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第7章 新国テンプルム
第371話 魔王の力
「なんだ、いきなり現れやがって、お前は誰だ!? ……ん、ラスティマではないか、何故ここに居る?」
「これは転移魔法……!? 『魔王ユーリ』は空間魔法まで使えるのか!? はっ、パグローム様!? こ、こいつがこの国の王ユーリです!」
『空間転移』で来てみると、アニスさんの推測通り、帝国軍総軍団長パグロームはそこに居た。
そしてそのすぐ近くに、重傷で気を失って倒れている久魅那と、両手両足を斬り落とされ、腹部から真っ二つにされたゼルマが居た。
なんて酷いことを……でも、2人とも瀕死の状態だが、なんとか生きている!
「お前がこの国の王様か。言っておくが、その小せえ女から仕掛けてきたんだぜ? 素直にここの女たちをよこしていればいいものを、『空間魔法』なんて使いやがって……邪魔なんてするからこうなるんだ。それにもう1人は吸血鬼だろ? 昼間に動けるなんざ危険きわまりない吸血鬼だぜ。お前に替わってこのオレ様が退治してやったんだ、感謝しろよなガハハハ」
巨体の男――パグロームが、この惨状は自らの仕業だと得意気に話す。
あのゼルマがここまで一方的にやられるなんて……!
僕はゼルマのもとへと駆け寄り、上半身を抱き起こす。
「ゼルマ、大丈夫か!?」
「こ……小僧か。ふふ、まさかこのワシが、人間なんぞにやられるとはな。そこの男は異常だ、強すぎる。い、今すぐ女たちを連れて逃げるがいい。貴様の転移魔法なら可能なはず。久魅那という女は重傷だが、貴様なら助けられるだろう」
「ゼルマが守ってくれたのか?」
「その男が暴れているのを見掛けたのでな。ちと成敗してやろうと思ったら、返り討ちに遭ってしまった。ワシももう歳かもしれぬな……さすがのワシも、これでは生きていられぬ」
「そんなわけないだろ、ゼルマしっかりしろ!」
「貴様を見ていると、本当にヴァンを思い出す。そばに居るだけでなんともあたたかい……『勇者』とは、皆こういう者なのかもしれぬな」
「だから僕は『勇者』じゃないって……」
「ワシがヴァンに封印されるとき、あやつは言った。もし遠い未来に目を覚ましたら、そのときの勇者を助けてやってくれと。あやつは生きて帰るつもりはなかったのだな……それが今になって分かるとは」
「本当に助かった、ゼルマのおかげで女性たちを守れたよ。さらわれていたら、何に利用されていたか分からなかった」
「そうだ、だから早くここを去れ! ワシの犠牲を無駄にする気か! フフ、小僧、貴様と一緒に居るのは心地良かったぞ。ヴァンとの約束も果たしたし、これでヤツのもとへ胸を張っていける……」
「ゼルマ、ゼルマ! 凄く言いづらいんだけど……」
「なんだ、愛しているとでも言うつもりか? ならば、ワシの息があるうちに早う言え」
「いや、ゼルマはとっくに完治してるんだ。だからその、瀕死っぽい喋り方はしなくてもいいんだよ?」
「バカ者っ、ワシの最期にそんな言葉をいうヤツがあるか! まったく、貴様は本当に気の利かぬ小僧だ。貴様のようなヤツに心を奪われるとは、ワシ自身が情けな……な、なんだとおおおっ!?」
ゼルマは、ようやく自分が完治していることに気付いた。まああれほどバラバラになってたから、自分の命は長くないと思い込んでいたんだろうけど。
ゼルマと久魅那の身体は、手遅れになる前に時間を止めて、『神遺魔法』の『身体欠損修復』とアイテムの『完全回復薬』ですぐに治療したんだ。
久魅那はまだ気を失っているけど、まもなく目が覚めるだろう。
ちなみに、『炎駒』の能力でも治せたんだけど、時間停止中は『炎駒』が喚べなかった。
時間停止を解除してから『炎駒』を喚ぶとロスがあるので、今回は僕が自分でやることにした。
『炎駒』の力はまた次の機会に試そう。
「バラバラにされたワシの身体が元に戻るとは……小僧、貴様がこれをやったというのか!?」
「前に言っただろ? 僕の前では死なせないって」
「し、しかし、こんなことは神の奇跡としか思えぬ! 『神の血』といい、まさか貴様、神の化身ではあるまいな!?」
「僕は人間だよ、ちょっと特別な力を持ってるけどね」
「…………そうか、貴様は『勇者』以上の存在だったということか。3000年もの時を越えて、貴様のような男と出会えるとはな……いや、偶然ではあるまい。きっとこの出会いはヴァンが用意してくれたのだ」
「僕もそう思うよ。僕にはゼルマが必要だ」
ゼルマがいなかったら、女性たちをさらわれ、人質として交渉に利用されてたかもしれない。
久魅那も生きてはいなかっただろう。
そうなっていたら、帝国とはもうドロドロの関係になっていた。魔王軍どころではなくなっていた可能性すらある。
ゼルマがくれたこのチャンス、絶対に無駄にはしない。
帝国が平和の障害となるなら、遠慮なく叩き潰す!
「な、なんだ!? バラバラにしてやった吸血鬼の身体が、いつの間にか元に戻ってやがる! あんなの治せるわきゃねえのに、オレは夢でも見てるのか!?」
「パグローム様、あいつは本物の魔王です! 『魔王ユーリ』は本当だったのです! すぐに皇帝陛下に報せませんと!」
「ラスティマ……お前アイツに負けやがったな。しょせん失敗作ということか」
「お、お言葉ですが、パグローム様でも勝てるかどうか……すぐに撤退すべきです、『帝国神命十二騎士』でなければ、あの『魔王ユーリ』は倒せません!」
「ふん、出来損ないはそこで見ていろ! オレが『亜天使』の真の力を見せてやる!」
僕たちの様子を窺っていたパグロームが、剣を抜いて近寄ってきた。
今の会話を聞いた限りでは、この男より『帝国神命十二騎士』のほうが強いみたいだが……。
『帝国神命十二騎士』は皇帝直下の親衛隊で、その力は『ナンバーズ』にも匹敵するなんて言われていたけど、どうやらそんなレベルじゃないくらい強くなってるっぽいな。
「小僧、あの男に勝てるんだろうな?」
「僕があんなヤツに負けると思うかい?」
「愚問だったか。ワシはもう貴様の力は疑わぬ。ヴァンを超えるその力をワシに見せてくれ」
「了解。しっかり見ててくれ」
僕はパグロームと対峙した。
年齢は40前後、身長は190センチ以上ありそうな巨漢で、歴戦を戦い抜いたその身体からは、見た目以上の威圧感を感じる。
司令官とは思えないような粗野な顔つきで、ウェーブの掛かった灰色の髪を振り乱しながら、手当たり次第殺戮を繰り広げる狂気の姿から、『灰色の殺戮王』という名が付いたほどだ。
その右手には青い剣を持っていて、それを僕へと向けて突きつけてきた。
ん? もしかしてこの剣って……!
「その剣は、ひょっとして『蒼魂鋼の剣』じゃないのか? この国のオークションで、ヘドロノスという商人が競り落とした物のはずだが?」
「はぁん? なんのことか分からんな」
パグロームはとぼけているが、もちろんこれはウソだ。
なるほど、『蒼魂鋼の剣』なら、僕のアダマンタイト製ゴーレムを斬ることも容易いだろう。
この件についてはゾディーさんが騙されてしまったわけだが、パグロームの手に渡っていることを考えると、ヘドロノスは最初から帝国軍のために『蒼魂鋼の剣』を手に入れに来たということか?
そうか……ゾディーさんは、それを悟られないためのカモフラージュだったんだ。
帝国は、その頃からこのテンプルム侵略を考えていたに違いない。
「ヘドロノスは帝国軍の命令で、このテンプルムを偵察しに来たんじゃないのか? 奴隷の女性たちが居る場所も、ヘドロノスが調べていたんだろう。ヤツは今どうしている?」
「そんなヤツなど知らねえって。オレは軍のことで忙しいんだぜ?」
「帝国の有名な豪商なのに、知らないはずがないだろう。まさか……殺したのか?」
「くどいっ、オレのあずかり知らぬことだと言ってる」
殺したのか……。
ヘドロノスは僕に全スキルを奪われたから、もはや用済みと思われてしまったのかもしれない。
もしそれが原因だとしたら、ヤツには悪いことをしたな……。
「パグローム、アンタがゼルマたちにやったことは許しがたいが、しかし吸血鬼を退治することは人間として正常だ。久魅那のことも、百歩譲って正当防衛として不問にしてもいい。だが、これ以上暴れるというのなら……帝国がこのテンプルムにケンカを売ってくるというなら、僕も容赦はしない」
「面白いガキだな。お前が『魔王ユーリ』なんだって? ラスティマ程度に勝ったくらいで調子に乗ってると、死ぬことになるぜ」
「その言葉、そっくりそのままアンタに返そう。少し力を手に入れた程度で他国を侵略しようだなんて、帝国は思い上がるのもいい加減にしたほうがいい」
「では、帝国の属国にはならないというんだな? いいか、返答には気を付けろよ『魔王ユーリ』。お前が断った瞬間、その首が飛ぶことになる」
「僕からも忠告する。僕を攻撃しようとした瞬間、その左腕を失うことになる」
「……我がグランディス帝国の軍門にくだれ、魔王ユーリ!」
「断る!」
その瞬間、物体が宙に飛び上がる…………肩の付け根から斬られたパグロームの左腕だ。
それは回転しながら宙を舞ったあと、ドサリと音を立てて地に落ちた。
「そ、そんなっ、パ……パグローム様の腕が……!」
「これは……い、いつだ……? いつオレの腕は斬られた!?」
恐怖の表情を浮かべるラスティマと、何が起こったのか分からずに驚愕するパグローム。
いまパグロームの殺意が限界まで膨れあがった瞬間、僕が時間を止めて左腕を斬り落としたのだ。
少し卑怯かもしれないが、力の差を思い知らせるためだ。
そうすることで、これ以上の戦いを回避したいと思っている。
「『魔王』の力が分かったか? まだやるというなら、次は右腕だ」
「くっ……なら、これをっ……がはあっっっ!!」
またパグロームが攻撃してこようとした瞬間、同じように時間を止め、今度は右腕を斬り飛ばす。
「おおお見えない……何も見えないっ、魔王ユーリが何をしているのか、ワタシにはまったく分からないっ! お、恐ろしい、これが本物の魔王の力……!」
「はあ、はあ、この野郎……このオレ様にこんなマネを……!」
『灰色の殺戮王』パグローム……なんという闘争心なんだ。
両腕を斬られて、まだこの僕とやり合おうというのか!?
「これしきのことじゃ、このオレは倒せねえぜえっ!」
な……なんだこれは!?
パグロームが全身に力を入れると、失った両腕がまた肩から生えてきた!
『損傷修復』のスキルを持ってないのに、こんなことができるなんて……これも『亜天使』の力だというのか!?
パグロームは落ちている『蒼魂鋼の剣』を拾い、また構え直す。
「いい気になるなよ魔王ユーリ! このオレの真の力を見せてやる!」
「これでも懲りないというなら…………次はその首だ」
「やれるもんならやってみやがっ…………………………………………かはっ……」
僕はパグロームの首を斬り落とした。地に転がった頭が、最後の一息を漏らす。
……死んだようだ。
セクエストロ――魔将ネビロスと違って、さすがに頭部を失っては生きていられないらしい。
ここまでするつもりはなかったんだけど、両腕を斬り落としても向かってくるというなら、もはやこうするしかない。
しかし、恐ろしい執念だ……。
「ひ、ひ、ひいいいいいいいいいいいいっっっっ、あ、あのパグローム様が、何1つ動けずにいいいっ、げえっ、げえええっ……!」
戦いを見ていたラスティマは、腰を抜かして地面にへたり込む。
そして完全に取り乱し、恐怖に耐えきれずに吐いたあと、失禁までしてしまった。
仕方ないとはいえ、これでテンプルムは完全に帝国の敵となっちゃったな……。
「ぜえっ、ぜえっ……人類は、いや我が帝国はなんと思い上がっていたのだ。こんな化け物にケンカを売っていたとは……! に、人間ではとても敵わない、イオなどを攻めている場合ではない……!」
ラスティマは茫然自失となった状態で、聞き捨てならないことを呟いた。
イオ……? 魔導国イオのことか?
攻めてるってどういう意味だ!?
「イオがどうしたというんだ?」
「は、はっ、こ、答えます、ですからどうか命だけは……! イ、イオを手に入れるため、我が国の『帝国神命十二騎士』たちが向かったのです」
「なんだって!? いつのことだ!?」
「け、計画では、ワタシが出発したあとすぐに彼らも動く予定でしたから、そろそろイオには着いているかもしれません」
帝国軍――『帝国神命十二騎士』たちが、サクヤやベルニカ姉妹の居るイオに攻め込みにいったというのか!
ラスティマはもう僕に逆らう気はないようで、恐怖のあまり、素直にベラベラと答える。
「お前たち帝国は、どうやら『亜天使』という力を手に入れたようだが、これはいったいなんなんだ!?」
「そ、そんなことまで分かるというのですか!? 『亜天使』は、天使の細胞を人間に移植することで得ることができる力です。ワタシは試作型ですが、パグローム様は最初の成功体です。そして『帝国神命十二騎士』は進化型、皇帝陛下は完全体と言われています。ワタシが知るのはここまでです」
天使の細胞を、人間に移植だって!? そんなの聞いたことがない!
なんていう恐れ多いことを……!
そうか、人体の細胞ごと作り変えたから、『亜天使』という能力の強奪ができなかったんだ。
パグロームの凄い再生力も、肉体がすでに人間のモノではなかったからだ。
そんな力を手に入れたせいで、帝国は他国への侵略を始めたというのか……!
魔導国イオの軍事力ならそう簡単にはやられないと思うが、『亜天使』で強化された『帝国神命十二騎士』は、かなり手強いかもしれない。
すぐに助けに行かないと!
「ラスティマ、今回だけは見逃してやる。パグロームの亡骸を持って、今すぐ帝国へ帰れ。そして、二度と侵略など考えないように、皇帝に進言するんだ。いいな?」
「はいい、分かりましたあああっ!」
ラスティマは額を地面にこすりつけて土下座をする。
コイツはこれでもう問題ないだろう。
僕はアニスさんに『魔導通信機』で連絡を取り、このあとのことを任せる。
僕はイオへは行ったことがないので、正確な位置が分からない。
なので、『空間転移』で一気に転移するのは危険だ。
ただ、以前イオの近く――『最古の迷宮』までは行っているので、そこまで転移してから、あとは空を飛んで移動しよう。
熾光魔竜を一緒に連れていけば、かなり早く着くはずだ。
「ゼルマ、王城に行って、みんなと一緒にテンプルムを守っていてくれ」
「小僧……貴様の力は存分に見せてもらった。『魔王ユーリ』などとは笑わせおる。『魔王』のほうが、貴様よりも何倍も可愛げがあろうに。ここは我らに任せろ。貴様は何も心配せずに、イオという国を救ってこい!」
「ありがとうゼルマ」
僕はみんなにこの国を任せ、熾光魔竜のもとに転移した。
「これは転移魔法……!? 『魔王ユーリ』は空間魔法まで使えるのか!? はっ、パグローム様!? こ、こいつがこの国の王ユーリです!」
『空間転移』で来てみると、アニスさんの推測通り、帝国軍総軍団長パグロームはそこに居た。
そしてそのすぐ近くに、重傷で気を失って倒れている久魅那と、両手両足を斬り落とされ、腹部から真っ二つにされたゼルマが居た。
なんて酷いことを……でも、2人とも瀕死の状態だが、なんとか生きている!
「お前がこの国の王様か。言っておくが、その小せえ女から仕掛けてきたんだぜ? 素直にここの女たちをよこしていればいいものを、『空間魔法』なんて使いやがって……邪魔なんてするからこうなるんだ。それにもう1人は吸血鬼だろ? 昼間に動けるなんざ危険きわまりない吸血鬼だぜ。お前に替わってこのオレ様が退治してやったんだ、感謝しろよなガハハハ」
巨体の男――パグロームが、この惨状は自らの仕業だと得意気に話す。
あのゼルマがここまで一方的にやられるなんて……!
僕はゼルマのもとへと駆け寄り、上半身を抱き起こす。
「ゼルマ、大丈夫か!?」
「こ……小僧か。ふふ、まさかこのワシが、人間なんぞにやられるとはな。そこの男は異常だ、強すぎる。い、今すぐ女たちを連れて逃げるがいい。貴様の転移魔法なら可能なはず。久魅那という女は重傷だが、貴様なら助けられるだろう」
「ゼルマが守ってくれたのか?」
「その男が暴れているのを見掛けたのでな。ちと成敗してやろうと思ったら、返り討ちに遭ってしまった。ワシももう歳かもしれぬな……さすがのワシも、これでは生きていられぬ」
「そんなわけないだろ、ゼルマしっかりしろ!」
「貴様を見ていると、本当にヴァンを思い出す。そばに居るだけでなんともあたたかい……『勇者』とは、皆こういう者なのかもしれぬな」
「だから僕は『勇者』じゃないって……」
「ワシがヴァンに封印されるとき、あやつは言った。もし遠い未来に目を覚ましたら、そのときの勇者を助けてやってくれと。あやつは生きて帰るつもりはなかったのだな……それが今になって分かるとは」
「本当に助かった、ゼルマのおかげで女性たちを守れたよ。さらわれていたら、何に利用されていたか分からなかった」
「そうだ、だから早くここを去れ! ワシの犠牲を無駄にする気か! フフ、小僧、貴様と一緒に居るのは心地良かったぞ。ヴァンとの約束も果たしたし、これでヤツのもとへ胸を張っていける……」
「ゼルマ、ゼルマ! 凄く言いづらいんだけど……」
「なんだ、愛しているとでも言うつもりか? ならば、ワシの息があるうちに早う言え」
「いや、ゼルマはとっくに完治してるんだ。だからその、瀕死っぽい喋り方はしなくてもいいんだよ?」
「バカ者っ、ワシの最期にそんな言葉をいうヤツがあるか! まったく、貴様は本当に気の利かぬ小僧だ。貴様のようなヤツに心を奪われるとは、ワシ自身が情けな……な、なんだとおおおっ!?」
ゼルマは、ようやく自分が完治していることに気付いた。まああれほどバラバラになってたから、自分の命は長くないと思い込んでいたんだろうけど。
ゼルマと久魅那の身体は、手遅れになる前に時間を止めて、『神遺魔法』の『身体欠損修復』とアイテムの『完全回復薬』ですぐに治療したんだ。
久魅那はまだ気を失っているけど、まもなく目が覚めるだろう。
ちなみに、『炎駒』の能力でも治せたんだけど、時間停止中は『炎駒』が喚べなかった。
時間停止を解除してから『炎駒』を喚ぶとロスがあるので、今回は僕が自分でやることにした。
『炎駒』の力はまた次の機会に試そう。
「バラバラにされたワシの身体が元に戻るとは……小僧、貴様がこれをやったというのか!?」
「前に言っただろ? 僕の前では死なせないって」
「し、しかし、こんなことは神の奇跡としか思えぬ! 『神の血』といい、まさか貴様、神の化身ではあるまいな!?」
「僕は人間だよ、ちょっと特別な力を持ってるけどね」
「…………そうか、貴様は『勇者』以上の存在だったということか。3000年もの時を越えて、貴様のような男と出会えるとはな……いや、偶然ではあるまい。きっとこの出会いはヴァンが用意してくれたのだ」
「僕もそう思うよ。僕にはゼルマが必要だ」
ゼルマがいなかったら、女性たちをさらわれ、人質として交渉に利用されてたかもしれない。
久魅那も生きてはいなかっただろう。
そうなっていたら、帝国とはもうドロドロの関係になっていた。魔王軍どころではなくなっていた可能性すらある。
ゼルマがくれたこのチャンス、絶対に無駄にはしない。
帝国が平和の障害となるなら、遠慮なく叩き潰す!
「な、なんだ!? バラバラにしてやった吸血鬼の身体が、いつの間にか元に戻ってやがる! あんなの治せるわきゃねえのに、オレは夢でも見てるのか!?」
「パグローム様、あいつは本物の魔王です! 『魔王ユーリ』は本当だったのです! すぐに皇帝陛下に報せませんと!」
「ラスティマ……お前アイツに負けやがったな。しょせん失敗作ということか」
「お、お言葉ですが、パグローム様でも勝てるかどうか……すぐに撤退すべきです、『帝国神命十二騎士』でなければ、あの『魔王ユーリ』は倒せません!」
「ふん、出来損ないはそこで見ていろ! オレが『亜天使』の真の力を見せてやる!」
僕たちの様子を窺っていたパグロームが、剣を抜いて近寄ってきた。
今の会話を聞いた限りでは、この男より『帝国神命十二騎士』のほうが強いみたいだが……。
『帝国神命十二騎士』は皇帝直下の親衛隊で、その力は『ナンバーズ』にも匹敵するなんて言われていたけど、どうやらそんなレベルじゃないくらい強くなってるっぽいな。
「小僧、あの男に勝てるんだろうな?」
「僕があんなヤツに負けると思うかい?」
「愚問だったか。ワシはもう貴様の力は疑わぬ。ヴァンを超えるその力をワシに見せてくれ」
「了解。しっかり見ててくれ」
僕はパグロームと対峙した。
年齢は40前後、身長は190センチ以上ありそうな巨漢で、歴戦を戦い抜いたその身体からは、見た目以上の威圧感を感じる。
司令官とは思えないような粗野な顔つきで、ウェーブの掛かった灰色の髪を振り乱しながら、手当たり次第殺戮を繰り広げる狂気の姿から、『灰色の殺戮王』という名が付いたほどだ。
その右手には青い剣を持っていて、それを僕へと向けて突きつけてきた。
ん? もしかしてこの剣って……!
「その剣は、ひょっとして『蒼魂鋼の剣』じゃないのか? この国のオークションで、ヘドロノスという商人が競り落とした物のはずだが?」
「はぁん? なんのことか分からんな」
パグロームはとぼけているが、もちろんこれはウソだ。
なるほど、『蒼魂鋼の剣』なら、僕のアダマンタイト製ゴーレムを斬ることも容易いだろう。
この件についてはゾディーさんが騙されてしまったわけだが、パグロームの手に渡っていることを考えると、ヘドロノスは最初から帝国軍のために『蒼魂鋼の剣』を手に入れに来たということか?
そうか……ゾディーさんは、それを悟られないためのカモフラージュだったんだ。
帝国は、その頃からこのテンプルム侵略を考えていたに違いない。
「ヘドロノスは帝国軍の命令で、このテンプルムを偵察しに来たんじゃないのか? 奴隷の女性たちが居る場所も、ヘドロノスが調べていたんだろう。ヤツは今どうしている?」
「そんなヤツなど知らねえって。オレは軍のことで忙しいんだぜ?」
「帝国の有名な豪商なのに、知らないはずがないだろう。まさか……殺したのか?」
「くどいっ、オレのあずかり知らぬことだと言ってる」
殺したのか……。
ヘドロノスは僕に全スキルを奪われたから、もはや用済みと思われてしまったのかもしれない。
もしそれが原因だとしたら、ヤツには悪いことをしたな……。
「パグローム、アンタがゼルマたちにやったことは許しがたいが、しかし吸血鬼を退治することは人間として正常だ。久魅那のことも、百歩譲って正当防衛として不問にしてもいい。だが、これ以上暴れるというのなら……帝国がこのテンプルムにケンカを売ってくるというなら、僕も容赦はしない」
「面白いガキだな。お前が『魔王ユーリ』なんだって? ラスティマ程度に勝ったくらいで調子に乗ってると、死ぬことになるぜ」
「その言葉、そっくりそのままアンタに返そう。少し力を手に入れた程度で他国を侵略しようだなんて、帝国は思い上がるのもいい加減にしたほうがいい」
「では、帝国の属国にはならないというんだな? いいか、返答には気を付けろよ『魔王ユーリ』。お前が断った瞬間、その首が飛ぶことになる」
「僕からも忠告する。僕を攻撃しようとした瞬間、その左腕を失うことになる」
「……我がグランディス帝国の軍門にくだれ、魔王ユーリ!」
「断る!」
その瞬間、物体が宙に飛び上がる…………肩の付け根から斬られたパグロームの左腕だ。
それは回転しながら宙を舞ったあと、ドサリと音を立てて地に落ちた。
「そ、そんなっ、パ……パグローム様の腕が……!」
「これは……い、いつだ……? いつオレの腕は斬られた!?」
恐怖の表情を浮かべるラスティマと、何が起こったのか分からずに驚愕するパグローム。
いまパグロームの殺意が限界まで膨れあがった瞬間、僕が時間を止めて左腕を斬り落としたのだ。
少し卑怯かもしれないが、力の差を思い知らせるためだ。
そうすることで、これ以上の戦いを回避したいと思っている。
「『魔王』の力が分かったか? まだやるというなら、次は右腕だ」
「くっ……なら、これをっ……がはあっっっ!!」
またパグロームが攻撃してこようとした瞬間、同じように時間を止め、今度は右腕を斬り飛ばす。
「おおお見えない……何も見えないっ、魔王ユーリが何をしているのか、ワタシにはまったく分からないっ! お、恐ろしい、これが本物の魔王の力……!」
「はあ、はあ、この野郎……このオレ様にこんなマネを……!」
『灰色の殺戮王』パグローム……なんという闘争心なんだ。
両腕を斬られて、まだこの僕とやり合おうというのか!?
「これしきのことじゃ、このオレは倒せねえぜえっ!」
な……なんだこれは!?
パグロームが全身に力を入れると、失った両腕がまた肩から生えてきた!
『損傷修復』のスキルを持ってないのに、こんなことができるなんて……これも『亜天使』の力だというのか!?
パグロームは落ちている『蒼魂鋼の剣』を拾い、また構え直す。
「いい気になるなよ魔王ユーリ! このオレの真の力を見せてやる!」
「これでも懲りないというなら…………次はその首だ」
「やれるもんならやってみやがっ…………………………………………かはっ……」
僕はパグロームの首を斬り落とした。地に転がった頭が、最後の一息を漏らす。
……死んだようだ。
セクエストロ――魔将ネビロスと違って、さすがに頭部を失っては生きていられないらしい。
ここまでするつもりはなかったんだけど、両腕を斬り落としても向かってくるというなら、もはやこうするしかない。
しかし、恐ろしい執念だ……。
「ひ、ひ、ひいいいいいいいいいいいいっっっっ、あ、あのパグローム様が、何1つ動けずにいいいっ、げえっ、げえええっ……!」
戦いを見ていたラスティマは、腰を抜かして地面にへたり込む。
そして完全に取り乱し、恐怖に耐えきれずに吐いたあと、失禁までしてしまった。
仕方ないとはいえ、これでテンプルムは完全に帝国の敵となっちゃったな……。
「ぜえっ、ぜえっ……人類は、いや我が帝国はなんと思い上がっていたのだ。こんな化け物にケンカを売っていたとは……! に、人間ではとても敵わない、イオなどを攻めている場合ではない……!」
ラスティマは茫然自失となった状態で、聞き捨てならないことを呟いた。
イオ……? 魔導国イオのことか?
攻めてるってどういう意味だ!?
「イオがどうしたというんだ?」
「は、はっ、こ、答えます、ですからどうか命だけは……! イ、イオを手に入れるため、我が国の『帝国神命十二騎士』たちが向かったのです」
「なんだって!? いつのことだ!?」
「け、計画では、ワタシが出発したあとすぐに彼らも動く予定でしたから、そろそろイオには着いているかもしれません」
帝国軍――『帝国神命十二騎士』たちが、サクヤやベルニカ姉妹の居るイオに攻め込みにいったというのか!
ラスティマはもう僕に逆らう気はないようで、恐怖のあまり、素直にベラベラと答える。
「お前たち帝国は、どうやら『亜天使』という力を手に入れたようだが、これはいったいなんなんだ!?」
「そ、そんなことまで分かるというのですか!? 『亜天使』は、天使の細胞を人間に移植することで得ることができる力です。ワタシは試作型ですが、パグローム様は最初の成功体です。そして『帝国神命十二騎士』は進化型、皇帝陛下は完全体と言われています。ワタシが知るのはここまでです」
天使の細胞を、人間に移植だって!? そんなの聞いたことがない!
なんていう恐れ多いことを……!
そうか、人体の細胞ごと作り変えたから、『亜天使』という能力の強奪ができなかったんだ。
パグロームの凄い再生力も、肉体がすでに人間のモノではなかったからだ。
そんな力を手に入れたせいで、帝国は他国への侵略を始めたというのか……!
魔導国イオの軍事力ならそう簡単にはやられないと思うが、『亜天使』で強化された『帝国神命十二騎士』は、かなり手強いかもしれない。
すぐに助けに行かないと!
「ラスティマ、今回だけは見逃してやる。パグロームの亡骸を持って、今すぐ帝国へ帰れ。そして、二度と侵略など考えないように、皇帝に進言するんだ。いいな?」
「はいい、分かりましたあああっ!」
ラスティマは額を地面にこすりつけて土下座をする。
コイツはこれでもう問題ないだろう。
僕はアニスさんに『魔導通信機』で連絡を取り、このあとのことを任せる。
僕はイオへは行ったことがないので、正確な位置が分からない。
なので、『空間転移』で一気に転移するのは危険だ。
ただ、以前イオの近く――『最古の迷宮』までは行っているので、そこまで転移してから、あとは空を飛んで移動しよう。
熾光魔竜を一緒に連れていけば、かなり早く着くはずだ。
「ゼルマ、王城に行って、みんなと一緒にテンプルムを守っていてくれ」
「小僧……貴様の力は存分に見せてもらった。『魔王ユーリ』などとは笑わせおる。『魔王』のほうが、貴様よりも何倍も可愛げがあろうに。ここは我らに任せろ。貴様は何も心配せずに、イオという国を救ってこい!」
「ありがとうゼルマ」
僕はみんなにこの国を任せ、熾光魔竜のもとに転移した。
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【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る世界樹の根源そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。