続・偽りとためらい

立石 雫

文字の大きさ
44 / 54

第9章 12月-決意(6)

しおりを挟む
 ふと、高志は唇を離した。
 高志の下半身に茂の腰の辺りが触れているのに気付く。その意図的な接触は、そこに顕れた高志の興奮を確認するように小さく動いた。そうして見上げてきた茂は、高志と目が合うと、視線を逸らして顔を伏せた。
 それからしばらく躊躇した後、意を決したように茂が口を開く。
「……入れる?」
 少しだけ頭が冷え、高志は体を離した。一つ溜息をついてから、ゆっくりと答える。
「……入れない」
 てっきり安堵を見せるものと思った茂は、硬い表情で俯いたまま、更に問うてくる。
「何で」
「……塗るものがない」
 その言葉に、ようやく茂が少しだけ表情を緩めて顔を上げる。
「あったら、入れる?」
 頼りないようなその声からは、高志の気持ちをまだ充分に信じ切れていない茂の不安が伝わってきた。高志はどう答えるべきか少しだけ思案した。本音を言えば、茂がしたいならできる、というのが一番正確な表現だった。お前はどうなんだ、と思わず聞きたくなるが、しかし、茂が欲しいのは高志の自発的な答えに違いなかった。
「俺は……できると思う」
 高志がそう答えると、茂が小さな声で「知ってる」と呟く。
「じゃなくて。あの頃とは違って、ちゃんとできると思う」
「あの頃とは、って?」
 高志は一瞬口をつぐんだが、結局、正直に伝えた。
「あの頃は……やらされてるって思ってたから」
「……」
「あと、罪悪感もあった」
「罪悪感?」
 茂がその言葉に反応する。
「男だから?」
「じゃなくて、お前の体が」
 最初に思い出すのは、体を強張らせていた茂の背中だった。いつも辛そうにしながら、必死に高志を受け入れていた。それなのに、高志はそんな茂に攻撃的な衝動を覚えたことさえあった。あの後の自己嫌悪を高志は今でも覚えていた。
 でも今なら、全く違った気持ちで抱くことができると思った。今なら茂をもっと大切にできる。触れたいと思える。たとえ、茂を求める気持ちが女に抱く性欲とは異なるものであっても。
「何で。俺がしてって言ったのに」
「でもお前、怖がってただろ」
「え? ……何が」
「怖いんだろ。入れられるの」
 高志がそう言うと、茂は黙り込んだ。
「別に、入れられるのが好きって訳じゃないだろ、お前」
「……」
「だから……俺はお前に触りたいと思うし、お前がやりたいならできるけど、でももしそうじゃないなら」
「俺に触りたい?」
「うん」
 高志さえいなければ、茂の体はごく自然に女を求めるに違いなかった。そして高志は、あの頃いつも抱えていた疑問を口にした。
「お前、何でああいうことしたかったの」
 そして同時に、その問いに茂が決して答えようとしなかったことも思い出す。今日も答えないかもしれない。しばらく返答を待ってみたが、やはり茂は黙ったままだった。まあいいか、と少し息をつく。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

壁乳

リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。 最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。 俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 じれじれラブコメディー。 4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。 (挿絵byリリーブルー)

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...