初恋をこじらせた結果、愛の差、年の差、人はいつだって迷うのです

木桜 春雨

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頼み事はうまくいった筈、アパートを訪ねたカメラマン    

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 やはり、頼んで正解だ、今更のように村沢武史は、ほっとした。
 普通なら弁護士を紹介してほしいなど、面倒ごとだと断られるのが目に見えている。
 だから、彼女の名前を先に出した。
 「木桜春雨が亡くなった」
 その言葉に池神は一瞬、険しい表情になった、何を言い出すんだといいたげに。
 「俺だって最初、聞いたときは驚いたさ、それで頼まれたんだよ」
 ほんの少しの沈黙の後、池神は首を振った、多分、信じられないのだろう。
 「どういうことなんだ、説明を」
 「とにかく急いでいる、親族が口を出すと娘が受け取る財産を全て持っていかれる、そうなったら」
 娘、財産、予想もしなかった話の内容に池神は驚いた。
 この男のことだ、女との別れ話がこじれて痴話喧嘩になり金をせびられてという、そんなことを想像していたのかもしれない。
 「亡くなったというのは、本当か、彼女が」
 「俺に会い来たのは看護婦だ、普通なら患者の頼みでも、内容によっては引き受ける事はできないらしい、せめて弁護士だけはと」
 頭を下げ、しばらくはそのままの相手に何を言えばいいのか、言葉が出てこない。
 池神は頷いた、説明を求めても目の前の男も詳しい事は知らない、それは本当なのだと思った。
 病気、事故、どちらにしても人間の死というのは突然だ。
 自分は四十半ばだか、仕事のせいか白髪が増えている、顔もそこそこ年を重ねている、目の前の男もだ。
 
 学生の頃に好きだった女性が亡くなった、知ったときは驚きというよりショックだった。
 尋ねてきたのは看護婦だ、女性は名前を明かさなかったのは、自分が頼みを引き受けたということが職場、周りに知られたら、まずいからだという。
 話を聞いた後、どうしたらいいかと考えて思い出したのは池上征二の顔だ。
 テレビで活躍している、政治メインかと思ったが、最近は幅広く芸人と一緒にテレビにも出ている、顔は広い筈だ、だから相談することにした。
 
 もしかしたらと思ったが、弁護士を紹介すると言われたときはわほっとした
 池神は高校の頃、彼女と仲が良かった、卒業前になって突然、彼女が学校に姿を現さなくなり引っ越したと知ったときは驚いた、何故と思ったが、理由はわからなかった。
 
 それが何故、今になって、看護婦が自分に会いに来るとは。
 患者は自分をテレビで知ったからだという。
 自分がカメラマンとして芸能界、テレビでニュースになっていたのは昔だ。
 入院生活が長かったと聞いて村沢は聞くのをやめた。
 娘がいたなんて驚きだ、結婚していたのかと思い尋ねると看護婦の表情が曇った。
 詳しい事は知らない、彼女は会話も難しい状態だったという。 

 池神に弁護士の事を頼み、事がすむまで二ヶ月ほどが過ぎた。
 会う必要はないのだが、彼女の娘なら一度だけでも顔を見ておきたいと思ってしまった。
 多分、自分は引きずっているのだろう。
 付き合わないかと一度、告白したことがあったが、グレーなはっきりとしない返事だった。
 「池神と仲がいいよな」
 笑っただけで返事を聞くことはできなかった。

 ここに住んでるのか、アパートの前まで来た村沢は思わず足を止めて、間違いないのかと確認の為、ポケットから紙切れを取り出した。
 間違いない、住所はここだ、しかし、珍しい、いや、今時、驚くぐらい古いアパートを見て本当に、ここに住んでいるのかと思ってしまう。
 顔を見るだけで良い、その為に菓子折まで用意し、頭の中で台詞を繰り返した。
 母親の知り合いで昔、世話になったと言って渡せばいい。
 挨拶の言葉だけで、そう思ってインターホンを鳴らした。
 
 
 「今度、新しいブランドを立ち上げる事になったそうですね」
 インタビューする女性は緊張、興奮の混じった表情で目の前の女性を見た。
 ネットで噂になっているブランドの主催者がテレビに出るのは初めてなのだから無理もないかもしれない。
 「今までは海外で活動されていましたが、今後は日本でもということでしょうか」
 この質問に黒髪の女性は、にっこりと笑った。
 テレビに出るなら、こんなときは自分のブランドの服をと思われたが、女性はシンプルなシャツとスカートだ。
 「そのつもりです、海外の仕事では長身、大柄な体格に似合ったデザイン、色使いが多くなってきましたから、正直、こちらで受け入れられるか不安です」
 「ですが、日本にもファンはいますよ」
 そう言ってインタビューが挙げたのは作家、コンピューター技士の名前だ、あまり外に出ることのない自宅で仕事をする人種だ。
 最近に名手SNSや動画サイトで仕事場をUPすることもあり、そのときに着ている服が話題になったのだ。
 「ユニ◯◯、しまじゃない」
 「ブランドが知りたい」
 「ユニセックス、男物かと思ったけど、女性作家さん似たようなの着てたよ」
 「どこで売ってるんだろう」
 「日本のブランドかな」
 

 「実の娘、とは思えない、だが」
 学生時代の彼女の姿を思い出そうとした、だが、昔のことだ、卒業アルバムもないから顔を思い出すこともできない。
 顔を見て本当の親子かなんていえるほど自分の記憶力はよくない。
 若くないからなと思いつつ、そろそろ準備しなければ仕事に間に合わないと村沢は部屋を出た。
  
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