噂話と後悔、代償は妻の笑顔で精算されてしまった(男は泣くこともできない)前編

木桜 春雨

文字の大きさ
1 / 2

噂話(浮気しているのは他人の夫)妻の態度に夫は

しおりを挟む
 「ねえっ、あなた」
 夕食後のことだ、妻からの質問に男は驚いた、あそこのご主人と言われて顔を思い出した、だが、挨拶を交わす程度で親しいという訳ではないので、いいやと答えることしかできなかった。 
 「浮気してるらしいわ」
 妻の言葉にぎくりとする、だが、それは自分のことではないのだと思い、ほっとした。
 まさかとは思う(ばれていない、いや、気づいている様子はない)
 近所の人が噂してたのよ、続く言葉に話題を変えようと噂だろうと素っ気なく答えた。
 憶測で、そんな事を言うんじゃないと。
 「でも、皆、知ってるみたい」
 あそこの奥さんが話してたから、その言葉にお喋り好きの暇な主婦、奥様かと内心、嫌な気分になってしまった。
 しかし、近所の旦那が浮気、それを薄々、感づいている人間がいて話のネタにされているというのは正直、気分のいいものではない。
 気をつけようと思った。
 
 翌日、会社に行く途中のことだ、男は噂の人物に会って驚いた、右足に白い包帯、いやギプスを巻いていたからだ。
 どうしたんですかと思わず聞いてしまった。
 「駅の階段で転んでしまいましてね」
 骨折ではない、筋を痛めただけだという、そのときはただ気の毒にと思っただけだ。

 今朝、会ったよ、その日の夕食をすませた後、自分から話題をふってみた、脚を怪我したみたいだと。
 その言葉に妻は軽く頷いただけだ、別にというか、驚いた様子はないのが、少しだけ気になった
 「そうなの、自業自得ってやつじゃない」
 冷静というか、まるで当然といわんばかりの言葉に正直、嫌な態度だと思ってしまった。
 「脚を滑らしたって言ってるけど、皆、分かってるわ」
 嘘だって、最後の呟きに、内心、むっとして妻を睨みつけた。
 突き落とされたのよと、予想もしない言葉が返ってきた。
 一瞬、どうしてそんなことをと聞き返しそうになり、言葉を呑み込んだ。
 馬鹿馬鹿しい、まるで見たようなことをいうじゃないか、想像、いや妄想を膨らまして、そんな事を言っているんだと思った。

 ところが、その後、噂の本人を見たのだ、今度は顔に怪我をしていた。
 駅のホームで目があったとき、罰が悪そうにこちらを見る、どんな言葉をかければいいのかと迷ったが、聞いてしまった、どうしたんですと。
 きまりを悪そうに浮気の結果ですよと、相手は呟いた。
 「不満なんてありません、ただ、少しだけ、相手から声をかけられて有頂天になったというか、馬鹿ですね、離婚ですよ」
 離婚という、その言葉に返事ができない。
 子供は妻が引き取ります、自分は一人ですと呟く相手に思わず女性はと尋ねてしまった、浮気相手の女性はと聞いてしまったが、すぐに後悔した。
 「妻に捨てられた男なんてと、言われました」
 笑われたんです、何故でしょうねと言われて言葉に詰まる、力なく歩いて行く男の後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 その日の夕食の後、旦那さんに会ったよ、離婚するそうだよと妻に話すと何がと聞かれた。
 あそこ夫婦、離婚するらしい、だが、妻の返事は返事は、そうと、うなずいただけだ、まるで関心がないといわんばかりだ。
 それでと妻は続きを促した。
 「貴方は何が言いたいの、他人の家庭の事が、そんなに気になるの」
 いいや、噂してたのは、お前たち、近所の噂好きの主婦じゃないのかと言うと笑われた。
 「良かったじゃない、怪我と離婚程度で済んで」
 この時ばかりは腹が立った、思わず、言い返そうとしたとき、妻が視線を向けてきた。
 「浮気、するからでしょ」
 (まさか)
 自分が浮気している事に気づいている、いや、うまく隠してきた、ばれてはいない筈だ、例え嘘だとしても、聞いてしまったら駄目だ。
 「子供もいるのに奥さんを裏切って、ねえっ、もしかして、あなた」
 ほんの少し、沈黙が続いた。
 「馬鹿な事をいうんじゃない」
 えっ、何、どういうことと言われてはっとした。
 
 それから三日ほどが過ぎた。
 あの人、亡くなったみたいと言われて男は聞き返した、離婚された男の人よと言われて返事ができなかった。


 「駅の階段で転んで」
 「打ち所が悪かったみたいで、意識が」
 その日、家を出ると途中で数人の主婦とすれ違った。
 「亡くなったんですってね、気の毒に」
 「足も怪我していたから、そのせいもあるんでしょうね」
 男の足が止まった、主婦達のの会話に思わず口を挟むというより、尋ねてしまった。
 亡くなった夫の遺体の引き取りを元、奥さんは拒否しているという。 浮気していたからだという、そうですかと頷き男は通り過ぎようとした。
 「ところで、貴方の奥さん、あの駅をよく、利用するのよね」
 男は、えっと言葉を飲み込んだ。
 主婦達は自分を見ている視線に、このとき気づいた。
 (本当に知らなかったの)
 そういわんばかりだ。
 「まあ、昔から知らぬは亭主ばかりなりっていうしね」
 「本当ね」
 「仲良かったみたいだし」
 誰のことを話しているのか、わからなかった。
 誰が誰と、だが、聞く事ができない。
 
 男は決心した、浮気相手と別れることを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……

今さら泣きついても遅いので、どうかお静かに。

有賀冬馬
恋愛
「平民のくせに」「トロくて邪魔だ」──そう言われ続けてきた王宮の雑用係。地味で目立たない私のことなんて、誰も気にかけなかった。 特に伯爵令嬢のルナは、私の幸せを邪魔することばかり考えていた。 けれど、ある夜、怪我をした青年を助けたことで、私の運命は大きく動き出す。 彼の正体は、なんとこの国の若き国王陛下! 「君は私の光だ」と、陛下は私を誰よりも大切にしてくれる。 私を虐げ、利用した貴族たちは、今、悔し涙を流している。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

処理中です...