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第7章 新国テンプルム
第349話 吸血姫の涙
この吸血鬼一族の姫『吸血姫』が僕の強力な結界に入ってこられた理由――それは、『勇者』の血を飲んだかららしい。
人類最強である勇者から血を奪ったのだから、この吸血姫も相当な力を持っていたんだろう。
封印されたということは最終的には勇者が勝ったんだろうけど、それにしても勇者を襲って血を飲むなんて、正攻法では到底無理な気がする。
いったいどんな手段でそれを可能にしたんだ?
「ワシは勇者ヴァンルーグの血を飲んだことにより、『勇者』が生み出す結界を無効にできる能力を手に入れた。貴様の結界が無効になることこそ、貴様が『勇者』である証なのだ」
吸血鬼は人間の血を吸うことにより、その人間を操ったり、下級吸血鬼にしたり、または一部の能力を奪うこともあるという。
『吸血姫』ともなれば、勇者の結界を無効にすることすら可能なのか!?
僕は勇者じゃないけど、勇者の使う結界と同じなのかも。
そもそも『生命譲渡』を授かった僕は、勇者のもう1つの命といっても良いわけで、勇者に1番近い存在なのかもしれない。
しかし、これはとんでもない能力だ。
勇者ヴァンルーグの血を飲んだことにより、吸血姫はほかにも『勇者』の能力を受け継いでいる可能性が高い。
……手強いのか?
勇者ヴァンルーグも、吸血姫を滅ぼすことができずに封印したくらいだから、少々手に負えないような存在ということもあり得る。
そもそも吸血鬼は不死の魔族だけに、殺すことが非常に難しい。即死攻撃――つまり『呪王の死睨』も効かない。
ここで戦うのは危険かもな、場所を移動しよう。
「お前にはまだ聞きたいことはあるけど、とりあえず場所を変えるぞ」
「場所を変えるだと? ワシはどこにも行か……」
「『空間転移』!」
僕は吸血姫ごと、テンプルム近辺にある草原へと転移した。
ここならこいつが暴れても大丈夫だ。
「な……なんだ? ワシごと一緒に転移するだと!? バカな、勇者とはいえ、ここまでの空間魔法が使えるとは……!」
「せっかく復活したばかりだけど、また眠ってもらうよ」
吸血鬼は基本的には人類と敵対する種族だけど、どうも女性だと命を奪いづらいところだ。
上手く無力化できればそれに越したことはないけど、無理なら次元牢に閉じ込めてしまおう。
魔王を無事倒せれば、そのあと解放してあげて、まだ敵対するようならそのとき改めて処遇を決めればいい。
「生意気な小僧だ。ワシは齢2000を超える大吸血鬼だぞ。勇者ヴァンルーグには敵わんかったが、貴様はまだ勇者として覚醒を迎えておらぬのではないか? そんな小僧に負けるワシではない」
2000歳だって? なるほど、強いのも納得だ。
しかし、僕のことずっと勇者と勘違いしてるから、どうにもやりづらくて困る。
「だから、僕は『勇者』じゃないって。でも多分、そのヴァンルーグって人より強いと思うよ。それでも僕と戦うかい?」
「貴様……ヴァンルーグを愚弄するか! 気が変わった。貴様にワシの力を思い知らせてやろう」
「どうぞ好きに掛かってきていいよ」
僕の言葉が終わらぬ間に、吸血鬼――いや吸血姫は瞬時に間を詰めて、その手の爪で僕を斬り裂きに来た。
夜の闇にも赤い宝石のように輝く爪は、いかにも女性らしさを醸し出しているが、その切断力は数多の名剣にも劣らぬような鋭さだ。
しかし、もちろん僕には当たらない。
……のはいいとして、どうもまだ封印から目が覚めきってないのか、斬撃にちょっとブレがある。
まあ一流騎士に比肩するほどの鋭さではあるけど、このクラスの強者が繰り出す攻撃としては少々未熟だ。
まさか吸血鬼のくせに暗くてよく見えないなんてことはないだろうし、どういうことだ?
「なるほど、腐っても当代勇者、ヴァンルーグには及ばずとも、それなりの力は持っているようだな」
「まだやるのかい? 大人しくいうことを聞くなら、また封印するのは勘弁してあげるけど?」
「口の減らぬ小僧だ。ククッ、そういえば初めてヤツと会ったときも、そのような口を聞いていたな。少し懐かしいぞ」
ヤツ? ……ってのは勇者ヴァンルーグのことだよな。
それにしても、どうも楽しそうに話してるのはなんでだ?
自分を封印した憎い奴だろうに、まるで親しい友人のことを語るような口調だ。
……あれ、ちょっと待てよ?
さっき僕がヴァンルーグより強いって言ったら、『ヴァンルーグを愚弄するか』って怒ってたよな?
これ怒るところじゃないぞ、なんかおかしくないか?
「喰らえ小僧っ、『冷血なる女王の裁き』っ!」
吸血姫が両手を前に突きだして力を発動すると、地中から天に向かって土を吹き上げるように、僕の周りの地面から次々と青い光が立ち昇った。
どうやら破壊光線のようで、チリチリと空気を灼くような波動が伝わってくる。
しかしコレは……。
僕は一直線に吸血姫へと駆け寄り、冥霊剣を突きつけながら地面へと押し倒す。
ほんの一瞬、吸血姫は驚いた表情をしたが、特に抵抗することなく剣の前にその首をさらけ出した。
「……どうした? 何故殺さぬ?」
「聞きたいのはこっちだ、何故僕に対して手加減をする? さっきの光線も、僕に当てないようにわざと外してたな?」
そう、『冷血なる女王の裁き』という攻撃は、僕に当てないように注意して放っていた。
僕が一気に間を詰めたとき、その光線が僕に当たりそうになって吸血姫は焦っていたほどだ。
爪の攻撃も、恐らく手加減していたんだ。その理由が分からない。
というか、いま気付いた。
この吸血姫には邪気が無い。僕に対する敵意も無い。
いったいどういうことだ?
「ヴァンルーグの……ヴァンのおらぬ世で生きていても仕方ない。だがワシは死ねぬ。勇者の貴様なら、ワシを滅ぼせるはずだ……早う殺せ」
そう言葉を発すると、吸血姫の両目から涙が流れ落ちたのだった。
人類最強である勇者から血を奪ったのだから、この吸血姫も相当な力を持っていたんだろう。
封印されたということは最終的には勇者が勝ったんだろうけど、それにしても勇者を襲って血を飲むなんて、正攻法では到底無理な気がする。
いったいどんな手段でそれを可能にしたんだ?
「ワシは勇者ヴァンルーグの血を飲んだことにより、『勇者』が生み出す結界を無効にできる能力を手に入れた。貴様の結界が無効になることこそ、貴様が『勇者』である証なのだ」
吸血鬼は人間の血を吸うことにより、その人間を操ったり、下級吸血鬼にしたり、または一部の能力を奪うこともあるという。
『吸血姫』ともなれば、勇者の結界を無効にすることすら可能なのか!?
僕は勇者じゃないけど、勇者の使う結界と同じなのかも。
そもそも『生命譲渡』を授かった僕は、勇者のもう1つの命といっても良いわけで、勇者に1番近い存在なのかもしれない。
しかし、これはとんでもない能力だ。
勇者ヴァンルーグの血を飲んだことにより、吸血姫はほかにも『勇者』の能力を受け継いでいる可能性が高い。
……手強いのか?
勇者ヴァンルーグも、吸血姫を滅ぼすことができずに封印したくらいだから、少々手に負えないような存在ということもあり得る。
そもそも吸血鬼は不死の魔族だけに、殺すことが非常に難しい。即死攻撃――つまり『呪王の死睨』も効かない。
ここで戦うのは危険かもな、場所を移動しよう。
「お前にはまだ聞きたいことはあるけど、とりあえず場所を変えるぞ」
「場所を変えるだと? ワシはどこにも行か……」
「『空間転移』!」
僕は吸血姫ごと、テンプルム近辺にある草原へと転移した。
ここならこいつが暴れても大丈夫だ。
「な……なんだ? ワシごと一緒に転移するだと!? バカな、勇者とはいえ、ここまでの空間魔法が使えるとは……!」
「せっかく復活したばかりだけど、また眠ってもらうよ」
吸血鬼は基本的には人類と敵対する種族だけど、どうも女性だと命を奪いづらいところだ。
上手く無力化できればそれに越したことはないけど、無理なら次元牢に閉じ込めてしまおう。
魔王を無事倒せれば、そのあと解放してあげて、まだ敵対するようならそのとき改めて処遇を決めればいい。
「生意気な小僧だ。ワシは齢2000を超える大吸血鬼だぞ。勇者ヴァンルーグには敵わんかったが、貴様はまだ勇者として覚醒を迎えておらぬのではないか? そんな小僧に負けるワシではない」
2000歳だって? なるほど、強いのも納得だ。
しかし、僕のことずっと勇者と勘違いしてるから、どうにもやりづらくて困る。
「だから、僕は『勇者』じゃないって。でも多分、そのヴァンルーグって人より強いと思うよ。それでも僕と戦うかい?」
「貴様……ヴァンルーグを愚弄するか! 気が変わった。貴様にワシの力を思い知らせてやろう」
「どうぞ好きに掛かってきていいよ」
僕の言葉が終わらぬ間に、吸血鬼――いや吸血姫は瞬時に間を詰めて、その手の爪で僕を斬り裂きに来た。
夜の闇にも赤い宝石のように輝く爪は、いかにも女性らしさを醸し出しているが、その切断力は数多の名剣にも劣らぬような鋭さだ。
しかし、もちろん僕には当たらない。
……のはいいとして、どうもまだ封印から目が覚めきってないのか、斬撃にちょっとブレがある。
まあ一流騎士に比肩するほどの鋭さではあるけど、このクラスの強者が繰り出す攻撃としては少々未熟だ。
まさか吸血鬼のくせに暗くてよく見えないなんてことはないだろうし、どういうことだ?
「なるほど、腐っても当代勇者、ヴァンルーグには及ばずとも、それなりの力は持っているようだな」
「まだやるのかい? 大人しくいうことを聞くなら、また封印するのは勘弁してあげるけど?」
「口の減らぬ小僧だ。ククッ、そういえば初めてヤツと会ったときも、そのような口を聞いていたな。少し懐かしいぞ」
ヤツ? ……ってのは勇者ヴァンルーグのことだよな。
それにしても、どうも楽しそうに話してるのはなんでだ?
自分を封印した憎い奴だろうに、まるで親しい友人のことを語るような口調だ。
……あれ、ちょっと待てよ?
さっき僕がヴァンルーグより強いって言ったら、『ヴァンルーグを愚弄するか』って怒ってたよな?
これ怒るところじゃないぞ、なんかおかしくないか?
「喰らえ小僧っ、『冷血なる女王の裁き』っ!」
吸血姫が両手を前に突きだして力を発動すると、地中から天に向かって土を吹き上げるように、僕の周りの地面から次々と青い光が立ち昇った。
どうやら破壊光線のようで、チリチリと空気を灼くような波動が伝わってくる。
しかしコレは……。
僕は一直線に吸血姫へと駆け寄り、冥霊剣を突きつけながら地面へと押し倒す。
ほんの一瞬、吸血姫は驚いた表情をしたが、特に抵抗することなく剣の前にその首をさらけ出した。
「……どうした? 何故殺さぬ?」
「聞きたいのはこっちだ、何故僕に対して手加減をする? さっきの光線も、僕に当てないようにわざと外してたな?」
そう、『冷血なる女王の裁き』という攻撃は、僕に当てないように注意して放っていた。
僕が一気に間を詰めたとき、その光線が僕に当たりそうになって吸血姫は焦っていたほどだ。
爪の攻撃も、恐らく手加減していたんだ。その理由が分からない。
というか、いま気付いた。
この吸血姫には邪気が無い。僕に対する敵意も無い。
いったいどういうことだ?
「ヴァンルーグの……ヴァンのおらぬ世で生きていても仕方ない。だがワシは死ねぬ。勇者の貴様なら、ワシを滅ぼせるはずだ……早う殺せ」
そう言葉を発すると、吸血姫の両目から涙が流れ落ちたのだった。
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