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第9章 12月-決意(3)
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コンビニの袋をローテーブルの上に置くと、鞄を床に降ろし、上着のポケットからスマホを取り出して電源を入れる。本当ならこのまま茂のデータを消してしまうつもりだった。高志はしばらくスマホが立ち上がるのを見つめていたが、結局、そのままスマホをベッドの上に放り投げた。
ふと人の気配がして顔を上げると、いつの間にか茂が部屋の入口に立っている。目が合った瞬間、高志は視線を逸らした。
「なあ。お前、何でいきなり帰ったの」
少し酔いの冷めたような様子の茂が、落ち着いた口調でそう高志に問い掛ける。高志は答えなかった。
「俺、何か怒らせるようなこと言った?」
「……」
「あの時話してたのって、大学院のことだよな。それとも諒子さんのこと?」
「……帰れよ」
高志の硬い口調に、茂は一瞬口をつぐんだが、再び高志に話し掛けた。
「もし何かむかついたんなら、言えよ」
「別に何もむかついてない」
「藤代」
「……帰れよ」
もう一度言うと、茂は「嫌だよ」と答えた。
「言ってくれないと分からないだろ。もし俺が何かしたんなら」
「何もしてない」
本当は、頭の片隅では何かが違うのかもしれないと思い始めていた。いともたやすく再び自分を切り捨てて実家に帰るものと思われた茂は、何故か今ここにいる。あの後、わざわざ高志の家まで来て、この寒さの中でずっと待っていたのだろう。
それでも高志は頑なに茂を拒絶し続けた。既に考えることに疲弊していた高志は、また茂に心を開いて期待を裏切られることを恐れた。
「なあ、藤代」
「……」
「こっち見ろよ」
「……」
「藤代」
「うるさい」
思わず茂の言葉を遮る。これ以上、茂の呼び掛けを無視したくなかった。だからもう呼び掛けて欲しくなかった。茂を受け入れるのも、茂を拒絶するのも辛い。だから早く一人になりたい。この関係を終わりにしたい。
「お前が……そこまで怒るのって、よっぽどのことだろ。ごめん、本当に分からないから、俺が何したのか教えて欲しい」
「何もしてない」
「……藤代」
途方に暮れたように、茂が高志の名を呼ぶ。高志は少しだけ口調を強めた。
「もう帰れよ」
しん、と静まり返った部屋の中で、しばらく二人は無言で立ち尽くす。高志はじっと床を見つめたまま、ぎゅっと口をつぐんだ。
「……帰ってどうするんだよ」
茂が冷静な声で言う。
「このまま帰って、何か解決するのかよ。さっきは電話にも出なかったくせに」
「……」
「そうやって話もしないで、俺を追い出して、それでどうするんだよ。このまま絶交するってこと?」
高志を非難するような茂のその口調を耳にした瞬間、高志は思わず顔を上げた。
「――お前が言えたことかよ」
真っ直ぐに茂の目を見据える。体の底から湧き上がる激しい衝動と共に、高志は硬い声で吐き捨てた。
「あの時、お前が最初に俺を切り捨てたんだろ」
茂が驚いたように息を呑む。
「お前から絶交したんだろうが! 何も言わずにいきなり……!」
茂の口が何か言おうとして開かれる。しかし結局、言葉は出てこなかった。何かを堪えてぎゅっと眉根を寄せている茂の表情を見て、いったん爆発した高志の激情はすぐに薄れて消えていった。力を抜いて肩を落とす。
「いきなり……いなくなったのはお前の方だ」
「藤代……」
高志は再び目を逸らして視線を落とした。
「そんで、またそのうち消えるつもりなんだろ」
「……え?」
「そのために、家も仕事先も俺には教えないようにしてたんだろ。俺は鈍いから……今日まで気付かなかったけど」
「何……そんなことしてない」
「ほんと、お前そういうの上手いよな。お前はここも、俺の勤務先も、実家の場所も、全部知ってるのに」
ふと人の気配がして顔を上げると、いつの間にか茂が部屋の入口に立っている。目が合った瞬間、高志は視線を逸らした。
「なあ。お前、何でいきなり帰ったの」
少し酔いの冷めたような様子の茂が、落ち着いた口調でそう高志に問い掛ける。高志は答えなかった。
「俺、何か怒らせるようなこと言った?」
「……」
「あの時話してたのって、大学院のことだよな。それとも諒子さんのこと?」
「……帰れよ」
高志の硬い口調に、茂は一瞬口をつぐんだが、再び高志に話し掛けた。
「もし何かむかついたんなら、言えよ」
「別に何もむかついてない」
「藤代」
「……帰れよ」
もう一度言うと、茂は「嫌だよ」と答えた。
「言ってくれないと分からないだろ。もし俺が何かしたんなら」
「何もしてない」
本当は、頭の片隅では何かが違うのかもしれないと思い始めていた。いともたやすく再び自分を切り捨てて実家に帰るものと思われた茂は、何故か今ここにいる。あの後、わざわざ高志の家まで来て、この寒さの中でずっと待っていたのだろう。
それでも高志は頑なに茂を拒絶し続けた。既に考えることに疲弊していた高志は、また茂に心を開いて期待を裏切られることを恐れた。
「なあ、藤代」
「……」
「こっち見ろよ」
「……」
「藤代」
「うるさい」
思わず茂の言葉を遮る。これ以上、茂の呼び掛けを無視したくなかった。だからもう呼び掛けて欲しくなかった。茂を受け入れるのも、茂を拒絶するのも辛い。だから早く一人になりたい。この関係を終わりにしたい。
「お前が……そこまで怒るのって、よっぽどのことだろ。ごめん、本当に分からないから、俺が何したのか教えて欲しい」
「何もしてない」
「……藤代」
途方に暮れたように、茂が高志の名を呼ぶ。高志は少しだけ口調を強めた。
「もう帰れよ」
しん、と静まり返った部屋の中で、しばらく二人は無言で立ち尽くす。高志はじっと床を見つめたまま、ぎゅっと口をつぐんだ。
「……帰ってどうするんだよ」
茂が冷静な声で言う。
「このまま帰って、何か解決するのかよ。さっきは電話にも出なかったくせに」
「……」
「そうやって話もしないで、俺を追い出して、それでどうするんだよ。このまま絶交するってこと?」
高志を非難するような茂のその口調を耳にした瞬間、高志は思わず顔を上げた。
「――お前が言えたことかよ」
真っ直ぐに茂の目を見据える。体の底から湧き上がる激しい衝動と共に、高志は硬い声で吐き捨てた。
「あの時、お前が最初に俺を切り捨てたんだろ」
茂が驚いたように息を呑む。
「お前から絶交したんだろうが! 何も言わずにいきなり……!」
茂の口が何か言おうとして開かれる。しかし結局、言葉は出てこなかった。何かを堪えてぎゅっと眉根を寄せている茂の表情を見て、いったん爆発した高志の激情はすぐに薄れて消えていった。力を抜いて肩を落とす。
「いきなり……いなくなったのはお前の方だ」
「藤代……」
高志は再び目を逸らして視線を落とした。
「そんで、またそのうち消えるつもりなんだろ」
「……え?」
「そのために、家も仕事先も俺には教えないようにしてたんだろ。俺は鈍いから……今日まで気付かなかったけど」
「何……そんなことしてない」
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