噂話と後悔、代償は妻の笑顔で精算されてしまった(男は泣くこともできない)前編

三ノ宮 みさお

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妻の返事 後編

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 「別れましょう」
 その日、夕食がすむと妻から離婚届を突きつけられた、男は驚いた。
 拒否しなければと思った、だが、口から出てきたのは自身でも驚くような言葉だ。
 「浮気をしていたからか」
 何故、そう思ったのか、相手は誰なのか、自分は知っているんだと東風場を続けた。
 「近所で噂していた相手は、そうなんだろう(おまえだ)」
 否定しても無駄だ、だが、言い訳の言葉は妻の口からは出てこない。
 呆れたわ、その一言にかっとなり、思わず両手を伸ばした。
 

 「ええ、悲鳴を聞いて、驚いて主人と一緒に見に行ったんです」
 「奥さんの首を両手で絞めようとしていたんだ」
 「少し前から、変だったんです、あたし達のおしゃべりにいきなり割り込んできて、浮気がどうとか、わけのわからないことを」
 「奥さんに注意したんです、旦那さんの様子がおかしいって」
 警官は悲鳴を聞いて駆けつけた夫婦の言葉に頷いた。
 少し前から、この近所では不審な事件が起きていた、駅のホーム、階段で突き落とされて男が怪我をした、犯人は捕まっていないのだ、あんな人の多い場所なのに目撃者もいないのだ。
 そんなことがあるだろうか、もしかして怪我をした人間は犯人と顔見知りで庇っているのではないかと。
 「この家のご主人の交友関係はご存知ですか、親しい人とか」
 主婦が思い出したように、あそこのご主人と親しかったみたいと思い出したように呟いた。
 「二人で駅の改札を出るところを見かけたわ、楽しそうに、怪我をしてからは」
 「怪我、ですか」
 「ええ、数日前、駅の階段で、それで困っているのを旦那さんは見かねて、親切な人だと思ったけど」
 自分の奥さんを、主婦は人って分からないものねと戸惑いの表情で警官を見た。

 男は妻の首を絞めて殺そうとした、いや、本気じゃなかった、ただ、かっとなってしまった、頭が真っ白になって、妻が叫んだ、その声を聞いて近所の人が飛び込んできた。
 自分が何をしているのか、人殺しという言葉に慌てて外へ飛び出すと駅へ向かった。
  

 眠っていたのか、目を開けると妻がにっこりと笑いかけてくる、ここはどこだと聞こうとして声が出ないことに気づいた、いや、それだけじゃない、起き上がろうとしても手が、体が、動かないのだ。
 「駅の階段で転んだの、覚えてないの」
 思い出した、浮気相手のところに行こうとしたのだ、だが、体が動かない、いや、それだけではない、感覚がないのだ。
 
 
 麻痺しているらしい、リハビリを続ければいずれは治るだろう、だろうって、どういうことだ。
 「浮気していた貴方の面倒なんて」
 妻は笑った。
 違う、浮気していたのは俺だけじゃないんだと言いたくても声が出ない、筆談をして知らせようとしたが、駄目だった。
 「自分が浮気をしたのは妻もしているからだと、随分と想像力が、ああっ、ストレスのせいもあるかもしれませんね」
 医者が説明している、その言葉にのょ有心は、あんなに良い妻だったのにと、こちらを見る、憎しみを隠そうともしない目で。

 「浮気なんてするからよ」
 ああ、そうだ、自分が馬鹿だった、だが、後悔して声をあげて泣くこともできなかった。
  
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