらいだ。

 そして、やはりそういう力は必要だということを思い知らされた。
 綺麗事だけじゃ、あの悪魔たちには対抗できない。
 そういう思いがあったから、無事エーアストを取り戻してゼルドナの王を降りたあと、漠然とした不安はあったんだよね。
 念のため、国を動かすほどの大きな力を持っていたほうがいいのではないかと。

 だけど、ゼルドナは僕の国じゃない。ゼルドナの国民たちが長い年月をかけて作り上げてきた国だ。
 それを、いきなり僕が統治して自由に動かすのは、何か違うと思ってた。

 魔王軍との戦いはまだ終わっていない。
 このあとも第2第3の魔将が現れるし、その度に他国の王様に頼み事をするのは何かと手間だ。
 僕も対等の立場になれば、色々と動きやすくなる。そう、たとえ世界最強国家グランディス帝国相手であっても……だ。
 ず~っと王様として国を治めるかはともかく、魔王の脅威がなくなるまでは、僕も世界に対する力や発言力を持っていたほうがいいのかもしれない。

 それに、もし国作りをするなら、魔王軍を壊滅させたこのタイミングしかない。
 ヤツらがまた力を付ける前に、迎え撃つ準備を整える。

 ……なってみるか、本当の王様に。
 自分の思いのままに、理想となる国を作ってみよう!


「まあ返事はいま決めなくてもいい。しばらく考えてくれ。いい返事を期待しているぞ」

「いえシャルフ王、いま決めちゃいました。なります……王様に!」

 僕は決意が揺らがないうちに即答した。

「うそ、ほんとにユーリ!? やったー!」

「いいぜヒロ、そうこなくっちゃ! オイラも協力するぜ!」

「ああ、オレもだ! いや、是非オレをヒロの国民第1号にしてくれよ!」

「私たちも協力いたしますわ! ね、ディオーネ」

「もちろんですアニス様。国を作るなど、これほど胸躍るようなことはもう二度とないかもしれませんし」

 予想通りみんなは喜んでくれている。
 みんながいるというのも凄い心強いんだ。僕だけだったら、絶対に断っていたと思う。

「ユーリよ、それでこそ男だ! お前のようなヤツが王にならずにどうするというくらいだからな。ではオレのほうから色々人材も貸し出そう。他国からも全面協力を得ているから、必要ならなんでも言え」

「ありがとうございます。とりあえず現地へ行って、適正な場所を探してきます」

「おお、好きなだけ使う国土を決めてこい。まああの辺りは山や森も多いから、居住地を広く取るのは難しいかもしれんがな。整地にも苦労するだろうが、なぁに作業員は5カ国から集められるから、人手には困らんだろう」

「あ、人手は大丈夫です。僕たちだけでなんとかなります」

「ぬぁにぃ~っ!? そんなわけなかろう! ……いや、お前なら可能なのか。分かった、好きにやれ。何か困ったら言いに来い。まあお前であれば、1年もしないうちに立派な国が作れるだろう」

「魔王軍がまたいつ現れるか分からないので、そんなに時間は掛けてられないです。なんとか1ヶ月くらいで、外見としての形だけは整えたいですね」

「い、1ヶ月だとぉ~っ!? 普通は10年掛けても国など作れんというのに、お前というヤツは……。言ったのがお前でなければ、詐欺師と断定して牢にぶち込んでやるところだ。では一月の間、楽しみに待つこととしよう。それと一応これは伝えておくが、帝国とだけは連絡が取れなかった。よって、ヤツらがお前を王と認めるかは分からん」

「えっ、帝国も魔王対策に協力してくれてるんじゃなかったんですか?」

「それを調べにフォルスも行っているんだが、ヤツとも連絡が取れなくてな。帝国に関しては、あまり信用しないほうが良いかもしれん」

 嫌な予感はしてたけど、やっぱり帝国は協調せず、独自路線で行くのか。
 まあ人類の敵にさえならなければ、どういう行動を取ってくれても構わないけど……杞憂に終わることを祈りたいところだ。

「世界が1つにならなければいけない状況だというのに、帝国には困りましたね」

「なぁに、いざとなれば帝国以外の国をすべてお前がまとめて、帝国以上の巨大連合国家を作ればいい。そのときお前は皇帝を超える連合国大帝になれるだろう」

「や、や、やめてください大帝だなんて! 外を出歩けなくなりますよ!」

 そんな肩書き、考えただけでもゾッとする。
 たった一国の王様ですら、僕にはかなり荷が重いというのに……。

「はぁ~それほどの力を持ちながら、どうしてお前はそう及び腰なのか……。まあいい、大帝はいざとなったらという話だ。まずは建国に専念しろ。頑張れよ、ユーリ」

「はい!」

「ふうううんっ、私のユーリがとうとう本物の王様になっちゃううう~っ」

「リノ、興奮しすぎよ! あんただけのじゃなく、みんなのユーリなんだからね」

「ダーリンが王になると、ネネは王妃か……ふふふふ」

「そこのチビ助、勝手な妄想するんじゃないデス!」

「誰が第一夫人になるか勝負ってことか。アマゾネスの血が騒ぐぜ」

「エーアストの王女として、これは負けられない戦いですわ」

「私も最初に婚約した者として譲れませんわね」

「ワタシも譲れませんな。ヒロ、誰を選ぶか考えておけ!」


 いや、別に建国したら誰かと結婚するってわけじゃないから……。
 うう、どうかこじれませんように。

 そういえば、ディオーネさんはシャルフ王に心酔してたけど、もうあまり気にかけてないみたいだな。
 それくらい僕は好かれているということで、光栄に思うことにしよう。


 さて、じゃあ早速土地を見に行こう!
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