続・偽りとためらい

立石 雫

文字の大きさ
39 / 54

第9章 12月-決意(1)

しおりを挟む
第9章 12月-決意

 しんとする寒さの中、高志は来た道を戻った。無意識のうちに顔が歪む。
 アルコールで火照った頬に、冬の夜風が冷たかった。高志はただ少しでも遠くに行くことだけを考えて、足早に歩き続けた。駅前通りに出ると、駅には向かわずに反対側に折れた。このまま線路沿いをずっと歩いて行けば、そのうち自宅に着く。それまでただ頭を空っぽにして歩き続けたかった。全てがどうでもいいと思えるまで。
 上着のポケットに入れたスマホが震える。案の定、茂からの着信だった。取らずにいると、そのうち切れる。またすぐにかかってくる。高志はスマホの電源を落とした。

 今考えれば、茂は注意深く、高志に悟られないように、自分に関する情報を教えないようにしていた。
――俺、まだ勉強中で客先も行かせてもらえないからさ、名刺持ってないんだよね。
――人を呼べる部屋じゃないって。
 高志は茂の電話番号とラインしか知らない。一年前の自分と同じだ。茂の自宅も勤務先も、もちろん実家の住所も電話番号も何も知らない。
 一年前のように、茂は、その気になればまたいつでも音信不通になることができたのだ。再会してからもずっと。
 それでも、再会してからの茂の笑顔が全て嘘だとも思わなかった。全てが本当ではなかっただけで。高志が最初に電話した時、驚きながらも拒絶せずに話してくれた。高志の希望を聞いて、旅行にも付き合ってくれた。すぐには関係を切るつもりはなかったのだろう。いずれは切るつもりだったのかもしれないけれど。
 それに対して怒りなどは覚えなかった。こんな時ですら、茂の笑顔を思い出せば、高志の心には安らぎのような快感が生じた。だからやっぱり自分のせいなのだろう。自分が多くを求め過ぎたのだろう。一度切れた関係を元通りにできると思い込んでいた。でも本当は最初から無理だったのだ、前のような友人関係に戻るなんて。茂にとっても、自分にとっても。
 大学の時に知って驚いた、茂の持つ他人との距離感を思い出した。あの時、高志だけはその境界線の中に入ることができていた。でも今はもう違う。あの笑顔の下で、茂は今、高志に対しても同じように距離を取りながらずっと接していたのだ。
 歩いているうちに視界が徐々にぼやけてきて、高志は唇をかみしめながら涙をこらえた。
――受け入れてもらえないのは、こんなにも辛い。
 ただ友達として近くにいることすら、うまくできない。
 一年前の茂も、こんな風に考えて、高志との連絡を絶ったのだろうか。受け入れてもらえないのなら、いっそ会わない方がましだと思ったのだろうか。
 茂がそう思ったのなら、きっとそれが正しい。自分が愚かだったのだ。
 もう自分は茂にとって必要じゃない。心を開いてもらえてもいない。茂のそばには恋人がいる。仕事のことも資格のこともよく分かっていてアドバイスもくれる恋人が。
 どちらにせよ会わないようにしていた。気持ちを忘れようとしていた。そして茂も会いたいと言わなかった。形だけ繋がっていても、きっとそのうちまた切られる。
 だったら、もう会わない方がいい。
 自分から茂の番号もラインも全部消して、それで終わりにするのがいい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...