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第5章 9月-旅行(9)
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「あ、そうだ」
唐突に茂が声を上げたので、高志は飲もうとしていたチューハイの缶を持つ手を止めた。
「ん?」
「な、写真撮ろう、二人で」
茂が楽しげにそう言うと、スマホを手に取って高志の近くに寄ってくる。
「え、ああ」
座ったままの高志のすぐ横に並んだ茂は、スマホをフロントカメラに切り替えると、腕を伸ばして構える。写真があまり得意ではない高志は、それでも何とか笑顔らしきものを作った。角度を調整した茂がカメラボタンを押し、自動でフラッシュが光る。
「あれ。フラッシュない方がいいかも。もう一回いい?」
画像を確認した茂は、そう言うと再度スマホを構えた。今度は光らないまま撮影する。
「せっかくだから撮ろうと思って、忘れてた。どうせなら景色のいいところで撮りたかったけど」
スマホを見ながら、茂がそう言う。
「自撮りだと、変にアップになるしなあ」
見る? と茂がスマホを渡してくる。きれいな笑顔の茂と不自然な笑顔の高志が並んで写っている。
「お前、橋とかで写真撮ってたんだから、その時に言えばよかったのに」
思い返せば、大学の時にも茂と写真を撮ったことなんてほとんどなかった。スマホを返しながら高志がそう言うと、茂が反論してくる。
「だから撮りたかったけどさ、明石大橋ではお前いきなりいなくなるし、鳴門大橋では俺の方ばっか見てくるし、言いそびれるっつの」
「ああ、そうか」
そう言えばそうだった。茂が実はあの時そんなことを考えていたのかと思うと面白くなって、高志は少し笑った。自分と写真を撮りたいと思ってくれていたことも嬉しかった。
だったらまた明日どこかで撮ろう、と笑いながら言いかけた高志の表情は、しかし次の瞬間に凍り付いた。
「なあ。これ諒子さんに送ってもいい? 前から頼まれててさ、イケメンくんが見たいって」
上機嫌で、茂がそう言う。
すう、と頭の中が冷える。咄嗟には言葉が出てこない。
「俺、お前の写真とか持ってなかったからさあ。せっかくだし、この旅行で撮ろうと思ってたんだよな」
高志の様子に気付かないまま、茂はスマホを操作しながら話している。しかし返事がないことに気付いたのか、ふと顔を上げた。高志は思わず視線を逸らした。
――別におかしなことじゃない。
必死に頭の中で自分に言い聞かせる。
茂が言ったことは、別に何もおかしくない。旅行の風景や話題に上った友人の写真を付き合っている彼女に見せることなんて、普通にあることだ。自分が逆の立場でも、きっと同じことをしたはずだし、その際に茂が嫌がるなんて考えもしないに違いない。だから茂だって、高志なら協力してくれると思っただけだろう。それはある意味では自分に対する信頼と言えるじゃないか。
ただ、その写真は茂自身が撮りたかった訳ではなかったということが、高志には予想以上にショックだった。そして同時に、やはり茂は大学時代のキャンセルの罪滅ぼしのためだけに今回の旅行に付き合ってくれたのだと高志は確信した。高志に楽しいかどうか聞いてはきても、自分自身が楽しいとは言わなかった。別にそれだって変なことじゃない。高志のためにわざわざ時間を割いてくれたことには変わりがない。もともと、自分が連絡するまで、茂の中では自分の存在は切り捨てたはずのものだったのだから――
「……ごめん。嫌だった?」
茂が静かな声でそう言う。高志は無理に笑顔を作りながら顔を上げ、首を振った。
「いや。いいよ全然」
少し眉をひそめて茂がこちらを見ている。そしてその顔が目に入ったその瞬間、高志は全てを理解した。
茂が何か変わった訳じゃない。まして誰かに似ていた訳でもない。
自分が茂から目を離せなかったのは、いつしか茂の顔が自分にとって他にはない特別な意味を持つようになっていたからだ。つい目が行ってしまう、他のものよりも色彩の濃いような、そこだけ輝いているような、茂の顔。
それは、大学時代からずっと見てきた、高志の好きな顔だった。
好きな人の顔だった。
唐突に茂が声を上げたので、高志は飲もうとしていたチューハイの缶を持つ手を止めた。
「ん?」
「な、写真撮ろう、二人で」
茂が楽しげにそう言うと、スマホを手に取って高志の近くに寄ってくる。
「え、ああ」
座ったままの高志のすぐ横に並んだ茂は、スマホをフロントカメラに切り替えると、腕を伸ばして構える。写真があまり得意ではない高志は、それでも何とか笑顔らしきものを作った。角度を調整した茂がカメラボタンを押し、自動でフラッシュが光る。
「あれ。フラッシュない方がいいかも。もう一回いい?」
画像を確認した茂は、そう言うと再度スマホを構えた。今度は光らないまま撮影する。
「せっかくだから撮ろうと思って、忘れてた。どうせなら景色のいいところで撮りたかったけど」
スマホを見ながら、茂がそう言う。
「自撮りだと、変にアップになるしなあ」
見る? と茂がスマホを渡してくる。きれいな笑顔の茂と不自然な笑顔の高志が並んで写っている。
「お前、橋とかで写真撮ってたんだから、その時に言えばよかったのに」
思い返せば、大学の時にも茂と写真を撮ったことなんてほとんどなかった。スマホを返しながら高志がそう言うと、茂が反論してくる。
「だから撮りたかったけどさ、明石大橋ではお前いきなりいなくなるし、鳴門大橋では俺の方ばっか見てくるし、言いそびれるっつの」
「ああ、そうか」
そう言えばそうだった。茂が実はあの時そんなことを考えていたのかと思うと面白くなって、高志は少し笑った。自分と写真を撮りたいと思ってくれていたことも嬉しかった。
だったらまた明日どこかで撮ろう、と笑いながら言いかけた高志の表情は、しかし次の瞬間に凍り付いた。
「なあ。これ諒子さんに送ってもいい? 前から頼まれててさ、イケメンくんが見たいって」
上機嫌で、茂がそう言う。
すう、と頭の中が冷える。咄嗟には言葉が出てこない。
「俺、お前の写真とか持ってなかったからさあ。せっかくだし、この旅行で撮ろうと思ってたんだよな」
高志の様子に気付かないまま、茂はスマホを操作しながら話している。しかし返事がないことに気付いたのか、ふと顔を上げた。高志は思わず視線を逸らした。
――別におかしなことじゃない。
必死に頭の中で自分に言い聞かせる。
茂が言ったことは、別に何もおかしくない。旅行の風景や話題に上った友人の写真を付き合っている彼女に見せることなんて、普通にあることだ。自分が逆の立場でも、きっと同じことをしたはずだし、その際に茂が嫌がるなんて考えもしないに違いない。だから茂だって、高志なら協力してくれると思っただけだろう。それはある意味では自分に対する信頼と言えるじゃないか。
ただ、その写真は茂自身が撮りたかった訳ではなかったということが、高志には予想以上にショックだった。そして同時に、やはり茂は大学時代のキャンセルの罪滅ぼしのためだけに今回の旅行に付き合ってくれたのだと高志は確信した。高志に楽しいかどうか聞いてはきても、自分自身が楽しいとは言わなかった。別にそれだって変なことじゃない。高志のためにわざわざ時間を割いてくれたことには変わりがない。もともと、自分が連絡するまで、茂の中では自分の存在は切り捨てたはずのものだったのだから――
「……ごめん。嫌だった?」
茂が静かな声でそう言う。高志は無理に笑顔を作りながら顔を上げ、首を振った。
「いや。いいよ全然」
少し眉をひそめて茂がこちらを見ている。そしてその顔が目に入ったその瞬間、高志は全てを理解した。
茂が何か変わった訳じゃない。まして誰かに似ていた訳でもない。
自分が茂から目を離せなかったのは、いつしか茂の顔が自分にとって他にはない特別な意味を持つようになっていたからだ。つい目が行ってしまう、他のものよりも色彩の濃いような、そこだけ輝いているような、茂の顔。
それは、大学時代からずっと見てきた、高志の好きな顔だった。
好きな人の顔だった。
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